一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@23 風穴

今の状況は非常にマズイ。

 

「とにかくだ。ここから離れることが第一だろ?」

 

リンの襟首を捕まえ、木々を跳び渡る。

 

「けど!このまま里に戻る訳にはいかないの!」

「リンさん。そうは言っても、ここに留まっていたら霧の忍が駆け付けることも十分考えられます。そうなれば全滅は免れません。」

 

シスイは口寄せの術で呼んだ鷹を放つ。木ノ葉に救援を知らせる為だ。

「シスイの言う通りだ。それに、お前を守るとオビトと約束した。何か方法があるハズだ。」

 

そして、カカシはリンと同時に己に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「ヨロイ!感知を頼む。」

「了解。」

 

自分の言葉で落ち着いたらしい。カカシはいつもの様に命令を飛ばす。それに答えながら精神を集中させる。感知の範囲を拡げていくと一つのチャクラの反応を感じ、更に感知の範囲を伸ばす。

 

「…糞が。」

 

一つの反応を皮切りにその後ろには数えるのも嫌な程の反応があった。

 

「ヨロイ、どうだ?」

 

カカシが尋ねてきたので頷く。

 

「100近い数で追って来てやがる。しかも、チャクラの質から考えると暗部レベルだ。ガイ班と別れた時のあの忍が斥候だったんだろう。そいつが時間通りに帰って来ないから動きだしたのか、それとも…。」

「あっちにも優秀な感知タイプの忍がいるか、だな?」

「ああ。チッ…どうやら後者のようだ。二手に分かれた。」

 

チャクラの質が特に高い者が揃った小隊がガイたちの方向へと進路を変更した。出し惜しみは出来ないな。

 

「多重影分身の術!」

 

これまで多くの敵から奪い貯めていたチャクラを引き出して印を組む。俺の後ろから次から次へと俺が出てくる。これで少しは足止めできるハズだ。

影分身には本体が持つ道具の全てを影分身体も持っているという特徴がある。今回はその特徴を使おうという訳だ。もちろん、影分身で作った道具は影分身体が消えたら消えるのだが、逆に言えば影分身が消えなければ道具も消えない。

霧の忍を足止めする作戦は、影分身体でトラップを設置して敵がアワアワしている所に遠距離攻撃をして疲弊させるというものだ。そうすることで、影分身体の消耗は押さえることができ相手にダメージを与え続けることができる。時間稼ぎと割り切れば、少なくない時間は取れると期待している。

また、ガイ班にも救援として影分身を送る。こちらも、少しの足止めぐらいはできるだろう。

更に言えば、時間稼ぎだけではなく、相手が疲れた所で捕虜を捕まえることができれば文句なしだ。捕まえた捕虜はシスイが幻術を掛け、リンから三尾を引き出した後に、以前砂の傀儡部隊から文字通り命懸けで盗み出した己生転生でリンを生き返させる。もし、捕虜が取れなくても先程捕まえた藍を拷問して情報を得た後に己生転生を使わせたらいい。

 

「これで二回目かな?大蛇丸様に感謝したのは。」

 

少し笑顔を浮かべたのがいけなかったのかもしれない。相手は暗部レベルの忍の大隊ということは解っていたのにも関わらず、距離があるということで油断していた。

影分身体からの情報が還元される。

 

「逃げろ!」

 

三人に向かって叫びながら、後ろを振り返ると遠くの方から茶色く濁った大量の水が押し寄せてきていた。音が聞こえたのかカカシたちも振り返る。リンは後ろの光景を見て絶望した表情を浮かべたがそれも仕方のないことだろう。後ろから土石流が迫ってくるなんて体験、できることなら遠慮したいものだ。

 

「跳べ!」

 

叫ぶシスイの声がした。

木を蹴り、上に向かって跳ぶ。

 

「口寄せの術!」

 

シスイが口寄せした鷹に乗り、先程まで俺たちがいた場所を土石流が駆け抜ける様子を下に見ながら、俺は一旦途切れた感知を再び始める。

 

