休日が素晴らしいものであると言うのは全人類にとって共通認識だろう。行きたくもない学校や会社の束縛から解放され、時には自宅で本を読み、時には自宅でテレビを見て、時には自宅で妹を愛でる。そして好きなタイミングで寝て好きなタイミングで起きられる。なんとも至福の時間ではないか。
そんな休日と呼ばれる最高の時間。俺は今日で四日目を迎えていた。
水曜の放課後、会議室で過労のため倒れてしまった俺は木曜の検査入院を経て金曜に無事家へと帰還。今週は家で絶対安静と小町からのお達しを受け、そして今日は土曜日。
体のダルさはまだ完全に抜け切った訳ではないが、熱は下がったし頭痛、吐き気などの症状も出ていない。一応は健康な体へと戻ることが出来たようだ。
枕元の目覚まし時計は10時を示している。
ちょっと遅め朝食を食うためにリビングへ向かおうかと思い、のそりのそりとベッドから出たら部屋の扉がノックされた。
母ちゃんと親父は仕事だろうし小町だろうか。でもこの時間だと小町はもう塾へ向かってるから家には誰もいないはず。
え、怖い怖い。じゃあ誰だよ誰が家にいるんだよ?
そんな俺の恐怖心など扉の向こうの奴が慮る事もなく、ゆっくりギリギリと錆びた音を立てながらも扉は開かれ。
「......なんで?」
俺が発した言葉は酷く間抜けなものだった。
「あら、起きていたのね。朝食が出来たわよ比企谷くん」
腕に我が家の愛猫カマクラを抱えた雪ノ下雪乃がそこに立っていたから。ホットパンツからスラリと伸びた脚は黒タイツで包まれており、秋口らしく長袖のシャツを着ている。髪の毛は例のシュシュでポニーテールに纏められていた。
こいつでもこんな感じの服着るんだな、なんて思ってみる。
「オーケーまずは説明してもらおうか」
「説明? 何かあなたに説明するような事があったかしら?」
小首傾げんな可愛いだろうが。猫を抱えてるからその可愛さは最早神がかって見えちゃう。うはー俺の恋人可愛いー。
まあそんな今更な事実確認は一先ず置いておくとして。
「だから、なんでお前がうちにいるんだよ」
「私がいたらおかしい?」
「普通に考えておかしいから。ここ俺の家。お前の家違う」
「取り敢えず朝食を食べに行きましょう。頑張って作ったのだから」
結局なんの説明もないまま雪ノ下についてリビングへと向かう。道中ずっとカマクラを撫でていたが、その度に「ふにゃ〜」と気持ち良さそうな鳴き声が聞こえて来た。おいカマクラそこ代われ。
二階のリビングに到着すると、テーブルの上には雪ノ下が作ったらしい朝食が並べられており、香ばしい匂いが鼻腔を擽る。
「ほら、早く席に着きなさい」
「お、おう」
案の定家には誰もいなかったのは僥倖。しかしそうなると更に疑問が生まれてしまう。
「お前どうやって家に入ったの?」
「小町さんが入れてくれたけれど」
「何時からいたんだよ......」
「8時くらいかしら。その時にお義母さまとも挨拶を済ませておいたわ」
ん? なんか今『お』と『母』の間に『義』って付いた気がするけど気のせいだよね? てかこいつ母ちゃんと会ったのかよ。てことは親父とも会ってそうだよなぁ。
「今日はお仕事もお休みにしていたみたいなのだけれど、小町さんが塾に向かうのと一緒に出掛けてしまったわ。気を遣わせてしまったのかしら......」
「あぁ、うん。別にそうでも無いんじゃないかな......」
順調に外堀埋められてますねこれは。いや別に良いんだけどさ。
取り敢えず大人しく席に着いて朝食を頂くことにしよう。腹減ったし。
「んじゃまぁ、いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
