百鬼夜行のヒーローアカデミア   作:ソトン9

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最後の投稿から5年て…


~限界と深淵~

 ヴィランの襲撃からしばらく経った頃。

 

 USJと本校舎とを結ぶ道路を尋常ではない速度で移動するヒーロー『オールマイト』の姿があった。

 

 根津校長との話が終わりいざ訓練場へと向かおうと校舎を出たところで、必死な形相をした飯田が現れ突如ヴィランの集団に襲撃されたと報告したのだ。その内容を聞いたオールマイトはいつものように周りを安心させる笑顔を浮かべ飯田の肩を軽く叩いた。

 

「話はよくわかった!飯田少年、よくぞここまで勇気を持って伝えにきてくれた!ここから先は私に任せて、君は今の話を他の先生方に伝えてきてくれ!その間に、私は急いで生徒たちの救出に向かうよ!」

 

「…オールマイト先生!!みんなを…助けてください!」

 

 疲労でよろける飯田を支えなおし現場に向かおうとしたオールマイトは右腕の親指を立てて言う。

 

「任せなさい!!!」

 

 

 

 USJまでの道中、飯田とのやり取りを思い返しオールマイトは憤っていた。入学してまだ日も浅く、ヒーローの卵にもなりきれていない生徒たちが、この先で大挙してやってきたヴィランに襲われている。それもヒーローを養成する学び舎の敷地内でである。

 どうやって警備を搔い潜って侵入したのかは飯田から聞いた限りではおそらく人や物を転送させる個性だろうと当たりをつけられる。だが今日この時間にあの場所で実習を行うというときに、寸分の狂いもなく時間を合わせることが可能だろうか。適当に敷地内へ侵入し、たまたま生徒たちの実習時間に鉢合わせたなどとは考えにくい。となると、襲撃してきたヴィランたちは雄英の定めているカリキュラムを知っていたということになる。

 

 思考を巡らせ考えたくない可能性に至りかけたところで、USJの校舎がようやくオールマイトの目に見えてくる。

 

「………くっ!(今は結論の出ないことに時間を割いている場合ではないな!)」

 

 そう判断を下しUSJが目と鼻の先まで迫ってきた矢先。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ゾクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…これは!?」

 

 

 

 それは、オールマイトが未だかつて感じたことのないほどに暗く重い、殺意と呼べるプレッシャーが実習棟から溢れ出てきた瞬間であった。

 

 

 

 ーーその数分前。

 

 

 

「ハァアアアア!!!」

 

 空気を切り裂く咆哮と共に、翠香の巨大な拳が脳無を捉えた。

 捕らえられた状態から突然解放され空中で身動きの取れない脳無に対し、逃げ場のない一撃が叩き込まれる。ミッシングパワーによって増幅された質量と速度が一点に集中し、脳無の巨体が砲弾のようなスピードで地面へと撃ち落された。

 

 

  ズドォォォォン!!

 

 

 衝撃波が広場を駆け抜け、爆発したかのように土煙が巻き上がる。だが、翠香はその粉塵が視界を遮るのを許さない。

 

「疎」の力を一気に解放し、周囲を覆う煙を瞬時に霧散させると、陥没した地面の中で身を起こそうとする脳無の姿を捉えた。

 萃香はそのまま、落下の勢いを乗せた全体重での追い打ちを放つ。

 

「これで……沈みなさい!」

 

 構えた巨大な拳が、大槌のごとく脳無の脳天を狙って振り下ろされた。

 重苦しい音が響き直撃かと思われた瞬間、脳無はその異様な瞬発力で両腕を突き出し、萃香の拳を真下から受け止めていた。ミシミシとコンクリートがさらに深く砕け、凄まじい力が拮抗する。脳無は無機質な咆哮を上げ、血管を浮き上がらせながら、己の数倍はあろうかという萃香の重拳を力任せに押し戻し始めた。

 

「……っ、この力……!」

 

 正面からの押し合いでは埒が明かないとふんだ萃香は即座に力を引き抜くと、踏ん張る脳無の側頭部目がけ、真横からフックを叩き込む。

 

 ドゴォォォ!

