陽だまり色センチメンタル   作:征人

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センのお願い

「最近、団長さんと一緒に寝ているんです」

 

 突然の爆弾発言を耳にして、目の前で座っていたジータは飲みかけのお茶を盛大にぶちまけた。

 会話の中で唐突に発せられたカミングアウトはその場にいた全員の耳にも届いたらしく、センの発言で食堂が一瞬だけ凍りついたかと思えば、今度は異色に満ちた喧騒があたり一面に巻き起こった。

 

 ある者は「ふ、不潔です! 秩序の乱れです! 是正の余地ありです!」と怒りで顔を真っ赤にし、またある者は「団長……ついにネエチャンの色を知ったか……」と哀愁のある顔でしみじみ語り「センちゃんずるーい! お姉さんもグランちゃんと寝たーい!」などとふくれっ面で不満を漏らしたりする者もいて。

 しまいには「一緒に寝る……これを騎士様たちのイメージに当てはめれば……当てはめ、はめ――カッハァァッ!? あああダメです駄目ですエッチすぎますぅううううううううぁああああ!!」と極めて邪悪な思考に走らせる輩までいる。

 

 大きく咳込んだジータを心配して、さきほどまでもくもくと食事を進めていたセンはエルーンの耳をふわふわ揺らしながら慌てて立ち上がった。

 

「だっ、大丈夫ですか。ジータさん」

 

「だ、大丈夫。そ、それよりも。だんちょー……グランと一緒に寝てるって……」

 

「――つまりそれ、同衾よねぇ?」

 

「えっ? ――ひゃっ!?」

 

 背後からするりと手を回され、センが小さな悲鳴を上げた。

 何事かと慌てて頭上を見上げると、そこには彼女を抱きしめながらニヤニヤと笑うメーテラの姿があった。

 その様子を見て、ジータが渋い顔に一転する。これはよからぬ質問をする前の顔だ。大抵メーテラがこんな顔をする時に限って、いつの間にやら下世話な話題になっていることが多い。

 

 食堂中のすべての団員たちの疑問を払拭するために現れた厄介な輩は、センの頭に顎を乗せて笑みを崩さずにこう言う。

 

「で。団長と一緒に寝て、どうだったの? 最近ってことは結構頻繁に寝てるってことよねぇ~?」

 

 指先でセンの首元をくすぐりながら、やたらと煽情的な声色で訊ねてくる。

 「く、くすぐったいですよ~」ともじもじしながらもセンは、問いかけられた質問に対して

 

「どう、ですか? うーん、えっとですねー……」

 

 グランと一緒に過ごしたであろう過去を振り返る。

 その様子を鮮明に、はっきりと形どって思い出したセンは一言、

 

「……えへへ。すごく、気持ちよかったです」

 

 きらりと八重歯を見せながら、そうはにかんだ。

 その様子がまんざらでもない表情だったので、固唾を飲んでセンの言葉を待っていた食堂中に新たな騒然が叩きつけられた。

 なかには団員同士の憩いの場だというのに、なぜか手元にあった武器の手入れを始める者たちもいたが――その憎悪の矛先は彼女ではなく自室にいるグランへと向けられている。

 この場にグランがいなかったことは唯一の救いだが、私刑の執行される猶予がただ伸びただけなのは変わりない。近い未来グランは無残な死体となってグランサイファーの飛行甲板で発見されるだろう。

 女性団員たちの黄色い声が上がる半面で、おどろおどろしい妄執の嫉妬が渦巻くそこは文字通りの混沌(カオス)な空間に変貌していた。

 

 そんな感情たちが色とりどりに飛び交う異質な場で、質問をしたメーテラはよりいっそうの黄色い声を上げた。

 それはそれは楽しそうに、素直なセンをぎゅっと抱きしめる。

 

「やーん! センってばダイターン♪ うちの妹にもそんくらいの異性ネタが欲しいわー!」

 

「だ、大胆、でしょうか? ……あっ、そうだ。それなら今度はみなさんも一緒に寝ませんか? きっと一緒に寝たほうがもっと気持ちいいと思うんですよ。こないだもゆぐゆぐさんと一緒に寝ましたけど、その時も気持ちよかったです~」

 

