「梨子ちゃん、もう来たんだね」
「うん」
あれから一年の月日が経った。内浦にあるお寺の中にあるお墓の前で手を合わせていたら、花丸ちゃんがやってきた。まぁ、ここは花丸ちゃんの家の敷地内にあるお墓なんだけど。
「もう一年経つんだね」
「うん。そんなにもう経つんだね」
“津島善子”と書かれた墓石を見て私たちは呟く。
「もしもあの時、間に合ってたら変わったのかな?」
~~
部室を出たよっちゃんはそのまま浦女から出て行き、追いかけたけどちょうど来た沼津行きのバスに乗ってしまい、追いついた時には行ってしまったところだった。
どうにか追いかけようとしたけど、車がないから追いかけることができなかった。よっちゃんに電話をしたけど、電源は切られていて通知音が響くだけ。
ならばと鞠莉ちゃんが家の人に連絡を取ろうとするも、一度ここに来てからじゃ見失ってしまうだけで手が無かった。
そんな中果南ちゃんが今朝使ったマリンバイクのロープを外して乗り込む。
「これで先回りすればまだ見失わずに済むかも。飛ばすから誰か乗って」
「私が行く!」
「うん。梨子ちゃん、お願いね」
私は率先してそう言うと、皆それでいいと頷いてくれた。たぶん、ここで問答している時間も無駄だと思っての結果だと思う。
果南ちゃんの後ろに乗ってお腹に手を回すと、一気にエンジンを噴かせて飛び出す。こういうのは徐々に速度を上げるモノだと思うけど、時間との勝負だからか普通に走る気は無いみたいだった。でも、私はそれでいいと思うから何も言わず、ただ間に合うことを祈った。
「よっと。ここらへんなら先回りできたはずかな?」
「うん。道の方を見てたけど、バスを追い抜くのは見えたから平気だと思う」
千歌ちゃんの家の前の砂浜ギリギリに止まって降りると、コンビニ前のバス停に行く。バスを追い抜くのは見えたから、バスが来るのを待てばいい。
ずぶ濡れになると思ってたけど、だいぶ速度があったからかあまり濡れていなかった。靴はマリンバイクから降りた時に海に少しは行ったから濡れちゃったけど、これくらいなら平気かな?流石に濡れた状態で乗るのは申し訳ないし。
すると、スマホに着信が入る。画面には千歌ちゃんの名前が表示されていた。
「もしもし、千歌ちゃん」
『あっ、梨子ちゃん?どう?』
「千歌ちゃんの家のそばのバス停に着いたから、バスが来るのを待ってるところだよ」
「あっ、来たよ」
「ちょうど来た。ここからじゃよっちゃんの姿が見えない。ちょっと待ってね」
『うん』
一度スマホから耳を離すと、来たバスの方を見る。善子ちゃんの姿は見えないから反対側に乗ってるのかな?
そう思いながら、バスに乗ると、バスの中によっちゃんの姿が無かった。
「なんで?」
「すいません。頭にシニョンを付けた浦女の子乗ってませんでしたか?」
「ん?あの子の友達?あの子なら二個前で降りたけど?短い距離だし、こんな時間だったからよく覚えてるよ。それでどうするの?」
「ありがとうございます。それと、やっぱり降りますね。お仕事の邪魔してすみませんでした」
「お客さんが他にいないから気にしないで。その子に会えるといいね」
「はい。ありがとうございます」
果南ちゃんが運転手さんに聞いてくれて、私たちはお礼を言ってバスを降りた。そして、バスは走り出す。
「善子ちゃんいなかったね」
「うん。途中で気づかれたって考えるべきだよね?」
「そう考えるべきだね」
私たちはそう結論付けた。バスが見えた訳だから、向こうからも見えたはずだし。
千歌ちゃんたちに乗っていなかったこと、二個前で降りていたことを伝えると、千歌ちゃんたちは向こうから探すと言って通話を切った。
「じゃっ、私は海の上から探してみるから梨子ちゃんは浦女に戻るように探してみて。まだ、そう遠くには行っていないと思うし」
「うん、そう思う」
とりあえず、方針を立てると走り出す。練習着に着替えておいて良かったと思う。制服のままだと走りづらいと思うし。よっちゃんはそれに対して制服だから走りづらいはず。
「あっ、梨子ちゃん」
「よっちゃんは見つかってないみたいね」
「うん。ここまでの道を手分けして探してるけど」
