気付いたらキングダムの世界で王妹だそうです   作:空兎81

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山の王

兄上様と一緒に山の民に連行されているとバジオウが『三人、イヤ四人カ』と呟く。どうやら私達を追っている人たちがいるらしい。えっと、1人は信であと3人は貂と壁と誰だろうか?原作と違うということはここは漂かな?

 

まあ誰が来ているにしてもバジオウが追っ手を差し向けちゃったし捕まるだろうな。まあ危害は加えられないだろうからまた後で会いましょう。

 

山の民の国までは遠いらしく一晩野宿することになった。薄暗くなった視界の中、山の民が火を起こし野営の準備をしているのを眺めているとバジオウが『ヤルカ』と言って来た。あ、勝負ですね。即座に剣を抜いて斬りかかる。

 

最速で抜いたつもりだったのだがバジオウの双剣に受け止められる。早々にやられてくれはしないらしい。

 

私が攻撃を仕掛けたことで周りの山の民が騒めいたがバジオウが『手ヲ出スナ』的なことを言ったので黙って剣を収める。そのまま私とバジオウは斬り合いを始める。

 

これが勝負というのなら負けた方は当然飯抜きだろう。そんなことは断固拒否する。今日の夕食は道中山の民が狩ってきたイノシシの丸焼きだ。絶対食べたいし飯抜きなんて死んでもごめんだ。だからバジオウは必ず殺す。

 

ガンガンと金属が交わる音が辺りに響く。剣を振る。受け止められる。双剣が喉元に向かって突かれる。剣で弾き返す。やはりバジオウは手強い。

 

私もこれまで結構戦闘経験を積んだつもりだったがバジオウにはまだ届かないらしい。剣の重さも鋭さも向こうが上だ。

 

だけれども私の方が身軽である。速さなら負けていない。

 

速く打つ。もっと速く、速く、剣を振るう。

 

バジオウの剣が頬を掠める。だけどそんなことは気にならない。ただバジオウを斬り裂くことだけを考えて剣を振るう。防御は捨てた。私が死ぬ前にバジオウを殺す。

 

斬る。斬られる。斬る。斬られる。バジオウと私、互いに血を流す。痛みはもはや感じない。腹の奥からふつふつとした熱が湧き上がり身体が熱くなる。

 

あの2年間バジオウに一度勝つことはなかった。だから敗北という物が何かは骨身に沁みている。

 

それは惨めで悔しくてひもじくて絶望的で、

 

そして無だ。敗北とは死だ。

 

負け続けたあの時、バジオウが望めば私は死んでいた。敗北の回数だけ私は死んだのだ。

 

嫌だ。負けたくない。死にたくない。だから殺す。相手を殺して私が生き残る。

 

ただこの手にある剣がバジオウの心臓を貫くことだけを考える。それだけが勝利でそれ以外に価値はない。

 

剣が交わり金属音が鳴り響く。剣の硬い感触と肉を斬り裂く感覚だけが手から伝わってきて他の感覚が失われる。

 

だがそれも終わりが来た。バジオウしかいなかった世界に強烈な音が鳴り響いた。

 

 

「双方、剣を収めよ!ここで血を流すべきではない!」

 

 

一瞬にして世界が広がる。聞こえて来た兄上様の声に剣を下ろし振り向く。そこには仁王立ちでじっとこちらを見ている兄上様がいた。

 

 

「凛、俺たちの目的は山の王に会うことだ。それまで無駄な騒ぎを起こすべきではない」

 

 

「…申し訳ありません。宿敵を前にして思わず気が高ぶりました」

 

 

「バジオウと言ったか、妹が失礼をした」

 

 

「挑発シタノハコチラダカラ気ニスルナ。久ジブリニ良イ時間ダッタ」

 

 

そういってバジオウが双剣を仕舞ったので私も剣を収める。兄上様のいう通り今はバジオウと殺し合いをしている場合ではなかったね。これから山の王に会って兄さんから王座を奪還するというお仕事もあるわけだし体力は温存しておいた方がいいだろ。バジオウと会ったら戦うのが習慣付いていたからついやってしまいました。次からは時と場合を考えよう。

 

 

「凛はいつもあのようにバジオウと戦っていたのか」

 

 

「ここまで激しいのは初めてですが森にいた時はよくバジオウと勝負をしてました」

 

 

「そうか、それがお前の強さの秘訣か。改めてお前が俺についてくれて良かった」

 

 

そういって兄上様がフッと笑う。お、私兄上様に必要とされていますね。兄上様と同じ道を進むと決めているのでそういって貰えて嬉しいです。

 

ちなみに今回の勝負はひとまず中断ということになったのでご飯は普通に食べた。イノシシはとても美味しかったです。

 

だけれども次の日から私を囲む山の民の人数が増えた。兄上様の近くには3人くらいしかいないのに私の周りには30人くらいいる気がする。目が合うと殺気を放たれるし警戒されているようだ。解せぬ。

 

そんな感じで山の民の国につき一晩休んだ後山の王の元に連れられる。私は武器を取り上げられた上腕を後ろで縛られました。兄上様ですら縛られてないのになんだこの過剰対応は。私は何処にでもいる一般的な公女様です。

 

楊端和は原作通り厳ついお面を被り虎の敷物の上に腰掛け周りを狼が取り巻いていた。想像以上に怖そうなオーラが出ています。これを前にして平然としている兄様もかなり肝が座っているな。

 

そうして話し合いが始まったが最初は全くといっていいほど取り合って貰えない。それどころか処刑台のように首だけ木の板の中から突き出した格好で車に乗せられた4人の見知った顔が運ばれて来た。

 

貂、信、壁にああ、やっぱり最後の1人は漂だったか。チラッと見ると目が合ったので話しかける。

 

 

「漂もいたのか」

 

 

「うん、心配だったから付いてきちゃいました」

 

 

といっても捕まっちゃったんですけどね、と言って漂が笑う。うんまあ漂は信の兄貴分だし信がいるならそりゃ付いてくるだろう。別に予想していたことだから驚きはしないと思っていたけど次の漂の言葉に度肝を抜かれる。

 

 

「だって凛様は女の子ですから。凛様を残して山を降りることなんて出来ませんよ」

 

 

……は?

 

え、心配していたのって信じゃなくて兄上様でもなくて私?いやまあ確かに私ってまだ幼女だし公女だし心配してもらえる立場ですね。周りがあまりにも女の子扱いしてくれないから(それどころか最近では人間扱いすらしてもらってない気がする)忘れてたけど、そっか。私、女の子なんだ。

 

衝撃のあまり固まっているとその瞬間信と漂が縄から抜け出し自由になる。信は貂に斬りかかろうとした山の民を蹴飛ばし漂は私の縄を解いてくれた。『少しは助けて頂いたお礼が出来ましたでしょうか?』といって笑う漂を見てなんかこう胸から込み上げて来るものがある。人に優しくしてもらえるって嬉しいものですね。泣いた。

 

その後兄上様が山の民の助力を得ることに成功し下山する。私は何もしてなかったけどまあ別に原作通りで問題ない場所だったしいいでしょう。

 

いよいよ王宮に攻め入るのか。成蟜兄さん元気かなー。

 

 

 

 


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