「うわっ!」
走り出して早々に後ろに引っ張られて、私は後ろにバランスを崩して尻餅をついた。いきなりのことで、まともに受け身も取れずに床にぶつけた。うぅ、痛い……。
「急になにす――」
文句を言いながら振り返るも言葉は途中で途切れた。リリーが私の身体に抱きついたことで。
どうして、抱きしめられているのかわからず、口をパクパクさせる。みんなも、リリーの行動に驚きを隠せない。
「どうしたのよ、急に」
文句を言う気も失せて、リリーに問う。すると、リリーは私から離れつつ話し始める。逃げれないように肩を掴んだ状態で。
「よっちゃんが遠くに行っちゃう気がしたの」
「遠くに?」
オウム返しのように返すことしかできなかった。たしかに、私はこのまま浦女から出て姿を消そうと思っていた。そして、誰にも見つからない場所に行こうとしていた。これ以上、一緒に居たら取り返しがつかないことをしてしまいそうだから。
「うん。無理に作った笑顔とその背中を見たらそう思えたの」
「そう……」
「ねぇ、よっちゃん。お願い。よっちゃんが何をしようとしているのか教えて?」
「でも……」
「もちろん、私たちに危険が迫るかもしれないことは分かってる。でも、それ以上に何かあるってわかってて、何もできないのは嫌なの!」
リリーは私の目を見てはっきりとそう言う。
でも、言うのが怖い。こんなこと言っていい訳が無い。
「よっちゃん。私に。ううん。みんなに話して?確かに力になれるかはわからない。でも、力になりたいの!」
「うゅ。苦しんでいる善子ちゃんを見過ごせないよ!」
「私が苦しんでる?」
ルビィに言われて首を傾げる。わからない。私は苦しんでなんてない。いつも通り。そうよ、苦しいことなんてないわ。
「善子ちゃん、今ひどい顔してるよ?疲れてて、どこか寂しそうで、とても普通な状態じゃない」
「うん。何が善子ちゃんをそうさせてるのかわからない。だから教えて?」
「ダメよ。言えば絶対に怒る。軽蔑する。そうわかっているから、言えないわ!」
「怒る?何故ですか?あなたは私たちに言えば怒るようなことをしようとしているという訳ですか?」
「それは……」
「ねぇ、話してよ?私はよっちゃんの言葉を聞きたい!」
「ダメよ!軽蔑される。嫌われる。私の前からいなくなるに決まってる!だったら、何も知らない方がいい」
「勝手に決めつけないで!」
「……千歌?」
千歌が怒鳴る。ここまで感情をあらわにすることが珍しくて、私は驚きを隠せない。みんなも同様のようで驚いていた。
「さっきから聞いてれば、嫌われるだの、怒られるだの、軽蔑されるだの。それは善子ちゃんが勝手にそう思ってるだけでしょ!?勝手に決めつけないでよ!」
「うん。そうだよ。だいたい、それだって、私たちのことを想ってのことなんでしょ?だったら嫌いになるなんてありえないよ」
「千歌、曜」
千歌の言葉に続けて曜がそう言う。
なんで、みんなそんなにまっすぐなの?どうして……。
「よっちゃんが私たちの為に頑張ってくれてるのは知ってる。だから、次は私たちに助けさせて?」
きっと、もう引けないところまで来ている。言わないでおくことはできないと思う。だったら、
「私が死ぬ以外方法はもう無いの……」
もう全てを話して終わりにしよう。
私が一緒にいるとその人が事故に遭い、いなければ事故に遭わないこと。土曜日に過去に飛ぼうとすると毎回月曜日まで戻ってしまうこと。
私がいなければ、全て終わることができること。だから、今日で終わりにしようとしていることを話した。
みんな静かに聞き、悲しそうな顔をする。
これで軽蔑されて、みんないなくなって。そしたら、私は一人になれる。そうすればもう全てが終われる。
「なるほど。だから、あの場で亡くなっていたと」
「ええ」
だけど、ダイヤは淡々とそう言うだけで、怒りもしないし、軽蔑もしない。どうして?
