右手を大きく広げ、マダラに向ける。カチャカチャと軽い音がしながら右手を覆った金属が急速にその形を変えていき、砲の形となったカラクリの先端が光り出す。
「
修羅道の力で口寄せした兵器の銃口から圧縮された光がマダラに向かって迸る。
「写輪眼!」
マダラは目にも止まらぬ速さの光線をギリギリとはいえ躱す。大した奴だ。
俺は両手を上に掲げる。
「天碍震星!」
空からマダラへと小さい隕石がいくつも降り注ぐ。しかし、それがマダラに届くことはなかった。
「八坂ノ勾玉。」
一瞬で小さな須佐能乎を展開したマダラは八坂ノ勾玉で隕石群を迎え撃つ。空にいくつもの光の玉が現れ、花火のように消えていく。
「風遁 気流乱舞!」
手を体の後ろに回し、掌から発生させた風の反作用で体を動かす。マダラにドンドン近づいていく俺の体。スピードは十分だ。手からの術の放出を止め、惰性でマダラに向かいつつ右手を軽く振り、口寄せした黒刀を右手に、そして、体を捻って力を溜める。
マダラまであと3m。しかし、マダラは甘くはなかった。須佐能乎の両手が俺を叩き潰そうと迫る。チャクラ量がもう少ない。チャクラの鎧で受け止める訳にはいかないか。
左手の袖からマーキング付きのクナイを取り出す。手首のスナップのみを使い、マダラの目の前へとクナイを投げるとマダラの表情が変わった。
「飛雷神の術!」
俺の後ろで須佐能乎が虫を潰すように手を合わせる。だが、そこには俺はいない。
「ラァ!」
引き絞った体を開放して黒刀を思い切りマダラに叩きつける。俺の全力の一撃は須佐能乎のチャクラ体に阻まれたが、そのチャクラ体に刀を数cm切り込むことには成功した。
「どうした?そんなものではないだろう?」
須佐能乎の前に降り立った俺に楽しそうな声でマダラは問いかける。
「ハァアアア!」
マダラの問いには何も答えず、黒刀へとチャクラを送り込む。チャクラで高速振動させた黒刀は今度こそ須佐能乎を切り裂き、マダラ本体へと迫る。
「オレを嘗め過ぎだ。同じ術はオレに二度は効かん。」
写輪眼で見切ったのだろう。マダラは黒刀の斬撃をしゃがむことで軽々と避け、俺の腹に蹴りを放つ。
「うぐッ!かはッ!」
マダラの蹴りは俺のみぞおちに入り呼吸を止まらせた。思わず、痛みで黒刀を地面に落とす。
むっちゃ痛いが…。
「…捕まえた。」
マダラの右足を両手で掴む。
右足の蹴りを俺の腹に乗せたままの無様な恰好でマダラが驚いた表情を俺に向ける。チャクラさえあれば、ここで影分身をしていて千年殺しを喰らわせたかったが、ないものねだりをしても意味はない。
「チャクラの吸着性質を使ったのか。道理で離れんハズだ。そして、チャクラを吸収しているな?」
俺の特殊体質のチャクラの吸収能力は25秒相手に手を触れていれば命を、そうでなくとも、5秒触れていれば意識を失うというのにマダラは余裕を見せている。
穢土転生体にチャクラ吸引をすると、相手はチャクラを上手く練れず術を発動できない上に体も倦怠感を覚えることは生体と変わらない。そして、抵抗は俺が手心を加えない限りはできない。また、穢土転生体がチャクラを回復するタイミングは自分の行動が完全に止まった時のみ。RPGで言えば、自分の順番が来たら毎ターン完全回復というのが一番近い。つまり、俺に術を掛けられ続けられているこの状況ではチャクラは回復せずに行動不能に陥るというのに…。時間はもうないのにも関わらず、この余裕。一体、何を企んでいる?
