足元で木の枝が揺れる。
木の葉が飛んでいく中、後ろの二人に合図する。タンっと軽い音を立てて地面に降り立ち振り返る。そこにはカブトとミスミが居た。俺の後を着いてきた2人に指示を飛ばすため口を開く。
「これからの流れを説明する。カブト、お前はターゲットとの接触だ。タイミングはお前に任せる。」
「はい。」
「っ!ヨロイさん!」
「ミスミ、ここは従え。」
「…はい。」
感情を押し殺し、ミスミは下がる。説明しないと納得しそうにないな、こりゃ。
「ミスミ、ターゲットの接触はカブトの方が適任だ。スパイの技能だけじゃなく、他にも必要なスキルがいる。」
「必要なスキル?」
「ああ。…カブト、結果は出たか?」
「こちらに。結果は陽性です。」
カブトはこちらに忍と裏に印刷されたカードを見せる。次いで、それをひっくり返し俺に結果が見えるようにする。
呪印用パッチテスト。俺が大蛇丸様に開発するように打診した医療忍術補助器具だ。これにチャクラを流し込むとそのチャクラに反応し、文様が浮き上がる仕様となっている。呪印の文様が浮き上がれば、陽性。そして、変化がなければ陰性となっている。ここで計るのは…。
「“天の呪印”との親和性が高いか。」
呪印との親和性だ。呪印は誰でも適合できる訳じゃない。もし、適合しなければ最悪死に至る危険性も有りうる非常に危ういものである。そのリスクを回避するためにこのカードでパッチテストを行うことで無駄な犠牲を減らすことに成功した。大蛇丸様は『あら、適合できないのは死んでしまえばいいのよ。』というスタンスの人間だから説得するのにはかなり苦労したものだ。
実験体を集める俺たち部下の身にもなって欲しい。
「ま、まさか、大蛇丸様は呪印をうちはサスケに与えるつもりなのですか!?」
「そのまさかだよ。だから、お前よりカブトを推した訳だ。万が一の場合には医療忍術、封印術、呪印術のスキルが必要だからな。」
「…わかりました。カブト、失敗したら命は無いと思え。」
「ええ、細心の注意を払いますよ。」
また、ミスミがカブトに絡んでいるからパンと手を打って注意を俺に向ける。
「んじゃ、次にミスミ。お前は巻物の奪取だ。」
「はい!お任せください。」
「それで、注意事項がいくつかある。狙ったらダメな奴らだ。」
「“音”はもちろん、“砂”の奴らもですね?」
「そう。これからの作戦に必要な砂隠れの忍は狙うな。怪しまれずに木ノ葉に置くことができる戦力だからな。それと、日向ネジ、ロック・リー、テンテンのチームも狙うな。」
「なぜです?」
「強いからな。」
「たかが下忍!恐れる必要はありません。」
ミスミが声を荒げるが、ミスミをあいつらと闘うとまず間違いなく負ける。絶対にぶつけることはできない。
「これは命令だ。この試験のルールを忘れたのか?」
「ミスミさん。チームのメンバーが一人でも戦闘不能になるとその時点で失格になります。危ない橋はできるだけ渡らない方がいいですよ。」
「わかりました。ヨロイさんがそこまでいうなら。」
カブトの方を全く見ずにいるミスミ。マジ勘弁してよ、こういうギスギスした空気、俺、苦手なんだから。
「それで、ヨロイさんは何を?」
「いい質問だ、カブト。」
カブトを睨み付けるミスミ。だから、そういう大人げないことはすんなよ。険しい表情をしているミスミに気づかないフリをしてカブトに向かって話す。
俺もずいぶんと汚い大人になってしまったものだ。
「俺は大蛇丸様と落ち合うことになっている。現状の報告とサスケについて、だな。まぁ、そんなとこだ。」
「大蛇丸様が来ていらっしゃる…?」
「え?お前、気づいてなかったの?」
ミスミが驚いたことに驚く。
「俺はヨロイさんやカブトのように感知タイプではないので。」
「…そっか。」
俺だけではなく、実はカブトも感知の忍術は使える。それに対して引け目を感じているのか悔しそうな声をミスミは出すが、そうじゃない。そうじゃないんだよ。
…舌があんなに長くて気持ち悪い奴がそうそう居てたまるかよ。見た目で分かるじゃん。
アンコといい、どうなっているんだよ、ここの忍たちは。あれか?リボーンみたいに変装が変装になっていなくても超直観がないとわかんないのか?ってそんな訳あるか!
一人、心の中でツッコミを入れる。
…爺さん、なんか言ってよ、寂しい。
「では、最終日に塔で落ち合おう。…散ッ!」
別々の方向に駆けだして行く2人を見送り、感知を始める。
不審な動きが“死の森”の外にあるな。おそらく、大蛇丸様の消写顔の術の犠牲者が見つかってアンコが動き出したという所か。
たしか、原作ではアンコが大蛇丸様と接触したのは夜だったハズ。もう少し時間があるな。
森の中から空を見上げる。
血みどろの試験と澄み切った青い空のギャップに泣きそうになった。そうだな、夕暮れまで空を見上げていることにしよう。遠くの方から悲鳴が聞こえてくるがそれは無視で。
…ああ、やっぱり汚い大人になっちまったな。