カワルミライ   作:れーるがん

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嫁度対決ラストです。つまり本当に最終回。


願わくば、彼と彼女の人生に多くの幸せを。

 料理対決が終了した後、材木座の亡骸をそのままに嫁度対決は次のステップへと移行する。

 

「では二回戦! 嫁度クイズ『こんな時、あなたならどうする?』です!」

 

 先ほど料理を振る舞った女性陣が長机に並んで座り、机の上にはフリップとサインペンが用意されていた。

 調達先が気になる所だが、聞いたところで教えてくれないだろう。

 因みに俺は参加しない。だってあそこに並ぶのなんか怖いし。それだったら戸塚の隣に座っていたい。

 

「これはあんまり深く考えずに、自分ならその場でどうするのか正直な答えを書いてね」

 

 陽乃さんの注釈に全員が頷きを返す。

 まさかとは思うけど、これ陽乃さんが問題考えてたりしないよね? ね?

 

「では第一問!『夫が会社をクビに⁉︎ まさかのリストラで家計に大きなダメージが......。夫は落ち込んでしまってハロワにも行かない』さあこんな時どうする?」

「問題の内容が重い......」

 

 なにこの問題? 考えたの誰ー?

 まあそこでニヤニヤ笑ってる大魔王ですよね。うちの妹がこんな問題考えるわけないし。

 いや、案外考えるか。

 そもそも一度目と問題違う時点で考えたの小町じゃないってわかる。

 解答者である女性陣を見回してみると、全員案外スラスラとサインペンを走らせていた。この程度の問題ならば悩む必要もないと言うことだろうか。

 そして四人が書き終わったのを見計らって陽乃さんが声をかける。

 

「それじゃあ順番に見ていこうか。いろはちゃんから順番にお答えドン!」

 

 いつものにこやかあざとスマイルを貼り付けた一色はフリップを立ててあざとボイスで断言した。

 

「離婚する」

 

 冗談に聞こえねぇ......。

 いや、確かに会社クビになるような男お断りかもしれんけどさ。いろはすもしかして旦那のことを自分の財布と思ってる?

 そして隣に移って次は由比ヶ浜。よいしょといいながらフリップを持ち上げた彼女は優しい表情でこう言った。

 

「今は頑張らなくてもいいよって慰めてあげる」

 

 うん。非常に八幡的にポイント高い解答だ。

 きっとハロワにも行かないと言うことは、それなりに気を沈ませていると言うことであり、そんな奴に頑張れと言っても余計に頑張れなくなるだけである。

 勉強しろって母ちゃんに言われるとやる気なくなるあれだ。

 ただ、由比ヶ浜の場合は慰め方がなぁ......。

 こいつ時折無自覚に地雷を踏み抜いてくるし。旦那が余計に凹まなければ良いのだが。

 お次は雪ノ下。冷めた表情でフリップを捲る。

 

「一生奴隷として家事に勤しんでもらう」

 

 怖い、怖いよゆきのん! 奴隷ってなんだよそれもう夫婦の体をなしてないじゃねぇかよ。

 しかし捉え方によってはそれって専業主夫なのでは? ......一回就職してからわざとリストラされようかな。

 そしてオチは平塚先生。

 

「朝まで飲み明かす」

 

 うーん。これはダメ人間ルート一直線ですね。そのまま酒に溺れて人生棒に振る未来が見える。

 平塚先生はそう言うダメ男でも矯正間違えた更生させようとする面倒見の良さを持ち合わせてはいるが、同時にそう言う男に引っかかりそうで不安でもある。

 

「取り敢えずいろはちゃんと静ちゃんはペケね」

「なんでですかー⁉︎」

「いやそりゃそうだろ......」

 

 当たり前なんだよなぁ。

 離婚は最終手段というか、臭い物に蓋理論ですよそれ。

 しかしこれ正解なんてあるのだろうか?

