志村ダンゾウ。
忍の闇と呼ばれている木ノ葉きってのタカ派の男だ。
かといって、『戦争大好きだぜヒャッハー』って感じの人間ではなく、そのやり方は常に陰険で彼の悪事が表に出ることはそうない。どこのインテリヤクザだ、と。
そして、その為に有効なんだ…。
「お久しぶりです、ダンゾウ様。」
「ヨロイか。何用だ?」
…彼の悪事の証拠を揃えて出すのは。
まぁ、それは交渉が上手くいかなくなった時の最終手段だが。
「木ノ葉との友好条約を結んで欲しくて参りました。」
「何?」
「ええ。これまでのことを水に流して仲良くしていきたいなぁって思いまして…。もちろん、タダでとは言いません。俺が作った結界を全て解きますよ。」
「なるほど。それで、影分身で来たか。…ワシに殺されぬように。」
「…。」
バレてる、いや、俺にカマかけただけか。チャクラを探ると、ダンゾウ様のチャクラは安定している。写輪眼で俺のチャクラの様子を見て確信を持った訳ではなく、言葉で俺の反応を見て推測している。そして、それは当たっているし、返事をすぐに返さなかった俺の様子から影分身だということを見破ったか。狸親父め。
「で、条約の件だったな。それは、できぬ相談だ。それから、この条約の話を持ってくるとは、ワシを…そして、木ノ葉を裏切るということでいいのか?」
そもそも、俺が木ノ葉側で二重スパイをしていたとしたら、三代目との闘いの直後に弱った大蛇丸様の首を狩るのがセオリーだ。大蛇丸様さえいなければ、木ノ葉の戦力から見て、音はどうとでもなる存在。なのに、そうしなかった俺が音側の忍だとダンゾウ様は分かっているのだろう。それで、木ノ葉を裏切ったのかという答えを確信しつつも、確認の意味での質問をした。言い訳を後々にしていく為にも明言を避け、口を閉ざす。
俺は黙って条約の詳細が書かれた巻物をダンゾウ様に投げ渡す。アンダースローで投げた巻物はダンゾウ様の手に収まった。ダンゾウ様は、巻物を広げ、そこに書かれた内容を読んでいく。
「フン。お前の意志は分かった。…この条件が本題ではないだろう?出せ。」
そこまで、解っちゃうか。流石はダンゾウ様だ。
懐からもう一本巻物を出し、ダンゾウ様に同じようにして投げ渡す。それに目を通していくダンゾウ様。
交渉術の基本で、まず、相手に無茶だと思われる要求を見せ、そこから難易度が下がる要求を見せると、相手は一度断った負い目が影響し、二度目の要求を断り辛くなるというテクニックがある。本当に望んでいる要求を二度目にしたら、その要求が通り易くなるという訳だが…。
「無理だな。こちらにとって、大蛇丸の回復を待つこの不可侵条約は不利になる。この不可侵条約を結ぶには相応の対価が必要だ。その対価が非戦闘員の命だけでは足らぬ。木ノ葉は音に資金援助を要求する。」
「そうは言ってもですね、
「あまり我儘を言うな。大蛇丸がいない“音”など“木ノ葉”はいつでも潰せるのだぞ。」
ダンゾウ様め。交渉慣れっていうか恐喝が上手い。
「仕方ないですね。資金は無理ですが、対価を用意しましょう。」
「対価?」
「五代目火影への推薦。」
「…。」
ダンゾウ様が黙る。喰い付いたな。
「火影の座。それを自然な形でダンゾウ様にご用意します。」
「…聞いてやろう。話せ。」
「今回、俺たち“音”は結界で非戦闘員を多数、拘束しています。この結界の解呪方法をダンゾウ様のみにお教えします。」
「なるほど。結界を解くとそれに感謝した拘束された非戦闘員の支持、延いてはその者らに関わりある者の支持を得られるということだな。」
「そういうことです。今までのダンゾウ様のイメージを払拭し、里の者を想うダンゾウ様の姿がアピールできます。どうです、悪い話ではないでしょう?」
「…それだけか?」
まだか?まだ欲しいのか?…イヤしんぼめ!!
「大名にも秘密裏に幻術を掛けます。どうです?」
「そう…。それなのだが、問題は大名だ。先程、火の国の大名と設けた緊急会議で、五代目火影が自来也に決まった。」
「先に言って、それ!ここまでの交渉、丸っきり無駄じゃないッスか!」
「で、“音”はどうする?」
「払いませんよ。つーか、払えません。」
「では、条約は結べんな。」
「いえ、結んで貰います。もし、結んで貰えないのでしたら…ダンゾウ様が三代目を見殺しにしたことを木ノ葉の上層部に伝えます。」
「勝手にせい。ただ、お前の身の安全は保障せんぞ。」
「ついでに、一般の人にも伝えます。」
「…。」
そもそも、木ノ葉の上層部に伝えた所で、里の安定運営を第一とする上層部だ。握りつぶされるがオチ。尤も、上層部でのダンゾウ様の信用は失い、発言力は低下するが。そのため、ダンゾウ様が三代目を見捨てたことを木ノ葉の里全体に伝わるようにする必要がある。
そして、その手段を俺は持っている。
“音”の木ノ葉崩し計画書。
計画をダンゾウ様に流したのは正解だった。交渉の材料にできるなんて、その時は考えてなかったが。
ダンゾウ様が三代目を木ノ葉崩しの計画を知っていた上で見捨てたと、多くの人が知るようになれば、調査をしてその事実を確かめる為にダンゾウ様の自宅、または根の本部を徹底的に捜索するだろう。そして、ダンゾウ様の自宅や根の本部にこの計画書があれば、その時点でダンゾウ様は木ノ葉を裏切っていたと捉えられかねない。
もし、その計画書を処分していたとしても、ダンゾウ様は他にも黒いことをしている。その証拠を全て処分しているということはないハズだ。他里から奪ってきた禁術が書かれた巻物や初代火影の柱間細胞の実験サンプル、そして、何よりも写輪眼。うちは一族をダンゾウ様が切ったという事実に繋がりかねない証拠で、原作でその真相を知っている俺が上手いことを言えば納得できる説明となる。また、事実には至らないでも、死者の眼をくり抜いたというマイナスイメージは絶対に着く。
その為にも、ダンゾウ様は身の回りを捜索されることを避けなくてはならない。もう一押しの言葉をダンゾウ様に掛ける。
「“音”は二番目に提示した不可侵条約で構いません。お願いいたします。」
「…よかろう。上層部にはワシから伝える。明日の朝8時に火影執務室に来い。」
「ありがとうございます。」
勝った…。なんとか、押し通せた。けどなぁ…。
ダンゾウ様の顔を窺うと、今までで一度しか見たことのないマジ切れ顔だった。あの時はちびるかと思ったのが懐かしい。これ以上、怒らせると殺される感じがする。
ホント、今回はダンゾウ様に向かって『負け犬』って挑発しないで良かった。