黒い笑顔を浮かべる大蛇丸様からカブトに視線を移すと、カブトも俺と同じように大蛇丸様を見ているのが目に入った。そこから、再び目線を動かすと、ブチ切れた表情でこちらを見てくる綱手様が目に入る。正直、怖い。
「クク…。いやぁ…あれは酷い死に方だった…。」
シズネが動いた。
袖を引っ張り、腕に取り付けた暗器をこちらに向けると、すばやく糸を引く。けど、俺たちにはカブトがいる。俺たちの前に出たカブトが手甲でシズネから放たれた針を弾き飛ばし、それのいくつかの仕込みを看破するために捉える。
「落ち着きな、シズネ。」
「フー、フー。」
綱手様は怒り心頭のシズネに声を掛け宥めた。と、大蛇丸様の方を向く。
「ハー、大蛇丸。…アンタ、昔からそういう奴だった…。」
「!?」
突然、大蛇丸様に向かって話し始めた綱手様を不審に思ったのか、シズネは振り向き綱手様を見遣る。
「私の性格は良く知ってるでしょ。おちょくるのは止めなよ…。」
そう言って、笑顔を浮かべる綱手様。
…あの笑顔はダメだな。これから、殺る気だ。
綱手様の拳が壁に突き刺さる。いや、突き刺さるという表現は間違っていた。壁を砕き弾けさせるといった方がいい。
「殺すぞ、コラ。」
ガラガラと壁を形作っていた石が崩れていく。それを見て、一言、言わずには居られなかった。
「ハハハ。そんなんだからその歳になって彼氏の一人もいないんスよ。さーません、“その歳になって”じゃなくて“その歳だから”の間違いでした。」
「『言葉を考えて話してくださいよ』って言っている人のセリフじゃないですよね、ヨロイさん!?」
「ついでに言うと、ここ、文化遺産ッスよ。壊しちゃあダメじゃないですかね?」
「アンタが言うの!?口寄せの術で本丸を壊したクセに!」
カブトとシズネが何か言ってくるが、それはそれ、これはこれだ。
「実行犯は俺だけど、俺に命令したのは大蛇丸様。何かあったら、大蛇丸様を差し出せばなんとかなるんじゃないかと思っている。」
「なんともならないわよ!」
「ハァ…。ヨロイさん。本題に移らせてください。」
カブトが呆れた目で見てくる。なんて後輩だ。
後で『便所裏に来い』と言ってやろうと思いつつ、話を先に進めるためカブトに向かって頷く。
「私たちは争いに来たのではありません。アナタと交渉したいだけです。」
「さっきも言ったハズだ。目の前から消えろ。」
「大蛇丸様の腕を治せるのはアナタだけなんです。こちらもタダとは言ってません。取引をしませんか?」
「5つ数える。…その間に消えろ!でなければ、私が消す。」
「落ち着いてください。アナタにとっても多分、悪い条件ではありま…」
「5。」
「…。」
「4。」
「フー。」
「3。」
「…。」
「2。」
カブトめ。“多分”悪い条件じゃないって所、大蛇丸様のことを良く分かってるな。
「1。」
「…お前の愛した弟と男を生き返らせてあげるわ。私の開発した禁術でね。」
「…!」
そよ風がただ流れる。
「私たちがまだ消されていないってことは…交渉成立ってことかしら?」
「…。」
「二人に会いたくないの?綱手…。」
悪魔の囁きに綱手様は顔を上げてしまう。
「…その腕を治したら…お前は何をするつもりだ?」
「私は嘘が嫌いでねェ…。アナタには正直に教えてあげるわ。…欲しいモノを頂くついでに…今度こそ完璧に木ノ葉を潰すのよ。」
まーた、正直に語ってくれちゃって。計画を煮詰めるの、誰だと思ってんスか。
ジト目で大蛇丸様を見つめるが、全く気付いてくれない。悲しい。
そもそも、前回の木ノ葉崩しだって音隠れの忍に指示を下したの俺だし、大蛇丸様は勝手に動いちゃうし。大蛇丸様の性格を原作で知っていなかったら、勝手過ぎる大蛇丸様のせいで、とっくの昔に胃薬が必需品になっていたよ。
「…木ノ葉を潰すだと?」
「…。」
「…お答えは?」
「綱手様!」
シズネが思わず綱手の前に出る。
「ダメです!こんな奴らの口車に乗っては…。弟様や叔父上だって、そんなことは望んでいません!二人の願いを…何より綱手様!アナタの願いを…夢を忘れたんですか!?」
迷っている相手に畳み掛けるように話すのは確かに効果的だけど…。この場合は逆効果になりかねない。口を挟むか。
「私には分かっています!今はこんなでも…。」
「こんな賭博狂いのパチンカスな見た目が風俗嬢な女でも?」
「黙れ、ヨロイ!!綱手様、本当は今でも…。」
「シズネ…黙りな。」
綱手様がシズネを黙らせたのを見て、カブトが口を開く。
「…お答えは今すぐでなくとも結構です。ただし、一週間後には貰いたい。…それと、この禁術には生贄が必要です。それはそちらで二人用意してください。」
「綱手様!!こいつらここで殺りましょう!大蛇丸も弱っています!チャンスです!綱手様と私…二人なら今のこいつらでも…!」
「シーズネ。…本気で言ってる、それ?」
「!」
チャクラを練り、それを体外に放出すると俺を中心として、周りに強い風が吹く。
「“お前一人”で俺に勝てると思ってんの?そもそも、お前のスタイルは後方支援型だろ?こんな前に出てきちゃダメじゃないの?忍なら状況を見ろよ。」
左手の親指を強く噛み、それを綱手様の方に向かって出す。
「!」
俺の指から流れ出た血を見て、綱手様は胸元で揺れていたペンダントをギュッと握り締める。それを見た大蛇丸様が話しを始める。
「確かに私は弱っているわ…。しかし…こちらも綱手の弱点を知ってる。…まだ治ってないのね…。血が怖いのは…。」
「…。」
大蛇丸様は押し黙る綱手様に背を向ける。
「…そろそろ行こうかしら、ヨロイ、カブト。」
俺たちも大蛇丸様に続いて綱手様たちに背を向ける。
「綱手…。色よい返事を期待してるわよ。」
瞬身の術でその場から姿を消す。後に残されたのは混乱に放り込まれた木ノ葉一の医療忍者とその付き人だった。
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「どっちですかねェ…。私たちの条件に首を縦に振るならば、大蛇丸様の腕も治り木ノ葉崩しをすぐにでも再開。綱手様も愛する二人に再会できる。けれど、もし…首を横に振るなら…。」
「力ずくで…腕を治させるしかないわね…。」
「そう簡単にいきますかね?」
「お前たちがいる。…フン。心配は要らないわ。…アイツの事は私が一番良く知ってるわ…。最大の弱点もね。アイツは必ず条件を飲む。必ずね。」
…大蛇丸様ァ。知ってる?それ、フラグって言うんだよ。