 そう思って二人に視線を向けると、小町が背後からフリップを取り出した。

 

「因みに小町的模範解答はこちら。『そもそもそんな人と結婚しない』です」

「問題の前提崩れちゃってるじゃねぇかよ......」

「煩いよお兄ちゃん」

「細かいこと気にしてたらハゲるよ比企谷くん」

「やめて、俺の生え際に憐れみの視線を投げつけないで」

 

 親父はまだ禿げてないから大丈夫、な筈だ。

 ていうかこの歳で禿げるとか悲しすぎる。そんな奴はさぞ毎日のように罵倒されてる奴に違いない。

 

「ではお次の問題に参りましょう!」

 

 随分と重い出題内容だったにも関わらず、小町は軽い感じで進行する。

 

「第二問!『今日は結婚記念日! 日頃の感謝も込めて贈り物をしたいけど、何を贈る?』では解答をフリップにどうぞ!」

 

 おぉ、一問目に比べると随分マシな問題が出てきたな。こういう感じのでいいんだよ。てか全部こんな感じでお願いします。

 

「それではお答えドン!」

 

 一問目と同じくトップバッターである一色は声の調子を確かめるように少し咳払いした後、さっき以上のあざとくて甘い声で解答した。

 

「プレゼントは、わ・た・し♪」

 

 うわぁ......。流石にそれは無い。それは無いよいろはす。新婚ホヤホヤの夫婦でもそんなのしないよ。寧ろそれで旦那の目が覚めるまである。

 

「手作りクッキー!」

 

 それもダメだよガハマさん。結婚記念日が命日とか誰も喜ばない。それじゃ目が覚めるどころか目を覚まさないぞ。

 

「センニチコウ」

 

 センニチコウ? 確か花だっけか。なんかの本で花言葉を見た事がある気がするが思い出せない。

 しかし、記念日に花を渡すなんて流石は雪ノ下。可愛らしいことをしてくれる。

 

「名作アニメBlu-rayBox」

 

 それ平塚先生が見たいだけですよね。

 いや俺も貰えたら嬉しいけど記念日にそれはダメでしょ。

 

「またまた個性的な解答が出揃いましたねー」

「ねえねえ雪乃ちゃん、センニチコウの花言葉ってなんだっけ?」

 

 陽乃さんが食いついたと言うことは、それの花言葉は大層な意味をお持ちになってらっしゃるのだろう。

 でもその花言葉がこの場で明かされたとしても辱めを受けるだけなので詮索しないであげて欲しいな!

 

「なんでもいいでしょう。気になるのなら帰ってから調べなさい。寧ろ今すぐ帰りなさい」

「相変わらず冷たいなー雪乃ちゃんは」

 

 素気無くあしらわれても大して懲りた様子を見せない陽乃さんも相変わらずのようですね。

 しかし、センニチコウか。帰って調べてみよう。

 

「では陽乃さん、模範解答をお願いします!」

「はいはーい。はるのん的模範解答はこちら! 『赤ちゃん』!」

 

 おい。

 何言っちゃってんのこの人。解答席に座ってる女性陣全員赤面してますよ。って平塚先生、あんたもかよ。

 雪ノ下はこっちをチラチラ見ないで。何人が良いかしらとか呟かないで。俺も恥ずかしくなっちゃうでしょうが。全くもう。子供は二人がいいと思います。

 

「ここまで見てきて、審査員の戸塚さんとお兄ちゃんどうでしたか?」

 

 俺が小っ恥ずかしい想像をしていると、小町がこちらに話を振ってきた。

 それを受けて戸塚がニコッと笑って答える。

 

「記念日に花を貰うのってなんだかロマンチックで素敵だな。ね、八幡」

「戸塚になら毎日贈るぞ」

 

 はっ、思わず即答してしまった。でも仕方ないよね。戸塚と会った日は毎日が何かしらの記念日なのだから、毎日花を贈らなければなるまい。

 

「出ましたよ先輩の病気......」

「まあ、相手がさいちゃんだからね......」

「ええ、あれはもうどうしようもないわ......」

「お二人ともそれでいいんですか⁉︎」

 

 うーん、これは諦められてますね。雪ノ下にも諦められてる辺り末期ということなのだろう。ただ恋人としては諦めて欲しくなかったかな!

