大したことはない。例え、十二万の軍勢だろうが俺には六道の術がある。さくっと蹴散らしてすばやく黒ゼツの息の根を止める。体を取り戻すのはそれからだ。
そのためにはまず…。
「チャクラの回復だな。」
纏う紫色のチャクラを手の形にして伸ばし、360°から飛び掛かってきた忍たちを捕まえる。
「チャクラ吸引。」
一人の忍の手から一枚の紙が零れるのが目に入った。起爆札だ。
「神羅天征。」
俺を中心として斥力が場を支配する。吹き飛んでいく忍たちのチャクラは宙に融けて消えていった。致死量のダメージを与えると消える、か。チャクラはあまり吸い取れなかったが敵の兵力を減らせたし、よしとしよう。
「よっ。」
俺を追い込めるほどの実力者を黒ゼツが召喚できるかどうかが肝だな。雑兵は求道玉を爆発させることで倒せる。問題は俺が穢土転生と輪廻天生で生き返らせた実力者たちか。
「ほっ。」
前、後ろ、右、左に浮かぶ求道玉の形を変え、樹木の根のように周りに広げる。急に形を変えた求道玉を避けきれずに、俺の周りに集まっていた忍たちの体に穴を開け、消滅させる。
先手必勝。黒ゼツまで一気に駆け抜けるのがベスト。
求道玉を元の球状に戻して、足に力を入れる。
「ッ!?」
駆け出そうとした瞬間、俺の体から纏っていた紫のチャクラが霧散した。黒い床から鈍く光る銀色が見えた。慌ててチャクラの鎧を身に纏う。俺の腹へと突き出された銀色の刃を黒いチャクラの鎧が受け止める。
「桜花衝!」
体を捻り、床から飛び出てきた刀を体から逸らし床を殴りつけると、巨大なクレーターができた。そして、その中から一つの影が飛び出し、俺の前へと姿を現す。
「大蛇丸様……。」
無表情の大蛇丸様が目の前に立っていた。
まさか、外導ノ印を使うことができる大蛇丸様まで支配下に置くとは……。だが、外導ノ印 解の印は知っている。印を組もうと手を重ねたら、背中に冷たいものが走った。
本能に身を任せ、その場から飛び退くと銀色が目の前を通り過ぎた。それと同時に手に痛みが走る。顔を顰めながら指に目を向けると、親指以外の指が無くなっていた。
纏っていたチャクラの鎧ごと切り裂く太刀筋。侍大将ミフネさんの剣技か。距離を取らなくちゃ今度は首を落とされることにも成り得る。
「螺旋乱丸!」
ミフネさんの姿は確認できていないが、近くにいることは確か。彼以外にチャクラの鎧を切り裂くなんて離れ業を持った人間はいない。牽制のために、チャクラの鎧を形態変化させたいくつもの手を様々な方向へと伸ばし、その掌にある螺旋外をお見舞いする。
周りを螺旋乱丸で吹き飛ばしながら、手の形に形態変化させたチャクラで外導の印を解除する印を組む。医療忍術でチャクラを傷ついた指の患部に集め、止血すると共に修羅道の力で作り上げた銀色の籠手を手に纏う。
が、痛みは消えない。だが、籠手までチャクラを通すことはできた。
チャクラが通った籠手の指を動かして、印を組もうとすると今度は手を切られない代わりに両手が上に持ち上げられた。チャクラの鎧よりも固いカラクリのお陰で指は切られることがなかったが、万歳の恰好を取らされた俺は大きな隙ができた。そして、その隙を見逃さず、目の前に躍り出ていたミフネさんが刀を振るおうとしているのが目に入った。
チャンスだ。
腹にあるチャクラの鎧を手の形にして真っ直ぐ前に伸ばす。その手は、大きく刀を振り上げて隙を見せていたミフネさんの体を掴む。
「チャクラ吸引。」
捕まえたミフネさんのチャクラを吸収していくと共に、彼の体は無くなっていった。辺りを確認すると、四方八方から忍たちが俺に向かって来ているのが見えたが、肝心の彼の姿が見当たらない。
「ミフネさんを囮に大蛇丸様を逃がしたか。」
俺がミフネさんに集中している間に、大蛇丸様の姿は消えていた。
