一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@110 忍び舞う者たち 其の壱

暗い。

目を開くと、どこまでも続く黒とそれに近い青が支配する世界が広がっていた。しかし、視界はそれほど悪くはない。

次いで、俺の体が倒れていることに気づく。ゆっくりと体を起こして周りを見渡すが、目の前の光景は変わらなかった。夜空のような空間が広がるだけだ。この場所がどこか思い至り口に出す。

 

「俺の精神世界か。」

 

通りで胸の痛みがない訳だ。黒ゼツに貫かれた傷が無くなり、切り落とされた左腕がある。物質世界と精神世界がリンクしていないお陰で助かったな。

少し状況を整理しよう。

まず、俺は黒ゼツに殺された。これは間違いない。まさか黒ゼツがあそこまで強いとは思ってもみなかった。本体で出ていったことが間違いだったようだ。チャクラの鎧を貫けるほどの膂力を黒ゼツが有しているとは思ってもみなかった。と、いうより、体術でチャクラの鎧を貫けるような攻撃ができる者はほとんどいない。今まで俺のチャクラの鎧を貫けた者はただ一人、ガイだけだった。ガイが第六景門を開放した朝孔雀を防ぎきることができなかったが、それ以下の攻撃は全て防いでいたというのに。

 

「……。」

 

顔を様々な方向へ向ける。

ここは俺の精神世界でありながら、今までの白い空間とは違う。大方、黒ゼツの精神世界と混線したという所だろう。ならば、この精神世界から体のコントロール権を取り戻すことができるハズだ。

手を周りと同じ色をした地面に当てて、チャクラを流し込みながら、集中する。チリチリとした感覚が頭の中でする。幻術と同じ要領で体のコントロール権を取り戻そうとしたが、少し触った感じはいくつもの糸が絡み合ったような感覚だった。時間が掛かりそうだ。

集中し直すために、一旦、顔を上げて深呼吸をする。見上げる視界に移るチャクラの輝く青が星のように至る所に光っているような幻想的な光景に目を取られた。

 

「本当に俺の精神世界か、ここ?」

「正確ニハ、イクツモノ精神ガ混在シタ空間ダ。ソシテ、オ前ノ敵デアル世界ダ。」

 

周りと同じ色をした床に手をついて足に力を入れる。立ち上がり声がした方に顔を向け、目線を鋭くする。

夜空の中に一点だけ漆黒が埋める箇所があった。黒ゼツだ。

 

「モウ猫ヲ被ラナクテモ、イイダロウ。……今のお前に残された選択肢は死ぬことだけだ。オレたちに、いや、カグヤ、そして、その意志であるオレに逆らわなければ、お前は夢の世界で幸福を味わえただろうに。」

 

奴の雰囲気が変わった。これが黒ゼツの本性か。マダラの意志を抽出したものだと思っていたが、事実は随分と複雑らしい。カグヤの意志と言っていたが、そんなこと六道仙人の爺さんも知らなかったことだ。知っていたら、こんな重要な情報は真っ先に教えてくれていただろうし。

まぁ、そうは言っても黒ゼツが何者なのかは、ここまで来ていたら関係ない。ただ、排除するだけ。

 

「誰かが決めた幸福なんかじゃ満足できない。それに、無限月読は俺がここにいる限りはできない。違うか?」

「違う。」

「……。」

「お前の体を贄に十尾を取り込み、その中に居た母“カグヤ”の復活に成功した。そして、無限月読を発動させることも成功した。……お前の体の支配権は、今、母にある。いや、もう赤銅ヨロイという体は消え失せた。今はヨロイ、お前が異物だ。お前がここにいることは許されない。」

「つまり、外にいるのは俺じゃなくて、大筒木カグヤってことか?信じられないな。……アメノウズメ。」

 

俺を中心として、床に紫色の波紋が広がる。が、その波紋は黒ゼツの体に当たったことで効果を失う。だが、改変は上手くいった。外の様子が分かった。

 

「貴様の瞳術か。」

 

アメノウズメ。

俺の固有の瞳術でその視界に入る世界の改変を可能とする。変えた箇所は物質世界の様子を見ることができるようにした訳だ。

パソコンで打ち込んだ文字をバックスペースキーで消して新しく文字を打ち込むように、インクの上にホワイトを垂らして修正を掛けるように、考えた内容の言葉尻を変え相手の行動を誘導できる。そして、チャクラを大量に使えば物質世界そのものを書き換えることができるのがアメノウズメという瞳術であるのだが……黒ゼツに拒絶されるとは。奴もまた六道の深奥に辿り着いた超越者ということか。

 

「で、どうだった?外の様子は?」

 

俺の術が分かった程度で随分と饒舌になりやがって。アメノウズメが使えるという事実は俺にかなりの情報を与えたということに気づいていないからこそ、あんな態度が取れるんだろうな。

ちなみに、精神世界の中は時間の流れは緩くなっている。チャクラを多く使えば、外の時間を止めるのと同等の効果を発揮するがそこまではしなくていいだろう。

時間もあるし、乗ってやろう。

 

「無限月読が完成したようだな。そして、輪廻眼の力でレジストした範囲にいる者だけが無限月読から逃れている。世界はお前たちの手にあるということは確かめることができた。だが、無限月読の完成は俺の計画に初めから織り込み済みだ。」

 

黒ゼツに向かって手を広げる。

 

