繰り返される堕天   作:猫犬

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半日投稿中。その為話数注意です。
今回は二話同時投稿ですので、前の話【ルーインズ】を読んでない方はそちらからですね。


32 リメンバー

「何これ?」

 

私はそう呟きながら、ペンダントと書物を手に取る。ペンダントに付いた水晶は澄んでいて私の顔を反射する。水晶にはフードを被ったひどくやつれた私の顔が映っていた。しばらく私は鏡で自分の顔を見たりしていなかったから、今の私に驚いた。そもそも、自分の顔を見るだけで、みんなを死なせたことに対する罪悪感と、何もできなかった私に対する怒りに呑まれそうだったから見れなかったのだけど。

髪は前よりも伸びていて、顔は疲れたように顔色が悪い。ママもおばあちゃんもそんな私を見ても指摘しなかったから、たぶん私に気を使って言わなかったんだと思う。

 

ペンダントを一度戻すと、書物に目を通す。

この書物はペンダントの元々の持ち主が書いた物のようで、このペンダントが何なのかについて書かれていた。

 

これを書いた人は強い後悔があったらしい。自分が何もできなかったせいで多くの友を失い、自責の念に駆られ、ただただ生きるだけの日々を送っていた。そんなある日、たどり着いた洞窟で大きな水晶を拾い、その水晶を家に持ち帰った。そして、友との毎日を思い、あの時のことを後悔しまた会いたいと願いながら過ごしていたら、私は友が死ぬ夢を見た。目を覚ますとそこは家の中で、やっぱり夢だったと落胆し、でももう一度会いたいと心の中で願った。その直後に水晶が輝き、気が付くと私は何故か若返っていて、そこの景色もどこか見覚えがある気がした。いきなりのことで不安になったが、この景色が何のなのかわかった。

ここは多くの友を失ったあの場所。そして、死んだはずの友が普通に過ごしていた。これが夢だと理解すると、あの時と同じようなことが目の前で起き、もしかしたら友を救った場合の未来が見られるかもと、その場を動いた。結果友は死ななかった。そして、いくら時間が経てど夢から覚めることは無く、これが現実なのだと理解した。

友を失わなかった未来を私は生きる。しかし、私の命ももう長くはない。だから私はここに書き記し、水晶をペンダントに加工してここに置く。私のような悲劇に遭われた者の手に渡ることを願う。

このペンダントを次に手にする者に幸福があらんことを。

 

書かれていた内容を要約するとそんな感じだった。夢の内容やどんな生活を送っていたかなど、長々と書かれていたから読み終わるのに、それなりに時間がかかり最後はそう締められていた。

なんだか、私と状況が似ているなぁと思う。でも、もしかしたら、これさえあればみんなが死ぬ自体を回避して、みんなが死ななかった未来に行くことができるかもしれない。

そして、締めくくられたはずなのに、もう一ページあることに気付いてめくってみる。

 

――ここにこの水晶の力で分かっていることを纏めておく。

この水晶は後悔と強い願いを糧に過去を変えるために輝く。故に軽い気持ちだと輝くことは無い。どれほどの気持ちが必要かは不明。

また、過去に飛ぶと、過去の自分の身体に上書きされるようだ。これは、私自身が若い体というかあの頃の姿だったことからそう言える。

他にもあるかもしれぬが、私はこの世界にずっととどまっているから未来の世界に戻ることは無いと思う。この水晶も、友を救った後に同じ場所で見つけ、ここに置くことにした。

これらが役立つことを願っている。――

 

要するに取説のようなものだった。でも、そのせいで微妙に眉唾感が生まれる。こんなことが書いてあると、逆に怪しさがある気がする。

でも、可能性があるならと私はこれに賭ける。

魔法陣の描かれた布を字面に敷き、その上に座ると小さな黒い水晶の付いたペンダントを握り、

 

「堕天使ヨハネが命じます。リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!時間遡行(アンチクロック)!」

 

詠唱をするも、何も起こらなかった。そもそも、私にそんな力なんてない。ただの非力な一人の少女。

 