「うぇっ!? センってそっちもイケちゃう系!? っていうかまさかの同衾共枕!? 流石にそれはまずいわよ! 秩序の騎空団に制裁されるわよこの艇!」

 

 予想外のカウンターにメーテラが大げさに言葉を返す。当人としては雑魚寝の意味合いで言ったのだが、既に伝えたい言葉はあらぬ方向に曲解されて周囲に伝聞している。ざわめく周囲の原因が自分にあるとはさも知らず、センは聞きなれない用語に首を傾げ、ぽかんとした顔でメーテラを眺めていた。

 

 失言に失言を重ねた状況に食堂中の負のボルテージが最高潮にまで達し、その中で一人、ようやく落ち着きを取り戻したジータはと言えば、聡明な頭脳で事態を把握し、グランの身を案じていた――

 

「(グラン……大丈夫……大丈夫だからね。

 

 あなたの亡骸は、きちんとザンクティンゼルに返してあげるからね――!)」

 

 ――わけではなく。

 

 即座にカオスルーダーにジョブチェンジして、食堂内で武装をした団員たちを鼓舞し、グランに反旗を翻すのだった――。

 

 

 

 話は数日前に戻る。

 

 

 

「――そこです!」

 

 研磨された巨大な爪が、唐突に地面から隆起した岩に向けて俊敏に振り下ろされる。攻撃に特化した大爪の一撃を受けて、奇襲を繰り出したはずの岩石は瞬く間に粉砕された。周囲に散っていくその様子を見て一先ずの不意打ちは回避出来たが、それでも油断はできない。強者はいつでも相手の慢心を突いて勝機を生み出す。よそ見でもしようものなら、気が付かぬうちに地に叩き伏せられてしまうだろう。

 

 そんな強敵と相対しているが故に、センはいつもの温和そうな顔を強張らせて次の一手を待った。

 

 隠す気など微塵もない「それ」の闘志は、間近に感じていた彼女の身体をぞくりと総毛立たせ。

 身震いするほどの威圧感はこの大地に芽吹く植物たちを支配する。

 戦慄きとざわめきが不快な音楽として奏でられるその最中に混じって――殺気を感じた。

 それをセンは敏感に反応する。その速度は上々。ほんの僅かな気配を感知したことに喜びを感じつつも、気を取り直して集中。次は周囲一帯に広がる森林からの攻撃だった。

 

 めきめきと力強く成長していく蔦たちを我が子のように従わせながら、それらがセンに向けて次々と襲い掛かる。迎撃しようと爪を構えた彼女だったが、拘束しようとしてくる翠緑の蔦は鋼のような強度を持っていることを知っていたので、慌てた様子で退避行動を取った。

 巻きつこうとしてくる蔦たちをあしらいながら、攻撃を仕掛けてくる本体に彼女は目をやる。

 

 センの瞳に映る巨大な影は星晶獣ユグドラシル。無垢の賜物のような相貌からは想像ができないほどの苛烈な攻撃を繰り出す、ルーマシー群島の守護者だ。本来は穏やかで戦いを好まない性格なのだが、かつて幾度となく人々の手によって利用され操られてきた過去を持つ。グランたち一行の前に望まぬ敵として現れ、その度に深い傷を負い、ロゼッタの苦悩を生み出していた。

 

 そして何度も交戦を繰り返して、彼女はグランが率いる騎空団にその身を置くことになった。

 違わぬ凄惨な過去に苛まれつつも、その心は厄災に挫けることのなくいつまでも大地に残る大樹のようで。

 真っ直ぐに突き進むグランたちにあてられ、純朴な顔で空を眺め、空に発った――そのはずだった。

 追随してくる自然の力は確かにユグドラシルから発せられて、それは仲間であるセンに向けられている。 多くを語らず黙々とその指令を放つ彼女の真意はいざ知らず。しかしその攻撃を甘んじて受けるほど、センも受け身の性格ではない。

 

 おぼつかない足取りで体勢を整えたかと思えば、軽やかなステップを踏みつつも安全域まで距離を取り、高強度の蔦の射程外までその身を離して呼吸を整える。浅く、深く、心拍数と共和した呼吸を重ねて身体に漲る力の奔流を脚部に集中、上体の膂力を抜き、旋風を彷彿とする風の属性力を高めながら――センは疾駆の如く駆けだした。

