「この術でお前らを止める!」
「違う…。お前らがここでオレたちを止めようが無意味なことになぜ気づかない。その術とてこの戦争の後には脆く崩れ、そちら側の誰かがまたオレたちと同じことをするようになる。…この戦争でもがいても勝ちはない。この世界に希望など…どこにもないともう知れ!」
ふり絞るように言葉を出したオビトに対してナルトは叫ぶ。
「どうだろうがあることにする!!!」
目を閉じたマダラが口を開いた。
「戦争中にあるないと言い合うのも無意味だ…。そろそろ決着をつけるか。」
ナルトは自信に溢れた顔つきで、ついに復活した十尾の上に立つマダラとオビトを見る。
「意見が割れた時は多数決ってのが決まりだろ、だいたい。どうする?」
「いい案だ。なら……一人残らず消してからにしよう。そして…」
「やっぱ、そうくるか…。けど…」
「この世界は…」
「この世界は…」
ナルトとオビトの声が重なった。
「終わらせねェ!!」
「終わらせる!!」
それを見届け、俺は懐から黒レンズを取り出しつつ連合軍の忍に命令を出した。
「散ッ!」
『応ッ!』
すぐさま散開していく忍たち。散開してすぐに攻撃を仕掛けたのは“雲”の忍だ。雷遁 雷光柱と嵐遁
輪廻眼 人間道の気配遮断を使いチャクラ感知をできなくする。
まるで太陽の中にいるような視界の中で動けるのは輪廻眼 餓鬼道を発動させ、遮光最高級のレンズを目に張り付けた俺だけだ。味方の攻撃を無効化しつつ、マダラとオビトの視界が眩んでいる内に瞬身の術を連続で使い十尾の後ろへと回り込む。
と、今度は“砂”の忍が風遁 気流乱舞で十尾に向けて土煙とチャクラ感知を惑わすための蟲を風に乗せて吹き付ける。その余波で少し蟲が俺の服に付いたが、まぁ、仕方のないことだと割り切る。
俺が地面を蹴り、十尾の尻尾の根元に着地すると同時に十尾の周りに突如、土の壁ができた。“岩”の忍が土遁 大地動核で十尾の周りの地面を持ち上げ、逃げられないようにしたのだろう。土の壁から目を離し、視線を前に向ける。慎重に、音を立てずゆっくりと前進する。
すると、上から石灰が大量に降ってくるのが目に入った。熔遁 石灰凝の術だ。間髪入れず、“霧”の忍が水遁 水弾の術で石灰に水を注いでいく。そして、“木ノ葉”の忍が火遁 豪炎の術の熱でそれを乾かしていく。石灰の中を進む俺とマダラとオビトの距離は目算で20mはある。十尾の背にある枯れ木のような
「忍連合の術だってばよ!」
ナルトを見上げる二人。
「哀れだな……。」
「ああ……。」
オビトは無感情に言葉を紡ぐ。
「奴らの縋っている希望など…存在しない。今となっては奴らの存在とて、それと同じ。十尾も…頃合いのようだ。」
ナルトだけではない。連合の忍、特に体術に秀でている忍たちがマダラとオビトに向かって挑む。
ここだな。
揺れる十尾の背中にチャクラを使って片足を交互に使って張り付きつつ、前へと弾丸のように飛び出す。十尾が石灰凝の術でできた簡易的なコンクリートから力づくで抜け出し、ナルトたちをその尾で吹き飛ばすこのタイミング。そして、マダラとオビトの目がナルトに向いているこのタイミング。
