機動戦士ガンダムSEED DESTINY(エクステンデッドハッピーエンド) 作:筆先文十郎
ジブリ―ル別荘
「マックス。花々が一番見える場所に椅子とテーブルは用意したかい?」
「はい、言われた通りに!」
「よろしい。あ、アンジェリカ。お茶とお菓子はどうだい?」
「はい、この日のために色々と用意しました」
「ありがとう」
手入れが行き届いた色彩豊かな庭が広がる別荘の主、ロード・ジブリ―ルはメイドや執事達に色々と指示を出していた。
世界を裏で操る軍産複合体『ロゴス』の一員で反コーディネイター組織『ブルーコスモス』の当主、ロード・ジブリ―ル。
その気になればコーディネイターを滅ぼす所まできた局面で、愛に目覚めたジブリ―ルは『ナチュラルとコーディネイターは共に歩くべき』と武装解除させたものの殲滅までいかせなかった。
軍事産業的な側面が強いロゴスを『おはようからおやすみまで昨日まで世界になかったものを』をコンセプトに兵器開発で培った「革新技術」を平和利用。戦闘機用の冷却技術を応用した冷蔵庫や装甲素材を応用した超軽量フライパンなど様々な製品を世に送り出し、ロゴスを日常に必要な組織へと変えた。
コーディネイター殲滅を掲げる過激思想集団だったブルーコスモスも「人類の未来を守る」という新しい理念に置いた「ナチュラルとコーディネイターの共存を模索する団体」へと姿を変えた。
現在では教育支援、医療支援、災害救助などを担う公益団体とその姿を変えている。
自分の役目は終わった。
そう思ったジブリ―ルはロゴスを脱退、ブルーコスモス当主の座を後任に譲った。もっともかつての仲間や部下が過激思想に戻らないよう、常に目を光らせている監視者として、また自らの過去を悔い、組織が再び憎しみに染まらないように見守る愛の守護者として影響力を持ち続けているが。
「旦那様」
老執事がこの日別荘を訪れる来客が来たことを告げる。
ジブリ―ルは時計を見る。
「しまった、失礼のないように準備を進めて時間を忘れるとは……」
ジブリ―ルは軽く頭を抑えると来客に少し待ってもらうように老執事に伝えると、着替えをするため自室へ足を向けた。
数分後。
「こちらから誘っていて君を待たせるようなことをして申し訳なかった」
咲き誇るバラや季節の花々に囲まれた庭園。素朴で温かく、庭園の自然になじむ椅子に座るジブリ―ルはティーテーブルをはさんで座る長い黒髪の男、ギルバート・デュランダルに軽く頭を下げる。
「いや、大丈夫だロード。予定よりも早く来てしまった私に非がある」
そんな言葉を交わしながら二人は最近の出来事を話し、静かで気品のある庭の美しさを共有する。
「……」
「……」
景色を静かに楽しむ二人の間に、花や草を静かに揺らす風が周囲に紅茶の香りを広げる。
「なぁ、ロード」
デュランダルは庭に心を奪われるジブリ―ルにふと尋ねる。
「私はなぜ、君に負けたのかな?」
「君が負けた理由、か」
もう終わったことと整理が出来ているもののそれでも心の中でひっかかる親友の疑問に、ジブリ―ルは顎に手を置き、考える。
「君が行おうとしたデスティニープラン。あれは素晴らしい。人には秩序が必要だ。秩序なき世界は破壊と混沌をもたらし、行き着く先は絶望という無の世界。人類の争いを無くすデスティニープランはそれを回避する術としては有効と言えるだろう……」
そう言ってジブリ―ルはわざと間を置く。デュランダルは黙ってジブリ―ルの言葉を待つ。
「だが個人の遺伝子情報に基づいて最適な役割を割り当てるというのは人が自ら選び、間違え、学ぶという人間の本質を捨てるということ。それを行わず、私は『愛』という結論に至れただろうか?」
「……」
デュランダルは答えない。だが選び、間違え、そして反省や想像をするなどして学ばなければ彼が愛に目覚めることはなかっただろうと確信していた。
「ギル。この庭は最低限の手入れしかしていない。だから細部に目を移すとどうしても気になる所はあるだろう。しかしこの庭は魅力的だ」
「……」
「デスティニープランは無駄のない、言うなれば人の手と知恵が注ぎ込まれた左右対称の美。それはそれで美しい。対するこの庭は自然そのもの。自由と言う名の自然を失った庭に、我々は心を奪われただろうか?」
「……」
デュランダルは答えない。
「ロード。君の言う通りだ。もしこの庭が徹底的に無駄をそぎ落とした、厳しい管理の下で行われていたら……私の心は心静かにはなっていない。自由は素晴らしい。愛は尊いものだ。だが現実は非情だ。愛だけで人類は救えない」
「あぁ、愛は万能ではない。だが憎しみよりは確実に人を救う」
「……」
「ギル、デスティニープランは素晴らしい。人が役割を持てば何をするべきかが明確になり、争いは減る。だが……人間は役割を押し付けられると、必ず反発する。人々に憎しみを押しつけ、戦わし、多くの流血と絶望、悲劇を招いてしまった私を見ればわかるだろう?」
自分が起こしてしまった過去の出来事を思い返しながら苦々しい表情で言うジブリ―ルに、デュランダルは何も言えなかった。自身も人類を救う唯一の手段と信じるデスティニープランを実行させるために数多くの人間を押しつけてきたのだから。
「話は脱線したな。私も君もゴールは違えど人類を幸福に導きたいという崇高な願いがあった。その中で勝利の女神が私の愛を魅力的と感じて勝利の天秤を私に傾けた。それだけの話だよ、ギル」
「……ふふ、なるほど」
デュランダルは少し目を伏せながら苦笑する。
「……それでは仕方がない。神に選ばれたのなら、私の理屈も及ばない……」
そう言って苦笑した表情を少しだけ嬉しそうな微笑に変える。
「だが、親友が愛に辿り着いたのなら……それもまた人類の未来なのだろう」
神が自分の考えに賛同しなかったことを残念に思ったデュランダルは思わず空を見上げた。それでも『愛』という思想は違えど人類の幸福を願うロード・ジブリ―ルという親友を得る機会を与えた神に感謝をした。
ディスティニープランを唯一の希望と信じるデュランダルと、愛による漸進的な変革を信じるジブリール。
交じることのない、決定的な思想の違いを抱えつつも互いを認め合う親友はその後もお茶と庭園に心を癒すのであった。