気付いたらキングダムの世界で王妹だそうです   作:空兎81

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乱戦

 

皆で話し合った結果助力する振りをして王宮に滑り込み竭氏と成蟜を伐つということになった。

 

そのため仮面を作り山の民へ偽装する。私の仮面はバジオウがくれたのだがそれを被った瞬間山の民から『鬼ダ』『平地ノ者デアレ程仮面ガ似合ウトハ』的な言葉が聞こえてくる。なんでだよ、仮面被っただけじゃんか。しかも秦の兵士までこっち見てひそひそ何か言っているぞ?もうヤダ。

 

馬で駆け抜け王宮に辿り着いた。中に入るまではあっさりいったのだが途中で50人に人数が絞られさらに朱亀門で武器を取り上げられるらしい。だからそこが開戦の場所だ。

 

遠くに赤い門が見えその前に兵士が並んでいるのが見える。剣を握り兄上様の後を一歩下がり付いていく。目の前には敵兵士たちが武器を構えている。ついに戦いが始まるのだ。

 

空気は張り詰めてピリピリとしていて息苦しい。だけれどもこの空気を吸っていると身体が燃え滾るように熱くなる。

 

ああ、そうだ。ここは戦場なのだ。あそこに立っているのは全て敵だ。兄上様の覇道を遮る敵なのだ。心と身体の準備はできている。剣を握りしめて胸を張る。

 

兄上様の夢を叶えるための第一歩、ここから始まるのだ。邪魔する者は全て排除する。

 

中華統一の道が今開かれる。

 

兄上様が敵を斬った。歓声と罵倒が辺りに響き渡る。剣を握り私も走った。さあ、目の前にいる敵は皆殺しだ。

 

向かい合った敵を斬り伏せる。そのまま私に剣を下ろそうとした敵を撫で斬りにし続けてその隣にいた敵の首を刎ね飛ばす。

 

私の正面にいた敵は一瞬で屍に変わる。隊列に乱れが出来た。その隙を逃さず駆け抜け朱亀門の壁まで辿り着く。信の手柄を取る形になってしまうが全体の勝利を考えた場合これが一番手っ取り早い。私は全力で地を蹴り壁を駆け抜ける。

 

下から私を狙う槍の存在を感じたがそれを投げるよりも私の方が遥かに速い。王宮の壁など登り慣れているのだ。

 

あっさり壁を登りきり朱亀門の向こう側に降りる。開戦から1分足らずで朱亀門が開いた。

 

門から山の民たちが入ってくるのを確認してすぐ階段を駆け上がる。原作通りならこの上に竭氏が居るはずだ。長引かせるつもりはない。首を取って終わらせてやる。

 

竭氏が逃げる。だけれども馬車を引かせた馬より私の方が遥かに速い。竭氏が途中、乗っていた部下をこちらに投げたがその程度では障害にすらならない。軽く避け竭氏を追い続ける。

 

 

「成凛様ッ!何故貴方は成蟜様と敵対するのですッ!兄である成蟜様を手助けするのが妹である貴方の責務ではありませんかッ!」

 

 

「成蟜は兄だが主ではない。我が忠誠は政兄上に捧げている」

 

 

竭氏が何か叫ぶが心に響かない。私の行く道は兄上様と共にあるともう決めているのだ。私の王様は兄上様だ。

 

走る。走る。そして、ついに竭氏に追い付く。跳躍し馬車に飛び乗る。

 

言葉はもう何もいらない。竭氏が『儂は大秦国竭丞相だぞッ!!』と叫んでいるが関係ない。振り上げた剣を躊躇いなく竭氏に振り下ろした。

 

ガキンと金属音が響く。肉を斬り裂いた感覚はなくそれどころか剣に何かが衝突した。その圧力に不安定な馬車上では踏ん張りが利かず吹き飛ばされる。

 

地面に叩きつけられるがなんとか受け身を取り状況を把握しようと顔をあげる。するとそこには馬に乗り剣を構えた魏興の姿があった。

 

 

「丞相に何かあってはならないと先行してきて見ればまさか貴方と対峙することになるとは。成凛様、貴方は本当に成蟜様と敵対することを選んだのですね」

 

どうやら私の剣は魏興に受け止められ吹き飛ばされたらしい。遠くに馬車で逃げる竭氏の姿が見える。私は失敗したのだ。

 

ならばせめて魏興を、と思ったが私が態勢を立て直すよりも早く馬を引き去って行く。どうやら後ろにいる山の民が迫ってきているのを見て警戒したらしい。

 

魏興が竭氏を助けにくるシーンは原作になかった。なんでもかんでも原作通りになるとは限らないということか。まあよく考えると原作なんて私も色々変えちゃっているしそういうことがあってもおかしくはない。ああ、くそう。竭氏を逃してしまった。