これでは、いつ大蛇丸様が外導ノ印を使って俺の血継限界を封じてくるか分からない。非常にマズイ状況だ。
今度は六道仙人モードが封じられても対応できるようにしなくちゃならない。
「陣羽織。」
六道仙人モードとなり、紫のチャクラの衣の上に黒いチャクラの鎧を纏う。外導ノ印 封で輪廻眼を封じられてもチャクラの鎧で、相手の攻撃から身を守ることができるだろう。チャクラの消費が多いのが心配ではあるが、背に腹は代えられない。
と、岩隠れの忍が大勢で印を組んでいるのが見えた。
「先ほどの焼き直しだ。」
黒ゼツが口を開いたのと同時に俺の四方を取り囲むように床がせり上がった。土遁 地動核で上が開いた箱のような場に変えられる。六道の力を使い、上に飛び上がる前に状況を確認する。せり上がった床の上には数多くの忍が居た。その忍たちは一斉に印を組んでいく。
熔遁 石灰凝の術、水遁 水弾の術、火遁 豪炎の術。俺に向かって一斉に放たれた術は上から襲い掛かる。しかし、俺はその全ての術を餓鬼道の力で無効化できる。そのことは黒ゼツも知っているハズなのに、忍術で攻めてくるのは何かの罠、陽動だろう。と、なれば、ここで奴が狙って来るのは土遁を使った地面からの強襲。
考えを出し、六道の力で宙に浮かび上がる。途中、上から放たれた幾多の術を餓鬼道の力で無効化し、上に居る忍たちを倒そうと両手に求道玉を携えて準備を整える。
目の前を覆っていた術が開けた。手の上にある求道玉の形を変化させ、周りを一掃しようとした瞬間、右斜め上に青い光が揺らいでいるのに気が付いた。目を上に上げる。
「綱手様ッ!神羅天征!」
俺が彼女の姿を認めたのと、彼女の拳が俺の斥力の膜に当たるのはほぼ同時だった。思わず、チャクラを集めた右腕を曲げて防御をしようとしたが、神羅天征を使ったので意味はないことに気が付く。しかし、綱手様の後方から続けて現れた緑の影の攻撃を防ぐために右腕に集中させたチャクラの鎧は役に立ってくれた。俺の右腕にいくつもの衝撃が走る。
リーの拳から繰り出された朝孔雀は俺を下へと吹き飛ばした。
「クソッ!」
飛ばされた方向は左斜め下。つまり、土遁 地動核でせり上がった壁へと俺の体は吸い込まれるように頭から向かう。求道玉を動かして、頭の前まで動かし、それを展開して盾とする。ジュッという音と共に展開した求道玉が壁を塵の細かさまで分解して、事なきを得たが綱手様やリーへのカウンターは行うことができなかった。体を回転させ、足から地面に着陸して殴られた勢いを殺すためズザザと地面を少し滑る。
飛ばされた方向を見遣り、綱手様を捜す。居た。忍たちと共に綺麗な円が開いた穴の上に立つ綱手様の姿を見つけた。そちらに向かって跳び出そうとした瞬間、足に何かが張り付く感触がした。
「起爆札!?」
地面に変化した起爆札が敷き詰められており、その内の何枚かが俺の足に張り付いていた。慌てて空に向かって跳び上がる。
が、その抵抗は無駄だった。
足に張り付いた起爆札が爆発し、俺の体が吹き飛ばされる。
「あぐぁあああ!」
綱手様の攻撃を防ぐために神羅天征を、リーの攻撃を防ぐために上半身にチャクラを集めていたのが仇となった。その隙を狙って足に……クソヤローが!
半蔵の火遁 起爆炎陣だ。
受け身も取れず、俺の体は地面に叩きつけられる。足はもう使えない。手を地面に当て、体を起こしながら頭を回転させる。
今は治療よりも一旦、体勢を立て直すことが重要だ。ここでモタモタしていると間違いなく人海戦術で殺される。足は吹き飛んだから移動は……。
六道の力で浮かぼうとした途端、俺が纏っていた紫の衣が消えてなくなった。再び俺の体は地面へと沈み込む。
「何がッ!?」
顔を上げると、目の前に一人の男が立っていた。
「ここで大蛇丸様を使うとは……。」
目の前の男は、その手に持つ刀を俺に向かって振り下ろした。