カラカラカラという不気味な音が聞こえる。その音から遠ざかるために走り回るが、音はちっとも消えてくれない。それどころか、音が増えたような気がする。しかも、夜なので怖さ倍増である。泣きたい。
辺りを見渡すと、少し離れた所にアイパーと書かれた建物が見える。砂隠れの里の名所とも言える、というかそれ以外目立った所がない砂隠れの里。なるほど、五大国の中でも一番不遇といわれるだけのことはある。
「なんでこんな目に…。」
答えは10日前に遡る。
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10日前。
「ヨロイ。砂隠れに潜入するわよ。」
「相も変わらず端的な命令をありがとうございます。ところで前回、説明なしで死の森に放り込まれた時の俺の気持ちを考えてくださいましたか?」
「そんなこともあったわね。」
「考えてくれていない所かそんな事実があったことすら記憶に留めていない、と。この際ですからはっきり言わせて貰います。このドドドS!」
「早くなさい。さもないと…この子のエサにするわよ。」
いきなり大蛇丸様が現れて訳のわからないことをペラペラ話し始めたと思ったら蛇のエサになりかけていた。蛇のエサにはなりたくないのでここは大蛇丸様から離れるのが上策である。
「今すぐ用意してきます!」
「ああ、ヨロイ。」
走り出そうとした俺を大蛇丸様が呼び止める。
「逃げたら…わかるわよねぇ?」
冷や汗がダラダラと流れ落ちる。逃げたら俺は一体ナニをされるんだ?あらぬ方向に想像が膨らみ、無意識の内に体がガタガタと震えだす。
「すぐに用意を済まして戻ってきます!」
ちくしょう。頬に流れる涙を俺は止めることができなかった。
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5日前。
砂隠れの里の近くで大蛇丸様が土遁を使って陣を張り、少し休息を取る。チームは俺と大蛇丸様のツーマンセル。演習という名のシゴキで大蛇丸様のやり口がわかっている俺とのチームワークはなかなかのものだと自負している。
「ところで大蛇丸様。今回の任務は何ですか?」
聞いていなかった任務の内容を尋ねる。
「禁術の奪取よ。傀儡部隊が新しくなんらかの術を作り出したという情報が入ってね。まぁ、どんな術かはわからないのだけどあの“白秘儀”のチヨが作り出した術だから相当のものに違いないわ。」
「…それを大蛇丸様は欲しい、と?」
「あら、なんでわかったの?」
大蛇丸様はニヤリと笑ってこっちを見る。正直こっちを見ないで欲しい。笑顔が非常に怖い、恐ろしい。
「潜入任務は少数の手練れで行くのが基本。木ノ葉でこんなA ランク任務を出すとしたら上忍以上のツーマンセルでしょう。けど、大蛇丸様がわざわざ俺を指名したってことは俺に経験を積ませるための任務か…。」
言葉を切る。
「木ノ葉の上層部にバレちゃいけないような任務。違いますか?」
「フフ、ヨロイ。…正解よ。」
より一層笑顔を深める大蛇丸様。寒気がする。
「私が狙っているのは転生忍術よ。おいそれと出せるような術じゃないからこちらから取りに行くしかないの。で、アナタはどうするのかしら?私に協力してくれる?」
「…貸し一ですよ。」
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という経緯がありまして、で、潜入自体は上手くいったんだけど敵はあの“赤砂”のサソリが所属している砂の傀儡部隊。術の理論が書かれた巻物にトラップが仕掛けられていたみたいで鳴り響く警報の中、大蛇丸様は俺にこうおっしゃったんだ。
『私はこの巻物が本物かどうか確かめてくるからアナタは囮になって時間を稼ぎなさい。』
って。
「二代目火影より卑劣なことをしやがって!」
カラカラという音が左側からした。そっちに顔を向けるとブッサイクな傀儡の顔が俺をじっと見ていた。
「…今叫んだの、聞こえちゃったりしました?」
そうだよーといいたいのかブッサイクな傀儡が頷き、口をガパッと開ける。次の瞬間、口からキラリと光るものが飛び出てきた。
「ぬおっ!」
すんでの所で身を捩りそれを躱す。はっきりとは見えなかったけど、あれ、多分仕込みナイフだ。体を捩じり返すのと同時に見晴しのいい大通りに出る。
「“烏”の仕込みを躱すとは…。大した奴だ。」
「こりゃ、どうも。傀儡部隊の天才造形師の“赤砂”のサソリさんに褒められるなんて感無量ッス。って訳で見逃してくれません?」
「どういう理屈かわからないな。死ね。」
建物の上で俺を見下ろしながら冷たい言葉を投げかけるサソリ。俺がMだったら素晴らしいシチュエーションかもしれないけど俺はMじゃないんで…って危なっ!