 

「次の問題行くよー」

「次が最後の問題となります! 皆さん頑張って答えてくださいねー」

 

 咳払いをして声の調子を確かめた小町はまた小芝居を始める。

 

「『最近、夫と姉の仲が前よりも良くて頻繁に会ってるみたい......。まさか、浮気⁉︎』 さあこんな時あなたならどうする⁉︎」

 

 なんですかこの特定の人物を狙い撃ちにしたかのような問題は。

 解答者の中で姉がいるのなんか一人しかいないんですが。

 問題の内容にドン引きしながらも長机の方を見てみると、一色は鼻歌でも歌い出しそうな程楽しそうに書いており、由比ヶ浜はうんうん唸りながら、雪ノ下は冷めた表情で書いているが時折ニヤリと笑みを浮かべ、平塚先生はぶつぶつと何事か呟きながら指を鳴らしていた。

 ちょっとー、この女性陣怖いんだけどー?

 

「それではお答え、ドン!」

「慰謝料と養育費ふんだくって離婚後絶縁」

 

 本性が出てる一色。

 

「困る」

 

 言い方がもう困ってる由比ヶ浜。

 

「衆人環視のある公共の場で問い詰めた後泣く」

 

 書いてある答えとは裏腹に酷く冷め切った声と表情の雪ノ下。

 

「鉄拳制裁!」

 

 最早論外な平塚先生。

 答えの書かれたフリップを見渡してみて思わずため息が漏れる。どうしてこう、うちの女性陣は怖いことばかり思いつくのだろうか。

 

「泣くってなんだよ、泣くって......」

 

 中でも一番特異なのは雪ノ下の解答だろう。こいつが泣くとか想像できない。

 いや、もう既に何回か泣き顔見たことあるけどさ。

 

「だって、これが一番効果的でしょう? 誰にとは言わないけれど」

「雪乃ちゃんを泣かせたら多分私も泣くよ、比企谷君?」

 

 いやこの問題における雪ノ下の場合の姉って貴女の事ですからね。て言うかそれって遠回しな脅迫? やだ、千葉村の時に既に一度泣かせたなんて言えない。

 

「んー、みなさん良い線いってますが、小町的模範解答はこちら。『信じる!』 これ小町的に超ポイント高い♪」

 

 解答者全員がおー、と感心の声を上げているが、雪ノ下と由比ヶ浜は二度目なんだからこの答え知ってただろうが。

 いや、ガハマさんは忘れてたかもしらんけど。

 

「そんなんでいいのか?」

 

 戒めと警告を含めて小町に問いかけた。

 誰かを信じる、と言うのは存外に難しい事だ。それは諸刃の刃でもあり、裏切られた時のダメージは信じているほどに大きくなる。

 今でこそ、俺にも無条件で信じられるような相手が出来たものの、基本的には他人なんて疑ってかかるのが正しい。それが自分に対する絶対的な防衛措置になるのだから。

 

「うーん、小町が好きになる人は浮気しそうにないと言うか、変に律儀で真面目な捻デレさんだと思うから心配いらないと思うな」

「いるかよ、そんなやつ......」

 

 律儀で真面目な捻くれ野郎ってどんなやつだよ。本当にいるのなら会って見たいね。そして俺の小町を嫁に貰う代償として泣くまで殴るのをやめない。寧ろ泣いても殴り続けるまである。

 

「案外いるものですよ」

 

 何故そこでみんな揃ってこっちを見るんだよ。

 

「では嫁度対決はここまで! 最後にアレをやって締めましょう!」

 

 いや、だから結局嫁度ってなんだったの......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽乃さんからとある服を渡され、それに着替えて先に部室に戻っていろと言われた。

 現在は言われた通り制服から着替えて部室で一人待ちぼうけだ。

 戸塚は部活の合間に抜けてきてもらっていたらしく、既に部活へと戻ってしまった。

 俺が今着ている服は結婚式で新郎が着るフロックコート風のあれ。所謂『タキシード』と言うやつである。

 本来タキシードとは夜間、宴席などで用いられる略式の礼服であり、新郎が着る服をタキシードと呼ぶのは日本だけらしい。

 本場のイギリスや欧州諸国ではディナー・ジャケットやスモーキングなんて呼ばれている。

 さて、何故俺がこれを手渡されて、あまつさえ着るはめになってしまったのか。家庭科室での小町の『締めのアレ』という言葉に関係しているのは考えなくとも分かる。

 そして一度目の世界での嫁度対決、この場にいない女性陣。導き出される答えはたった一つだろう。

 

「ごめんね比企谷君、お待たせ」

 

