機動戦士ガンダムSEED DESTINY(エクステンデッドハッピーエンド)   作:筆先文十郎

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ユウナファンにお願いします。
今回のオチを考えたのは筆先文十郎の大学時代からの親友で『シーマ・ガラハウに成り代わった女』の協力者の柊竜真です。
そのことを理解した上で読んでください。


ユウナはカガリを振り向かせたい

 オーブ トダカの部屋

「トダカ!」

 ノックもせず入ったユウナにトダカは目を大きく見開く。そんなトダカの様子を気にする余裕もないユウナは近づく。

「トダカお願いだ! 僕を鍛えてくれ!!」

「と、突然どうしたのですか……ユウナ様?」

 涙目で自分にしがみつくユウナに、トダカは困惑した表情を浮かべる。

「聞いてくれトダカ! ついさっき僕は見てしまったんだ。カガリがあのアスラン・ザラ(コーディネイター)と楽しげに話している姿を。……僕には一度たりとも見せなかった笑顔を、あのコーディネイターに向けて!!」

 その時の情景を思い出したのだろう。ユウナの顔が怒りと憎悪で歪む。そして再び悲しみに包まれる。

「……」

 呆気にとられるトダカにユウナは続ける。

「トダカ……僕は気づいたんだ。僕にとってカガリは『自分のために利用できる女』という存在でしかなかった。だけど……僕は本当はカガリのことが大好きなんだって……今頃になって気がついたんだ!!」

「……」

「あんなアスラン・ザラ(ヅラ)とかアレックス・ディノ(デコ)とか……石○彰(中の人)繋がりで『ヅラじゃない(かつら)だ』と髪の毛を気にするような名前の奴に負けたくないんだ。だからお願いだ、トダカ。……僕に力を貸してくれ!!」

 そう言ってユウナは膝小僧を地面につけ猛烈な勢いで頭を下げる。

(……この男は本気なんだな)

 自分に頭を下げるユウナに、トダカはぼんやりとそんなことを考えた。

 オーブ五大氏族に格上げになったセイラン家に生まれただけで国を背負う覚悟もなければ実力もない、自分より下の者は奴隷としか思っていない自分勝手なお坊ちゃま。

 それがユウナ・ロマ・セイランに対するトダカの印象だった。その自分勝手でプライドの高いお坊ちゃまがこうして自分に頭を下げている。

 

 好きな女性を振り向かせたい。

 

 その一心で。

 トダカはゆっくり目を閉じる。

(この男とカガリ様をくっつけるようなことをして……問題ないだろうか)

 ユウナがどれほど自分を鍛えたところで、父親のウズミに勝るとも劣らない風格を持つに至ったカガリ・ユラ・アスハを振り向かせることはできないであろう。そして何より目の前の男はいざとなれば自分を責任をなすりつける生け贄としか思っていない。だが自分に甘く他人に厳しいユウナがプライドを捨てて、下だと見下している自分に頭を下げて教えを()うている。それを無下にすることもできなかった。

 トダカはゆっくりと目を開ける。

「……ユウナ様、覚悟はおありなのですね? その言葉に嘘偽りはないのですね?」

「覚悟なんてとっくに出来ているよ!!」

 涙の溜まった瞳の奥底には燃え上がる様な決意があった。

 それを見てトダカも覚悟を決めた。

「わかりました。このトダカ、ユウナ様のその想いを成就(じょうじゅ)させるべく全力をもってご協力いたします。泣き言は一切聞きませんからね!!」

 こうして トダカによるユウナ改造計画がスタートした。

 計画遂行の第一歩として数人の部下を呼び寄せたトダカが最初に行ったこと。それはユウナの部屋からゲーム機などの娯楽品を処分することだった。

「何をするんだよトダカ!?」

 抗議するユウナを尻目にトダカは「構わず続けろ」と部下たちに指示を出してからユウナの方へ振り返る。

「まずユウナ様には徹底的に自分の生活を改めてもらいます。己を変えるということは今いる自分の立場から抜け出すということです。そのためには鍛練の時間を奪う障害となるものは撤去させてもらいます。また睡眠前にデジタル機器から発せられるブルーライトは覚醒作用をもたらし睡眠を阻害することが様々な研究により明らかになっております。故にそういった類のものは問答無用で撤去させていただきます」

