遠くの方でダルイが呟く声が聞こえた。
「あんな攻撃をマトモに喰らったんじゃ流石に生きてはいられないよな。」
一応、仲間である俺をさらっと見捨てるダルイ。黒焦げの人体を見たら死んでいると考えるのが普通ではあるが、それでも少しぐらいは心配して欲しいものである。
「シー、他に仲間がいるのか辺りを調べてみろよ。こいつら以外にも出てこられたらだるくてやってらんねー。」
「確かもう一人いたはずだ。しかし、そっちに集中すると戦闘には参加しにくいんだが…。」
「お前はいらねーよ。ボスとオレでやっからさ。」
感知を始めるシーのチャクラが僅かに乱れた。
「…これは?」
流石は雷影の付き人をしているだけはある。俺が生きていることに気付くとは。
「なるほど、そういうことか…。」
どうやって、シーに言葉を伝えようかと考えているとダミ声が響き渡った。
「グハハハハ!ぶっ殺してやらァ!アッハー!」
サスケと水月の一歩前に出た重吾の叫びだ。
「見た目よりもその性格の変わりようが凄いな、コイツ。」
「集中しろ!こいつ、とんでもないチャクラしてやがるぞ!」
ぼやくダルイを諌めるシー。その二人をやり取りも目に入らない様子の雷影が大声を出す。
「フン…図に乗るなアアア!」
速い。
雷遁で身体活性をさせた雷影は一瞬で重吾へと肉薄する。“瞬身”と謳われたシスイ以上の速さを持つ雷影の攻撃は何者にも遮る事はさせず、重吾を壁に突き刺した。
いやー、それにしても…。これは出れない。出るタイミングが掴めない。雷影とサスケの戦いを感知し続けてそう結論付けた。
キューン…ドウという忍者らしくないninjaが発する音を上に聞きながら次の行動をどうしようかと悩む。と、シーのチャクラが乱れた。この乱れようは幻術に掛けられた時になる状態だな。シーはサスケに幻術を掛けられたという所か。シーに続いて重吾のチャクラが急激に弱まった。どうやら、雷影に倒されたらしい。
そして、雷影は重吾からサスケへとターゲットを変更した様だ。サスケのチャクラと雷影のチャクラが接近した。両者が纏う雷と雷はぶつかり合い、周りを巻き込んでいく。石造りの床、そして、壁の一部が丸く削られていく。そして、雷影のチャクラが急激に膨れ上がった次の瞬間、俺の隠れている場所まで響く衝撃が床に走った。雷影のプロレス技、
そして、雷影のチャクラが先程に続いて、また膨れ上がる。雷影に続き、術の準備をするサスケは左目にチャクラを集める。俺に使った天照は練り込むチャクラが少なかったから表面を焼くだけだったが、今、雷影に向かって放とうとしている天照は文字通り焼き尽くすことを目的としているようだ。多くの熱量を持った炎を身に受ければ、侍の様に特殊な装備を付けていない雷影の体は一溜りもないだろう。
…尤も、当たればの話だが。
サスケが天照を発動させると同時に動いた雷影のチャクラは俺の
それは置いときまして…。感知忍術でも捉える事が難しい雷影のスピードに反応できたサスケは流石としか言いようがない。雷影が動いた瞬間、自分が纏っている須佐能乎に揺らめくチャクラを纏わせたサスケ。
「雷影をなめるな!」
雷影のチョップは黒炎を纏った須佐能乎を粉々にし、狙い通りサスケの首元に入る。
チョップによって地面に伏したサスケに向かって雷影は更に攻撃を加えようとその身を宙に躍らせる。
「止めだ!」
左足をサスケの首に向かって降ろす雷影。その雷影の攻撃を、黒炎を以って正面から受けようとするサスケ。
我愛羅だ。
「砂瀑の我愛羅…。」
我愛羅の登場により戦況はリセットされた。サスケが我愛羅に注目しているここだな。
「土遁 心中斬首の術!」
「!?」
サスケの足元に手を伸ばす。手の平にバチッと電流が流れた。思わず掴んでいたサスケの足を離し、地面から飛び出て我愛羅の横に並ぶ。続いて影分身の印を組み、影分身体を雷影と天照を受けた侍の元に向かわせる。封印術である封火法印を使い、黒炎を巻物に封印することで黒炎が燃え広がるのを止めようという訳だ。後は火傷の治療程度で済む為、簡単な医療忍術で治療は完了だ。