 これからの展開に期待半分恐れ半分な心持ちでいると、部室の扉が開いて陽乃さんと由比ヶ浜、一色と小町が入ってきた。

 平塚先生がいないのは予想外だったが、恐らくあの人が割り振られたであろう役を考えると悲しくなって来たのでこの思考は断ち切ろう。

 

「今日雪ノ下さんが来たのはこれが目的ですか?」

「なんのことかな?」

 

 問うてもニコニコと笑顔で受け流される。

 超絶シスコン大魔王なこの人の事だ。今日来たのは最初からこれが目的だったのだろう。

 どうせこのタキシードも雪ノ下家の力を使ってちょちょいのちょいだったに違いない。

 

「ヒッキー、ちゃんと胸張ってないとダメだよ!」

「先輩タキシード似合わないですねー」

「うぅ、お兄ちゃんがついに貰われる日が来るなんて......。小町嬉しくて涙が出て来たよ......」

 

 後ろから飛んでくる野次を右から左へ華麗に聞き流していると、再び部室の扉が開かれた。

 白衣を脱いでスーツ姿になった平塚先生にエスコートされて入って来た雪ノ下は、純白のドレスに身を包んでいた。

 ドレス自体はオーソドックスなタイプのものだ。一度目の時平塚先生が着ていたものに近い。

 背中の部分は大きく開かれ、そこから流れるように見える体のラインは華奢な彼女をより美しく演出している。

 ベールの向こうに隠された顔は化粧を施しているのだろう。いつもより少し大人びて見える。

 その姿は真っ白な雪のように儚く、美しい。

 雪ノ下雪乃と言う少女の持つ魅力全てに打ちのめされた。

 自分は本当にこれ程までに綺麗な子の恋人なのかと、現実を疑うまであった。

 

「酷い顔ね」

 

 気がつけば雪ノ下が目の前にいた。

 恐らく間抜けな顔をしているであろう俺を見てクスリと微笑む。そんな顔ですら、いつも見ている笑顔とは違って見えて、なんだか現実味が薄く感じる。

 

「まるで夢でも見てるかのような表情をしてるわよ?」

「......強ち間違ってもねぇよ」

 

 実際、今この瞬間は夢なのではないのかと思ってしまう。

 平塚先生の腕から離した手をそのままこちらに差し出される。

 割れ物を扱う時よりも丁寧にその手を取り、陽乃さんが待っている教卓まで歩いた。

 距離にして数メートルも無いはずなのに途轍もなく長く感じてしまう。

 教卓の前まで辿り着くと、陽乃さんが咳払いを一つして真面目くさった顔で口を開いた。

 

「汝、比企谷八幡は、この女雪乃を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「ち、誓いましゅ......」

 

 噛んでしまったのはご愛嬌。だって仕方ないじゃん。別に本物の結婚式ってわけでもないのに隣に立つ彼女の存在だけで緊張がマックス大変身してるんだから。

 

「汝、比企谷雪乃は、この男八幡を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

 

 情けない俺とは違い、雪ノ下は平素と同じ少し冷めたような、しかし確かに熱を帯びた声で返事をした。

 て言うか即答っすか。ちょっと吃った挙句噛んじゃった俺がマジでバカみたいじゃん。

 

「指輪の交換、は今は無理だから、誓いのキス行っちゃおうか」

「え」

「え」

 

 二人して神父役の陽乃さんを見る。さっきまで真面目な顔をしてたのに、今や有無を言わせぬニコニコ笑顔だ。

 誓いのキスってあれですか。今この場でですか。それはちょっとハードル高すぎじゃありませんこと?

 観客側をチラリと見ると、小町と一色はキラキラした目で期待してますよと言わんばかりの顔をしており、由比ヶ浜はあははと苦笑いしつつもちゃっかりカメラを構えて、平塚先生はなんかもう色々と不安定だった。

 どの辺りが不安定って、なんか泣きそうな顔してるのに必死に笑顔を繕ってるし、でも目は笑ってないし、ポケットに突っ込んだ拳は恐らくギリギリ音を鳴らしてるし。

 本当早く誰か貰ってあげてください! てかなんでこの人の前でこんなことしちゃったの! 後で殴られるのは俺なんですよ⁉︎

 

「ほら比企谷君、雪乃ちゃんも待ってるよ?」

 