「だ、だからって──」

「アスラン・ザラに負けてもよろしいのですか?」

「う……」

 その言葉にいうのは言葉を詰まらせる。

 

 カガリが他の男に奪われる。

 

 カガリを本当に愛していたと気づいてしまったユウナにそれは許せないことだった。

「わ、わかったよ……さっさと処分してくれ!!」

 ユウナは歯を食い縛った。

 その後公務のため、トダカの指導は一旦中断。会議などの公務を終えたユウナは食事を取るため部屋に戻る。

「今日の昼ご飯は何かな……え?」

 机に置かれた料理を見てユウナは目を疑った。

 そこには少量のご飯にほうれん草のおひたし、具だくさんの味噌汁、肉少なめの肉じゃがと贅沢な生活が許されるセイラン家では100%見られない、栄養バランスが整えられた庶民のご飯と言うべきものが並べられていた。しかも量は少ない。

「誰だこんな料理を作らせたのは!?」

「私です」

 ユウナが振り返るとそこには厳しい表情でユウナを見るトダカの姿があった。

「どういうことだトダカ!!」

「食は睡眠や運動と同様に人体を形成するものだからです」

 声を荒げるユウナにトダカはきっぱりと言う。

「太古の昔から人間は飢餓(きが)と戦っていました。故に人間は食べられない場合に備えてエネルギーを溜め込む体質に長い時間をかけて進化してきました。そんな飢餓に耐えるように進化した人間がユウナ様のように食べていたらどうなります? 必要以上のエネルギーをため込んでしまい肥満や糖尿病などの病気を(わずら)ってしまいます」

「う……」

 何の反論もできず言葉を詰まらせるユウナにトダカは続ける。

「また少食は様々なメリットをもたらします。満腹で戦いに臨むボクサーがいないように満腹まで食べてはいいパフォーマンスなど出せるわけがありません。また1日3食では糖質やカロリーを必要以上に摂取しやすくなります」

「……」

「故にユウナ様には食事の量を制限し腹八分目を心がけていただきます。よろしいですね?」

「……で、でも」

 反論しようとするユウナにトダカはトドメとさす。

「ユウナ様。太っている人間は『食欲の赴くままに食べるから自制心がない』と判断されがちです。これではカガリ様にあきれられるでしょう」

「う……」

 カガリの名前を聞いてユウナは想像してしまう。ブクブクに太った自分を見て「お前という男は自分の体も管理できないのか……」という言葉を残して振り返り、自分が忌み嫌うアスラン・ザラと仲良く歩いていく姿を。その際、憎くきコーディネーターが自分に向けて『俺のカガリに恋心を抱くこと自体間違いなんだよ』と侮蔑の笑みを浮かべて去っていく姿を。

「……わ、わかったよ!!」

 アスラン・ザラに負けたくない。その思いがユウナの反発したい気持ちを抑えつけた。

 黙々と目の前の食事を完食し仮眠を取らされた後、机に戻ったユウナの前に百科事典ほどの分厚さの本が置かれていた。

「なんだこれは?」

『読めばわかる政治哲学』という本を持ちながら、ユウナは傍らに立つトダカに尋ねる。

「30分後に行われる次のトレーニングまでにこの本を読み感想を書いてもらいます。そうやって時間を区切ることで締め切り効果と言う目の前のことに集中しやすくなり、また本を読み感想を書くというインプットとアウトプットすることによって記憶を定着させやすくなります」

「いや僕が聞きたいのはそういうことじゃなくて、何で僕がこんな本を読まないといけないのかということなんだよ!」

「カガリ様は感情的になりやすい所があります。そこをユウナ様がサポートすることでアスラン・ザラとの差別化を図ることができます。それはカガリ様にアピールするストロングポイントになります」

 