「なら、はっきり言いましょう。勝手に決めつけないでください。善子さんがいなくなれば、全てが丸く収まる?何を言ってますの?」
「そうだよ。善子ちゃんがいなくなった時点で丸く収まってないよ!」
「そうよ!善子が死んで、私たちが喜んでそんな未来を受け入れると思う?」
「それは……」
三人は怒っているけど、それは私のことを思ってのことだと分かるし、言ってることも分かる。でも、それ以外に方法なんてない。だからこそ、こんな方法を選んだんだから。受け入れられないじゃなくて受け入れてもらうしかない。
「そうそう。善子ちゃんがいないんじゃダメだよ」
「だいたい。方法が無いから諦める?ダメだよ」
「私たちは足掻くってあの日に決めたでしょ?だったら、これも足掻こうよ」
「うん。善子ちゃんが何度も繰り返して足掻いてくれたのはわかる。だから、こんな方法を選ぼうとしたのも」
「だけど、それは善子ちゃんが一人だったからずら。マルたちは何もしていないずら」
「確かに、一人でやってきた。でも、どうにもならないわよ!そんな方法があるなんて思えないもの!」
みんなの気持ちはうれしい。でも、これ以上の方法なんてあるわけない。あったらそうしている。
「それと、さっきから私たちのことばかりでよっちゃんの気持ちがわからない。よっちゃんはどうなの?生きたくないの?」
生きたくないか?そんなの決まってる。
「……生きたい……私だって生きたいわよ!皆と別れるなんて嫌だよ!でも、みんなが死ぬのが嫌なの!本当はみんなと一緒にもっと居たいよ!」
「うん」
「みんなで曲を、衣装を作って、踊って……ラブライブに優勝したい!」
「うん」
「ただただ普通に学校生活を送って、放課後に寄り道をして、卒業していくのを送って、それからも時々会って。そんな生活をしたいわよ!」
私は感情任せに思っていることを言葉にした。できればそうしたい。そんなの当たり前じゃない!やりたいことがたくさんあって、それで、どうにかしたいと思ってる。
すると、肩に手を置いていたリリーはまた私を抱きしめる。
「良かった。やっと、よっちゃんの思ってることが聞けたよ」
「リリー……」
「よっちゃん。頑張ってくれてありがとう。諦めないでくれてありがとう」
「でも、私は諦めて、いなくなろうとしたのよ?」
「うん。でも、今よっちゃんがここに居てくれてる。だから、それはいいの。ねぇ、一緒に考えよ?よっちゃんがいなくならないで済む方法を」
「うん。善子ちゃんが生きたいと思ってくれてるのなら、頑張らないと」
「そうだね。一人でダメなら九人で考えよ?“一本の矢だけなら折れても、三本に束ねれば折れない”みたいな言葉もあるしね」
「私たちの場合は九人だから、余計に折れたりしないね」
「そんなに束ねたら重そうですわね」
「じゃぁ、それで叩いて障害を壊しちゃいましょー」
「あっ、それいいかも」
「あはは。確かになんとかなりそうかも」
「みんな……」
みんな私の話を聞いても、一切諦める様子が無い。どうして、私は疑っちゃったんだろ?こんなに優しいみんなを無理に拒絶して、逃げ出そうとして。一人で終わらせようとして。
「と言う訳で、今日は練習を止めて方法を考えましょう」
「そうだね。時間は限られてるからいい方法を考えないとね」
「よっちゃん、頑張ろ?」
「うん」
やっぱり、まだみんなと一緒に居たい。願っていいのかな?
リリーと一緒に立ち上がると、みんな机の周りに集まる。
「まずは、一度情報を纏めましょうか。そこから見えてくるものがあるかもしれませんし」
「そうね。ってことで、日記を見せてちょうだい。あと、何かわかっていることがあれば教えて」
「あっ、うん」
マリーにロックを外して渡すと、ケーブルでノートパソコンに繋いでみんなで見れるようにする。それと同時にコピーを取って複製しておく。
「わかってることって言っても、朝の占いで最下位の星座の人が事故に遭うことと、事故は毎回、放課後に起こることくらいよ」
「うーん。やっぱり、わからないことばかりだね」
「うん。せめて、もう少し事故が起こる時間が絞れればいいけど……放課後から日付が変わるまでだとだいぶ時間に差があるし」
わかっていることが少なすぎるから、今に至っている。みんなは一生懸命別の道を探そうとしてくれているけど、そんな道があるとは思えない。さんざん悩んだのだから。
「ねぇ。そもそも、善子ちゃんと一緒にいたら私たちが死ぬって本当のことなの?今週に関しては、私達はあの夢で既視感があったから回避できたんじゃ?」
すると、曜がそんな疑問を口にする。
「でも、過去に数回私がその場にいなかったから死なずに済んだ日があったのよ?」
「えーと。誰の星座でも無い日と、千歌ちゃんがお見舞いに行ったって日だね。マルが襲われた時に関しては、そもそも野生の熊が出たら襲われておかしくないと思うし」
「うーん。チカがその時どうしてたのか、もっとわかればいいんだけど」
「流石に無理ね。過去に飛べるのは誰かが死んだときか、私が死を予感した時だから」
例外はその二回。回数が少ないせいで確証が得られない。千歌の時の状況がもっとわかれば何かわかるかもしれないけど、過去に飛ぶのにそこまで自由度が無いから、見に行くということはできない。
