センの爆弾発言が誤解であると周囲に知れ渡ってから幾日が過ぎた。初めは喜色満面にからかっていた団員たちも真相を知ってからはつまらなそうに踵を返し始め、騒然としていた騎空団内もようやくいつも通りの落ち着きを取り戻していた。誤解の先陣に立っていたジータも事実を知って普段通りに戻っていたし、関係の亀裂を危惧していたグランも肩の荷を下ろすことができていた。
――はずだったが。今度はそれとは別件で、新たな問題に直面していた。
センの同衾を小耳に挟んだ団員たちが、グランと寝床を共にしようと台頭し始めたのである。
夜に忍び込んでくるものは未だにいないものの、我先にと先陣を切って「グランちゃんグランちゃん! 今日はお姉さんと一緒に寝ようね!」と寝間着姿のまま現れる剣豪も居れば「騎空団の団長たるものが一人で眠れないとは情けない……が。団長の重責は私もよく知っている。来い、貴様の不眠を改善してやろう」と、妙に母親気質で部屋に入ってくるダークドラグーンの団長もいて、最終的には「あ、あの……最近寒いし、布団、温めようかなって……そ、それに私、あなたになら――ってああああああごめんなさいやっぱり無理いいい!」と何をしに来たのか。真っ赤な顔でそれだけ言って逃走した燃ゆる紅の踊り子もいる始末。
結局のところ問題は改善されたどころか、悪化の傾向に辿っているような。
そんな思いを胸に秘めつつ、毎夜訪れる女性団員たちのアプローチを受け流す日々のグラン。
エリクシールを呷りながら執務に励む彼の目元にはうっすら隈が浮かびあがっていた。
状況が状況だけに副団長に悲痛な声で助けを求めるも、ジータからは「自業自得だよ、グランが優柔不断なのが悪い」としかめっ面でばっさり切られてしまう。少し楽しげに言い放っていたのは、彼女なりの悪戯心か。
不憫に思ったカタリナやルリアたちが件の団員たちに呼びかけるも、それでも数は減らずむしろ如何にしてグランにOKを貰えるか、会合を開いて作戦会議まで行う始末。愛情や庇護欲はあれどもそれ以上は求めていない(例外もいる)者たちだから質が悪いし、逆にその状況を利用して「グランと添い寝券(無許可)」とやらを発行して売り捌こうとした不届きものまでいた。流石にそれはジータによる鉄拳制裁で事前に押収したが、集めたチケットの中から「カタリナと添い寝券(もちろん無許可)」まで出てきて、それを発見した某アルビオン城主が狂気に満ちて大暴れした日もあった。
男性騎空士たちはそんな状況のグランに羨ましがりつつ、連日続くドタバタな日常に彼が振り回されているのを遠目で楽しんでいた。完全に他人事であり、助ける気など微塵にもない。むしろ助けようものならこちらに害を被る可能性だってあり得る状況だ。間違い等が起きないように気には止めつつ、各々が静観を続けていた。
そんな状況であるが故に、センとのお昼寝の時間はグランにとって唯一の癒しとなっていたのか。
前と同じように甲板で毛布を広げたと思えば、間髪入れずにグランはセンの隣で寝息を立てていた。
「むぅ~……グランさん、最近直ぐに寝てしまって、つまらないです……」
こちらから日向ぼっこを提案しただけに、それについての文句は正直なところお門違いである。
けれど少しおしゃべりがしたかったであろうセンは行き場のないもどかしさを抱えながら、熟睡しているグランの顔をまじまじと眺めていた。隣で眠るグランの表情は安らかな笑みに満ちており、戦闘に臨む毅然とした態度とは裏腹に、子供っぽさを滲ませた年相応の少年の寝顔に変わっている。そんな彼の幸せそうな顔を眺めて、センは小さく笑った。
本当は日向ぼっこしながらお喋りして、そのまま眠りたかったんだけど。
彼の寝顔を見ていたら、何だか微笑ましい気分になってきて。そんな気持ちのまま眠れることが出来たらどれだけ幸せだろうか。そんなことを考えつつ――センもまた、グランの隣で身体を横にして彼に密着した。汗臭くない爽やかなグランの匂いが鼻腔をくすぐる。ぎゅ、っと抱きしめるとあたたかな体温が直に伝わった。気持ちいい。まるでお日様を抱きしめているような、そんな錯覚にセンは溺れていく。
抱き枕のようにグランを抱きしめながら幸福な気持ちに浸りつつ――
「は、離れないように……マーキング、です……」
ぽふぽふと彼の首元に自分の頬を当てて、まるでわが物のようにセンが甘え始めた。
匂いをこすりつける猫のような行動に、起きていればきっとグランは苦笑していただろう。
彼の首元に頬や頭をこすりつけながら、少しの悪戯心で軽くキスをする。後々になってグランの首元にキスマークがあることを知った団員たちがまたも騒然を叩き付けんが故に大暴走するのだが――この時のグランとセンはそんなことなど露知らず、幸せな日向ぼっこを満喫していた。
想いを伝えたけれど、さして彼らの日常に劇的な変化はない。
けれどもお互いの心の距離は確かに縮まっていて、これから少しずつ、苦難しながらも二人は穏やかな時の中で惹かれ合っていく。黒い感情が生み出した心もまた自分の一面であり、否定もまた大切な感情。それらを受け入れることによって――センはまた、新たな想いを抱くことができた。
悲しんで、苦しんで。
そして愛して、愛されて。
たくさんの想いに、そして陽だまりに包まれながら――
「えへへ……身体も、心も、あったかいです、にゃ」
大好きな人と共に歩めることを、夢心地のように噛みしめるのであった。
更なる晴天に向かうため、雲間を切り裂きながらグランサイファーが空を疾駆する。団員たちの様々な感情を交錯させたまま、この騎空艇は目的地である星の島「イスタルシア」めがけて舵を切っていく。
これは、そんな団員たちのごく一部の日常の風景であり。
苦難、苦悩を繰り返しながらも不器用に心を紡いでいく彼らの物語。
これは、淡い恋模様を抱いていたセンの――
心の隅で隠れていた、陽だまり色のセンチメンタル。
陽だまり色センチメンタル fin
読了お疲れ様でした。次回作、というかおまけ短編を後日追加予定です。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。