木ノ葉新伝のストーリーを元に一流の銅ヤローの設定をミックスしています。
@117 プロローグ
「ジャシン教? ……なんだっけ?」
「昔いた組織のメンバーの宗教ぐらいは覚えておこうよ。裏のリーダーとしてメンバーの情報を忘れるのはどうかと思う」
首を傾げるオビトを半眼で見る。
五影会談を控えた初春のことの出来事だった。
-湯煙忍法帖~女湯には忍び込みません、自来也様はお預けです~-
トクトクトクとグラスにワインを注ぎ入れる音が部屋に響く。防音対策はバッチリしている自宅のホームシアタールームで俺と六代目火影であるうちはオビトは向かい合っていた。
スライスされたゴーダチーズと最近俺が仕入れた情報を肴に、『過去最高の出来』が毎年のように更新されているワインを傾ける。
「悪ぃ悪ぃ。あれからもう15年経っているんだ。忘れたって仕方ないだろ?」
「飛段も可哀そうに」
「それに、飛段のこと生意気で嫌いだったし。神威で飛ばしてやろうと考えたことも一度や二度じゃない。で、今更、飛段の話を持ち出して来てどうした?」
「正直、飛段はどうでもいい。第四次忍界大戦で穢土転生を使ってまで蘇らせるメリットがほとんどない程度の奴だ。俺は奴を蘇らせちゃいないし、自分で蘇る手段も奴にはない。捨てておけ。問題はあくまで、ジャシン教だ」
「どういうことだ?」
「厄介なことに飛段が信仰していたジャシン教の教団員が動きを見せているという情報を掴んだ。そこで、だ。木ノ葉にあるジャシン教の情報を開示して欲しい」
「それは構わない」
『ただ……』と言葉を続けるオビトの顔は少年の時によく見せたニタリという擬音が似合うものだった。
「オレが行く」
こう突拍子もないことを言うのは昔から変わっていない。きっと、情報を確認した後に俺が自ら動くことを予想し、先回りをして名乗りを上げたのだろう。
「カカシに怒られるぞ」
「カカシも連れて行く。そうだ。ガイも連れて行こう。アイツ、丁度休みだったし。アスマに、シスイは……ダメだな。アイツらは五影会談の運営で休みじゃなかったハズだ。いや、丁度、フォーマンセルができるか。できるなら、2小隊で動きたい所だが“暁”に関係するとなると……」
「おいおい。お前が出ていいのかよ、六代目火影様?」
「もう火影は引退した。これからはナルトが、おっと、七代目火影様が里を照らしてくれる。それに、ジャシン教を放って置いてしまったのはオレのミスだ。飛段というSランクの犯罪者を輩出した宗教を取り締まらなかったオレの、な」
「気にするな。ジャシン教が活動を再開するなんてことは予測できるもんじゃない」
「そうは言ってもだな……」
責任を感じたように項垂れるオビト。仕方のないことだろう。
そもそも、ジャシン教の教義である“汝、隣人を殺害せよ”なんてものは、俺が創り出した時代じゃ有り得ない。
第四次忍界大戦の時、全世界の人間を捕らえていた無限月読を横から掠め取って利用し、全世界の人間の考え方の根底に『他人を思い遣ること』を植え付けたから、ジャシン教なんてのは第四次忍界大戦から今まで活動をしていなかった。
となれば、ジャシン教に身を隠して民衆を操っている黒幕がいる。その黒幕をある程度、特定するために木ノ葉の情報が必要だ。
そして、六代目火影自ら協力を買って出る今の状況を使わない訳にはいかない。
「オビト」
「どうした?」
「楽にいこう。そう額に皺寄せていると上手くいかねーぞ」
ピンと案が閃いた。
「そうだ。目的地は湯の国。設定は仕事に疲れたおっさん四人組で小旅行として温泉巡りってのはどうだ?」
「何を言っている? 相手は危険な宗教活動家たちだぞ」
「だからだよ。いかにも忍ですよって奴が出て行ったら、ああいう奴らはすぐに雲隠れしちまう。それで、人畜無害な旅人を装うってスンポーよ」
「理屈は解るが……」
「それに、温泉入りてーし」
「お前、それが目的だろ!」
忍とはなんぞやということを説明し始めたオビトを横目にワイングラスを傾ける。
久方ぶりのフォーマンセルだ。俺たちが下忍の頃、カカシだけは中忍だったが、その時のことを思い出す。あの時も湯の国へ向かう任務だった。
思い出の場所巡りとなるのも悪くない。
ワイングラスに残された赤い酒を一気に煽り、オビトの話に耳を傾ける。
いつの間にかオビトの話は、七代目火影が就任して一番の大舞台となる自里での五影会談が上手くいくかどうか心配だという話になっていた。
後任を心配するオビトのあたふたした様子を見ながら軽く笑みを溢す。
そんなに心配しなくてもアイツはよくやってるよ。七代目火影うずまきナルトは。
なんせ、六代目火影うちはオビトが認めた忍だからな。
心の中で思うだけに止めておき、空になっていた俺と、そして、オビトのグラスにワインを注ぐ。
里の未来について話し始めたオビトの声を肴に酒を飲む。
任務前のゆったりとした時間。たまには、このような物も悪くないと考えながら夜が更けていくのを感じていた。