 

 脳無は横倒しに吹き飛ぶが、空中で体勢を立て直し、両腕をコンクリートにめり込ませて一瞬強引に制動をかけ、地面を数メートルにわたって抉り深い溝を作りながらも、怪物はその足で強引に踏みとどまる。

 その姿に、萃香は戦慄を覚えた。

 確かにダメージは蓄積している。これまでの重撃により、脳無の肉体の一部は凹み、皮膚が裂け、再生が追いついていない箇所も見受けられる。

 だが、この怪物は「疲れていない」のだ。

 どれほどの猛攻を浴びせても、その焦点の定まらない目は冷徹に萃香を捉え続け、呼吸一つ乱さず次の殺意を練り上げている。

 圧倒的な力でのゴリ押し。本来なら勝利を確信できるはずの攻勢が、底の見えない体力によってじわじわと形勢を押し戻されていく。

 

「チッ……! 脳無、何をしてる! さっさと殺せと言っているだろう!」

 

 その均衡を破るように、死柄木弔の苛立ちを含んだ濁った声が響いた。

 首筋を掻き毟り、血を滲ませながら睨みつけるその瞳が、黒霧へと向けられる。

 

「黒霧! 脳無に手を貸せ!」

 

 その八つ当たりのような命令に、黒霧は静かに首肯する。

 

「……承知いたしました。死枯木弔。」

 

 その瞬間、萃香が放った渾身の右ストレート。

 脳無の顔面を粉砕せんとした拳の直前に、漆黒の靄――ワープホールが口を開けた。

 

「っ!?」

 

 拳が吸い込まれた。そして吸い込まれた拳はほんの数メートル先で虚空に出現していた。

 

「(っ!まずい!)」

 

 と思った刹那。

 黒霧は萃香が腕を引き抜くよりも速く、ワープホールを強制的に「閉じた」。

 

 

 

 ――。

 一瞬の静寂。 次の瞬間、巨大化した萃香の右手首が、断ち切られた断面から鮮血を噴き出し、地面にドサリと落下する。

 

「っ……あ、ああああああああああああああ!!!」

 

 USJ内に、引き裂かれるような少女の悲鳴が轟く。

 切断の衝撃と激痛に、巨大化を維持する集中力がガタガタと崩れる。冷や汗が滝のように流れ、視界が痛みで白く染まる。

 翠香の腕からは大量の血がボタボタと滴り、地面に真っ赤なシミを広げていく。切り落とされた手首のほうはすでに個性の影響が解け、切断面から僅かな血だまりを形成していた。

 

 そして、その隙を脳無は見逃さなかった。

 両手足で地面を凹ませるほどの瞬発力とパワーで駆け出し、数十メートル開いていた翠香との距離を一瞬で埋め、無防備になった萃香の土手っ腹に向け、脳無の丸太のような拳が深く突き刺さる。

 

「ガハッ……!」

 

 翠香の巨大化した体が、まるで紙屑のように宙を舞った。

 萃香はそのまま施設内のビルへと激突。凄まじい轟音と共に建物が瓦解し、大量の瓦礫が彼女を埋め尽くしていく。

 土煙が晴れる頃には、巨大化の解けた小柄な萃香が、血の海の中で意識を失い座り込むような体勢で首をたれていた。

 

「ははっ! 見たか、これであの生意気な女もおしまいだ!」

 

 狂喜する死柄木に対し、黒霧は切断に使用した個性の感覚を反芻し、苦々しく呟く。

 

「……オールマイトを仕留めるための『とっておき』でしたが、背に腹は代えられませんでしたね」

 

 そう、先ほど翠香に使ったあの技は本来であれば、あの無敵超人とも言えるオールマイトを殺すために準備していたものだった。死枯木弔の後見人である主人からもお墨付きを貰ったほどの裏技だったのである。

