ガタンと音がした。それまで座っていたテーブルから綱手様が勢いよく降りた音だ。
「ヨロイ!詳しく説明しろ!」
「まぁ、落ち着いてください。急いては事を仕損ずるってことを、大戦を生き抜いた綱手様はよくお分かりでしょう?」
「ヨロイの言う事も一理ある。少し落ち着け、綱手。」
「チッ!…で、暁のリーダーが雨隠れの里に潜伏している事は本当なのか?」
「本当です。」
舌打ちされた。綱手様、ホントに態度悪いなあ。人に物を訪ねる態度じゃないよ。そうはいっても、俺も注意はできない。この情報を今まで出さなかった対価として受け止めよう。
「だが、雨隠れは出入りする者に入国審査と滞在期間中の監視を徹底する国だ。合同中忍試験の手続きさえ毎回困難を極める程、厳格で閉鎖的な国だ。そんな奴が動き回れるような里じゃない。」
「実はですね、雨隠れの里は随分前から内戦状態だったようです。その時に結成されたのが自治集団である“暁”という組織です。」
「自治組織?」
「ええ、今の暁になる前の組織ですね。今とは目的、そして、組織の構成などが大きく違いますが今の暁の前身となった組織です。その前身の暁と雨隠れの里の折り合いが悪く、内戦に繋がったようです。原因は…噂ではありますが、雨隠れの長である半蔵が勢力を強めていた暁のことを疎ましく思ったということらしいです。」
そう、雨隠れではそう思われている。しかし、事実は小説より奇なり。半蔵と暁が同時に倒れ、木ノ葉にとっていい状況に転ぶように暗躍していた人物がいる。
そう…皆が大好きなダンゾウ様がその黒幕だ。“根”の資料を整理している時に出てきた書類に詳細が書いていた。ダンゾウ様の流石の真っ黒さに戦慄した。この人が全ての黒幕でも俺は驚かないね。
「そういう訳で、怪しい奴は元々雨隠れの忍だったという線が濃厚なんですよ。だから、“暁”のリーダーは内戦状態の雨隠れでも動くことができた、と。」
一旦、言葉を切る。
「後、この目で見ました。」
「この目で…見た?」
自来也様は驚いた様子で俺に尋ねる。自分がいくら調べてもその足取りさえも掴めなかった人物が過去に俺と会っていたという事実を受け止められないのだろう。
「ええ。大蛇丸様が暁に所属していたことは自来也様も知っていますね?」
「ああ。大蛇丸を追っていたら、“暁”に当たったって言った方が正しいがのォ。」
「順を追って説明します。」
人差し指を立てて説明を続ける。
「不屍転生の術を完成させた大蛇丸様は自分に相応しい器を探す為、様々な実力者の情報を集めました。その中でもSランクの犯罪者が集まる“暁”は大蛇丸様にとって魅力的だったのでしょう。自分の器候補がたくさんいる組織、それが“暁”でした。」
中指を立てる。
「暁に接触する為に、大蛇丸様はスパイとして薬師カブトを暁のメンバーであった“赤砂”のサソリの元に送り込みます。そして、カブトを使い、こちらの情報をサソリに流してサソリを誘き寄せる事に成功しました。」
薬指を立てる。
「そして、暁側から勧誘をさせることに成功。その時に来た暁のメンバーがサソリとリーダーと思われる男でした。事実、大蛇丸様の実力を確かめた彼の一存で大蛇丸様の暁の加入が決まったと言っても過言ではありません。暁の中でも古参のメンバーであるサソリよりも上の立場である印象がありました。そして、その額当ては雨隠れの里のマークを横切る様に傷が付けられた物でした。後、ここが一番大切な所なのですが…。」
立てた三本の指を握り、親指を立てて自分の目を示す。
「彼は輪廻眼を持っていました。」
「何!?」
「自来也様、心当たりはありませんか?大蛇丸様の言いようを考えると、自来也様は彼に会っている様ですが。」
「大蛇丸の奴は何と?」
「なんでも、『彼の顔、どこかで見覚えがあると思っていたけど…。フッフ、運命とはおもしろい。そう思うでしょう?…自来也。』とのことです。」
大きく溜息をつく自来也様。
「確かに、心当たりがないことはない。しかし、あの子は内戦で死んだと聞いておってのォ。」
「暁の猛者たちを纏めることのできる人物です。自分の死を偽造する程度の事、造作もないでしょう。」
「…分かった。この件はワシが何とかする。」
「自来也、待て!暁のリーダーだぞ。一人じゃ危険過ぎる!ヨロイの情報を元に奇襲作戦を立てた方がいい。」
「ヨロイの情報は信頼が置けるモノだというのはこれまでの付き合いで分かっているが、今の雨隠れについては調べきれないとワシは見とる。ヨロイ、お前は今の雨隠れについては何か知っておるか?」
「正直、奇襲作戦を立てることができる程の情報はないですね。里の構造や忍の構成等、わからないとことが多いですし、何より暁のリーダーの居場所がわからない。」
「ということだ。まず、ワシが雨隠れに潜入して情報を集める。作戦はそれからだのォ…。」
自来也様の言葉に納得したのか、綱手様は目を伏せる。
「悪いな…。いつも損な役回りを押し付けて。」
「ハハハ!お前らしくないのォ。ドンと構えているのが綱手という人間だろう。それに、火影様にこんな簡単な任務を押し付けたらワシが怒られちまう。お前は安心して待っておれ。すぐに情報を集めてくるからのォ。」
笑う自来也様。綱手様と話しているので少し躊躇したが、それでも声を掛ける。
「あ、そうそう自来也様。これ、
「ん?何だ、これは?」
「ボイスレコーダーです。録音と同時に電波を使用者のチャクラを使って飛ばすことができるので、ほぼ同時にこちらで把握できるようになっています。」
「なるほど。これが持って報告していけば、ワシの帰りを待たずに作戦を立てることができるようになるのォ。ありがたく受け取って置くぞ。」
ボイスレコーダーを自来也様に手渡す。
「それでは、俺はこれで。後は若いお二人に任せましょうかね。若くねェけど。では、また!」
『若くねェけど』って言った瞬間、綱手様のチャクラが荒立ったので飛雷神の術でその場から姿を消した。
四代目の顔岩の上に飛び、木ノ葉隠れの里の“今”の光景を見下ろす。
…この里は変わらないな。だが、これから変わる。“痛み”がこの里に齎すものは“英雄”。“痛み”で里を壊すことはできていた。しかし、壊れないものも確かにある。
「…火の意志、か。」
“英雄”が持つ意志。それこそが、ここに刻まれ、里を見守る五つの顔岩が残した最も偉大なものなのだろう。
里に背を向け、再び飛雷神の術で姿を消した。