 

上体を起こす私の隣を馬に乗った山の民が走っていく。そして竭氏を追いかけたがさほど行くまでもなく唐突に放たれた弩によって撃たれる。すぐ向こうに隊列を組んだ兵士達の姿が見えた。

 

 

「姿を現しなされい!!大王嬴政!!」

 

 

肆氏の挑発に兄上様が乗り対峙する。さて、ここからはこの場で戦う者と成蟜兄さんを討つ者との二手に分かれて戦うことになる。

 

信と漂は右側の通路へ私はそのままこの場に残る。ここってかなり激しい乱戦になるからね。兄上様が心配だからこの場に残りましょう。

 

肆氏の弩行隊がこちらに照準を定める。だけれどもそれは1度目の時に撃たれたが力尽きていなかった山の民たちによって崩される。戦闘が始まった。

 

目の前が敵で溢れていく。すぐにでも飛びかかって皆殺しにしたい衝動に駆られるが落ち着け。この戦いは兄上様を守る戦いなのだ。この場を離れて兄上様が討たれてしまったら目も当てられない。兄上様のすぐ隣に陣取り剣を構える。

 

それにわざわざ行かなくとも敵は溢れている。

 

3人の兵士がこちらに向かって走ってきた。斬る。槍で突進してきた兵士がいた。穂先を切り落として首を刎ねる。弩を放ち私を狙う兵士がいた。矢を弾いて弩を持った兵士の胸を刺す。

 

斬る。斬る。斬る。周りが赤く染まった頃地面に影が差した。顔を上げると馬上で剣を構えこちらを見下ろす魏興がいた。

 

 

「成凛様、こうなった以上容赦はいたしません。お覚悟を」

 

 

魏興が私に剣を向ける。ああ、望むところだ。こいつのせいで私は竭氏を殺し損ね、そして兄上様の陣営に多大な被害を出してしまった。許すつもりはない、その首は必ずもらう。

 

魏興が剣を振り下ろす。私も剣で受け流す。

 

すぐに魏興は二撃目、三撃目を放ち上から斬撃が降り注ぐ。流石に力と力の鍔迫り合いでは私に勝ち目がない。一旦態勢を整えたいが降り注ぐ斬撃の雨に逃れられそうにない。どうしたものか。

 

その時ふと後ろからキンキンと鉄と鉄の打ち合う音が聞こえた。後ろにいるのは兄上様、まさか交戦しているのだろうか?

 

兄上様が戦闘に参加している。原作では生き残っていたがこの場ではどうなのか?原作があてにならないことはさっき思い知った。乱戦の今兄上様の安否は保証されていない。

 

死なせはしない。貴方はこの中華唯一の王様になる人なのだ。貴方に降りかかる火の粉はすべて斬り裂いてやる。

 

魏興に構っている暇などない。確かに魏興は強い。本当に戦場を知った有能な将のひとりなのだろう。

 

だけれどもそれは王騎将軍より凄いのか?バジオウより強いのか?そんなわけがない。幾度となく振り下ろされる斬撃を全て合わせてもあの2人から放たれる一撃の重圧に及ばない。

 

高低差がある?筋力が負けている?そんなものは関係ない。私は兄上様の剣として敵を斬り裂くだけだ。

 

 

「この魏興の剣を受けるとはお見事。あと10年もあれば中華に名を轟かす武人になったかも知れませんが味方した陣営が悪かった。お命頂戴する」

 

 

魏興が馬上から渾身の一撃を放つ。10年?そんなに待てるか。兄上様が歩む茨の道はもう始まっている。今私は勝たなくてはいけないのだ。

 

振り下ろされる剣をひょっとしたら私は避けることができたのかもしれない。だけれども避けなかった。私は兄上様の中華統一の為の剣なのだ。正面から捩じ伏せてやる。

 

身体を捻り全ての力を魏興の剣先に叩き込む。ここで押し切られれば私は死ぬのだろう。死んでたまるか!私は兄上様の夢を叶えると決めているのだ。こんなところでは終わらない。

 

渾身の力を込めた。振り下ろされた剣を力で跳ね除けるのだ。

 

刹那、キンッと音がして剣が交わる。一瞬の空白、

 

__跳ね上がったのは、魏興の剣だった。

 

押し負けた魏興の上体が仰け反る。瞬間、跳躍する。信じられないといった感情を映す魏興の目と合う。終わりだ。

 

 

「死ね」

 

 

短くそれだけ伝え首を刎ねる。血飛沫とともに魏興の首が地面に落ちた。

 

肆氏の右腕、魏興を私は討ち取ったのだ。

 

 


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