機動戦士ガンダムSEED DESTINY(エクステンデッドハッピーエンド) 作:筆先文十郎
ディアッカ・エルスマン。現在は最低限の防衛の軍事力として残されたコロニー警備隊の元ザフト軍の軍人である。警備隊の隊長を務めるイザーク・ジュールの右腕としてコロニーの治安維持に努める彼は暇になった時間を使い趣味の日本舞踊にいそしんでいた。
そんなある日のことだった。日本舞踊の稽古の帰りの路上でディアッカは人だかりを見つけた。
「なんだ、ありゃあ?」
気になったディアッカが覗き込む。そこには腰に日本刀を帯び、真っ黒な
「はい、次!」
男の呼びかけに数人の観客たちが男に向かって空き缶やタバコの吸い殻などを投げる。次の瞬間
シャキーンッ!
男が手にした刀から鋭く走る音が周囲に響き渡る。それと同時に男に向かって投げられた大小様々なものが細切れになったかと思うと地面に落ちた。
その光景に観客たちが歓声をあげる。
男は「ありがとうございます!」と頭を下げながら真っ二つに切られたものを素早く片付ける。
「続きまして……」
男は奇妙な仮面をかぶると近くに置いたラジカセのスイッチを入れ軽快な音楽が流れると、男はその場でうろうろと歩き出す。
そして男がおもむろに服の袖で顔を隠して腕を下ろした次の瞬間。観客が鳴り響くばかりの歓声を上げた。
奇妙な仮面から一変し、
「なんだ、あれすげぇ!!」、「どうなってるんだ!?」、「一瞬で仮面が変わったわ!!」
どよめく観衆の中でディアッカは小さくため息をついた。ディアッカは男が観客に見せた技を知っていたからだ。
(日本舞踊での交流会で見たことがある。あれは中国発祥の伝統芸能の一つ、
ティアッカの予想通り、男は再び瞬時に別の面に付け替える。
賞賛する観客たちを尻目に予想通りの光景にディアッカは心の中で呆れかえる。
「帰るか」
そう思った瞬間、
「え、嘘……だろ…………」
男が次に変えた姿にディアッカは驚愕した。
隈取の仮面から緑色の髪に少女のような大きな瞳をした気品漂う甘い顔立ちの少年の顔に変わったからだ。
その姿にディアッカは思わず呟く。
「ニコル……」
ニコル・アマルフィ。
かつて戦場を共にし、15歳という若さで亡くなった戦友。165㎝の二コルよりも低い、150㎝前後と思われる小柄な体格と袴姿でなければ二コル本人だと誤認するほど瓜二つだった。
「…………」
ディアッカが戸惑っている間にも男の動きは止まらない。男は懐から扇を取り出すとバッと広げ頭を観客に見られないように隠すと数秒でパチンと扇を閉じる。
再び起きる観客のどよめき。
そこにはダークブルーにミドルヘアとグリーンの瞳が特徴的な青年、アスラン・ザラの顔があった。
男は袖で顔を隠し、腕を下ろす。
そこには切りそろえられた銀髪に強気の切れ長の瞳の青年、イザーク・ジュールの顔があった。
その後。男はディアッカのかつての上司で金髪と仮面が特徴の男、ラウ・ル・クルーゼに顔を変えて仮面に手をかける。
バッ!
仮面を外した瞬間、大量の鳩が空へと飛び立つ。視線を男に戻すとそこにはお尻まで届くピンク色の髪の歌姫、ラクス・クラインの顔をした男の姿が。
真っ黒の袴姿のラクスは足を交互に滑らせ前に歩いているように見せながら弧を描くように後ろへ歩いたかと思うと床を滑っているかのように横へスライドさせる。観客が「おぉ!」と声を漏らすと今度は地面から数㎝ほど宙を浮いているかのようなステップで観客をドッ! と湧かせる。
「え、おいっ!」
足元にばかり視線を向いていた観客の中で一人の客が声を上げ指をさす。それに気づいた観客が、何度目かの驚愕の声をあげる。
男の顔がラクスの顔からダークブラウンの髪色の柔和な青年、キラ・ヤマトへと変わっていたからだ。
宙を浮いていると錯覚するステップを止めて、男は色鮮やかな和傘を取り出しバッ! と広げるとすぐさま閉じる。
そこにあった顔はキラではなく、癖のある黒髪に真紅の瞳が印象的な青年、シン・アスカになっていた。
観客がどよめく中。男が観客一人ひとりの顔をじっくり見てひとりの男に見つめると、男に向けて指をさす。
「え?」
指をさされて思わず声を漏らす男、ディアッカに観客の目がいく。
(な、何をする気だ?)
ディアッカが戸惑う中、男が傘を広げて一回転する。
「嘘だろ、おい!!」、「え、嘘っ!?」、「マジかよ!?」
数々の顔に瞬時に変え、観客を驚かせ続けた男は一番の驚きの声をあげさせる。そこにいたのは
「グゥレイトォ!」
顔だけでなく肌や体格、声まで酷似した、決めポーズを決める真っ黒な袴姿の
顔だけでなく肌や体格、声まで変えるという男の変身に、顔だけ変えると思い込んでいた観客は度肝を抜かれ、二人のディアッカを高速で交互に見る。
「…………」
仮面を瞬時に変える変面にはない髪型まで変える技巧、そしてそのさらに上をいく体格や肌色、声までも自身へと変えた男にディアッカは
歓声、驚愕、呆気の観客を前に音楽が流れ終わる直前、傘を取れないように地面に転がした袴姿のディアッカは近くの観客からコートを借りるとマントのように
コートが男の姿を一瞬だけ隠すマントの役割をする。男が再び正面に戻りふわりと浮かんだコート重力で下に落ちる。そこには
「はっ!」
演奏が終わると同時に手を大きく広げる、最初の男の姿があった。
割れるばかりの観客の拍手と喝采。その一人だったディアッカは静かに群衆から離れた。
(あの方は俺の想像のはるか先の技とダンスで観客の心を鷲掴みにした。あれほどの技術、さぞかし血が滲む……いや、命を何度も落とすくらいの練習をされたに違いない! 俺もあの方に負けない、否! あの人を超えるくらいの練習をせねば!!)
熱い想いを心に宿して。
機動戦士ガンダムSEEDFREEDOMの後日談、純愛のワルキューレという小説も投稿しているので読んでいただけると幸いです。