なんか忍者拾った   作:heartz

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二話

卵という物は生殖細胞の事を指すらしい。すなわち、未受精の卵子、又は受精し胚発生が進行した状態で体外へ出された物の総称。

普段食べている物は食用であり、大体が鶏卵を総じて卵という事が多い。俺もそのうちの一人。

卵料理は様々であり、簡単な物では目玉焼きや卵焼き、スクランブルエッグなど焼き方一つで変化するそれは、まるで人の道の様で。

その不可逆性は人生を表しているのだと俺は思う。殻に閉じこもるだけじゃ何も見えて来ず、人の生は十人十色。目玉焼きの人生もあれば、スクランブルエッグの人生もあるのだ。

昨夜の料理に使った卵は黄身が二つ。割らなければ分からなかったそれは、何が起こるか分からない未来の様で。

まさに今とても痛感している事だった。そして、新しい事だった。

 

「私は白身。あなたを包むわ」

 

「........いいかげん普通に起こして下さい」

 

今日の寝巻は黄色ベースのジャージだった。

 

 

 

 

其の一

 

 

 

 

「お前のせいで卵が焼きづらいんだが」

 

「それって私の事傷つけたくないって事!?」

 

うわー、うざい

 

「うわー、うざい」

 

「酷いです!」

 

おっと心の声が漏れてしまったようだ。

全くもってそのようなことではない。ただ、単純に雄雌の営みによって生まれてきた鶏卵なのだと再認識しただけの事。

 

「ほら、今日の朝はスクランブルエッグだ。胡椒を出してくれ」

 

「あいあいさー!」

 

家の忍者は今日も元気すぎる。

 

 

*

 

 

鹿女夜桜は忍者だ。

前にも話したようにそれは事実の様で。じゃあ一日何をしている事言えば『何もしていない』のである。

継続は力也と言うように、人間は復習をしないと忘れる物だ。

例えば勉強。先週習った事は今週には忘れている。例えばスポーツ。基礎を繰り返し練習しないと強くはなれない。

数え上げればきりがないが、夜桜の場合、それは忍術。

忍術も技術だ。復習しなければ出来なくなるも同然。今まで怠惰に暮らしていた付けが回って来たのか、久々に練習させてみたら目も当てられない状況だった。

 

「.........」

 

「た、助けてもらえませんか?」

 

何をどうしたら自分が天井から吊らしたロープに絡まり、あまつさえ亀甲縛りに縛られるのだろうか。

全くもって意味が分からないどころか論外である。

 

「........」

 

「あ、ありがとうございます。やっぱり優しいですね幸太は」

 

夜桜が何を言っているか全く聞こえない。

俺は白目をむきながらロープを解いていた。

少しデジャビュを感じる。

 

「お恥ずかしい所を見せてしまいました.........」

 

「恥ずかしいも何も、お前は四六時中あんなんだぞ」

 

「はうっ!」

 

T.K.O。うつぶせに倒れた夜桜はブツブツ何かを唱えながら膝を抱えた。

どうやらいじけている様だった。

そんなに気にすることではない。確かに出来はしなかったがまた練習すれば出来るようになるのだから。

努力は報われる、などと言うつもりはないが結果は確かに変わっていく。それをどう受け止めるか。

結局のところ自己満足なのだ。

 

そのようなことを言ったところ。

 

「........元々忍術の才能がないのですよ。私は幼少の頃から両親に教えられてきました。だけど、一つの忍術を覚えるのにも通常の倍以上は時間がかかってしまう。そんな私が今更何をしても........」

 

「その辺にしとけよ」

 

「え?」

 

「俺はお前の暗いところを見たくて、忍術の練習風景が見たいなんて言ったわけじゃない。俺はお前の明るい顔が見たくてそうお願いしたんだ」

 

鹿女夜桜に影は似合わない。そんなことを言ってしまうと忍者自体を否定してしまうので言わないが、彼女には日だまりが似合う。

その太陽のような明るさに助けられてきた俺が言うのだ。間違いはない。

 

 

*

 

 

「ってことが昨日あってさ」

 

「あれ!?今の回想だったの!」

 

「ん?どうした?」

 

「い、いや何でもない」

 

今日も今日とて学校へ。

月曜日の昼休み。男2人が机をくっつけて飯を食うなどと全く絵にならない状況の中、昨日あったことを友人兼愚痴り相手である坂木龍田に話をしていた。というか相談していた。

 

「でも結局あいつ暗いままでさ、久々に今朝は普通に起きたよ」

 

「いつもどんな起こされ方してんだよお前」

 

「........それは教えられん」

 

弁当を一足早く食べ終わった龍田が弁当箱をしまいながら溜息を一つ。

 

「ま、鹿女ちゃんのことだしお前からプレゼントでも貰ったら喜ぶんじゃねえの」

 

「そういってもな、特別な日でも何でもないのにか?」

 

「いつものお礼とか言って渡せばいいんじゃないか?」

 

「俺はいつもお世話をしている方なのだが」

 

ごもっともである。

 

「それでもお前、鹿女ちゃんがいて良かっただろ?」

 

「........」

 

「それがお前の答えだよ」

 

そう言って笑いながら席を立つ。財布を持っているところから自販機で飲み物を買うようだ。

俺はまだ、冷たい白米を箸でつついていた。

 

 

 

 

其の二

 

 

 

 

(プレゼントねえ)

 

放課後。龍田の助言を聞きショッピングモールに来ていた。

金の心配はあまりない。だからと言って高い物、それこそアクセサリーなどを買った所で夜桜が喜ぶとは思えない。

根っからの『花より団子』なのだから。

 

(何買うか........)

