マダラは俺と同じ紫の眼で俺を睨みつける。
「“忍”などというものに価値を見出す貴様らは滑稽だ。忍は産まれ、そして、死に行く運命を持つ存在。そこに価値はない。……そして、貴様ら五影もだ。そうだな、オレと同じ眼を持つヨロイは後回しにするとして…」
俺から視線を移したマダラの目線が綱手様を貫く。
「…綱手とか言っていたか?まずは貴様を叩く。」
水影様が一歩前に出る。
「小隊の医療忍者をまず叩くのは定石。それを分かっているこっちが簡単にやらせるとお思いで?」
「違う…。」
マダラの表情が微かに動く。
「その女が千手柱間の子孫だからだ。」
「…なっ!?」
常軌を逸したマダラの発言に水影様が固まる。
「お前ごときの医療忍術とやらは死をほんの少し先延ばしにしているに過ぎん。千手柱間と比べれば取るに足らぬ術だ。奴は印を結ぶことすらなく傷を治すことができた。全ての術がケタ違い。人は奴を最強の忍と呼んだ。奴とは命掛けの戦いをしたものだ…。」
昔のことを思い出したのかニヤッとした顔になるマダラ。キモチワルイ。
「こんな遊びではなくな。……それに比べて、柱間の子孫でありながらお前には何がある?木遁も使えず、柱間の足元にも及ばない医療忍術。そして、何よりか弱い女。」
笑顔から一転、マダラは綱手様を蔑むように見下す。
「弱いものは醜い。弱い千手などなおさらだ。」
「ぐちぐちとえらそーに言わせておけば!」
雷影様が激高し、マダラに怒声を叩きつけるが彼はどこ吹く風といった様子で雷影様を無視する。
「私は…」
綱手様の唇が動く。
「…初代火影柱間の子孫だが、確かに木遁は使えない。医療忍術も印を使わぬ初代に比べれば大したことはない。それに私は女だ。…と言ってもか弱い女ってのは違うが…。」
ここで、賛同するように首を縦に振れば、まず間違いなく殴られるだろう。女心とは難しいもの。自分を卑下するような発言をした場合は、すぐさま『そんなことはないよ』とフォローすることが大切だ。アンコをこのテクニックで落とした俺が言うんだから間違いない。
「単純な力などではない…。初代から引き継がれ流れ続けるものが私の本当の力だ…。」
だが、今回は黙っておく。女っていうのは、ってか綱手様は自分の発言を途中で取られるのが嫌いなお人だ。自分は人の発言に『違う!』っていって途切れさせるのに。ちなみに、俺がそう言われた時は修行中だったが、思わず『質問を否定で返すなァー!』って言ったら、頭を殴られて地面にめり込んだことがある。あの時は痛かったなァ…。
横目で綱手様を見遣ると、自信満々の良い顔で綱手様が腕をマダラに見せていた。
「“火の意志”を嘗めるなよ、うちはマダラ!」
「柱間が死んで残したその意志とやらでオレに勝てると?」
マダラは綱手様の覇気を鼻で笑う。
「力とは意志ではなく物質の起こす事象のことだ。」
「それは違います。」
「ヨロイか。何が違う?」
「力というのはその者が持つエネルギー。チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーを混ぜ合わせることで発生させることができるので、ここでいう過去の人間からの意志、又は遺志に対する生きた人間の責任感、焦燥感、危機感が精神エネルギーとなりチャクラの基になります。そういう観点で見た場合、“意志”は力になるのです。で、マダラさん。アナタにも経験がありませんか?怒った時はチャクラが倍増したという経験が。」
「…なるほどな。癪だが認めてやろう。意志は力になることを。しかし、その力でオレに勝てるのか?」
「俺たちの任務は時間稼ぎ。ナルトが仮面の男を倒すか、捜索隊がカブトを拘束して穢土転生を解くかでアナタの野望は終わります。ですが、アナタの物言いでプッツン来た人がいるので、ここからは本気で攻めることにしましょうか。ねぇ、綱手様?」
先ほどのマダラへの攻撃で一瞬だけ解放した綱手様の白毫の術が今度はフルに開放される。
「オレの須佐能乎を壊した時の術か。身体活性の類だが、オレの写輪眼の前には敵わんぞ。」
綱手様がマダラに向かって跳び上がる。
「やってみなければ、分からないだろうが!」
綱手様がマダラに殴りかかるのと同時に俺は術を発動させる。
「一糸灯陣。」
足元から前方にズッと広がった封印の陣がマダラの足元に迫る。が、マダラは軽く上に跳ぶことでそれを躱した。
「須佐能乎。」
「ハァアアア!」
チャクラを込めた拳を突き出す綱手様だったが、その拳はマダラの須佐能乎に阻まれたように見えた。
「何ッ!?」
しかし、綱手様の拳はマダラの須佐能乎を打ち砕き、マダラ本体の体に届いた。
単独の人間が、しかも体術で須佐能乎が破られるとはマダラも想像できなかったのだろう。その顔が驚きに歪む。
すぐさま、マダラは綱手様から距離を取る。
「確かに…か弱い女ではないな。」
あの一瞬のインパクトの瞬間、体をずらすことができるとは…。流石はうちはマダラだ。
「柱間…お前が何を残したのかは知らんが…。この程度、お前には遠く及ばん。どうせ下っ端に引き継がせるなら、オレのように復活のやり方でも教えておくべきだったな。」
地面を向いてブツブツ喋っているマダラ。怖い。
「…お前が死んで残ったのはオレにへばりつく細胞の生命力でしかない。」
「初代火影との幼い日の思い出は?」
「……。弟が死んで残ったのはオレの両目の瞳力しかない。」
「初代火影との楽しかった思い出は?」
「……。引き継がれるものがあるとすれば…。」
「初代火影との秘密のアレコレの思い出は?」
「しつこいぞ!貴様!それに、オレと柱間の間にそのような爛れた関係であったことは一度たりともない!」
「おやおやおやァ?これはどういうことですかねェ?」
マダラが訝し気に俺を見る。
「俺は“秘密のアレコレ”と言っただけで“爛れた関係”のことについては言っていません。忍里を設立する上で表沙汰にできないことを想定していたのですがァ…。マダラさんはどんなことを想像したんですか?爛れたというのは一体何でしょう?僕、わかんなぁい。」
「よし、貴様から殺すことにしよう。」
「天碍震星。」
「は?」
天道の力が戻った俺が呟くと、マダラの頭の上に小さな、だが、人一人殺すには十分な威力を持つ隕石が降ってきた。辺りに響き渡る衝撃、そして、その中心には無傷のマダラが立っていた。
大方、神羅天征で墜ちてきていた隕石を弾き飛ばしたのだろう。そして、引力と斥力の間に挟まれた石は衝撃で砕け散ったという所。そして、その隙を見逃す人じゃない。
「ウオゥリャアアア!」
「!?」
マダラの懐に飛び込んだ綱手様。今度こそ、綱手様の拳はマダラの腹に当たり、その箇所を抉れさせる。
「風影様!封印をお願いします。」
「分かった!砂漠層大葬!」
我愛羅が術を発動させると、マダラの体が砂に包まれる。そして、その砂は三角錐を作り、その表面に付けられた札が封印鎖を繋ぎ、強固な封印術となってマダラを封印する。
いや、封印はできていなかった。
俺の腹に衝撃が走る。口から血を滴らせながら、腹を見ると青く巨大な剣が俺の体を串刺しにしていた。