「下だ!」

 

感知で敵の位置を特定し、皆に注意を促すが遅かった。

乗っていた大型の鷹から煙が上がると浮遊感に襲われる。俺たちの体は重力に従い、地面へと落ちていく。

白い視界の中、黒く小さな影を見つけそれに手を伸ばす。クナイだ。このクナイを鷹に突き刺したのだろう。大きいとはいえ、空中で動いていた鷹を撃ち落すとは大した奴らだ。

懐から起爆札を取り出しクナイに巻き付け、地面に向かって投げ下ろす。爆発で敵を攻撃し、着陸時に敵から攻撃されるリスクを減らすためだ。

地面に突き刺さったクナイはズドンという音と共に爆発し、敵を遠ざけたが敵もさるもの。爆発の瞬間に敵は全員その場から遠ざかり相手の被害はゼロだ。本当に大した奴らだ。

先程の水遁系の忍術、おそらく、爆水衝波を多人数で使った結果だろう、その影響でぬかるんだ地面に降り立った俺たちを待ち構えていたのは霧隠れの本隊だった。ざっと100人は下らない数の手練れの忍を見て冷や汗が流れる。先程の影分身は一人残らず土石流の餌食になり、トラップも同時に破壊されていたらしく相手に目に見える消耗は無い。…これはマズイ。

 

「カカシさん!リンさんを連れて逃げてください!ここは俺とヨロイで何とかします!」

 

突然叫びだしたシスイに勢いよく振り向く。気でも触れたか?この人数相手に二人で何とかできる訳ないだろうが!

 

「済まない、任せた。」

 

そう言ってカカシ隊長はリンの腰に手を回し離脱する。

 

「ちょ!待ッ糞が!」

 

霧隠れの忍たちが投げたクナイを身を捩って躱す。カカシたちに注意を向ける隙もない。そうこうしている内にカカシたちは離れて行った。しかも、クナイが次から次へと俺たちに向かって投げられる。

写輪眼を持っているシスイならともかく、大量のクナイを避け続けることは俺にとって厳しい。チャクラの消費を押さえたい局面ではあるが仕方ない。

 

「ふん!」

 

チャクラを体中から噴出させ纏わりつかせる。チャクラの衣の上位互換であるチャクラの鎧だ。それを纏い、体がチャクラで黒く染まった状態の俺にはクナイなど効かない。力を籠め右腕を思い切り振ると衝撃波が霧の忍を襲う。

 

「シスイ!下がるぞ!」

 

シスイに声を掛け、チャクラの鎧を解きながら瞬身の術で土石流によって作られた広場に出る。俺たちを追ってくる霧の忍たち。あの衝撃波で倒せた忍は一人もいないとは流石は追い忍部隊だ。泣きたい程に強い。牽制として術を発動させるために印を組み上げる。

 

「水分身の術。」

 

湖の様に溜まっていた泥水が人型になり霧の忍へと向かって行く。

 

「高が水分身、怯むな!」

 

なるほど。今、命令を下したのが隊長って訳ね。

一人だけ俺の目の前に出し戦闘に加わらせなかった水分身がその隊長用に長い印を組んでいく。

 

「させん!」

 

瞬身で俺の水分身にクナイを突き立てる霧の忍。そのクナイは水分身の心臓を一突きしていた。バシャっと水音を立てて崩れる水分身。本体である俺と目が合うその忍だったがすぐにその体は突然発生した大渦によって飲み込まれる。

 

「水遁 大瀑流。」

 

水分身の後ろに隠れ、本体の俺も同時に違う術の印を組んでいた。本体の1/10の出力の水分身とはいえ、実体を持ち攻撃してくる厄介な存在であることは間違いなく、それを放って置くのは危険だ。それを霧の部隊の隊長は十分理解していたからこそ本体より簡単に処理できる水分身を先に攻撃する。その行動を読み取り、本体は隠れて範囲攻撃を仕掛ける。即席で考えた割には上手くいった。