メニューはシンプルなもので、鮭の塩焼きに卵焼き、味噌汁とあと白米。和食よりも洋食がイメージに合う雪ノ下なのだが、多分に漏れず非常に美味だった。
「ヤベェ、これ白飯何杯でもいけるぞ」
「ふふ、あまり焦って食べすぎると喉を詰まらせるわよ」
あっという間に白米の入った茶碗は空っぽに。俺がお代わりを言うよりも前に雪ノ下が茶碗を回収して白米をよそってくれる。
「どうぞ」
「......っ。さ、さんきゅ」
柔らかい微笑みを正面から直視してしまってつい言葉が詰まる。顔が赤くなってないか心配だ。最近全く会ってなかったから耐性が無くなってしまったのだろうか。つーか俺病み上がりの寝起きだし、まあ仕方ないよね、うん。
しかし、だ。雪ノ下が予想以上に優しい。
いやこいつが優しい奴だってのは知ってたけども。先日の会議室での一件についてお小言を頂戴するとばかり思っていたからなんだか拍子抜けだ。何も言われないに越したことは無いのだが、それはそれで逆に気にしてしまうと言うもの。
意識を失う寸前に見たこいつの泣き顔を鮮明に覚えてるからこそ余計に。
結局朝食中は雪ノ下も終始ニコニコとこちらを眺めているのみで、向こうから何か切り出してくる様な事は無かった。
もしかしてあんまり心配されてなかった? 流石にそれは悲しいぞ。
現在は食後のティータイム。雪ノ下の淹れてくれた紅茶を片手に雪ノ下と隣り合わせでソファにゆったりと腰を沈ませている。
「やっぱり、あなたのやり方は好きになれそうにないわ」
そんな折に発せられた言葉だった。
膝の上に乗せたカマクラを撫で視線もそちらから動かさずに。
胸にズキッ、と痛みが走る。
行動の結果だけを見るならば、俺が今回した事は過去の俺となんら変わりないもの。そこに持ち込まれた信念が違ったとしても、それは俺以外の誰にも理解しえぬことだ。
「私、怖かったのよ? あなたが倒れた時、あのままあなたが目を覚まさないんじゃないかって」
「......悪い」
このやり方で後悔なんぞする筈もないと思っていたのに。隣に座るこの少女を泣かせてしまったと言う事実だけで胸が引き裂かれるように痛む。
「ねぇどうして? どうしてまたそうやって一人でやろうとしたの?」
言い訳を並べるのは簡単だ。その方が効率がいいとか、たまたま仕事を溜めてしまってたとか、いくらでも浮かんでくる。
けれど、不安そうに揺れている雪ノ下の綺麗な瞳と目を合わせてしまうと、言い訳をするよりも先に本音で話してしまった。
「......お前が文化祭を成功させようって言ったからだよ」
だから柄にもなくやる気が湧いてしまって。自分でも思っていた以上に仕事のスピードが速くなって。気がつけばこいつらの何倍も仕事してて。結果体調を崩した。
雪ノ下の力になりたいと思った。こいつが願った事を叶える為に支えてやりたいと思った。他の誰でもない、俺が。由比ヶ浜でも一色でも無く、比企谷八幡が雪ノ下雪乃の為に。
俺の今回の行動理由なんてそれだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「ふふっ......」
照れ臭くなって視線を明後日の方に泳がせていると、耳障りのいい笑い声が聞こえてきた。馬鹿みたいに笑い転げるわけではなく、クスクスと静かに笑う声。
「なんで笑ってんだよ......」
「いえ、なんだかおかしくて」
「なにがだよ......」
「そもそも、あなたが倒れてしまっては本末転倒じゃない」
口元に手を当てて上品に微笑む彼女は、一頻り笑い終えた後に俺と目を合わせる。
「ねえ比企谷くん。どうして私が文化祭を成功させたいのか、分かってる?」
「どうして、って......」
