ほら!
あそこを ごらんください!

ダイナミックな水しぶき!

水しぶきの 原因を
調べて もらいたいのです

あんなに みごとな
水しぶきを あげるなんて……

いきのいい かいパンやろう か
すごい ポケモン でしょうか?



ふふ、もしかしたら───いきのいいかいパンやろうかもしれませんね

1 / 1
みずのキャプテンといきのいいかいパンやろうのお話

 せせらぎの丘。

 

 

 アローラ地方、アーカラ島。5番道路に隣接するこの水辺は、昔から水タイプを扱うキャプテンの試練が行われる場所です。

 わたし───スイレンは、今日から先代にキャプテンのあかしを譲り受け、試練の案内人として振る舞う事になっております。

 

 

 しかし、まず先代に認めてもらう為に、わたしはこの丘のぬしを釣り上げなければなりません。

 キャプテンになる為の試練という訳ですね。わたし、頑張ります。

 

 

 試練は余裕でしょう。なんたってわたしは釣りが大好きですから、ぬしを釣り上げる事なんて造作もない。

 なんならカイオーガやルギアだって釣り上げてみせます───嘘です。

 

 

 カイオーガの事はともかく、ここのぬし───ヨワシのむれたすがたは非常に強力なポケモン。

 気を引き締めて事に運ぶ事にしましょう。えぇ、大丈夫。赤いギャラドスを釣り上げたこの釣竿なら、むれたすがたのヨワシだろうと一本釣りです。

 

 

「……しかし、中々の強敵ですね。また腕を上げましたか、ヨワシ」

 試練を始めて早数時間。中々ヨワシは釣れません。

 しかし、釣りは我慢。ここで投げ出しては、キャプテンは務まりません。

 

 

 

「……あれは」

 ライドポケモン、ラプラスに乗りながら釣り竿を握っていると水面に激しい水飛沫を見つけました。

 あれはきっとヨワシです。やっとぬしの登場ですか。

 

 

 早速わたしは水飛沫の所に近付きます。さぁ、出て来てくださいヨワシ。

 

 わたしはモンスターボールの一種であるネットボールに手を掛けました。

 いざバトルになれば、このオニシズグモが相手をしましょう。

 

 

 

「あゔぁゔぁゔぁゔぁぁぁああああっ!!」

「ぇっ」

 しかし水飛沫に近付いてみると、水飛沫を上げていた正体はどうみてもヨワシではありませんでした。

 とてもいきのいい水ポケモンでしょうか? ありえない鳴き声を放ちながら水面で暴れております。

 

「あべぇべぇべぇべぇぇぇえええっ!! ヘルプ!! ヘルプミーーー!!」

 なんて人語染みた鳴き声でしょう。いきのいいそのポケモンは、私に手を伸ばしながらそんな鳴き声をあげました。

 

 

 

 ……いや、これ人ですね。

 

 

 まごう事なき人ですね。ポケモンじゃないです。

 頭に水泳帽とゴーグルを装備し、かいパンを装着した男性でした。

 

 ───かいパンやろう?!

 

 

 しかし、私の知るアローラのかいパン野郎とは少し違います。他の地方の方でしょうか?

 そんな事よりも今は彼を助ける事にしましょう。いきのいいかいパンやろうなのかもしれませんが、もしかしたら溺れているのかもしれませんし。

 

 

「ひーっ、ひーっ、ふー。た、助かったぁ!」

 かいパンやろうを陸に上げると、ピチピチと跳ねながらお礼を言って下さいました。

 とてもいきのいいかいパンやろうが釣れてしまいましたが、私の狙いはかいパンやろうではなくヨワシです。

 

 キャッチアンドリリースです。

 

 

「なんでーーー?! なんで戻されたのーーー?!」

 水辺に落とすとまた大きな鳴き声を上げるかいパンやろう。勢いよく水飛沫を上げるその様は、とてもいきのいいポケモンそのものでした。

 

 

 ───そろそろ冗談はよしましょう。

 

 

 

「ひーっ、ひーっ! 何故かキャッチアンドリリースされた時は走馬灯が脳裏に流れたけど助かったよお嬢さん」

「とてもいきがよかったので、思わずキャッチアンドリリースしてしまいました。また釣り上げららる日を楽しみにしております」

「俺はポケモンじゃないよ?! かいパンやろうよ?!」

「存じております。アローラ。わたし、キャプテン見習いのスイレンと申します」

 大袈裟に手足をバタバタと振りながら挨拶をしてくれるかいパンやろうに、私も挨拶を返しました。

 なんていきのいいかいパンやろうが釣れたのでしょうか。これはもう、ぬしを釣らなくてもキャプテンになれるのでは? カイオーガと同じくらいレアだと思うのです。

 