千歌ちゃんと曜ちゃんに途中で会ったけど、よっちゃんは見つかっていなかった。他の皆も別の道を探したりしているらしい。
ルビィちゃんと花丸ちゃんは浦女に戻ってもらっている。もしかしたら、戻ってくる可能性もあるからと。
「こうなると、思い浮かぶのは海に飛び込んだか、無理やりここを登ったかだよね」
海と道外れの獣道を交互に見てそう言う。道の上で見つからないとなると、どっちかしかない。
「海は果南ちゃんが走っているから、任せるとして」
「となると、私たちはこっちを探そっか」
「うん」
獣道の方に私たちは入って行く。木々が生い茂っているからか歩くのが大変だけど、この先にいるかもしれないから頑張って進んで行く。
きっとよっちゃんにまた会えると信じて。
~~
結果から言えば、その日のうちによっちゃんは見つからず、翌日に浦女前のミカン畑で倒れているのが見つかった。葉が生い茂っていたせいで隠れてしまい、農家の人が偶然見つけた形だった。
どうしてそこに倒れていたのかはわからないけど、死因は心臓発作らしかった。
そして、よっちゃんの水晶で願ったけど、輝くことは無かった。よっちゃんが言っていた「いつ使え無くなるかわからない」が最悪な形で現実になってしまった。
警察は事件性が無いと判断して、すぐに調査が打ち切られ、よっちゃんの葬儀が行われた。それ以降は、私たちはバラバラになってしまった。
よっちゃんを追い詰めてしまったことに対してみんな責任を感じてしまい、そんな状態ではまともに踊ることもできず、Aqoursは解散した。それ以降はあまり集まることもなく廃校が決定し、沼津の高校と春には統合して、私たちはそっちに通うことになった。
その間、色々なことがあった。鞠莉ちゃんとダイヤさんはどうにか平静を保って自分たちの仕事をこなし、果南さんはいつものように振る舞っていた。でも、三人とも一人になると泣いていたらしい。
千歌ちゃんと曜ちゃんとルビィちゃんは、あまり笑顔を浮かべることが無くなって、仮に笑顔を浮かべても無理して作っていると一目瞭然だったらしい。
そして、一番ひどかったのは、私と花丸ちゃん。あの時、よっちゃんに聞かなければ、よっちゃんが出て行くこともなく、こんな結末にならずに済んだのかもしれない。だから、よっちゃんを死なせてしまったのは、私と花丸ちゃん。
だから、私たちは自分の殻に閉じこもり、自分の部屋から出なかった。いや、出られなかった。もう、どうすればいいのかわからなかった。
外に出れば、みんな私のせいだと言われるような気がしたから。みんな優しいからそんなことを言う訳ないと分かっていても、外に出ることはできなかった。
そんな生活が続いていたある日。私は変な夢を見た。
~~
そこは浦女の屋上で、私はその真ん中に立っていた。どうして、こんなところにいるのかわからなかった。だから、辺りを見回すと、
「くっくっ。ヨハネ、堕天!」
屋上のドアの前によっちゃんが立っていた。もう会えないと思っていたよっちゃんがそこにいて、私はこれが夢だと分かったけど、それでも涙が込み上げて、よっちゃんに抱きついた。
「リリー、どうしたの?」
いきなり抱きつかれたことによっちゃんは慌てふためく。でも、こうして抱きついていると、やっぱりよっちゃんなんだと実感する。
「よっちゃんが死んじゃって……それで……」
よっちゃんがいなくなった後の事を話すとよっちゃんは罰が悪そうな顔をする。
「悪かったわね。でも、そうする以外方法が無かったのよ。でも、あの時、曜に約束したことだし全てを話すわ」
よっちゃんの隣に座ると、そう言って全てを話してくれた。最初に曜ちゃんが事故に遭ったその時から、繰り返してきた一週間。そして、最後の一週間で出た結論。よっちゃんがいると一緒に居たその人が事故に遭い、永遠に繰り返されること。自分がいなければ事故に遭わないし、過去に飛ぶことを願わなければ、日曜日を迎えられる可能性があったこと。だから、死を受け入れたこと。
「なんで、よっちゃんが死ななきゃいけないの?どうして……」