 憎きアスラン・ザラと差別化でき、かつカガリにアピールすることができるストロングポイント。

 

 ユウナのやる気に火がついた。

「うおおおぉぉぉっっっ!!」

 次にやらせたことは ジャージ姿に着替えさせ 強い負荷の筋トレを20秒行っては10秒休むというトレーニングを4種目、2周分繰り返しやらされていた。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……!!」

 大量の汗をかき、少しでも多くの酸素を取り込もうと口から舌を出し、肩で息をするユウナは傍らに立つユウナを恨めしそうに見る。なんで僕がこんなキツイことをしなければならないんだよ、と。

「ユウナ様は公務でお忙しいお方。そんな方には効率的に体を鍛えるHIITというトレーニングが向いているといえましょう。このHIITは一定時間きつい筋トレをすることによって筋肉中の糖を消費し、トレーニング後、長時間にわたって脂肪が燃焼しやすい状態を維持しやすくなります。また大きい筋肉を使うので脂肪燃焼量を一気に増やすことが可能になります」

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……!!」

 

 違う。僕が聞きたいのはそうじゃなくて! 

 

 自分を見るユウナの目にトダカは続ける。

「オーブは中立国。中立は力があって初めて成り立つのです。その国のトップに立つカガリ様の隣に立つ男が貧弱でどうするのです! カガリ様を振り向かせたいのであればまず己を鍛えることです!!」

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……で、でも──」

「アスラン・ザラに負けてもよろしいのですか?」

「う──」

 何か文句を言おうとしたユウナの言葉に間髪入れずにトダカが言い放つ。

「……わ、わかったよ! もう文句は言わない!!」

 その後再び公務に戻ったユウナが全てを終わらせた頃にはすでに日は暮れていた。

「さ~て、何しようかな」

「寝てもらいます!」

「うわっ!? と、トダカ!?」

 忍者のようにいつの間にか部屋にいたトダカにユウナは声を上げる。

「朝は心身ともに疲労が少なく人間が活動するのに最も適した時間です。日が昇る頃には多くの公務をこなさなければならないユウナ様にとって自分自身を鍛え上げることができる絶好の時間と言えます」

「でも──」

「アスラン・ザラ」

「わかった! 寝る! 寝るよ! 畜生ッ!!」

 こうしてユウナはパジャマに着替えるとすぐに就寝についた。

 そしてトダカの予告通りユウナは朝から様々なことをさらされた。感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わるセロトニンの分泌を促し体内時計を整えるためと肌寒い朝15分の散歩から始まりトダカが用意した栄養バランスの取れた少ない食事を終えた後、普段の公務。その合間に休憩と政治家としての勉学、筋力トレーニングを課せられた。

 

 アスラン・ザラに追いつき カガリ・ユラ・アスハを振り向かせる。

 

 そのためにはわずかな時間も無駄にはできなかったのでそれは仕方がないといえた。

 それでも普段の自分の生活からかけ離れた鍛錬漬けの生活にユウナは文句を言うも「アスラン・ザラ」という反論の前には渋々従うしかなかった。

 

 なんで僕がこんなことをしないといけないんだ!? 

 

 自分から願い出たとはいえ自分に様々なことを課すトダカを恨みながら言われたことをこなす。そんなある日。

「え?」

 シャワーを浴びるために服を脱いだユウナはあることに気づく。優男と言われていた自身の体に筋肉がつき引き締まっていたのだ。

「……」

 試しに上腕二頭筋に力を入れてみる。そこには力強い力こぶが自己主張をしていた。

「……!!」

 ユウナは言葉にできない喜びに浸った。トダカが言ったカガリの隣に立つことができる男に近づいていると実感したからだ。

 その日を境にユウナの意識は変わっていった。トダカの課した訓練には何の意味があるのかを考えながら黙々とこなしていった。今までなかった自信は他者を認める余裕を生み出し、今まで下に見ていた部下にもユウナは積極的に接するばかりか「悩み事があるんじゃないか? 僕でよければ相談に乗るよ」と気に掛けるようになり、父であるウナト・エマ・セイランが間違ったことを言えば「それは違う!」と言うようになった。