 

 ───嘘です、真面目にやります。

 

 

「ところで、どうしてかいパンやろうはあんな所で遊んでいたのでしょうか?」

「いや遊んでたように見えたの?! 溺れてたんだよ。アレが遊んでたならどんだけいきのいいかいパンやろうだよ?!」

 だって、いきのいいかいパンやろうですし。

 

 

「なんと、かいパンやろうが溺れていたのですか。ビックリです」

「お主わざとだな? 遊んでるな?」

 ふふ、そんな事ありませんよ。───えぇ、勿論。

 

 

「俺はカントー地方のかいパンやろう。なんと、カントーから適当に泳いでいたらこんな所に辿り着いてしまったのさ。そして疲れて溺れ死にそうになっていた!」

 成る程、それでわたしのよく知るかいパンやろうとは姿が違ったのですね。

 かいパンやろうカントーの姿と言った所でしょうか。かいパンやろうにもリージョンフォームがあったとは驚きでした。

 

 

「ではわたしはこれで。試練の最中なので」

 流石にいきのいいかいパン野郎で試練突破は認めて貰えないでしょう。

 コレを先代に突き出した時の反応も気になりますけどね。ふふ、きっと腰を抜かすでしょう。───そして怒られるでしょう。

 

 

「ちょ、ちょっと待って?! 俺スルーされてる?! 普通もっとおどろかない?! カントーから泳いで来たんですか、凄いですね! とかない?!」

「カントーカラオヨイデキタンデスカ、スゴイデスネ」

「カ タ コ ト !」

 なんてうるさいかいパンやろうなのでしょうか。ほんとうにいきのいいかいパンやろうです。

 

 

「わたし、スイレンは今試練の真っ最中なのです。邪魔をするなら、ここのぬしポケモンいきのいいかいパンやろうが釣れました! と、先代に突き付ける事になりますよ」

「なんでそんなにアンベリーバボーな事になるの?! いや、邪魔をした事は悪かったよ」

 分かれば良いのですよ。

 

 

 さて、釣りの続きです。今度こそぬしを釣りましょう。

 

 

 

「ラプラス、GO」

 私は再びラプラスに乗って釣竿を握りました。

 

 時間はあまりありません。

 

 

 

 しかし、ヨワシは一向に釣れない。焦りが募る中、ついに水飛沫を見付けました。

 

 

「あそこです、ラプラス」

 その水飛沫に近付くとそこには───

 

 

 

「あゔぁゔぁゔぁゔぁぁぁああああっ!!」

 ───いきのいいかいパンやろうが遊んでいました。

 

 

「戻りましょうラプラス」

「待ってーーー! 無視しないでーーー!」

 仕方がなく私は釣り竿をいきのいいかいパンやろうに投げます。そのまま釣り上げ、陸に捨てました。

 何をしているんでしょうか、あのかいパンやろうは。

 

 

「スイレンさんやい、あんた何をそんなに焦ってるんだ?」

「あ、焦ってなどいません」

 再び釣り糸を水面に垂らすと、後ろからかいパンやろうが話しかけて来ます。

 

 焦っている……このわたしが?

 

 

「あんたが狙っているのはここのぬしポケモン、ヨワシむれたすがただろう?」

 私の横に立ちながらそんな言葉を落とすかいパンやろう。

 正解ですが、このかいパンやろうにそれが関係あるのでしょうか?

 

 

「それが何か?」

「なら初めから大物を狙うなんて非効率だと思うぜ。ヨワシは普段単体で生きている、か弱いポケモンだ。それがむれたすがたになるって事はか弱いヨワシ達が群れる理由がなくてはならない」

 ヨワシ達が群れる理由……?