 

「ヨロイ。奴らの何人かは、大瀑流を喰らう前に水牢の術でガードしている。渦の中心に奴らが引き寄せられたら叩くぞ。」

「いや、引き寄せられる前に範囲攻撃でやる。口寄せの術!」

 

俺の後ろに煙が大量に上がり、小さなビル程の大きさの蛙が現れる。

 

「なんじゃい、ワシをこんな所に呼び出して。」

「ブン太、油を頼む。」

 

口寄せで呼び出した蛙、ガマブン太に指示を出す。

 

「なんじゃ、ワレ?ワシに向かって口の訊き方がなっちょらんのぉ。」

「いいから早くしろ!」

「いてまうど、このガキャア!」

 

突然キレ出すキチガイ蛙。蛙の癖に生意気な。

 

「俺がしゅ!」

「お願いします!って言いたかったんだよな、ヨロイ?そうだよな?ヨロイも謝っているのでどうか油をお願いします!」

「しゃあないのぉ。」

 

シスイもシスイだ。こんな蛙なんて写輪眼で幻術を掛けて操ればいいのに。

そうは言っても結果オーライ。ブン太が油を吐き出し、それにシスイが火遁で火を付けると辺りは煌々と燃え盛る炎と霧隠れの忍の悲鳴に包まれた。

 

「ワシは帰るけんの。」

 

ブン太はそう言って大量の煙を残し、姿を消した。

 

「俺たちも行こう。」

 

シスイに声を掛け、カカシたちが居る正確な位置を測るために神楽心眼を使う。

これは!?

首を慌てて右に向ける。そう、先程のシスイとブン太のコラボ忍術、蝦蟇油炎弾で焼き尽くしたハズの場所を、だ。そこには氷の破片が舞っていた。

本能が警鐘を発するのに任せ両腕を交差させ体の前に出した瞬間、体に強い衝撃が走り空を飛んだ。

 

「つッ!」

 

泥濘の中を転がることで地面へと衝撃を逃がす。立ち上がると体に寒気が走った。

危機を感じチャクラを足に集めその場を離脱すると、今までいた場所から氷柱が立ち上がった。

霧隠れの氷遁使い。そして、目で追えない程の移動速度。

思い当たる一族がある。…雪一族。原作では白がその代表だろう。

立ち上がる俺の横にシスイが瞬身で現れる。

 

「ヨロイ!大丈夫か?」

「ああ。上手くガードした。」

「行けるか?」

「もちろん。」

 

飛雷神の術のマーキングを付けたクナイを取り出す。

 

「写輪眼で見切れる俺がメインで攻める。お前はサブで隙を狙ってくれ。」

「いや、試したいことがある。耳を貸してくれ。」

 

シスイと打ち合わせをしながら相手から目を離さない。もし相手が来たらカウンター狙いの一撃を打ち込むために服の下にチャクラの鎧を纏っている。相手も今までの戦闘で俺のやり口を予想しているのか攻勢に出るのに躊躇しているようだ。

打ち合わせが終わり、二人で霧の忍の前に並び立つ。

 

「行くぞ!口寄せの術!」

 

俺の掛け声に反応し、シスイは煙玉により視界を制限した。

悪い視界で動くことは即、死に繋がることをわかっているのだろう。霧の忍は風遁で煙を吹き飛ばした。

そこには土遁で作り上げた棘が着いた杭がいくつも刺さっていた。もし、相手が考えなしに跳び込めばその場でズタズタになるハズだったのだが。…仕方ない、次だ。

肩にナメクジを乗せた俺とシスイの姿を確認した霧の忍だったが、背中合わせで同時に逆方向に駆けだす俺たちの内どちらを攻めるか考えた隙を逃さず声を掛ける。

 

「俺、大蛇丸様の弟子!」

 