 しかし、襲撃時から生徒を一人取り逃がすという失態から始まり、ここにきてまさかの『対オールマイト用』に調節された脳無の苦戦。

 雄英の教師陣がいつ応援に来るかわからなくなった現状では、もはや温存しておく意味もなかった。

 

 そして死枯木弔はイライラしていた。突然目の前に現れた、たかが一生徒に苦戦させられ、あまつさえ計画は遅れに遅れて先生から譲り受けた秘蔵の怪物はそのたかが生徒に苦戦する始末。

 最高にイライラしていたが、それももう彼方に消え去ってしまうほどに今の死枯木弔は下劣な笑みを浮かべていた。

 

「もういいよ。脳無、トドメだ。その頭を、スイカみたいに踏み潰せ」

 

 死柄木の命を受け、脳無がゆっくりと萃香へ歩み寄る。

 

「伊吹さん!! 逃げろ!! 立ってくれ、伊吹さあああああん!!!」

 

 水難ゾーンから、緑谷が喉を枯らして叫ぶ。だが、彼女は動かない。動くことが出来ない。

 梅雨ちゃんと峰田も絶望的な状況に駆け出したい衝動に駆られるも理性がそれを抑え、緑谷の腕と腰を掴んで引き留めることしかできなかった。

 表情は伺い知れないが、翠香の額や右腕からは出血が続いておりピクリとも動く気配は無く、脳無が近づいてその場にしゃがみ込み、無慈悲な手が萃香の細い首へと伸びる。

 

 指先がその肌に触れ、握り潰さんとした、その寸前――。

 

 

 ――ドクン。

 

 

 と心臓を直接掴まれたような、重苦しい「響き」が空間を支配した。

 

 視覚で捉えられず、振れることもできない怖気のような感覚がUSJ全体を駆け抜ける。

 それは各地でヴィランと戦っていた生徒たちも感じ取り、そして死柄木や黒霧、命令を遂行しようとしていた脳無やチンピラ風情のヴィランたちまでもが、まるで時間が止まったかのように凍りついた。

 

 立っていることすら困難な、圧倒的な、純粋なまでの「畏怖」。

 あまりのプレッシャーに、峰田は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

 

「な、んだ……これ……。何が……起きて……っ!」

 

 死柄木が歯をガチガチと鳴らしながら、その視線の先を捉える。

 緑谷も、梅雨ちゃんも、本能が理解した。

 

 この、世界が塗り替えられるような絶望的な威圧感の出どころは、死にかけているはずの少女だと。

 そしてほんの数センチ先で、そのプレッシャーを直接浴びてしまい、気圧されて動きを停止していた脳無の腕の先。親指。

 それを、血塗れの、小さな少女の手が「ひょい」と掴んだ。

 

『――なんだい。だらしないねぇ。』

 

 それは、翠香であってまるで別人のように聞こえる声音であり、学生生活で翠香の声に聞きなれた緑谷や梅雨ちゃんには一瞬彼女が発した言葉だと理解できなかった。あまりにも粗暴で、あまりにも粗雑で、悠久の年月を感じさせるほどの『重さ』が、ただなにげない一言に言霊のように宿っていると錯覚させるほど。

 

 意識を失っているはずの萃香が、先ほどまでの激戦がまるで何事もなかったかのように自然に立ち上がり、ゆっくりと、それでいてこの世の何よりも重厚な動きで目を開ける。

 真紅の双眸には、先ほどまでの「生徒」としての面影など微塵もない。獰猛で獲物を見る肉食動物のような瞳が脳無を視界に捉えていた。

 

『少し、鬼の遊び方を教えてあげようか』

 

 幻想郷の鬼が、いま、その目を覚ました。

 

 





もうだれも読んでないかもと思いつつ、書きたくなりました。

書き貯めは無いため次はいつになるやら…。

よかったら高評価、お願いします<(_ _)>
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