「ありがと。私の為に泣いてくれて。でも、私はみんなに生きていて欲しかった。結局私のわがままでしかないけど、みんなが大切だったから」
「それでも、相談してほしかった!一緒に生きる道を探したかった!よっちゃんともっと一緒にいたかったよ!」
「ごめん。でも、それ以外に方法は思いつかなかった。もう辛かったの。これ以上誰かが死ぬのを見ることを、みんなを死なせることが」
「よっちゃん……」
「私の命で、みんなが救われるのならそれが一番だから。だから、リリーは私の事を重荷に思わないで?前を向いてほしい。それが私の願いかな?」
「よっちゃんずるいよ。よっちゃんがいないと、無理だよ……」
「うん。無理なお願いをしているのはわかってる。でも、それが私の願いだから……っと、そろそろ、時間ね」
「時間?」
「ええ。私が話せるのはここまで。死者がいつまでも生者に関わるのはダメだから」
「嫌だ。もっと一緒に居たい」
「ごめん。この時間も偶然できたもの。私の心残りだから」
「……」
「ありがとね、リリー。あなたの弾くピアノは好きだったわ。だから、これからも続けて。リリーには見えないけど、私はあなたのそばにいるから。あなたのピアノを聴きたいから」
「うん」
「後はそうね。とりあえず学校に行きなさい。せっかく未来を繋げたんだから、私の分まで精一杯生きて」
「それは……」
「行かないと、毎日夜に枕元に出るわよ!」
「じゃぁ、行かない」
「なんでよ!」
「だって、よっちゃんに会えるってことでしょ?」
「はぁー。冗談よ。残念ながら、視認はできないから無理よ」
「なーんだ」
「ふふっ。軽口が言えるのならもう大丈夫ね」
「うん。いつまでも立ち止まってたら、せっかく私たちの為にしてくれたのが無駄になっちゃうから。まだ、全部に整理が付いたわけじゃないけど」
「長い時間をかけてゆっくりと昇華していけばいいわ。あなたたちには時間がたくさんあるのだから。あなたには仲間が、家族がいるのだから」
「うん。そうするね」
「じゃぁね。リリー。大好きよ」
「じゃぁね。よっちゃん。大好きだよ」
私たちはそう言って、抱きしめるとこの夢の空間は閉じた。
目を覚ますと、そこは私の部屋だった。でも、あれがただの夢だとは思わない。きっと、こんな私を心配してよっちゃんが来てくれたんだ。
私は自分の部屋から出て、階段を降りた。お母さんは驚いた顔をしていたけど、私が部屋から出てきたことに涙を流して喜んでくれた。
その日から私は浦女に行くことにした。驚いたことに、私がよっちゃんと会ったあの夢を見たのと同様に、みんなもよっちゃんと会ったと言っていた。家に引き籠っていた花丸ちゃんも浦女に来られるようになるくらいには回復していた。
そして、まだ整理が付かないけど、みんな前を見始めた。まぁ、Aqoursの活動を再開するほどの元気は無かったけど。
そうして、みんなよっちゃんを失った心の傷が癒え始め、どうにかまともな生活が送れるようになった。
~~
「あー。梨子ちゃんもう来てるー」
「抜け駆けなんてずるいよ」
「うゅ。せっかく、梨子ちゃんの家に行ったのに」
「あはは。ごめんね。でも、ここに来ればみんなも来る気がしてたから」
「その“みんな”に私たちも入ってるのかな?」
「あっ。果南ちゃん、鞠莉ちゃん、ダイヤさん。いつの間に戻ってきたずら?」
「チャオ。大切な日だから今日戻って来たわ」
「がんばってスケジュールを空けましたわ」
「そういうこと」
よっちゃんがいなくなって今日でちょうど一年。
私たちはそれぞれの道を進み始めていた。
私たち五人は沼津の高校で、果南ちゃんは海外でダイビングの資格取得、鞠莉ちゃんは海外の大学、ダイヤさんは東京の大学とそれぞれの道を進んでいる。
あの日約束した通り、よっちゃんがくれた今を精一杯生きてるよ。
だから、よっちゃん。心配しないでね?
善子ちゃんのいない未来なので、バッドエンドです。
バッドエンドならもっとエグい法が普通なのでしょうけど、猫犬の精神がもたないので。
というか、こっち読む人いるのかな?明らかにこっちがバッドルートなのはわかるだろうし。
まぁ、一通り読む人は読むか。たぶん。