印を組み、影分身を一体作り出しながら影分身体と一瞬、掌を合わせ別々の方向へと、つまり、マダラの方向には本体の俺が、オビトの方向には影分身体がシスイ直伝の超速い瞬身の術で接近する。そして、掌を張り付けるように十尾と二人を繋げている管がある首元に向かって影分身体と同時に掌底を叩きつける。
「なッ!?」
形状が変わっていく十尾の頭をゴロゴロと転がっていく二人。二人を横目に十尾の頭に掌を当てようとしたら、オビトの右目を中心に空間が渦を巻いた。
慌てて、その場から離れると今まで居た場所に黒い杭が次々と刺さっていく。
それほど多くのチャクラを練り込んでなかった影分身体はオビトが神威で出した杭を避けきれず、腹に当たった杭の攻撃でその体を煙に変える。
「おいおい、十尾の頭が穴だらけになるだろうが。」
「貴様に十尾を盗られる訳にはいかない。……ヨロイ、お前は驚かないんだな。」
「オビト。お前がミナト先生を殺し、“暁”を立ち上げ、世界を混乱に陥れたことか?」
「ああ。」
「何、簡単なことだ。俺は全てを知っていたからだ、いや、全てと言うには少し
手をゆっくりと上げる。
「そして、その知っていることは“未来”も含む。お前たちの敗北は既に決まっていることだ。」
指を二人に付きつけるとマダラの顔が歪んだ。
「フン。一度、オレに負けた奴がよく吠える。」
「本当に負けていたら俺は今ここに立っていない。違うか?」
「本当によく吠える。」
睨み合い隙をお互いに窺っていると、下から十尾が吠えた。それと同時に足場、つまり、人型と成った十尾の頭が大きく揺れ始める。
「本当によく吠えるな。」
「くっ!」
悔しそうに俺を睨むマダラだが、優先順位は俺の排除より十尾のコントロールが上だと考えたようだ。マダラはオビトと共に胸から管のように形を変えた柱間細胞を十尾の頭に繋げ、十尾のコントロールをより確かな物にする。
「そういえば、ヨロイ。」
「何だ、オビト?」
「お前にはまだ希望などないということを教え切れてなかったな。」
その言葉は確か…
///
「あれ?答えられないってことはネーム詐称かもしれないッスね。まぁ、それは置いときましてミナト先生。ラジオネーム 恋するマダラさんが泣きそうじゃないですか。肩、プルップルしてるし。これ、とりあえず謝った方がいいッスよ。」
「え?俺のせい!?」
「…どこまでもふざけているな、貴様らは。…いいだろう。すでに希望などお前らにはないということを丁寧に教えてやる!」
///
「ああ、お前が半泣きになっていた時か。ラジオネーム 恋するマダラさん?」
「黙れ!」
前と同じように肩を震わせるオビト。しかし、前回とは違って逃げ出すことはなかった。
「今度こそ……お前に“絶望”を焼きつけてやる。やれ!十尾!」
オビトの声に反応した十尾が動いた。立っている場所の角度が少し上がったから、これは口を大きく開けているのか。まぁ、尾獣玉を連合軍に打つつもりだろう。
「ハハハ。俺には飛雷神の術が使えるということを失念しているぞ、オビト。」
「仲間を見殺しにして自分一人だけ逃げ出すのか?」
「……お前が俺をどう思っているのかよぉく分かったよ。飛雷神 導雷の術で尾獣玉を別の場所に飛ばしてやろうかと考えていたが……止めだ。」
連合軍を囮に使うなんて卑劣なことをするのはこの世で一人だけでいい。それは、卑劣様の十八番だろうが!