「……って、こんなことで戻る訳もないわね」

 

それに、書いてあることが本当のことなのかもわからない。ただの眉唾かもしれないし、こんなものにすがるのもおかしい。

時間はもう夜更けで、私は家に帰る気も起きずその上で眠る。

その日。私は不思議な夢を見た。私は高校生の頃の姿をしていて、死んだはずの皆がそこにいた。これが夢なのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。死者は生き返らない。これは常識なのだから。

でも、せっかく見た夢なのだから覚めるまでみんなと一緒に居ようと思った。

 

次に気が付くと、眠りについた洞窟の中だった。夢で見た空間からガラッと一人の空間に戻ったことでさみしさを感じる。みんなと一緒に居る夢を見たことでまた皆に会いたいと思った。でも、どうにもならない。

 

もしあの時、もっと早くに車に気付いていたら曜はこんなことにはならなかった。

もし終バス一個前の明るい時間に帰っていれば二人が死ぬことは無かった。

もしあの日、二人が私の住むマンションに来なければ死ななかった。

もしあの時、私が転ばなければ二人は潰されることは無かった。

もし、私があの日屋上に登らなければ千歌が死ぬことは無かった。

 

浮かぶのは後悔ばかり。悔やんでももう過ぎたこと。時を戻すなんてことができない私にはどうにもならないこと。

 

「……帰って来てよ」

 

でも、諦めきれずに私はただ願った。

皆がいる今までの日常を。皆がいなくなる前の日常に戻りたいと。そして、脳裏によぎった言葉を呟いた。

 

「我願う。故に我乞う。みんなの居るあの日常を取り戻したい!」

 

直後、私の願いに呼応するように水晶からまばゆい輝きが放たれた。私はいきなりのことに驚いていると、意識を失った。

次に気付いた時には、私は部屋にいた。それも昔から住んでいた沼津の私の部屋だった。ここを出てだいぶ時間が経っていたし、私はさっきまで洞窟の中にいたから、今起きたことを呑み込むのに少し時間を要した。時計を見れば、曜が事故に遭ったあの日の前日の夕方を示していた。

で、出た結論は。

 

「あれ、本当だったってこと?」

 

過去に飛べたということは、あれは本物だったということになる。でも、過去にこれたというのなら、みんなの死を無かったことにもできるはず。これは、最大のチャンスだった。だから、このチャンスを絶対に活かして見せる!

と心に決めたのはいいんだけど、問題が一つ。

 

部屋に置かれたディスプレイに反射して私が映っているのだけど、どう見ても高校の頃の私ではなく、過去に飛びたいと願った私のままだった。あの書物によると、私は過去の私に上書きされるはずなのに、そうなっていない。これはどういうこと?もしかして、何かミスった?

そう思いながら、もっと情報を求め部屋を出ようとドアノブを握ろうとする。

でも、おかしなことにすり抜けた。あれ?どうしてすり抜けてる訳?嫌な予感がして、ドアに手をつくと、すり抜けた……。

 

「って、私幽霊になってるのぉー?」

 

何故か私は幽霊のそれになっていた。どうしてこんなことになっているのかわからず困惑しながらドアをすり抜けて部屋を出る。どうやら、過去の私もママも出かけているようで姿が見えなかった。仕方がないから手に持っていたペンダントを首にかけると外に出る。人とすれ違うけど、ものの見事に誰とも視線が合わず、声をかけても聞こえていないみたいで通り抜けていく。

物に触れられない、人と会話ができない。これじゃ、みんなの死を無かったことにすることができない。また、私はみんなが死んでいくのを見るだけしかできなくなる。

 

「あの、すみません。何か御用でしょうか?」

 

結局私は過去に来れても何もできないらしいと実感し、家の前で途方に暮れて地面に座り込んでいると、そんな声が響いた。

そうよね。人の家の前にいたら邪魔よね。

 

「すいません。すぐ退きます」

「あっ、はい」

 

そう言って私は退く……私に声をかけた少女は驚いた表情をしていて、まぁ少女はこの時代の私なんだけど。私が過去の私に謝るなんて変な感じね…って、待って!

