あれから一年経った。私はまだ森の中にいる。いやあ、我ながらよく生きていられた物だなぁ。この一年で軽く100回は死を覚悟したよ。
最初はもう本当に大変で動物なんて狩れないからその辺りに生えているキノコとか山菜とか採取していたのだけれども何故か毒キノコや毒草ばかり引き当てちゃって初日から三途の川を渡りかけてました。近くに川がなかったら本当に渡ってたかもしれん。お水って凄く大事だわ。
それからも食料確保のためにキノコや山菜を採取したのだけれど私が取った物の8割くらいは毒があった。普段は毒がないはずの品種も育った環境でたまたま毒があるみたいな感じでもの凄い確率で毒に当たった。この辺りの毒物はたぶんひと通り口にしたね。おかけで毒耐性はものっすごくついたけど素直に喜べない。今もあの毒に当たった時の体が痙攣して吐き気と目眩と寒気が止まらなかったこと思い出すと涙が出て来るもんな。私ってきっと運が悪いんじゃないかな?ステータスのパラメータ作ったら絶対幸運判定がEになっているよ。
こんな恐ろしい環境に私を置いていった張本人、王騎将軍は一度だけ私の様子を見に来たがそれ以来ここに来ていない。確かこの生活を始めて1週間くらい経った時に『おや、ちゃんと生きてますね。では引き続き頑張って下さい』といって去って行った。
確かその時私はお腹が空いてて嫌な予感はしつつも食べてしまった真っピンクのキノコに当たってうんうん唸っていたはずなんだけどちゃんと生きているとは……。怪鳥というくらいなんだし王騎将軍は鳥目なんですかね。あの時はわりと本気で殺意が沸きました。
それ以来王騎将軍はやってこない。もう一年経ったのだけれどもひょっとして私のことは忘れられているのだろうか。本気でありえそうで怖い。これはもう自分の足で王都に戻った方がいいのだろうか。
まあいずれそうするとしてもそれは今ではないな。私は今この山の中でやることがあるのだ。
今日の夕飯の食材を持って川辺に行く。今回は野兎を仕留めることが出来たので兎が一羽と毒がないキノコと木の実が少々。
そうしてしばらく待っているとガサガサと草を掻き分ける音と共に仮面を付けた男が現れる。
古くからこの山に住む驚異的な戦闘力を持つ山の民、私は今から彼と一戦交える。
何故こんな関係になったかというと確かあれは3ヶ月くらい前のことで、川辺で夕食の準備をしていた私の前にひとりの山の民が突然現れたのだ。
驚いた私は大して使えもしない王騎将軍の脇差を抜いて応戦しようとしたのだけれど剣を抜いたことが敵対行為だと取られたらしくそのまま山の民にフルボッコにされた。
ついでに戦利品とばかりに夕食も取られた。その日はたまたま野イチゴを見つけていて久々の甘味を楽しみにしていたから悔しさと身体の痛みにガチ泣きした。心の底から強くなりたいと思ったね。
それからその山の民は3日に一回くらいの割合で私のところを訪れるようになった。その度に夕食を賭けて勝負するのだが今のところ全敗である。最近だと剣の打ち合いくらいならできるようになってきたけれどまだ一本も取れていない。でももし私が勝ったら今まで見たことのない凄いごちそうを用意してくれるらしいので死ぬ気で頑張ろう。最近の私は自分で言うのもアレだが食い意地が張っている気がする。
それで山の民、山の民っていっているけどたぶんこの人は原作のバジオウなんだと思う。名前知らんから確証はないけど左側に二重丸、右側に三本線のあのお面って見たことある気がするし平原の言葉話せるのって楊端和とバジオウとあとババア達くらいじゃなかったかな?まあうろ覚えだから自信ないんだけど。
出会って5回目くらいに『オ前ハ、捨ラレタノカ?平原ノ子ヨ、』と話しかけられた時は凄くびっくりしたな。バジオウさん(仮)凄くいい声ですね。きっとその仮面の下もイケメンなのでしょう。
バジオウに捨てられたのではなく修行のためにここにいるというとただ打ち合うだけでなく『モット速ク振ラネバ当タラナイ』とか『上カラ斬リカカルト、大振リニナルゾ』とかアドバイスをくれるようになった。こっちは剣に関しては本当にど素人だから素直に有難い。これって本当はどっかの唇お化けの役目ですよね?なんか私の剣の師匠が王騎将軍じゃなくてバジオウになっている気がするぞ。