 隣に視線を戻すと、そこには頬を真っ赤に染めながらも上目遣いでこちらを見てくる雪ノ下が。

 覚悟を決めるしか、無いのだろうか......。

 

「...............ふぅ」

 

 長い長い深呼吸を一つして、観客側に向き直る。突然黙りこくった俺を見て観客四人はおろか、雪ノ下と陽乃さんもどうしたのかと不思議そうに首を傾げている。

 そんな面々に、俺は堂々と大きな声で言ってのけた。

 

「俺はな、こう言うなんでもノリと勢いに任せようとする頭の悪い大学生の飲み会みたいなノリが!いっちばん!大っ嫌いなんだよ!寧ろ憎んですらいる!!」

 

 突然の宣言に誰もがポカンと呆けた表情をしていた。あの陽乃さんですら。

 それを好機と捉え、隣の雪ノ下をヒョイとお姫様抱っこで担ぎ、足早に部室から退出した。

 ふっ、決まったぜ......。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!比企谷くん......!」

 

 部室を出た後特に行く宛も無く、特別棟の廊下を彷徨っていると、我に帰った雪ノ下からお声が掛かった。

 それと同時に俺も正常な思考を取り戻し、雪ノ下を地面に下ろす。

 

「何やってんだ俺......」

「自分のやったことに自分で疑問を持たないでくれるかしら......」

 

 冷静に考えたら別に雪ノ下連れて部室から出る必要全く無かったじゃん......。しかもよりにもよって陽乃さんがいる前でとか......。

 

「全く、帰った後が怖いわね」

「マジそれな......」

 

 しかし、あまりここに長居するわけにもいかない。時間が時間なので校舎に残っている生徒は少ないと思うが、万が一にも今の雪ノ下を見られるわけにはいかない。と言うか見せたくない。

 

「それで、私と誓いのキスをするのが嫌だった比企谷くん」

「やけに嫌味ったらしく言ってくれるじゃねぇかよ」

「あら、違うの?」

 

 クスクスと笑う雪ノ下はどこか楽しそうだ。

 こいつもしかして今のシチュエーション楽しんでない? まあ結婚式から逃げ出す花嫁の役を演じられた、と解釈してしまえば中々出来るもんでもないしな。

 しかし、雪ノ下の言葉にはしっかりと反論せねばなるまい。

 

「別に嫌だったわけじゃねぇよ。ただ、なんだ。こう言うお遊びで誓いのキスなんてしたくないっつーか、ちゃんと来るべき時の為に置いておかないとっつーか......。そもそもそのベールは生まれてから今までの間親から受けた愛情を形にしたものであって、それを捲る度胸が今の所俺にはないっつーか......」

「つまりあの土壇場でヘタレた、と言うことね」

「うっ......」

 

 当たらずとも遠からず、どころか直撃してた。

 まあ確かに端的に言ってしまえばヘタレてしまったと言うことですね。なんか、ごめんね?

 

「まあ、その方があなたらしいと言えばらしいのでしょうけれど。それに、その言い方だと来るべき時が来たら、してくれるのよね?」

「......もしその時が来たらな」

「なら誓いのキスはその時の楽しみにしておいてあげる。でも......」

 

 そう言って自らベールを捲った雪ノ下は、一気に俺との距離を詰めて来てそのままゼロにした。

 あまりにも突然の出来事過ぎて避ける暇すら無かった。

 

「......期待させておいてそのまま何もしないだなんて、つまらないでしょう? これは私が今したかったから。だから変に責任感を持つ必要も無いわね」

「......そうですか」

「ええ、そうよ」

 

 尚もクスクス微笑む雪ノ下。

 その顔はありふれた幸せを噛みしめる普通の女の子だ。いつかの未来に想いを馳せているのだろう。

 いつか、なんて不確定な未来を指し示す言葉ではあるが。

 それでも、いつか。

 この少女と誓いを交わす事が出来る未来があるのなら。

 願わくはその未来が幸多からんことを祈っておこう。

 

 

 

 




と言う事で、これにてハーメルンでのカワルミライの更新は一旦終了となります。
現在渋の方で修学旅行編を更新している途中なので、良ければそちらもどうぞ。修学旅行編全部書けたらこっちに投稿するかもです。
ここまで読んでくださった方、評価やコメントをくださった方、ありがとうございました。
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