 

 

「たんたいのすがたのヨワシを狙ってみると、それらが集まってむれたすがたになるかもしれない……?」

「そういう事だ! おっと、これ以上は試練の手助けをした事になって危ないな。後は一人でやってみると良いぜ」

 そう言うとかいパンやろうは準備運動をしだしました。まだ泳ぐ気なのでしょうか。

 ふふ、いきのいいかいパンやろうな事です。

 

 

 

「たんたいのすがたのヨワシ……」

 水辺を見渡すと、小さな水飛沫が上がっている場所が何箇所か見受けられました。

 ラプラスにそこに向かって、私は釣り糸を垂らします。

 

 

 直ぐにヒット。引き上げると、たんたいのすがたのヨワシが現れました。

 

 

「……まずはあなたからです! お願いします、オニシズクモ!」

 ネットボールを投げ、すいほうポケモン───オニシズクモを繰り出します。

 

「バブルこうせん!」

 泡の連撃がヨワシを襲い、小さなヨワシはそれだけでまた水面に逃げて行きました。───これを続ければ。

 

 

 

「次です、バブルこうせん!」

 私の相棒オニシズクモはなんの問題もなくヨワシを倒していきます。

 そしてそのヨワシが逃げる魚影を追っていくと、せせらぎの丘の奥まで辿り着きました。

 

 

 なるほど、ここなら決戦場にもってこいですね。

 

 

 

「……行きましょう。ラプラス、オニシズクモ」

 私は意を決して大きな水飛沫の上がる水辺の中心に向かいます。そこには───

 

 

「あゔぁゔぁゔぁゔぁぁぁああああっ!!」

 ───ここのぬしが居ました。

 

 

 

 いや、違います。いきのいいかいパンやろうです。

 

 

「オニシズクモ、バブルこうせん」

「待ってーーー! 違うから!! これはそのなんというか、違うからーーー!!」

 バブルこうせんが放たれる前にピチピチと跳ねながら陸上に上がって行くいきのいいかいパンやろう。

 まさか、自分から陸揚げされるなんて。

 

 

 

「ふ、よくぞここまで辿り着いたなスイレン。これより、いきのいいかいパンやろうの試練を始める!!」

 え、何言ってるんですかこの人。

 

 

「キャプテンが島巡りの者に与える試練は、キャプテン自身が決める事になっている。キミがここまで来る間にキミが考える試練の内容は思い浮かんだ筈だ。さて、後はここのぬしに認めてもらうだけだろう。思う増分戦うと良いぜ!」

 そう言うといきのいいかいパンやろうは歯茎を見せながら親指を立てた。

 なんでカントーの人がキャプテンについてあんなに詳しいんだろう。

 

 

 そんな事よりも───この気配。

 

 

 

 ラプラスの真下を真っ黒に包み込む大きな魚影。

 

 それはどんどん一つに固まっていき、一つの生き物のようにむれたすがたとなる。

 

 

 

「───ぬし!!」

 大きく上がる水飛沫。ラプラスよりも大きなポケモンが水面から飛び上がり、その巨体を露わにした。

 

 

 こざかなポケモン───ヨワシ。その、むれたすがた。

 

 

 

「来た……っ?! 一気に決める、オニシズクモ! バブルこうせん!」

 オニシズクモのバブルこうせんが巨体に直撃して弾ける。しかし、巨体はまるでひるむ事なく数体のヨワシを分離しながら水中に身体を沈み込ませた。

 

 

「下からくるよオニシズクモ、気を付けて!」

 水面を警戒。オニシズクモは水面を這うポケモンだから、ラプラスと背中合わせにして全面を視界に入れた。

 

 唐突に視界に映る小さな水飛沫。───アレはヨワシ?!

 

 

「……小物に興味はない」

 今の相手はぬしのヨワシ。あのヨワシはきっとぬしに呼ばれた仲間。相手をするのは後でいい。

 

 

 オニシズクモの目の前から上がって来るぬしのヨワシ。わたしはオニシズクモにバブルこうせんを命令します。

 その前にぬしに呼ばれたヨワシがてだすけを発動。てだすけは仲間の技の威力を上げる技───しまった!

 

「避けて下さい、オニシズクモ!」

 バブルこうせんを放ち終わったオニシズクモに、ぬしのヨワシがみずてっぽうを放つ。

 ただでさえ強力なぬしポケモンの強化された技。オニシズクモにこうかはいまひとつでも、相当なダメージは覚悟しなければなりません。

 

 

 みずてっぽうが直撃し、岩場に叩き付けられるオニシズクモ。なんとか体勢を持ち直すけれども、次はないかもですね……。

 

 

 

「……っ。ヨワシに構ってる暇はないのですが」

 それでも、てだすけはかなり厄介です。どうしたら……。

 

 

 

 ──初めから大物を狙うなんて非効率だと思うぜ──

 