しかしバジオウとの勝負もいいことだけではなく負ければ夕食を奪われてしまう。
バジオウ曰くこれは真剣勝負だから負けた時の代償は必要なのだと。確かに私もご飯がかかると負けたくないって気持ちがむくむくと沸き上がるから毎回夕食を賭けることに同意している。その度に負けるから空腹で腹の虫と格闘しながら眠ることになるんだけどね。バジオウ強すぎますよ。
そんなわけで今日はバジオウとの勝負の日なので現れたバジオウに向かって剣を抜き構える。一度居合抜きをしてみようとしたんだけど鯉口を切った時にそのまま親指の腹を切ったのでもう最初から抜いておくことにしている。素人の浅知恵で達人技を真似しようとしたのが間違いでしたね。普通に斬った張ったで頑張ります。
剣を構えてバジオウに向かい合うが全然隙がない。向こうなんかまだ腕を組んでいて剣すら抜いていないのにどっから攻撃を仕掛けたらいいかわからない。だがいつまでもこうしているわけにはいかないし足の裏に力を入れて全力でバジオウに飛びかかる。一瞬で距離は詰まったがあっさりバジオウには避けられた。だけどまだだ。まだ戦いは始まったばかりだ。
そのまま勢いを殺さずにすぐ側にあった木に向かって
私がバジオウより唯一優れているもの、それは身軽さだ。筋肉ムキムキのバジオウよりもそりゃ6歳のロリガールの私の方が身体は軽いだろう。
木から木へ飛び移る時ほとんど手の力は使わない。脚力と身体のバランスだけで木の上を移動していく。
これはこの森で生きていくために習得した技能だ。ぶっちゃけこの森では常に両手が使えるような状態じゃないと生きていけない。
この間も虎に追いかけられて木に登ったら上から大蛇がこんにちはしてきたからね。普通に両手両足で木に登っていたら大蛇に噛まれて木から落ちてそのまま虎に食い殺されていただろう。
だけども私は木を脚力だけで登ることができたから走りながら剣を抜いて大蛇を斬り殺し木から木へと渡って虎を撒いた。残念ながらこのくらいのことはこの森では日常茶飯事である。なんで私生きていられたんだろうね。不思議だわ。
目的の木まで飛び移った私はその上にちゃんと用意されていたものを確認するとすぐさまそれを切り落とした。私が木の上に用意していたもの、それは網に入った大量の石だ。何十個の石がバジオウに向かって落ちていく。
流石のバジオウも頭の上に降り注ぐ石に腕を顔の前に構える。うん、今です。
視界が悪くなったところに剣を振りかぶり斬りかかる。大量の石で目くらましされた中剣を抜いた私の攻撃を避けるのは難しいだろう。
しかしバジオウは避けるのは難しくとも受け止めるのはできると判断したらしい、神速で刀を抜くと私の剣を受け止めた。でもここまでは私も読んでいた。
ぶつかり合う剣の衝撃を利用して身体を反転させる。くるりと回りそのままバジオウの背後に降り立つ。よし、背中を取った。今度こそっ!
そう思って斬りつけた剣はガキッと金属音のするものに受け止められた。バジオウがもう一本の剣を抜いていたのだ。げっ。
二刀流となったバジオウにはもう勝てない、そのまま吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。すぐ様起き上がろうとするがそれよりも前にバジオウの刀が私の喉元に突きつけられる。ああ、
「参りました、」
「今ノ攻撃ハ、悪クナイ。動キノ、無駄ヲ減ラセ」
そういうとバジオウは私の夕食を持って去って行った。私はそのまま地面に寝っ転がり身体を投げ出す。
ああ、やっぱりバジオウは強いな。今日はいけるかなって思ったけどやっぱり無理でした。あそこで2本目の剣を抜くのはずるいです。
バジオウは今日の私の動きは悪くないと言ってくれた。でも私、本当に強くなっているのかなー。
ぐぅとお腹が情けない音を立てる。どうやら今日も晩御飯は抜きらしい。