 

一応鈴峰にも意見を聞いてみたのだが。

 

「(なにか手作り料理を振る舞うとか?それより私と放課後デートでも........)」

 

(なにも参考にならなかったんだよなあ.........)

 

常日頃からしている事をプレゼントと言われても困るだろう。

ただまあ、あいつなら喜びそうなもんだが。

 

「まいったな.......本当にどうしよ」

 

首を捻りながら歩いていると、ふと、1つの看板が目に入る。

 

(これだ!)

 

何かの啓示を得たかのように走りだす。

ただ一人の親愛なるものへ――――。

 

その看板には『相手との一時を』そう書かれていた。

 

 

*

 

 

『バンッ!』と大きな音をたて、扉を開ける。

そこには汗だくになった卯花幸太が立っていた。

 

「お、おかえりなさい。どうしたんですか?そんなに汗だくになって」

 

扉の音に驚いて奥から夜桜が顔を出す。その顔には少しの驚きが見え隠れしていた。

 

「はあ.......はあ......。出かけるぞ!」

 

「はい?今帰って来たばかりなのにですか?」

 

「いいから!ほら」

 

「あ、ちょ........!」

 

玄関にかばんを放り、夜桜の腕をつかみ外へ連れ出す。

靴は履いたままだった。

 

普段ならば絶対にしない乱雑な行為に夜桜は疑問を抱かずには居られなかった。

無駄に几帳面な彼がかばんを放り、靴を履いたまま家に上がる。夜桜が同じ行動をとった場合必ず彼は怒るだろう。

そのような事に気が回らないくらい急な事なのか。はたまた、彼の周りで何かが起きたのか。

 

「あの、何処へ行くのですか?」

 

「敬語は禁止だ」

 

「え?」

 

「お前、基本敬語だよな。朝は寝ぼけてるかは知らないが割と素なのによ」

 

「え!嘘!?」

 

「ほら、そんな感じ」

 

笑いながら言う彼は、どうしてか、夕日と相まってとても綺麗だった。

 

「俺は、俺達の事を知らない。お前がなんで俺の家に来たのか。俺が何でお前にこんな惹かれるのか。俺達は俺達の事をあまりにも知らなさすぎる」

 

「た、確かに。もう一ヶ月にもなりま......なるけど、あまり幸太の事は知らない」

 

「だろ?俺もお前の事をあまり知らない。だから連れ出した」

 

たどり着いたのは小さな公園。誰もいない、何も音がしない、静かな遊び場。

 

「........こんな所に公園なんてあったんだね。初めて知ったよ」

 

「ああ。昔は良くここで遊んでたよ」

 

「遊具も無いのにですか?」

 

「ああ。親父とよくここでキャッチボールなんかしてた」

 

「そういえば、幸太の両親は..........」

 

そう。二人で暮らすには少々広い家。年齢だけで言えば高校生の二人が暮らしているのは明らかにおかしいだろう。

普通に考えれば家主である幸太の両親がいるはずなのだ。

だが、いない。

最初に気にはなっていたものの聞いてはダメな物だと割り切り、意識の外に追いやっていた。

ついに聞くその質問。人によってはタブーとされる。

トラウマを呼び起こすトリガーと成りえるそれを、彼は一言で一蹴した。

 

「ん?ああ。両親は今九州の方だよ」

 

「へ?」

 

ぽかんとする彼女。それもしょうがない話だ。

何せ彼女は幸太の両親は死んだものだと思っていたからだ。

ぽかんとするの頷ける。

 

「いや、親父の転勤先が九州でさ。俺の両親仲良しというか良すぎるんだけど、その親父に母さんが付いて行ったんだ」

 

「あ、あーそういう」

 

別段、何も重い話では無かった。良かったと安堵する所か、拍子抜けだとがっかりする所か。

まあ、前者であろう。

というか、家族写真を一枚も飾っていなかったのだ。トラウマだと悟るのは容易である。

 

「高校生の息子を一人置いていくか?普通」

 

「それだけ信頼していると云う事では?」

 

「まあそれならそれでいいんだがよ」

 

やれやれと首を振る。本当に呆れているようだ。

 

「今度はお前の事を教えてくれよ」

 

「そうだね..........。じゃあまずは君の事をどう思っているか」

 

「いや、それは良いです」

 

 

二人は暗くなるまで公園から離れなかった。

 

相手の人生を知るという事は自分の人生を変えることだ。

相手の生き方を知り、自分の生き方を客観視して。

それでも納得が出来ないならば味付けを変えればいい。

そうすれば同じ生き方でも全く違う視点が見えてくる。

だから。

 

「目玉焼きは絶対ソースだよ!」

 

「胡椒だろ」

 

こんなことで喧嘩をしてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 




さっさとくっつけたかった。

悪気はないんだ。

どうしてこうなったんだろうか。

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