 情けない言動ばかりが目立つ無能なボンボンという今までのユウナと違う、今のユウナの姿にトダカを始めとする部下たちの印象は良い方向へと変わっていった。

 そして月日は経過し、トダカのユウナ改造計画から半年後。

「カガリ!」

「ん?」

 廊下を歩いていたカガリは振り返る。そこに立っていたのは細いウエストに驚異的なまでに発達した背中による逆三角形の肉体と、ボディビルダーの大会に出れば優勝確実の黒光りした筋肉隆々の大男に己を鍛え上げたユウナ・ロマ・セイランが立っていた。

「どうだいカガリ? 生まれ変わったこの僕を!」

 様々なポージングをして自慢の筋肉を見せつけるユウナに、カガリはポツリと言った。

「……誰だお前?」

 

 ガーン

 

 そんな効果音が聞こえてきそうなほど大きく口を開いて膝から崩れ落ちるユウナ。そんなユウナを物陰から見守っていたトダカは

「少しやり過ぎたか」

 とつぶやくしかなかった。

 

 

 

 余談になるが。後に筋力増強とともに自分より身分の低い者でも自分より優れているのならそれを認める人間性を身につけたユウナは、オーブの国民・軍人から信頼を得て、瞬く間にオーブでカガリに次ぐナンバー2の地位に登り詰める。

 数年後のテロリストによるカガリ・ユラ・アスハ襲撃事件では護衛が凶弾で次々と倒れる中、鋼のような筋肉でカガリの命を奪おうとする銃弾を受け止め一滴の血を流させることなくカガリを守りきった。

 その翌年。カガリがプラントの訪問のためにオーブを留守にした時を狙い地球連合軍がオーブに侵攻した際には

 

 オーブは一向にかまわんッッ!! 

 

 と降伏勧告を一喝。徹底抗戦の構えを見せた。降伏勧告を拒否された地球連合軍がオーブへ攻撃を開始した際には信頼するトダカに迎撃の指揮を任せ、自身は国民に被害が及ばないように的確な避難指示を出しつつ、迎撃する兵士・将官を鼓舞。カガリが援軍と共にオーブに駆けつけるまでオーブを守り抜いた。

 防衛成功後にカガリから労いの言葉をかけられた際に『自分はただ命令しただけ。連合の侵攻を防ぐことが出来たのはオーブを愛する国民とトダカを始めとする軍人が心を一つにしたおかげ。そして迫りくる強大な敵にも立ち迎えるようにオーブを導いたアスハ代表の人徳によるもの』と発言。自分の功績を誇るのではなくオーブ国民と軍人、そしてカガリを立てる発言は彼の信頼をより強固にし、また彼の人間性を際立たせるものだった。

 その後もオーブとカガリの腹心として表立つことなく尽力する彼を多くの人は『獅子の盾』、『オーブの守護神』と畏敬をもって呼び、ユウナもその声に応えるようにオーブに尽くしていくのだが、それはまた別の話である。




繰り返しになりますが。今回のオチを考えたのは筆先文十郎の大学時代からの親友で『シーマ・ガラハウに成り代わった女』の協力者の柊竜真です。
私が
「(板垣恵介先生の)刃牙シリーズでユウナを筋肉マッチョにさせてカガリを呆れさせる話を思いついたのだけど誰がいいと思う?」
と尋ねた際に
「ジャック・ハンマーか(ビスケット・)オリバじゃない?」
と返事が返ってきたので
「あ、やっぱりオリバが出てくるよね♪」
とオリバになったのです。
ユウナファンの方に重ね重ね申し上げます。今回のユウナの変貌は柊竜真の考案であり私、筆先文十郎には一切責任はありません。怒りや文句は柊竜真にお願いします。

参考文献
川田浩志著:『世界一効率がいい最高の運動』
青木 厚著:『「空腹」こそ最強のクスリ』
若井朝彦著:『江戸時代の小食主義――水野南北『修身録』を読み解く』 
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