思い当たる理由は勿論ある。だが、改めて雪ノ下にそう問われると俺の考えはもしかしたら間違っていたのではと思ってしまい、それを口にするのは憚れた。
「あなたと文化祭を楽しみたいからよ」
それを聞いた瞬間に、胸の奥から途轍もない嬉しさが込み上げてきた。
かつての彼女からは想像出来ないような酷く自分本位な願いを聞けたことに。その願いの先に俺がいたことに。
かつてない程の感情の渦が俺の内で巻き起こる。
ヤバイ、滅茶苦茶嬉しい。どうすればいいだろう。どうしたら、この言語化出来ない気持ちを彼女に伝えることが出来るだろう。
感情を己の中で持て余した結果、気が付けば俺は雪ノ下を抱き締めていた。
「ひ、比企谷くん?」
彼女の膝の上に乗っていたカマクラは急に寝床が動いたことに驚いて、ピョンと跳ねて何処かへと走り去っていく。
突然抱き締められた雪ノ下は一瞬驚いていたものの、またクスリと笑ってから俺の頭に手を伸ばして撫で始める。
「......ごめん、雪ノ下。それと、ありがとう」
口に出した言葉はとても短い簡素なものとなってしまった。そこに込められた気持ちの全てなんて他人に伝わるわけがないのだけど。
でも、今目の前で薄く微笑む彼女には全部伝わってるような。そんな気がする。
「馬鹿ね。あなたが私のために頑張ってくれた。私はそれだけでもこんなに満たされているのだから。謝る必要なんてないのよ」
お前こそ、俺が今どれだけ満たされているのか分かってないだろ。
思っても口には出さない。こんな恥ずかしい言葉を言ってしまえば茹で蛸が二つ出来上がるだけだ。
「だから、私の方こそありがとう」
明日死んでしまうのではないのかと思ってしまうほどに幸せだ。その幸せを手放したくなくて、腕の中の暖かさをもっと感じたくて、抱き締める力をキュッとキツくする。
んっ......、っと小さな声が上がったものの、拒絶の言葉は聞こえてこない。その事に安堵しつつ、彼女と同じように目の前の綺麗な黒髪を撫でる。
「あっ......」
「嫌だったか?」
平素よりも少し高い雪ノ下の声が聞こえた。あれ、もしかして八幡ちょっと調子に乗っちゃった? 髪の毛触るのはNGでした?
「いえ、違うの。寧ろ気持ちいいくらいよ。だから、続けて?」
ね? と、懇願するかのような声色。
一瞬死にそうになった。
なにこの子こんなに甘えた声出せるの? てかこんなに甘えてくるの? 雪ノ下さんキャラ崩壊してますよ?
しかしここで萌え尽きるわけにはいかない。撫でるのを続けてくれと言われたからには引き続き撫でてやらねば。
「んっ、ふぁ......あぁっ......」
おっかしーなー。頭撫でてるだけなんだけどなー。なんでそんな色っぽい声出してるの? え、本当に俺頭撫でてるだけだよね? 無意識の内になにかイケナイところに触ってるとかそんなToLOVEる起きてないよね?
「あなた、頭撫でるの上手なのね」
「まぁ、小町に偶にするし......」
「そう。小町さんが少し羨ましいわ。今度からは私のことも偶に撫でてね?」
この後めちゃくちゃナデナデした。
「なるほど。まさかあの相模が本当にそうなるとはなぁ......」
「ええ。あなたが倒れてくれたお陰で予想以上にスムーズにいけたわ」
「怪我の巧妙ってやつだな」
「今のは皮肉のつもりだったのだけれど」
俺の肩に頭を乗せた雪ノ下がため息混じりにこちらを睨んでくる。
因みにあの後お互いに顔真っ赤にして10分くらい無言の時間が続きました。流石にそれに耐えかねた俺が、俺が倒れた後どうなったのかを質問して今に至る。
更についでに言っちゃうと、雪ノ下が肩に頭を乗せてきたのは説明中とても自然に。気がついたらもうそこに雪ノ下の頭が乗ってた。こいつ俺の肩好き過ぎじゃない?
