気付いたらキングダムの世界で王妹だそうです   作:空兎81

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邂逅

戦場に連れて行かれたり王騎将軍の居城で兵士達と修練を積んだり怒ったばあやに連れ戻され王族としての勉強をしているとついにあの人が帰ってきた。

 

キリッとした顔立ちに強い意志を込めた瞳、キングダムの主人公のひとり嬴政がやってきたのである。

 

おおっ、ついに兄上様の登場ですか。原作でもかっこいいと思っていたけど実物はさらにイケメンですね。そうか、これでこれから原作が始まっていくのか。そう思うとこうなんか心が騒めきますね。この気持ちの昂りをどう表現したらいいかわからんが取り敢えずキングダムのいちファンとして政兄様に会うことができて嬉しゅうございます。

 

このことで当然成蟜兄さんは荒れまくった。『あんな舞妓を母に持つ奴が太子になるなんて…ッ!許さん!絶対に許さんぞッ!凛、王位は必ず正統な後継者である俺が継ぐぞッ!』とひとり大興奮なのだがぶっちゃけ私も政兄様派なんだよな。まあ今それを成蟜兄さんにいうと血管ブチ切れそうだし黙っておこう。

 

それより私は考えないといけないことができた。成蟜兄さんがこの調子であればきっと数年後に反乱は起こってしまうのだろう。それに対して私はどう立ち回ればいいんだ?

 

ぶっちゃけやろうと思えば反乱を起こさないことも私はできる。だってあの反乱て竭氏が成蟜兄さんと手を組んだから起こったんだよね?ならばサクッと竭氏を殺してしまえばそれで終了だろう。

 

私は成蟜兄さんの妹だからあの時期に竭氏に近づくのは難しいことではないし首を刎ねるくらいの武力も持っているつもりだ。反乱を起こさないようにするのは簡単なことなのだ。

 

だけれどもそうすると政兄様が山の民と縁を結ぶ機会を失ってしまう。今後の展開を考えてもそれは避けた方がいいだろう。

 

ならば私はどのタイミングでこの反乱に介入しよう。成蟜兄さんには悪いが私は政兄様の味方をすると決めているので介入する時は政兄様側なのだがどう行動すればいいかは結構難しい。

 

ぱっと思い付くのは政兄様が信や山の民と共に戻ってきたタイミングだ。中に入るのに苦労していたことを思い出すとひとり手引きしてくれる人がいたら大助かりだろう。なんならそのタイミングで私が竭氏の首を刎ねておいてもいい。

 

だけれどもこれには大きな問題がある。この展開だと漂は結局死んでしまうのだ。

 

今私という異分子が入ったことで原作の展開と違う未来の可能性が生まれている。漂が生きた世界が存在するのかもしれない。

 

しかしそれを選ぶには大きな障害がある。漂が死んだのは王騎将軍が率いた軍と戦いその後疲労しているところに朱凶との戦闘を強いられたからだ。漂を救うためには王騎将軍と戦わなければならない可能性が非常に高い。

 

私は今王騎将軍に師事している立場だ。それなのに敵対行為を取るのはやはりまずいだろう。

 

それにもうひとつ、漂を救ってしまってもいいのだろうか?主人公の信は漂が死んだことで覚醒したような物だから生きていたら原作の信にはなれないのかもしれない。さらに漂は信と同じく主人公のような立ち位置になる可能性が高い。彼が周りに与える影響は多大な物になる可能性が高く今後の展開が全く想像出来ないのだ。

 

漂を助けるべきかそうでないか、政兄様が来てからずっと悩んでいるのだが中々答えが出ない。そうして考えている間にも月日が流れ反乱が起こる年へとゆっくりと近づいていく。

 

反乱が起こる前にも政兄様と交流を結んでおこうかなと思ったのだけれども全く会えませんでした。政兄様は色々な人間に狙われる立場だしその筆頭がうちの成蟜兄さんだといったらその妹の私は当然警戒されてしまいますね。残念だが政兄様と親睦を深めるのは無理でした。

 

そうして時が経ち私は10歳になった。王宮もきな臭くなってきたし竭氏が成蟜兄さんの周りを彷徨きそろそろ反乱を起こしそうな雰囲気がある。

 

だけれども今私ができることはない。そんなわけで今日も王騎将軍の居城へ行こうとばあやを撒いて城壁登っていると『うわあっ!』という声が聞こえてきた。思わず振り返ると顔の前にのれんのように布を垂らし素顔を隠した少年が下からこちらを見上げていた。

 