「もういいだろう。」
「これはッ!」
チャクラが吸収できない。そのようなことが今までになかっただけに体が固まる。
と、顔に影が差した。
「!?」
右側頭部から左側頭部へと走る衝撃。地面へと身を叩きつけられながら、感知忍術の警戒網を広げる。チャクラ感知で宙を舞ったマダラを見つけた。空中で体を回転させているマダラを見て分かった。俺の腹にくっついている右足を軸に左足で俺の頭を足蹴にしたのか。それも、ありえないことで固まっていた俺の隙をついて…。
優雅に地面に降り立つマダラはその眼を俺に向ける。
「輪廻眼。…そうか、餓鬼道でチャクラを吸収しかえして俺のチャクラ吸引を無効化したか。」
これは流石に予想外だった。様々な方法で輪廻眼の検証をしてきたが穴があったとは。我ながら呆れる。
掌を地面に押し付けて立ち上がる。多少とはいえ、マダラから吸収したチャクラがある。もう少し戦闘は続行できるな。
「まだ、踊れるな?」
「ブレイクダンスぐらいなら踊れるな。アンタみたいな時代錯誤の過去の遺産にゃ、ブレイクダンスとか分かんねェとは思うけど。」
「フン…。」
再び須佐能乎を作り出すマダラ。後は奴をここに誘導するだけだが、上手くいくか…。
袖から取り出したマーキング付きのクナイを足元に突き刺す。
そして、身を屈め走り出す。チャクラを足へと送り込むと、耳元を風が切る音と服が風に煽られる音が大きくなった。マダラの元に一気に近づく。
近づく俺の姿を見て、マダラの足が動いた。キンッという金属音が聞こえる。マダラが足元にある黒刀を蹴り上げる音だ。マダラは俺の黒刀を手に持ち、そのまま俺の体へと刀を差し込む。
「なるほど。オレも少し感が鈍ったな…解!」
後ろへと体を回し、マダラの背後へと回っていた俺に向かってマダラは刀を振り切る。腹を引っ込めたことで事なきを得たが、その太刀筋は一流。少しでも気を抜いていたら腹を掻っ捌かれていた。
俺が上手く避けたことを見たマダラは、すばやくその場から飛び退き、黒刀を俺に放る。もちろん刃先を俺に向けてという殺す気がマンマンな投擲方法で、だ。首を捻って黒刀を躱し、瞬身の術で地面に着地したマダラへ再び攻撃を仕掛ける。拳を握りしめ、コンパクト且つチャクラを十分に込めた打撃を繰り出す。だが、またもや俺の攻撃は須佐能乎に阻まれた。
「巧妙な罠だ。蛇の塊を変わり身にし、オレの背後に回り込むとは。しかも、オレが刀を突き刺した時の衝撃でオレに幻術を掛け、変わり身の術と気が付けなくさせる。そして、本体のお前に気を取られている間に蛇たちに襲わせる腹積もりだったか。」
ちっ…ばれてやがる。
幻術と口寄せを複合した変わり身の術はポピュラーではある。原作ではイタチが好んで使う術で、彼以外にも弟のサスケもイタチの烏とは違い蛇での使用もしている。原作ではこの二人が多く使っていたが、実は多くの忍が使っている術だ。通常の変わり身の術と違う点は、まず変わり身で相手の虚を付ける上に、相手が変わり身に気が付いたとしても、変わり身に使った口寄せ生物からも攻撃を加えることができるという二段構えとなっている使い勝手のいい術だ。そういう普及するほどに効果は高い術だというのにマダラには効かないときた。
「さて、次はオレの番だな。」
須佐能乎の中で印を組んでいくマダラ。その姿を認め、俺も印を組み上げる。
「火遁 豪火球の術!」
「水遁 水陣柱!」
目の前に水柱が上がり、マダラが吐き出した火を一瞬で消火する。地面から吹き出た水を利用して術を発動させる。
「水分身の術!」
六体の水分身が水柱から産み出て、マダラへと殺到する。上から三体、そして、下から三体の水分身が須佐能乎に向かって思い思いに攻撃を繰り出すが、本体の1/10の出力である水分身では須佐能乎を破ることはできなかった。
だが、本体の俺をマダラの目から隠すということには成功した。本体である俺はその身を地面深く、マダラの死角へと隠しつつ人間道の気配遮断でチャクラ感知もできなくさせる。土遁 土竜隠れの術で地面を自由に移動しマダラの足元、つまり、須佐能乎の内側からマダラの足に手を触れる。
「なっ!?」
「飛雷神の術!」
先ほど突き刺したクナイの元へマダラと共に飛びながら体勢を変える。下から上へと向かって両手を上げてマダラの両手を捕まえる。指を絡め、二人で一つの印を組み上げるとマダラの顔つきが変わった。
「術者と共に印を組む術だと?…そうか!心中忍術。だが、それではお前も死ぬことになるぞ。」
「死ぬ覚悟なら“忍になった時”にできている。」
脳裏に浮かんだのはシスイに抱えられたエノキの顔。あの時、薄くぼんやりとしていた“死”が本当の意味で分かった。そして、死に直面しながらも誰かを守るためにその身を投げ出す“覚悟”をも。
そして、あの時の経験が俺を職業名ではない意味で“忍”にした瞬間だったのだと思う。
「忍法 双蛇相殺の術。」
俺たち二人の周りを巨大な蛇がまぐわうようにその体を絡めていく。
「捨て身でオレを殺し、そして、死んだ時の隙を五影に突かせる、か。……見事だ、赤銅ヨロイ。」
蛇たちが包む暗闇の中で俺が最期に聞いた言葉はマダラの称賛だった。