「だから、取り敢えずはもう大丈夫よ。あなたが何か余計なことをする必要はもうないわ」
「そりゃ良かった。これ以上働きたくなかったしな」
マジで今回は働き過ぎた。もう一生分の労働をしてしまったのではないかってくらい。反動でこの先の人生二度と働かなくても良いんじゃないかしら。
しかしそんな事を隣のこの少女が許してくれるわけもなく。
「何を勘違いしているのかしら? 書類仕事はまだ後少し残っているし、当日の見回りやタイムキーパーなどもやらなければいけないのよ?」
「えー、またタイムキーパーやらんとダメなの?」
「一度やっているのだから構わないでしょう? 私だって副委員長でも無いのに一色さんからオープニングセレモニー中の統括を任されているのだし」
それはダメだろ副委員長。確かに雪ノ下がやった方が色々とスムーズに行くとはいえ、仕事を他人に押し付けるのはどうなんだ。
「そう言えば雪ノ下さんは?」
「......姉さんがどうかしたの?」
「いや、前回は文実に顔出してたけどまだ見てないなと、思い、まして......」
本当にそれだけだから! だからそんな鋭い視線で睨まないで! 怖いから!
「姉さんなら一度顔を出しに来たわ。今回も有志で出るからと言って直ぐに帰ったけれど」
「そ、そうでしゅか......」
あまりにも怖くて噛んでしまった。だって本当に怖いもん。
「それと一つ教えておいてあげるけれど、恋人と二人きりでいると言うのに他の女性の名前を出すのは控えた方がいいわよ?」
「いやでも相模の時は」
「分かった?」
「ハイ......」
拗ねたようにこちらを見上げてくるその様はまるで幼い少女のようだ。こいつのこんな姿、由比ヶ浜でも知らないんだろうな。
見せてやりたい気もするが、俺の前だけで見せてくれるその姿を誰にも見せたく無いと言う独占欲もある。
「ふふ、分かればいいのよ。紅茶、淹れなおしてくるわね」
「ん、おう」
空になったティーカップ二つを持って雪ノ下は立ち上がる。
肩に乗っていた重みが離れて行くことに幾許かの寂しさを感じるも、それを顔に出そうものなら何を言われるか分かったもんじゃない。
台所へと向かう雪ノ下の背中を見ていると、突然雪ノ下が振り返ってクスリと微笑んだ。
「そんなに寂しそうにしなくても直ぐ戻るわよ」
「............」
やだ顔に出てた?恥ずかしすぎるだろおい。
紅くなってるであろう顔をプイと逸らして手で早くいけとジェスチャーする。
もう一度クスリと聞こえて来たのでもう本当どうしよう。ちょっと雪ノ下に惚れ過ぎじゃないの俺。
気を紛らわそうと立ち上がってリビングの本棚を物色する。ここにあるのは基本親父のもので、俺が自分で買った本は部屋の本棚にあるのだが、偶にここから拝借したりする。
ラノベの存在を知ってしまってからは殆どそっち系しか読んでなかったのだが、久し振りに普通の小説を手に取ってみてもいいかもしれない。
所狭しと並べられた蔵書の数々を見回していると、ふわりと、最近嗅ぎ慣れたいい香りが漂って来た。
「恋人と二人きりだと言うのに本でも読むつもり?」
「わひゃいっ⁉︎」
隣を見ると雪ノ下が紅茶を淹れなおしたカップを二つ持ってそこに立っていた。
お陰でビックリして超変な声出たんですけど。成る程、漂って来た香りの正体は雪ノ下の匂いでしたか。ってこれじゃただの変態じゃねーかよ。なんだよ嗅ぎ慣れたって。俺は由比ヶ浜間違えた犬じゃねぇんだぞ。
でも由比ヶ浜さんあんなに雪ノ下とくっ付いてたら雪ノ下の匂い覚えてそうだよね。