それにしても…。
「咄嗟に神立を使って体から放電させるか。やるじゃないか、サスケ。」
「…なぜだ?写輪眼で見切っていたのに、なぜお前は生きている!?」
「少し落ち着け。まるで俺が生きていちゃいけないみたいな言い方じゃないか。」
「天照に麒麟だ。無事なハズがない!」
「無事じゃねェよ。上着を新調しなくちゃならないじゃないか。」
指を立て、左に向ける。サスケも俺の指を追い、俺の左隣の黒焦げになった少し前の俺の体を見遣る。たったそれだけのことでサスケは理解したらしい。
「…大蛇丸式の変わり身の術か。」
「そう。万華鏡写輪眼さえも欺けるというのはお前も知っているな?」
「オレとイタチの戦いを見ていたって訳か。」
「そういう訳だ。」
サスケに喰らわされた天照は咄嗟のことで込めるチャクラが少なかった上、トオレが開発した多機能インナーの耐熱加工により熱量というダメージはあまりなかった。その為、印を結ぶ余裕があり変わり身の術の印を結ぶことができた訳だ。その後に喰らわされた麒麟を変わり身の術でやり過ごし、本体である俺は土遁を使い、身を隠したと同時に写輪眼を持つサスケの死角に隠れていた。チャクラを色で判別する写輪眼は土の中さえもチャクラを見分ける事ができる。サスケの死角、つまり、変わり身の下の地面で息を潜めていた俺は変わり身に残っている俺のチャクラの裏に隠れることで写輪眼の死角を作り出すことに成功した。
とはいえ、正直死ぬかと思った。あんな大技を二発も喰らうなんて経験はできればもう二度としたくないものだ。
「うちはサスケ…。」
小さな声がホールに木霊した。
「お前の目は昔のままだな…。」
「…。」
「万華鏡写輪眼を開眼しているから昔のままじゃないと思うんだけどなァ。」
「そういうことじゃない。」
小さく、しかし、冷たく俺に言い放つ我愛羅。実にクールだ。冷たいって意味で。
「復讐に憑りつかれた目だ。まだ間に合う。帰って来い。」
「フン…。オレが帰ったとして…そっちには何がある?」
我愛羅が口を開く前にカンクロウが口を挟んだ。
「我愛羅、止めとけ。説得できるならナルトは失敗してねーじゃんよ。こいつは今や“暁”にまで落ちた犯罪者だ。お前とは違う。」
「それに雷影や…“暁”にやられた者たちも黙ってはいない。五影会談を襲撃した時点で国際手配される。どの道こいつに未来はない。」
「…サスケ、お前はオレと似ている。この世の闇を歩いてきた者。…だからこそ小さな光明ですら目に届くハズだ。昔も…そして今も…。」
「オレはとっくに目を閉じた…。オレの目的は闇の中にしかない。」
そうだな…。こいつに二つ名を付けるとしたら、『復讐の業火を操りし六芒の眼を持つ者』という所か。我ながら、なかなか良いネーミングセンスだと思う。復讐の業火ってのが天照で六芒の眼ってのが万華鏡写輪眼でサスケにピッタリだと思う。ミナト先生がここにいたら、きっと凄い勢いで頷いてくれただろうに。
しかし、ここにいるのは天照をポコポコ撃ってくるサスケとそれを砂でガードする我愛羅とエトセトラ。俺の考えに賛同してくれるのはサスケぐらいなものか。
我愛羅とサスケのやり取りをボーッと見ていると、ダルイが前に出た。
「協力する!砂の衆!初弾はオレが!続けて畳み掛けをお願いする!」
嵐遁
赤秘技 機々三角。
大鎌いたち。
連弾
遠距離忍術を使うダルイ、カンクロウ、テマリ、我愛羅に続いて俺も起爆札を巻き付けたクナイをサスケに向かって投げ手裏剣影分身の術を使う。
小さな爆発が何度も起こり、それは共鳴を重ね、次第に巨大な爆発となってサスケを飲み込む。爆発の閃光が収まった後、目に見えるのは煙だけだった。
「我愛羅…お前以上の絶対防御だ。」
サスケの声と共に煙の中から紫色の巨人が姿を現す。
「両目の万華鏡を開眼した者だけが手にする力…第三の力…“須佐能乎”だ。」