 

「私の姿が見えるの!?」

「わっ!」

 

過去の私の肩を掴んでそう聞く。いきなり肩を掴まれて驚いた声をあげているけど、気にする余裕は私には無い。

誰にも認識されないと途方に暮れていたところに訪れたこのチャンス。しかも、過去の私なら、知らない人よりもと言うか一番話しやすい。

 

「って、私?」

 

フードを被っていたから、ようやく私の顔が見えたようで、再び驚きの声を上げていた。でも、私は気にしている余裕はない。

 

「あっ、遂に私はドッペルゲンガーに出会ってしまったのね。つまり死ぬのね」

「あっ、いや。その場合はもう一人必要なのが通説だから平気かな?」

 

気にしてる余裕はなかったけど、ついついそう返答していた。って、だから、今はそんなことよりも。

 

「私の姿が見えるのよね?」

「見えるわよ?それとも、私以外には見えないとか?」

「ええ。残念ながら」

「へぇー」

 

今更ながら、思ったことがある。

最初は驚いていたのに、冷静に会話できるくらいに落ち着くって、何気にすごいわね。流石私。

 

 

~~

 

 

「カクカクシカジカ。ウマウマウシウシと言う訳よ」

「……」

 

私たちは部屋に戻って来ていた。外でいつまでも話していると、はたから見れば過去の私が独りでに喋っているようにしか見えないし、落ち着いて事態の説明をしたかったから。

明日以降みんなが事故に遭って亡くなること、そんな未来を変えるために過去に来たことを伝えると、過去の私は頷いていた。考えているような素振りをしているから、たぶん伝わったはず。

 

「嘘でしょ?なんで、みんなが死ななきゃならないのよ!」

「だから、それを止めるために私はここに来たっていったでしょ?当初の予定とくるっちゃってるけど……」

 

過去の私は取り乱してそう言う。でも、取り乱すのは当たり前のこと。いきなりそんなことを言われれば私も取り乱すことは明白。まぁ、目の前で見せられてるんだけど。

 

「それに当初の予定ってどういうことよ。あと、どうやって未来から過去に飛べるのよ。年もあまり変わらないように見えるし、まさかそんなすぐにタイムマシーンができたなんて言わないわよね?」

「質問多いなぁ。順番に説明するよ。今から二年半ほど経ったけど、今とあまり変わらないわ。だから、タイムマシーンもないわ。方法を言うとこれよ」

「ペンダント?あっ、でもこの水晶綺麗ね」

 

首元にかけていたペンダントを外して、過去の私に見せると過去の私はじーっと見てそう言った。

 

「まさか、これには過去に飛ぶ力があるって言うの?」

「まぁ、そう言うことみたい。私も初めてだからわからないこともあるけどね」

「ふーん。これがねぇ。もしそうなら便利だけど」

 

どこか疑わしそうな目で水晶を眺めながらそう言ってペンダントに触れ、

 

「ちょっ!」

「わっ!」

 

いきなり水晶が輝き出した。

その結果、私たちはその光に呑まれ、その際に私はいきなりのことでペンダントから手を放してしまった。

その光の中では互いの記憶が共有され、私の未来での記憶が過去の私に流れ込んだ。私は忘れていたような過去の記憶を思い出した。

結果から言えば過去の私にこれから起きることが伝わったわけだから説明の手間が省けた。百聞は一見にしかずと言うし、この方がより詳細に伝わるしね。

 

そして、全ての記憶が過去の私に流れ込み切ると、私はそこで時間切れなのか未来の世界に戻されたのだった。できれば、もう少し過去の私と話しておきたかったけど、記憶が伝わった以上説明をする必要は無いはずだと思った。だから、これできっと未来が変わると信じて。

 

 

~☆~

 

 

「てことがあった訳」

「そうだ。どうして忘れてたんだろ?覚えていれば、もっと違う未来があったかもしれないのに」

 

私はあの時聞いた。ヨハネの話を聞いたことで、その時のことを思い出した。でも、どうして忘れたかの理由が思い出せない。

 