 

「絶爪――いきますっ!」

 

 その言葉を最後に、小さく身を屈めてセンは加速した。

 さながらそれは疾風迅雷。うっすらと残影をその場に描きながらも超速度で移動する。

 そんなセンを見てユグドラシルも迎撃の岩盤隆起を放つが、彼女は予め知っていたかのようにその一撃を回避、地面から隆起した岩を足場にして、標的の位置を把握したのち――まるで砲弾のような勢いで跳躍した。

 思わぬ接近を許しそうになったユグドラシルだが、岩石の連撃はまだ続いている。剣山のような鋭さを持つ岩石の波状攻撃を駆使して彼女の行動を妨害するが、センはその妨害すらも好機に変えた。

 自身に襲いかかる石塊を大爪で抉り、尖った部分を削いで更なる足場を形成する。空中でも襲い掛かる岩はもはやセンが目標に辿り着くためのサポートでしかない。その事実に気付くのが寸遅かったユグドラシルは、次なる一手を見舞うために行動を起こそうとするが――それも時既に遅く。

 

 気づけば、相手からの攻撃が届く範囲にまで侵入を許してしまっていた。

 

「はっ!」

 

 一歩間違えれば、岩石が直撃して致命傷もありえるような回避の仕方だが。

 

「やっ!」

 

 それでも、センは余裕の表情でユグドラシルの攻撃を躱す。

 山々で育ち、生まれ持っていた天賦の才能をその努力で更に飛躍させながら。

 

「とぅっ!」

 

 死の恐怖を全く感じさせることなく、彼女は楽しげに、踊るかのように空を駆ける。

 空の世界を、自由な世界をただひたすら、無邪気なままの心で楽しむように――。

 

 ルーマシーの黒き森に差し込む日照がセンの装備する大爪を鈍く光らせ、それは一種の目くらましとなった。

 その隙を彼女は逃さない。反射した陽光で視界を奪われ、動きが緩慢になったユグドラシルの油断をつき、抜いていたはずの上体に血液を促し、直後、背筋を凍らせるほどの殺気を至近距離で放った。

 それにユグドラシルはびくりと気圧され、その硬直が攻撃の手を止めてしまう。

 

 狙うには絶好の機会。終わらせるには十分の時間。

 獲物を狩るために精通したベア・クローが、喉元を食い破らんが如く空を切り裂く。

 

 「これで終わらせます!! 百爪――」

 

 センの必殺の一撃がユグドラシルに放たれようとした刹那で、互いの瞳が交差する。

 心の奥底まで貫くようなユグドラシルの眼にセンの大きな姿はどう映っただろうか。

 そして物言わぬ巨樹の化身を、その強烈な存在感をセンはどう思っただろうか。

 しかし、その互いの思考は訪れるであろう未来に非情にも打ち砕かれた。

 

 ユグドラシルが、先にその瞳を逸らしたのだ。

 ぎゅっと瞳を瞑ってセンの攻撃を耐えようとするユグドラシルにはもう、戦意の欠片もない。

 その様子を目にして、センはニッと笑うと――

 

 「――着地、です」

 

 小さく身を丸めて、くるくると空中で回転した後、彼女はユグドラシルの肩にふわりと足を落とした。

 無事に目的の場所まで到達したのを確認して、センはわあっと喜びを露にする。いつまでも攻撃が来ないことを知り、恐る恐る瞳を開けたユグドラシルが目にしたのは、自分の肩で大きく万歳をするセンの姿だった。

 

「やりました~! ゆぐゆぐさんの肩に到着です~!」

 

 巨大化したユグドラシルの肩にちょこんと座ったセンが、切り株に座っていたグランに向けて大きく手を振る。首元にすり寄ってくるセンの動きがくすぐったかったのか、ユグドラシルはもじもじとしながらも笑っていた。

 そんな姿を傍らで眺めていた団長ことグランは、顎に手を当てて感嘆の声を上げていた。

 

「やれやれ……まさか本当に攻撃をすり抜けて肩に乗るとはなぁ」

 