烏がカラカラと音を立てながら俺に向かってくる。しかも、左手にはナイフを出している。
「ふんっ!」
烏から距離を取るために逃げたらサソリが掌を上に向けた。嫌な予感がする。
後ろで何かが土の中から出てくるようなボコッという音がした。慌てて後ろを振り向く。嫌な予感が的中したみたいだ。
「樽?」
サソリはちょうど俺の逃げ道に樽を仕込んでいたようだ。今度は烏の時のように避けることは出来ずにそのまま入ってしまう。俺が入ると狙っていたかのように樽の入口が閉まる。
…まずいまずいまずい。どうする?このままじゃ右近、左近の二の舞、いや、二の舞ってかその出来事は今より未来に起こるんであってその表現は使えない、けど実際、俺はそれを過去に見たんであってあばばばば。
「その黒蟻は捕獲用。そして、それと対をなす烏が攻撃用。と言っても、お前は見えてないからわからないだろうがな。」
なんかサソリの勝ち誇った声が聞こえてきましたよぉ。実際はトーンがそんなに変わらないクールな声なんだけどむっちゃ勝ち誇ったように聞こえるのは俺が追いつめられているからでしょうか?
「死ね。カラクリ演劇…機々一発!!」
「ファイトー一発!!」
チュドーンという大きな爆発音と共に黒蟻のボディを烏ごと吹き飛ばす。
「くっ!自爆か!?」
「ふう、死ぬかと思った。」
「…何故生きている?」
「ん?ああ、これ?起爆札を黒蟻の内側に張り付けただけ。後は爆風が全て吹き飛ばしてくれるって訳なんだよね。で、起爆札の爆発に耐えることができた理由はこれ。…変身!」
煙が舞う中、ポーズを決めた俺の体が黒いチャクラで覆われる。
「チャクラの鎧。」
「お前…何者だ?」
「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!」
「…。」
「なにか言ってくれないと寂しいから!」
「訳のわからないことを言いやがって。…とっておきでお前を殺してやる。最近作り上げた新型の傀儡だ。」
巻物から口寄せの術式で呼び出した少年を象った傀儡がカタカタと音を上げる。
「ただの傀儡じゃなさそうだ。…その新型傀儡。何をベースにしている?」
「一目でそこまで気づくとはな。どうやら、お前はここで殺さないと後々厄介なことになりそうだ。」
新型傀儡、人傀儡と思われる傀儡を自分の前に移動させたサソリを見て、俺もクナイを両手に持つ。ピリピリとした空気が走る。肌が痛い。
遠くの方で花火が上がった。それを合図に動き出す。チャクラを纏ったまま地面を蹴り出し、チャクラで底上げした跳躍力を生かしながらサソリの遥か頭上を跳び越える。
スタッと着地をして駆けだす俺をじーっと見ていたサソリが叫ぶ。
「逃げるなぁ!」
「そんなこと言われても時間稼ぎ終わったんで逃げますがな。チャオ!」
サソリに言い残し、とてつもない勢いで作戦終了の合図である花火が上がった方向に駆けていく俺。こんな怖い思いをしたのだから大蛇丸様には後で高額請求をしよう。砂隠れの里の周りの外壁を駆け上りながら考える。…巨人が攻めてくる訳でもないのに高すぎるでしょ、これ。高い壁を登りきるとちょうど朝日が出ている所だった。
「うん、いい朝だ。サソリをおちょくったし気分がいい。」
伸びをして壁を駆け下りる。大蛇丸様の元に向かって全力疾走する俺だったが、この時の俺は知らなかった。サソリが自分のビンゴブックに俺の特徴を書き込みながら『こいつだけは俺が必ず殺す』と呟いていたことを。