「それと、善子ちゃんが相談したから事故に遭ったって言うのも、少し違うかも」
「どういうこと?」
「梨子ちゃんに相談した日って、乙女座が十二位だったんでしょ?」
「ええ。梨子ちゃんも乙女座だから善子ちゃんと一緒にいれば事故に遭う可能性はあるよね?別に一日に一回しか事故が起きないとは限らないし」
「そっか。ルビィが事故に遭った後に梨子ちゃんが事故に遭う可能性も無くはない。でも、梨子ちゃんは怪我しただけなんでしょ?」
「うん。そして、善子ちゃんが記してるけど、その時の時刻は夜の七時を過ぎた頃。もしかしたら、そこが境界線なんじゃないの?七時を過ぎたら事故に、ううん死に至る事故には遭わないって考えれば」
「あっ、チカが帰ったの、七時過ぎって一応書いてあるから……」
「その線で考えると、大体午後の三時から七時の間に事故が起きると」
もしかしたらそうなのかもしれない。でも、これは憶測なだけで、本当にそうなのかはわからない。仮に違ったら……。
「これも善子ちゃんが、いっぱい書いてくれたおかげだね」
「でも、これは憶測に過ぎないじゃない。もし違ったら……」
「違うかもしれない。でも、あっているかもしれない。だったらそれに賭けてみない?私は善子がしてきたことを無駄だと思いたくない。意味があったって思いたいわ」
できれば私だってそう思いたい。私だって、マリーが言う様に賭けたい。でも、違ったらと思うとそれが怖い。
すると、花丸と一緒にパソコンを見ていた果南が口を開く。
「見た限り、善子ちゃんが時間も記した範囲だと、七時以降に事故に遭った例は見当たらないし、あってると思うよ?」
「うん。悪い方に考えるよりもいい方に考えよ?」
「……うん」
二人は私の心配を見透かしてかそう言ってくれた。確かに、悪い方に考えるよりは、いい方に考えたい。だから、私は頷く。
「ねぇ。ずっと気になってたんだけど、その水晶の付いたペンダントはどうしたの?いつ、どこで手に入れたの?」
すると、途中から黙ってたリリーが悩ましそうな顔で疑問を口にした。私はずっと持っていたからあまりに気にしなくなっていた。でも、そう言えばどうして持ってるんだろ?
過去に飛べる力があるから相当貴重な物のはず。それが、普通の少女である私が持っている理由が分からない。こういうものはそれこそ、洞窟の奥に封印されてるとか、博物館に保管されてるとかの方が普通のはず。
「ごめん。わからない。いつの間にかあって、それが普通だと思ってたわ。みんなは見覚えあったりしない?」
「無いわね。それに、過去に飛べるなんて力があれば耳にしてるだろうし」
「マルも知らないよ。こういう石が実在するって本は見たこと無いし。そう言う本なら善子ちゃんの方が読んでるでしょ?」
みんなが知ってるかもと思ったけど、残念ながらみんな見覚えがないらしかった。
この辺の網本の家のダイヤやマリー、家がお寺で本をたくさん読んでいる花丸ならもしかしたらと思ったけど、そう都合よく行かないらしい。
「うーん。実はこれが全ての原因だったりするのかな?この石の近くにいる者に呪いが~的な話は本とかテレビでよくあるし」
「ですが、これを壊して事態が好転しなければ、それこそ完全に手詰まりになりますし、軽い気持ちで実行に移すわけにはいきませんね」
あげくに、全ての原因が実はこのペンダント説も出たけど、それが仮に違ったらもう過去に戻る術が無くなるから、却下する。せめて確証が得られれば行動に移せるんだけど。
「こう都合よく願ったらわかるとかないの?過去に飛べるんだったらどうしてこんなことが起きてるのか知るくらいできても……」
「前に風邪をひく前に戻りたいって願ったけど、それは叶わなかったから無理だと思う」
「うーん。いい方法だと思ったんだけどなぁ」
千歌の言うことがうまく行けば確かにいいけど、残念ながら前に別のことで試したことあるからその案を否定しておく。千歌はまだ納得いかないのかぐずってるけど、ダメだったものはそう割り切ってほしい。
「でも、一応やってみない?みんなで一緒に願ったらうまく行くかも」
と思ってたら、曜が千歌の案に乗ってしまった。いや、私の話聞いてた?
「流石にそう都合よくは……」
「まっ、やってみよっか。私もみんなで願えばうまく行く気がするし」
「そうね。千歌っちも前にやりたいからやるって言ってたし」
「あの時鞠莉ちゃんいなかったような?でも、私も賛成かな?」
なんだかんだで一回やろうということになった。最初は乗り気じゃなかったダイヤも途中からノリノリになったりしてたけど。私が否定してもたぶん進まなそうだから一応やる。でも、やるからにはちゃんと願う。あの時はできたらいいな気分だったから、今回はちゃんと願う。
ペンダントを机の上に置いて、その周りに集まってペンダントの上で手を重ねる。みんなが戻って来た時はこうしたらしい。
全員で願って、全ての真実を知る。
このペンダントの正体。
どうしてこんなことになっているのか。
前回みんなでやった時は少し言い方を変えて言ったらしいから、私たちは目を瞑り、元の平穏を取り戻すために願う。
この永遠に繰り返される一週間を乗り越えるために。
『『『私たちは願う。故に私たちは乞う。全ての真実を!』』』
ピカッ!
はい、まだまだ続くルートですね。まあ、終わりは近づいてますけども。
では、ノシ