 ユグドラシルの力を借りて模擬訓練を行ったのはいいものの、誰の補助を受けることもなく指定した場所に辿り着くとは思わなかった。「自分の力を試してみたい」とセンに切願されて行った今回の訓練だが、危険そうなら直ぐにでもグランが援護に入る予定だった。しかしその心配は全くの杞憂のようで。ハラハラと眺めていたこちらがばかばかしく思えるほどの爽やかな笑顔を見せて、センはにこやかに手を振り続けていた。

 

 そうしてユグドラシルの手に乗って大地に着いた後、センはぴょんっと地面に下りてそのまま――

 

「団長さ~ん!」

 

 傍にいたグランに勢いよく抱きついた。猫のように思い切り飛びかかってくるものだからそのまま地面に倒れ込みそうになるものの、下腿にぐっと力を入れて耐える。とにかく耐える。ふわふわ揺れる灰色の髪が顔に触れるたびにくすぐったくて思わず緩みそうになるが意地でも耐える。

 

「わわっ!? ちょ、ちょっとセン!?」

 

「えへへー……団長さんっ。わたし、やりましたよ~!」

 

「わ、わかった! わかったからちょっと離れてくれないかー!?」

 

 ばたばたとグランが引き剥がそうとしても、よほど嬉しかったのか一向にしがみ付いて離れようとしない。

 年頃の女性らしいふくらみが確かにセンから感じられて、それを実感する度にグランの顔が赤く染まりそうになる。けれども無邪気な彼女にそんな劣情を抱いているなんて思わせたくない。

 そんな思春期真っ只中の団長がほとほととセンの扱いに困り果てていたら――そんな彼と同じように、自分の存在をすっかり忘れられたユグドラシルがおろおろと二人の様子を見つめていた。

 グランはそれを好機ととらえた。

 

「ゆ、ユグドラシルー! もう戻ってもいいよー!」

 

 センの意識をユグドラシルに誘導させよう。そうすればきっと離れてくれるはずだ。

 そう考えたグランの目論み通り、センはグランからパッと離れて「ゆぐゆぐさーん!」と大きく手を振った。意識が自分から逸れて安堵するグラン。そしてようやく自分のことに触れてもらえたユグドラシルは、嬉々とした様子で二人と同じくらいのサイズに身を縮め始めた。グランとセンの前に降り立った彼女は、口角を上げて微笑んだ。

 

「ユグドラシル、ありがとうな」

 

「ありがとうございます、ゆぐゆぐさん。それからごめんなさい。怖がらせてしまって」

 

「――――♪(ふるふる)」

 

 「心配いらない」と言わんばかりにユグドラシルが破顔して首を振る。実際に傷つけるとは思っていなかったにせよ、怖がらせてしまったのも事実。少しばつの悪そうな顔でユグドラシルの顔を覗き込んでいたセンだったが、問題のない彼女の様子にほっと胸をなでおろした。

 

「……さて。これで模擬訓練も問題なく終わりました。それじゃ、えっと、その、団長さん」

 

「うん? ……あ、そうか。そういや、そうだったな」

 

 こっちに振り向いてもじもじとするセンにグランは思い出す。今回、ユグドラシルの肩に乗ることが出来たら、言うことを三つ、出来る範囲内で聞いてあげると口約束していたのを。まさか本当にそれをやってのけるとは思っていなかったので、全くというか、グラン自身は何も準備をしていない。さてどうしたものかとグランは思案するも、センのことだから他の団員みたいに無茶な要求はしてこないだろうと考えた。

 事実それは的中する。お願いを事前に考えていたのか、センは開口一番にこう言ってきた。

 

「えっと、それじゃ最初のお願いです。あの……わたしの髪、撫でてもらえませんか?」

 

 ほんの少し恥ずかしそうに、おずおずとセンは頭を下げる。けれどもエルーンの耳はどうにも正直らしく、意思をもってピコピコとせがむ様に動き続けている。そんな彼女の様子にグランは苦笑した。一体何が出てくるのかと思えば、それは欲のないセンらしい要求だった。いいよ、と一言だけ告げてセンの灰色がかかった銀髪を優しく撫でた。指間からくすぐるセンの髪はさらさらしていて気持ちよく、まるで絹織物のような肌心地を感じさせる。野生児然とした彼女の行動とは裏腹に、きめ細かに整えられた身だしなみはさすがは女の子といったところか。ふわふわ揺れる髪の毛に連動するかのよう、センの耳が喜びを訴えるかのように細かく動いた。