一旦、飛雷神の術でカカシに持たせたマーキング付きのクナイの元へと飛ぶ。
「ヨロイ!?」
「そうです。皆、大好きヨロイさんですよー。……おい、何か言えよ、言って!」
普段より目を細くしたカカシに向けてツッコミを入れている間に十尾は自らの身を守るように十本の尾を体に絡ませていく。
「カカシ、神威は打つな。」
「分かった。策があるんだな?」
「全部、対策済みだ。」
懐から出した携帯電話をカカシに見せ、ダイヤルを押す。電話はすぐに繋がった。
「ドス!御倉板挙を撃てと伝えろ!」
電話の向こうの『了解した』という声を確認して電話を切る。
「さぁ、出番だぞ……長門。」
一筋の光線が空を割った。
光線は寸分違わず、十尾の口元にある尾獣玉に当たり、それを十尾の口の中へと押し込む。衝撃で体勢を崩した十尾を待っていたのは口内の爆発だった。それに加えて上に向いた十尾の口の中の爆発が地面へと十尾の体を頭から叩きつけた。非常に痛そうだ。
いや、実際、痛いのだろう。暴れまわっている十尾を見ているとほんの少し同情する。大半は『ざまぁwww』って気持ちではあるが。
「ヨロイ?今のは?」
「説明しよう!」
カカシが聞いてきてくれたので、指を立てて説明していく。
「まず、今の光についてだな。……輝けるかの砲こそは、過去現在未来を通じ戦場に散っていく全ての兵たちが今際のきわに懐く哀しくも尊き夢……『栄光』という名の祈りの結晶。その意思を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し、いま常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う。其は……“
「つまり?」
「輪廻眼 修羅道の術、御倉板挙で十尾の尾獣玉を十尾の口の中に押し込んでやった。」
「なるほど、それは分かった。しかし、お前、オビトのことを…。」
「暗部の部隊長だったお前がやることじゃねェよ、それは。」
オビトを目の前にして、そして、オビトと友だった俺を目の前にしてカカシの感情は複雑に揺れている。俺も原作知識がなければ、今のカカシ以上に狼狽していたに違いない状況だ。
だが、その他人を思い遣る感情は今の状況では無意味だ。今も十尾が暴れていることで連合軍の犠牲者は増えている。余計な犠牲が出る前に奴らを叩くことこそ重要。
印を組み上げる俺の横でカカシもチャクラを練り始めた。
「ヨロイ!貴様の仕業か!?」
「おのれディケイドって続けてもいいんだぜ。俺は変身とかできねェけど。」
「知るか!」
痛みでのた打ち回っていた十尾は体勢を立て直す。その上に乗っているオビトが怒りで俺に叫んでいるが、実行犯は長門な訳で。だが、そんな言い訳は通じそうにない。少しおちょくり過ぎたようねって大蛇丸様が隣に居れば呟くほど、今のオビトの頭はカッカしているだろう。
『オビト、落ち着け。十尾のコントロールが甘くなっているぞ。』
『ふぅー。』
『それでいい。御倉板挙を撃つ準備を奴がしている以上、そう易々と尾獣玉は撃てんな。そして、ヨロイのことだ。既に御倉板挙を撃つ場所を変えているだろう。この状況をひっくり返すには、オレが人柱力になるほかないが…十尾の人柱力になるにはオレ自身が穢土転生の死体ではなく、生命体になる必要があるのだがな…。』
『人柱力になるためにアンタが本当の意味で生き返るにはオレがアンタに輪廻天生の術を命を捨ててするしかない。つまり、今のアンタはオレの言うことを聞かざるを得ない微妙な立場にある。…忘れるな。』
『あのジャリが随分としたたかになったものだな。』
『昔から…別にアンタを仲間だと思ったことはない。』
『フッ、それでいい。なら、次にどうするかお前が決めろ。』
『続きだ。絶望を教えてやるのさ。丁寧にな。』
それでいい。
俺は取り出した巻物を地面に強く押し当てる。
「闇の帝王たるヴォルデモート卿が恐れたものを知っていますか?それは“死”。闇であり、死体であり、愛であるもの。」
地面が一斉に罅割れる。
「さて、話は少し変わりますが、恐怖というものには鮮度があります。怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態……希望から絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。」
地面から棺が次々とせり上がって、その蓋がゆっくりと開かれる。
「如何ですか?瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は。闇の忍術で蘇りし死体に、かつて、愛を注いでいたマダラさん。感想をどうぞ。」
ずらりと並んだ忍たち。
「これは…!」
「貴様ッ…!」
「眼には眼を、埴輪WAO!うちは一族の皆さまを穢土へとお連れしました。そして、今なら、なんとッ!その他の名だたる忍たちをもお付けして……1980両!1980両!大変お買い得です!」
穢土転生で蘇らせた忍たちの視線が痛いが無視だ。影分身がイザナミループに入っているカブトからちょろまかした個人配列の情報が書かれた巻物を夜空へと放り投げる。
「行くぞ…開戦だ!!」
オビトの目が広がる。
「言ったハズだ。俺は知っていると。」
人差し指を遠くのオビトに向かって指す。
「準備はいいか?俺たちは今夜の準備は済んでいる。」