「えーと。色々大変だったことは分かったんだけど……」

「その後どうなった訳?善子がその時の記憶を失った訳がわからないけど?」

 

ヨハネはそういて話を締めたけど、私の記憶が無くなっていた理由は話されていないからわからない。記憶が共有されたのなら覚えていないとおかしいはずだし、そこについては話されなかったからそう問う。

 

「いやー。残念ながら、あの後記憶を受け取った過去の私は気を失っちゃって、次に目を覚ました時にはその記憶がスパッと抜け落ちちゃったんだよね。いわゆる防衛本能ってやつ?流石にあの頃の記憶を一気に見たら精神が壊れかねなかったから」

「そんなことが……」

「で、その結果が、今のあなたって訳。夢で見たのはその一部よ。流石に二回目だし、何度も繰り返してきた過去があるからだいぶ耐性が付いたから、今回は気を失わずに済んだってところかな?」

 

あの夢がそうなのだとしたら、確かに納得がいく。妙にリアリティーがあったし、夢で見た通りに事故も起きてしまったから。でも、ペンダントのおかげでやり直すことができた訳だけど……あれ?

 

「そういえば、なんでペンダント私が持ってるの?私に回避するように伝えた以上私必要が、というか渡したって話も無かった気がするけど?」

「あー。それはまぁ、過去の私がペンダントに触った時に手を放しちゃって、置いてきちゃったの。要するに偶然の産物だね。でも、結果的に置いてきちゃって正解だった訳だけど」

「なるほど……とりあえず、事の発端とペンダントのことは分かりましたが、結局どうすればこれを終わりに出来るのですか?」

「言うだけなら簡単だよ。今日を乗り越えるだけ。要するに明日を迎えればこれは終わる。まぁ、いつかは事故に遭うかもしれないけど、それは日常生活を送っている上で起こりうるくらい確率だから、今回のこれとは無関係よ」

 

とりあえず、私がしようとしていたことはあながち間違っていなかったらしい。でも、もうあんなことは考えない。私も、みんなも生きて明日を迎える。これが今目指すべき未来。

 

「うーん」

「どうしたの?千歌?」

 

すると、千歌が何か考えているような素振りをしているから気になって声をかけた。何を考えているんだろ?皆もわからないらしく、千歌の方を見ていた。

 

「いや、どうしてヨハネちゃんは明日を迎えれば平気ってわかるのかなぁ?って。ヨハネちゃんがいた未来って、千歌たちいないんでしょ?だったら、わかるわけ無いようなって思って」

「そういえばそうだね。どうして言い切れるんだろ?」

 

千歌の疑問を聞いて、私もそう言えばと気になった。だから、ヨハネの方に目を向けると、ヨハネは頬を掻いていた。

 

「その疑問はね……って、あっ……」

 

ヨハネが話そうとしたら何故かヨハネの身体が輝き始めていた。なんというか、この展開の予想が付いたんだけど。

 

「時間切れだ」

「嘘!」

「と言うことで、絶対に伝えておくことがあるから簡単に言うよ」

「え?」

「今日の午後三時から午後七時の間に事故が立て続けに起こるからどうにか回避して。あと、私と一緒に居るとその人がどういう訳か事故に遭うから、全員でカバーしあってどうにかして。みんなで力を合わせればきっとどうにかなるから。あと、一番の問題点だけど、未来にいる私を呼んじゃったことで、もう過去に飛べなくなるはずだから、今回は絶対に誰も死んじゃダメだからね。絶対に諦めちゃダメだからね」

「ちょっ、聞きたいことが増えてるんだけど!なんでもっと早くにそう言う情報を言ってくれなかったの!?」

「ごめん。想像以上にここに居られる時間が短かったみたい。あの時はもうちょっといられた気がしたんだけど」

 

ヨハネはバツの悪そうな顔でそう言うと、光になって消えていく。もっと聞きたいことがあるのに、無情にも時は進んでヨハネの姿はほとんど見えなくなっていた。

 

「絶対にみんなで、みんながいる世界を取り戻してね」




思い出したからこのサブタイです。
では、ノシ
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