 ふと、あのいきのいいかいパンやろうの言葉が脳裏に浮かびました。

 

 

 むれたすがたのヨワシは、たんたいのすがたのヨワシが集まった姿。なら、たんたいの姿のヨワシを倒していけば───

 

 

 

「ふふ、そういう事ですか。……まだいけますか? オニシズクモ」

 元気にラプラスの横に着くオニシズクモはその大きな水泡の付いた頭を縦に振りました。

 流石は私の相棒。一緒に赤いギャラドスを釣り上げた事だけはあります。……なんてね。

 

 

 

 そう言っている間に小さな水飛沫と大きな水飛沫が合わせて二つ。

 

 

 一つはたんたいのすがたのヨワシ。

 

 もう一つはむれたすがたのヨワシでしょう。

 いや、もしかしたら、いきのいいかいパンやろうが溺れているのかもしれませんね。

 

 

 ───だったら!

 

 

 

「たんたいのヨワシを狙いましょう、オニシズクモ! 小さな水飛沫にバブルこうせん!」

 オニシズクモの放つバブルこうせんが水飛沫に直撃。小さなヨワシが一匹逃げていきます。

 

 続いて増える小さな水飛沫。わたしはまた、オニシズクモにバブルこうせんを命令した。

 

 

 

 それを何度も繰り返す。小さなヨワシ達を倒す度に、大きな水飛沫はどんどん小さくなっていった。

 

 

 

 そして、ついにはぬしであるヨワシむれたすがたはたんたいのすがたに戻ってしまう。

 ここが決め所。またヨワシに集られる前に───決めます!

 

 

 

「オニシズクモ、いきます!」

 Zリングに力を込めます。波を立てるような、ゆったりとしたポーズ。

 

 これがわたし、スイレンのゼンリョクです!

 

 

 

「スーパーアクアトルネード!!」

 巻き上がる水流。小さなヨワシがその水流に巻き込まれ、水を纏ったオニシズクモが水流を貫いた。

 

 決まりました、みずのZ技。

 

 

 

 倒されたヨワシはわたしを認めてくれたのでしょうか?

 

 みずのクリスタルを加えた一匹のヨワシが、その疑問の答えをわたしに渡してくれる。試練突破ですね。

 

 

 

 

 これも、あのいきのいいかいパンやろうのおかげです。あの人がヒントをくれたから、ここまで来る事が出来たのですから。

 

 まだちゃんとお礼を言っていませんでしたね、一緒に釣りでもしながらゆっくりお話をしたい気分でもあります。

 

 

 そして一緒にマナフィを釣りましょう。───嘘です。

 

 

 

「あの、いきのいいかいパンやろうさ───……あれ?」

 しかし、陸に上がってもあのかいパンやろうの姿は見当たりませんでした。

 どこに行ってしまったのでしょう? そういえば、最後に見た時は準備運動をしていましたね。

 

 もう、泳いでどこかに行ってしまったのでしょうか……。

 

 

 

「……ラプラス、オニシズクモ。行きましょうか」

 ……また、会えるでしょうか? ちゃんとお礼を言いたいのですが。

 

 

 ……いや、きっと会える筈です。そんな感じがします。

 

 

 

 わたし、スイレンはこれでアーカラ島のキャプテンの一人。

 

 

 これからは切磋琢磨して、ヨワシ達を鍛え上げ、島巡りの人に試練を与える側になるのです。

 

 

 

「……あれは、なんでしょうね?」

 帰路に立って、ふと水面を見てみると大きな水飛沫が上がっているのが見えました。

 

 ヨワシの群れかそれとも───

 

 

 

「ふふ、もしかしたら」

 

 

 ───いきのいいかいパンやろうかもしれませんね。




ポケットモンスターウルトラサンムーン発売おめでとうございます。


今回はサンムーンで登場した物凄く濃いキャラ、スイレンのお話を書いてみました。ポケモン自体初めてだったので、少し戸惑いながらでしたかなんとか書き上げましたよ。
スイレンがいきのいいかいパンやろうを推しまくる理由がこんな感じだったら面白いかなー、みたいなお話でした。公式設定とかと違ったらゴメンね。キャプテンってZ技使えたっけ。


ウルトラサンムーンをクリアしたら、ポケモンの連載を書く予定です。もしお目にかかる事がありましたら、その時はまたよろしくお願い致します。


それでは読了ありがとうございました。感想評価の程お待ちしております。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。