「無限月読を使わせるのにカグヤとかいう奴は必要なかった。俺の計画ではオビトかマダラに無限月読を使わせ、その時にできた隙を付いて排除する。その後、俺がシスイに瞳術を使わせ、無限月読と別天神をリンクさせてから、世界中の人が優しい世界を作り出す予定だったが、まぁ、いい。」

「いい?」

「ああ。ここにお前がいることが何よりの証拠だ。時間を掛ければ、ここから俺の体のコントロール権を取り戻すことができる。そうじゃなきゃ、お前は俺の前に殺気をビンビンにして現れないよな?」

「クク……。その通りだ。もう一度言う。貴様はここにいることは許されない。そして、お前がオレに勝てる可能性は万に一つもない。」

「ハッ!バカが。……俺がどこで輪廻眼の瞳術の修行をしたと思っている。精神世界の中だ。今いるこの場所が俺のホームグラウンドなんだよ。」

「なるほど。お前はここでは全力を出し、俺を倒せると言いたいのか?」

 

黒ゼツの言いように眉を顰める。俺が全力を出せることまで、予測しているのにも関わらず、何だ、あの余裕は。おかしい。

 

「ヨロイ。全力で来ないと死ぬぞ。お前がここで死ねば外の連中も母の手にかかることを防げない。」

 

……シスイの機転で左腕を置いてきたし、あの場にはナルトとサスケがいた。最後の切り札をこんな形で切る羽目になるとは思わなかったが、結果オーライ。

だが、ナルトたちだけでは不安が残る。若く先走るアイツらだけを頼りにするのはマズイ。何かの弾みで失敗するということが十分に考えられる。

ここで、俺が黒ゼツを倒し、体のコントロール権を取り戻した方が確実にいいが……。

 

「怖いのか?このオレが。」

 

何を企んでいる?奴は。

恐らく、輪廻眼に対する策があることは予測できる。アメノウズメが使えることで俺と同じ事実、輪廻眼の瞳術は精神世界の中でも使えるということは、俺が精神世界の中で修行したと言ったことからある程度、勘のいい奴なら気づく。というより、気づかせるために言葉をやったし、そこから、黒ゼツが行動を起こさないのは俺がその策を無効化することができると知っているからだと考えることができる。

だが、そこまで考えているのにあの余裕。一体、何を隠し持っている?

 

「挑発に乗らないか。流石は赤銅ヨロイ。」

「え?ごめん、聞いてなかった。」

「……。」

「ホント、ごめん。今度はしっかり聞くからもう一度お願い。」

 

黒ゼツのチャクラは乱れない。

雲のサムイよりクールだな、アイツは。こうなりゃ、戦いの中で隙を作るしかないか。

黒ゼツの言葉は待たず、印を組み、術を発動させると俺の前と黒ゼツの後ろに氷の板が現れた。

 

「氷遁 秘術 魔鏡氷晶。」

 

目の前の氷の鏡の中に飛び込む。そして、目にも止まらない速さで黒ゼツの後ろの鏡へと移動する。魔鏡氷晶は鏡の反射を利用して移動を行う術。そんじょそこらの瞬身の術の速さなどは足元にも及ばない。腕にチャクラを集め、拳を黒ゼツの頭に向かって突き出す。

 

「桜花衝!」

 

衝撃が拳に走る。まるで拳が割れるような痛みと衝撃。背筋に寒いものが走り、もう一度、魔鏡氷晶を使い、元の場所に戻る。視線を黒ゼツに向けると信じられない光景が目に写った。

 

「ハッ……笑えねェ。」

 

黒ゼツの体から抜け出るように一人の女性がゆっくりと精神世界へと顕現する。

 

「お前の師であり、初代火影の孫であり、伝説の三忍と謳われる忍であり、五代目火影である綱手だ。そして…」

 

黒ゼツの体から次々と出てくる忍たち。

 

「…言っただろ?貴様の相手は“世界”だと。」

 

仲間であった忍連合軍の忍たちがそこにはいた。

一度、目を閉じて息を整える。

 

「……上等だ!」

 

掌を打ち、チャクラを急速に練り込みながら体内で断続的に爆発させる。眼を開き、体の中のチャクラを外へ放出させながら、それを纏う。

紫色のチャクラの衣を纏い、背に九つの求道玉を浮かばせ、万物創造の術を使って額に目を描く。

合わせた両手をゆっくりと離すと、右の掌には日華、左の掌には繊月が浮かび上がっていた。目の前に浮かぶ黒い錫杖を右手に握る。

身体と精神が完全に合致した本体でしか成れない六道仙人モードを発動させ黒ゼツを睨んだが、奴は俺の眼力に怯まず、分かり難い笑顔を浮かべる。

 

「風火土雷水陰陽、血継網羅を会得していたか。」

「ああ。」

「お前を少し見くびっていたようだ。ここまでやるとは思ってもみなかった。だが、オレの優位は変わらない。」

 

1対12万だからな。無双シリーズじゃあるまいし、現実でそんな状況は負けしかありえない。300対20万のレオニダス王の方が俺の今の状況よりいいってどういうことだよ、ホントに。

 

「ヨロイ。ここで、速やかに自害することを勧める。そうすれば、これからの戦いで苦しむことなく安らかに死ねるだろう。」

「ΜΟΛΩΝ ΛΑΒΕ。」

 

黒ゼツに向かって舌を出しながら中指を突き立てる。

 

「言葉は分からないが、戦うつもりなのは分かった。では、始めよう。」

 

黒ゼツが腕を振り下ろすと、控えていた忍たちが四方八方から一斉に俺に向かってくる。

今、俺にとって絶望の幕が上がった。

 


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