木ノ葉の里がいつも以上に賑わう。朝というのにも関わらず、興奮した人が多く見られる里を眼下に柵に近づく。
風が吹き、俺の下ろした髪を揺らした。目の端に風に飛ばされた木の葉が映り、それに向かって手を伸ばすが木の葉は俺の手には収まらず飛んで行く。少しの間、木の葉を見送る。無意識の内に開いていた口を閉じた後に里に背を向け、今まで居たベランダから部屋へと戻る。洗面台の前に置いている整髪用のジェルのチューブを手に取り、鏡を見ながらいつもの髪形、オールバックへと整えていく。ジェルのチューブを定位置である歯ブラシを入れているコップの横に戻す。手にまだ着いているジェルを洗い流し、黒レンズを摘み上げ、目の上にチャクラで張り付ける。
…今頃、影分身が“音”の忍たちに演説している所だろう。
忍用のサンダルを履きながら考える。
“2人”既に始末している。そろそろ、その2人の衣装に着替えた影分身とカブトが試験会場に入り込んでいる時間だ。チャクラ感知でのチェックは試験会場ではしない。暗部は里の各地にバラバラに配属するように三代目を誘導した。その上、火急の際には三代目本人が大蛇丸様と闘うことを本人の口から直接聞いている。あの人が俺にブラフを掛ける事はないし、大蛇丸様との戦闘については、三代目が御意見番だけではなくダンゾウ様をも説得している所を確認した。
「何も問題はないな。」
ドアを開け、外に出る。ふと、空を見ると、魚の鱗の様な雲が空に浮かんでいた。視線を前に戻し、瞬身の術で会場に向かう。
“中忍選抜試験 本戦”。そして……世界を巻き込む弾丸を撃つ銃のトリガーだ。
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会場の中央に立つ7名の下忍。
「えー、皆様!このたびは木ノ葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、誠にありがとうございます!これより予選を通過した8名の“本戦”試合を始めたいと思います!どうぞ最後まで御覧下さい!」
三代目が中忍選抜試験“本戦”の開始を宣言する。会場が三代目の宣言で盛り上がる中、審判であるゲンマは顔色一つ変えず、いつものように面倒臭そうな表情を浮かべ、本戦出場者に説明している。紙を取り出している所を見ると、トーナメントの変更があったことを伝えているのだろう。
桔梗城の事件の後、ドスがもう我愛羅を見る事さえ嫌だということで、俺がドスの担当上忍の姿に変化して彼の棄権を中忍試験事務室まで伝えに行ったことがあった。本戦出場者が奇数であり公平性を損なうということで、出場者を偶数に戻すドスの棄権を歓迎してくれたが、こっちが心配になるぐらい震えながら謝っていたドスとのギャップで少し笑ってしまった記憶を思い出した。
本戦出場者が動き出した。ナルトとネジを残し、他の下忍たちが姿を消していく。会場に残されたのは審判であるゲンマ、そして、これから闘うナルトとネジの3人だ。
と、ナルトが拳をネジに向ける。『ぜってー勝つ』と言っているんだろうな。ちくしょう、生で聞きたかった。最前列に陣取っていたのだが、残念ながらナルトとネジの会話は遠くて聞こえない。
「では第一回戦、始め!」
そうこうしている内に、ゲンマが開始の合図を掛ける。
「なぁ、ヨロイ。」
「んぁ?」
隣に座る女が声を掛けてくる。その女とは、もちろんアンコだ。
「どっちが勝つか賭けない?この後の団子一皿。」
「一串じゃなくて、皿かよ。まぁ、いいぞ。アンコ、お前はどっちに賭ける?」
「日向の子で。あの子、只者じゃないわよ。」
「じゃあ、俺はナルトだな。……レイズだ。羊羹一本。」
「はぁ?アンタ、本気なの?」
賭けの品を上乗せする俺にアンコが訝しげな声を上げる。
「本気も本気。超本気だ。」
ナルトの影分身が次々とネジの体術で吹き飛ばされ、煙となっていくのを見ながらアンコに答える。
「まぁ…アンタがそう言うならいいけど。」
アンコは鼻歌を歌いながら、ここに来る途中で買ったみたらし団子を頬張る。
「…団子を食べながら『団子』、『羊羹』って交互に小声で口ずさむのは行儀が悪いからやめなさい。」