「突然鳴き声をあげないでくれるかしら。こっちが驚いてしまうじゃない」
「いや、鳴き声じゃないから。てかこの世のどこ見渡してもあんな鳴き声の動物いないから」
ゲンナリしつつそう返すと、雪ノ下はカップを一旦テーブルに置いてから再び俺の隣に立つ。しかもなんか妙に距離感が近いからさっきと同じ匂いが鼻腔を擽ってなんだか変な気分になってしまう。いや変な気分になったらダメだろ自重しろ俺。
「本当に本が多いのね」
「ここにあるのは全部親父が買ったやつだけどな」
「......私も一つ拝借して読ませてもらおうかしら」
「別に良いんじゃねぇの?」
顎に手を当てて考える素振りを見せる雪ノ下。少しの間そうした後に手に取ったのは、俺も一度読んだことのある恋愛小説。『僕たち青春してますよ!』感を全面的に押し出して来てるようなやつで、前に読んだ時は途中で蕁麻疹が出て来る寸前にまでなってしまったものだ。まあ話の作り方とか展開は悪くなかったので最後まで読んでしまったのだが。
しかし、雪ノ下でもそう言うの読むんだな......。
「なんか意外だな」
「? 何がかしら?」
「いやお前でもそんなん読むんだと思って。ほら、いっつも小難しそうなもん読んでるイメージだったから」
「あなたは私をなんだと思っているの? 私だって恋愛小説くらい読むわよ。それに、この本は一度だけ読んだことがあるの」
「じゃあ尚更なんでだよ?」
「今と昔では、色々と違った感じ方が出来そうだからよ」
悪戯そうに微笑む雪ノ下を見て、その言葉の意味を察してしまった。
今日何度目かも分からないが、またしても頬が紅潮してしまう。そろそろ体温上がり過ぎて蒸発して消えてしまうんじゃなかろうか。
「ほら、座って読みましょう?」
「お、おう。そうだな」
したり顔の雪ノ下に促され、適当にタイトルも見ずに本を取る。
隣り合わせで座るのは最早当たり前。今までどこぞに姿を消していたカマクラが雪ノ下の膝の上に飛び乗り、何度かカマクラをもふった後雪ノ下は本を開いた。
俺も素直に読書しますかね、と視線を手元に落とす。何も見ずに適当に取ったからどんな本でもバッチコイと思っていたのだが、まさかまさかの三国志ですか。いや好きだけどね三国志。無双持ってるし。王元姫ちゃん可愛いし。
まあこんな事でもないと改めて手に取って読もうなんて思わないし、精々楽しむとしますかね。
なんて思ってページを開き右手で本を持っていると、ソファの上に置いてある左手に這い寄る影が。
チラリと盗み見てみると、細く白い雪ノ下の指が俺の左手の指に当たっていた。こりゃ失礼と左手の位置を置き換えると雪ノ下の指は再びこちらへと這い寄って来る。
本に夢中であるはずの雪ノ下の横顔を見ても視線は真剣に活字を追っているだけだ。
なんと言うか、本当に不器用だなこいつ。
先程あれだけ抱きしめあったり、今まで何度か口づけだって交わしたと言うのに、手を繋ぐと言うことだけが口に出して言えないなんて。
それは多分、俺だって同じくそうであるのだろうけど。しかも今までの俺なら例え手が届くとしても伸ばそうとはしなかっただろう。
「......セクハラよ」
「なら通報でもするか?」
「いえ、今は気分ではないから辞めておくわ」
果たしてこれが変わったと言うことなのだろうか。手を伸ばし、離れないように繋ぎ止めておきたいと思えるようになってしまったことは。
重なった手と手を見て、そんな事を思いつつも改めて手元の本へと視線を落とした。