足を止めてしまったから重力に従い落ちていく。大して登っていなかったから衝撃も少ないだろうと思って両足で着地する。

 

 

「うわあっ、落ちてきたっ!ねえ、君どうやって手も使わず城壁登ったの!?」

 

 

「……誰?」

 

 

思わず声に反応して降りてきてしまったが目の前の少年は顔を隠しているし怪しさ満点だ。関わり合いたい相手ではない。

 

 

「え?あ、僕はえっとこのお城の使用人の子でちょっと連れと逸れちゃったんだ」

 

 

「ふーん、そう」

 

 

「それより君城壁登っていたよね?あれどうやったの!?」

 

 

顔を隠した怪しい子は使用人の子らしい。まあぶっちゃけそんなのはどうでもいいからこのハイテンションで話しかけてくる子から早く解放されたい。めっちゃこの子グイグイ来るよ。会話力5のゴミなんで豪速球の言葉のボールはキャッチできません。

 

 

「別に、必要だからできるようになった」

 

 

「えーっ!?必要だからって手も使わずに壁登りができるようにならないよ!それに壁登りが必要になるのってどういう状況なの!?」

 

 

最低限のことを素っ気なく返すもさらに少年は畳み掛けるように言ってくる。ぼっち期間が長くてコミュ障である私にはキツイ状況ですね。思わず黙り込んでしまうも少年は気にせず話しかけてくる。

 

 

「いずれ戦場に出るために色々なことを練習したつもりだったけと壁登りはしていなかったな。城攻めの時に役に立つよね。これからは俺も練習しよう」

 

 

「戦場?」

 

 

なんで使用人の子が戦場に行くんだと思って首を傾けるとふと遠くからひとりの大柄な男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 

 

「やっと見つけたぞ!どこへ行っておったんだ!」

 

 

「あ、すいません昌文君様。ちょっと逸れてしまいまして、」

 

 

やってきた長い髭の男には見覚えがあった。確か兄上様の側近の昌文君だ。昌文君が迎えにきた男の子?ちょっとまて、まさかこの子って…。

 

昌文君は私を見るとギョッとした表情に変わる。そりゃこんなところで成蟜の妹で政敵である公女様に会えるとは思わないよな。

 

 

「せ、政凛様?!これは失礼をっ!この者は私の文官見習いなのですが何か無礼を…?」

 

 

「いや、別に何もない」

 

 

「そうですか、それでは失礼します」

 

 

昌文君が少年を連れて去ろうとする。ちなみに少年の方は私が偉い人というのがわかるとビクッと震えすぐ様頭を下げて黙り込んでしまっていた。そういえば信と違って君は礼儀を知っているんだっけ?

 

昌文君が迎えに来たことでこの子が誰なのかわかってしまった。広い王宮でこんな出会いがあるのだな。まさか、君に会えるなんて。

 

 

「本気で思っているのか?」

 

 

「え?」

 

 

「戦場に行くんだろ?何故?」

 

 

昌文君とともに歩き出そうとした瞬間その肩を手を置きそう問う。

 

その理由は読んだ知識として知っていた。だけれどもこれの口から直接その思いを聞いてみたいと思ったのだ。

 

ゆっくりと少年が振り向く。昌文君が慌てているのが視界の端に映ったがこれはどうしても聞いておきたいのだ。私がこの後の選択をするために。

 

 

「…友と二人、身の程を弁えぬ夢があります」

 

 

「だから戦場に行きたいのか?」

 

 

「ええ、私は天下の大将軍になります」

 

 

そういって、少年、いや漂は隠れた布の下で笑った気がした。

 

そこで痺れを切らした昌文君が漂を連れて去って行く。私はその背中をジッと見つめていた。

 

そうか、やっぱりアレは漂だったんだな。まさか反乱前のこのタイミングで会えるとは思わなかったけど、でも会えて良かったよ。

 

漂、君はカッコいいな。凄く格好いい。自分の夢を本気で成し遂げようという覚悟を君は持っている。

 

そんな君がこんなところで死んで欲しくない。これは私の完全な私情だ。原作とか私の立場とかそんなことはもうどうだっていい。

 

ただ、私が君に死んで欲しくないって思ったんだ。もう君は紙面上のインクで描かれた人物ではなく血の通った人間なのだ。それなのにもうすぐ永遠に会えなくなるなんてそんなことは嫌だ。

 

私も身を翻し壁を登る。今日も王騎将軍の元へ向かう。

 

そう遠くないその日が来るまでに出来るだけ力をつけておこう。




次回から原作へ突入予定

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