 

「……えへへっ」

 

 にへへ、と気持ちよさそうにセンの顔が綻ぶ。もうそろそろ良いだろうかな。とグランが撫でていた手をふっと上にあげると、センが名残惜しそうに顔を上げた。

 

「あっ……」

 

 そして素早い動きでセンはグランの手をはしっ、と両手で掴む。

 突然の行動に面食らったグランは少し上ずった声で訊ねる。

 

「せ、セン?」

 

「あ、あのっ。えっと……もう少し、撫でてほしい、です」

 

 頬を朱色に染めながら、もう少しだけ。と懇願する。勿論その要求を否定する権利などグランにはない。

 自分の頭に彼の手を持ってきて再びぽふっと乗せると、グランから撫でてくれるのを待った。その姿は本当に甘えたがりの猫のようで。けれども滅多に見せることのないセンのささやかなわがままに、グランは満足のいくまで彼女を撫で続けた。それに応えてくれたグランに喜びを隠せず、気の緩んだセンがぽろりと本音を吐き出した。

 

 

「……えへへ。団長さん、好きです」

 

 

 その言葉を耳にして、撫で続けていた彼の手がピタリと止まった。唐突なる告白にグランの思考が止まったということは間違いない。突然手が止まったことに疑問を感じたセンは「?」と首を傾げるも、自分が今何を言ったのか頭の中で吟味した瞬間――ぼふっ、と顔を真っ赤に染め上げた。まるで長時間火にあたったような薬缶のような顔色で、あたふたと弁明しながら言葉を続ける。

 

「あっ――ちっ、ちがっ! ご、ごめんなさいっ! 好きっていうのは、その、撫でられるのが好きってことで……あの、その……えっとっ……ううぅ……!」

 

 しかしどうにも混乱して言葉が思うようには出てこなく。ぷしゅううと頭から音を上げてセンは顔を覆った。ピコピコ動いていた耳はぶんぶんと激しく動き、それが彼女の感情の一端であるかのように物語っている。自爆してどうにもこうにもいかなくなったセンにグラン自身もどんな言葉をかけてあげたらよいかで困っていたら――

 

「――――?」

 

 キラキラとした目でユグドラシルがこちらを見つめていたことに気付いた。

 いうなれば先程から二人の様子をじっと眺めていたのだが、センが気持ちよさそうに頬を緩ませていたのに興味を持ったのか、彼女と同じようにぺこりと頭を下げてきた。セン、と肩をつついてグランがユグドラシルの方を見るように伝える。「あうぅ……」と涙目で顔を上げたセンはユグドラシルの方に視線を向けると

 

「……あ。だ、団長さんっ。ゆぐゆぐさんも、同じようにして貰いたいみたいですっ」

 

 その行動の真意を察してか、声を弾ませて――もとい焦りで半音高めになった声色で言ってきた。

 右手はセンを撫でつつ、空いた片方の手はユグドラシルの頭に。ぽふ、っと乗った掌の感触にユグドラシルは「???」と理解できない様子でいたが、ふわふわと優しく撫でる掌の心地よさを感じて――

 

「――――♪」

 

 真顔だった表情を一転。ふにゃっ、と頬を緩ませた。きっとそれは感じたことのない気持ちよさだったのだろう。現にさっきまで涙目で沈んでいたセンもいつの間にやら回復して、猫のように口元を丸めてうっとりと撫でられ続けていた。

 

「ふにゃ~♪」

 

「――――♡」

 

「……やれやれ。僕、いつまで撫でたらいいんだろ……」

 

 そんな団長の気苦労も知ることなく。

 無邪気な猫娘と純朴な星晶獣は、ルーマシーのとある一島にて「最初のお願い」を満喫するのであった――。

 

 

 

 

 ちなみに余談だが。

 この経験を機に、グランサイファーに戻ったユグドラシルが色んな人にお辞儀をして回る珍行動があったとかなかったとか。真相を知った団員たちにこれでもかと撫でられまくったユグドラシルは、それはそれは幸せそうな表情だったとか――それもまた、別の話。

 




続きます。
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