俺の方に顔を向けた霧の忍は仮面で顔が隠れていたが、相当怒っていることは感知を続けている御陰で手に取るように解った。

大蛇丸様はイロイロしていて血継限界の一族を集めることが最近のトレンドになっている。歯に衣着せぬ言い方だと、まぁ、拉致って人体実験をするってことだ。その中に雪一族がいることは以前、独房の外から見たことがある。

昔のことを思い出しながら走りその忍の様子を見るとそこには誰もいなかった。

 

「あれ?ぐっ!」

 

頭を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられる。上から降ってきた声は綺麗でそして冷たいものだった。

 

「なら、あなたから先に殺します。」

「残念。殺されるつもりは更々ない。」

「それは…どういうこと?」

 

霧隠れの忍は困惑した声を出す。押さえられている頭を力付くで回し、霧の忍に笑顔を見せる。

 

「こういうこと。さよなら。」

 

シスイが飛雷神の術で俺の傍に飛びクナイを彼女の首に向かって振り下ろす。

 

「くっ!」

 

しかし、敵もさる者。俺の足元に落ちたのは彼女の頭ではなく付けていた仮面だけだった。この人の瞬身の術、凄いレベルだな、やっぱ。顔についた泥を落としながら立ち上がる。

 

「やるわね。」

「あんたもな。カワイイ顔してなかなか強いじゃねぇか。」

 

振り向くと肌が雪のように白く儚げな印象を受けるクールビューティな女性がそこにいた。

…あれ、印組んでない?

 

「氷遁秘術 魔鏡氷晶!」

 

彼女がそう叫ぶと俺を氷でできた無数の鏡が取り囲む。

 

「この術で終わらせる!」

 

これは防げないな。

 

「シスイ、済まない。」

 

彼女の体が鏡に吸い込まれた。鏡が一度だけ光り、俺の目の前にクナイを突き出した彼女の姿が現れる。

 

「須佐能乎を使わせることになっちまって。」

 

目の前の女性の口から血が零れる。緑色の須佐能乎の体が彼女の攻撃を止め、須佐能乎の緑色の剣が彼女の腹を貫いていた。鏡が音を立てて砕け散る。

そもそも、魔鏡氷晶という術が術者の周りを完全に防御する須佐能乎とは絶望的に相性が悪い。魔鏡氷晶は術者だけを写す鏡の反射を利用する移動術に過ぎない。つまり、攻撃の際は影分身などと違い、一か所しか攻撃できず、その攻撃を止めることさえできたのなら高速移動するためには鏡にもう一度入らなければならないという特徴がある。360°の防御壁を作る須佐能乎相手ではどの方向から攻撃が来てもその攻撃は必ず止まる。

 

「ヨロイ、今度こそ行こう。」

「そうだな。」

 

変化を解いたシスイはカカシたちが走り去っていった方向へと走っていく。

それにしても…。

地面に倒れた霧の忍を最後に見遣る。この人もまさか、シスイの姿が俺の影分身による変化でシスイ本人は俺の肩に乗っていたナメクジに変化しているなんて思わなかっただろうな。

前を向き、シスイの後を追う。この戦闘でかなり時間を取られた上、チャクラも同様にかなり削られた。正直、キツイ。これでリンを助けることができなかったら…。

よそう。悪い結果を考えていると本当にそうなってしまうことがこれまでの経験上多い。

いいこと。リンを助けることができて、オビトが里に帰って来る。そんな結果を考えよう。

 

+++

 

現実は残酷だ。目の前には地獄のような光景が広がっていた。

 

「こ、これは…?」

 

シスイがドモるのも仕方のないことだろう。天に向かって絡まり聳え立つ木の下には血でできた池があった。

俺はその中を進み、丁度、木の隙間から空を仰ぎ見ることのできる場所で足を止めた。

 

「ごめんなぁ、リン。」

 

見下ろす足元には胸に風穴が開いたリンの遺体があった。彼女の顔は安らかとは言い難く疲れた表情をしていたが、それでも尚、達成感を見ることができた。

 


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