飛雷神の術で飛んだのは、田の国にある音隠れの里だ。里にある城が俺たち音隠れの忍の居城となっている。マーキングを付けたその一室に飛び、すぐさま部屋から出る。廊下を渡り、いくつかの
「おい、どっちだ?」
「ヨロイさん!こちらです。」
左近が案内の為に小走りで俺の前に出る。
「状況は?」
「カブトさんが診ています。今は、カブトさんが付きっきりで居ますので危険な状態と推測できます。」
左近が扉を開け、俺を迎え入れる。その部屋は、大型医療機材が壁に並べられた処置室となっている。
「左近、案内サンキューな。お前は戻って、城の警備、そして、負傷者の治療に当たれ。四人衆の他の奴らにもそう伝えろ!」
「はっ!」
左近がドアを閉める音が響き、部屋の中央に横たわる男が叫び声を上げる。
「何を喰らわされました?」
「グウウ。四代目…クッ…火影のォッ!残した封印術だとウウウ…あのクソジジイは言っていたわ。」
「それなら、屍鬼封尽っぽいですね。カブト、どう?」
「この術の効果は下手をすれば命に関わります。大蛇丸様の腕にチャクラが戻らず、壊死を食い止めることができませんでした。」
「魂を奪われているからな。直接療法に切り替え。HSi細胞由来のOr細胞変異体を埋め込み、それで様子を見よう。ストックはあったか?」
「ええ、取ってきます。」
カブトが部屋を出る時のドアの開閉による振動で再び呻き声が起こる。これ、ちょっとマズくないかなぁ?原作でもこんな風だったっけ?まぁ、こんな風だったか。
一人で納得し、横たわる男に次の処置をする為に声を掛ける。
「大蛇丸様。これから、幻術を掛けて痛みを感じないようにします。抵抗しちゃダメですよ。」
「早くしなさい!」
「はい、これで完了です。どうですか?」
ふーと大きく息を吸う大蛇丸様。と、突然、顔を顰める。
「グウウ。ヨロイの幻術でも痛みが全然引かないなんてね。まるで、腕が焼けるようだわ。ハッ、クゥ。」
「さーません、実はまだ幻術を掛けていなかった感じです。」
「早くしなさいぃぃぃい!」
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「大蛇丸様、落ち着きましたか?」
「そう不貞腐れないでくださいよ、ちゃんと謝ったじゃないですか。」
処置はしたといっても顔色がいつも以上に悪い大蛇丸様。そんな大蛇丸様が俺をジト目で睨んでくる。ちょっとした冗談なのに、ここまで嫌そうな目で見られるなんて思ってもみなかった。
「おのれ…。猿飛め…。」
「まぁ、そう簡単ではありませんよ。何せ、相手にしたのは五大国最強と謳われる火影なのですから。…しかし、上出来ですよ。あの“五影”を二人までも………!」
椅子にドカッと座り、カブトをスッゴイ表情で睨む大蛇丸様。怖い。
「私を慰めるような台詞は止めなさい…。殺すわよ…。」
「…もちろん、そのようなつもりはありません。確かに里は落とせませんでしたが、この計画のもう一つの目的はうちはサスケ。…彼にはアナタの首輪が付けられた。」
「…。ククク…この腕と私の全ての術と引き換えにね…。」
「そんな自虐的に言わなくても…。こっちが反応に困ります。なぁ、カブト。」
「いえ、ボクは…。」
「自虐的にもなりたくもなるわ。イタチが手に入っていたらこんな結果にはならなかった。」
「まぁ、そうッスねぇ。」
俺を見据える大蛇丸様。
「ヨロイ。今はそんなことより、この腕を一刻も早く治すのが先よ。当てはあるかしら?」
「ええ。まずは不屍転生の術。」
「却下ね。サスケくんが手元にないのにする訳がないでしょ。」
「それじゃ、後はですね…少し危ないというか少しどころじゃないのですが。」
「何?」
「“姫”。」
「…なるほどね。」
そういってクククと笑いだす大蛇丸様。それを見て、若干引きながらカブトが俺に聞いてくる。
「なんです?“姫”とは?」
「“伝説の三忍”の紅一点。綱手姫のことだよ。けど、今は里から離れていてさ。その捜索をお前に頼みたい。できるか?」
「ええ、分かりました。…ヨロイさんはどうします?」
「俺は、捜索はできないな。明日、木ノ葉と不可侵条約を結んでくるから時間が取れない。」
「木ノ葉と条約ですか?一体、どうやって?」
俺が答えようとしたが、それより早く大蛇丸様の言葉が飛んだ。
「検体に回す予定だった彼らを使おうという訳ね。」
「検体予定?ああ、ヨロイさんの影分身が結界で捕まえた木ノ葉の人たちですね。しかし、それが何か?」
「あ、カブトに教えるのを忘れてた。あの結界、実は俺が改良した奴で解呪し難い奴なんだよ。」
そして、その結界が木ノ葉の里の各地にある。非戦闘員が逃げ込んでいる里の各避難所に影分身体を送り込み、護衛をして、更に結界で守ると言ったら非戦闘員の護衛をしている忍に歓迎されて簡単に結界を張る事ができた。実に簡単なお仕事だった。
このことは、影分身を解いた時に本体に還元される情報から読み取ることができたので確かなことだ。
「私が半日かけてやっと一つか二つ解ける程度よ。その中に木ノ葉の非戦闘員が多くいるってなったら、木ノ葉の上層部はどう動くか見えてこないかしら?」
「…人質ということですね。しかも、見捨てるなんてことをしたら、木ノ葉の権威が地に落ちる。非戦闘員の為、体力、気力の観点から言っても時間は多くない上に、結界を解くのには時間がかかるので、結界をすぐに解けるこちらの要求を飲まざるを得ないということですか。」
「とはいっても、こっちの要求を飲むってことは、あくまでも予想だ。木ノ葉の上層部が彼らよりプライドを選ぶことも十分に考えることができる。その為に俺が行く。ダンゾウ様と繋がりがあるから木ノ葉上層部の説得は他の奴より楽だろう。」
カブトが一つ頷いてしみじみと言う。
「流石、ヨロイさんです。こんな卑劣な手を思いつくなんて。」
「ええ。非戦闘員を人質に使うなんて外道なこと、私も思いつかなかったわ。」
「そいつらで人体実験しようとしてた奴らが何言ってんだよ!」
思わず、中指を立てて怒鳴った俺は悪くないと思う。
「まぁ、冗談は置いといて…。」
大蛇丸様が仕切り直す。
「私はあなたたちに全幅の信頼を置いているわ。後は任せるわよ。」
そういって、大蛇丸様は椅子から立ち上がり寝室へと向かって行く。それを見送り、カブトも自室へと戻っていく。
俺も木ノ葉への要求を書いたものをこれから用意しなくちゃならないな。上の階へと上がる古びた木製のドアを開けながら考える。
それにしても…。
…俺は忍にも成り切れず、人にも非ず。
「
呟いた声はドアの軋む音で掻き消された。
全ては世界の為と言い聞かせて、早10年。夢はまだ遠く、そして、血で濡れた穢れた道の先にある。全てを諦める訳にはいかない。