Fate/Crusade Ops【軍人Fate】 作:はまっち
それは、まさに青天の霹靂だった。
キャスターと、エンジニアを名乗るサーヴァントの一騎打ち。細い路地を舞台にして行われた激闘を、誰も邪魔する者はいないと矢先の出来事。どこからともなく、いや黒く塞ぎ込むような空から墜ちてくるようにして参上した第三者が、何もかもをもめちゃくちゃにした。
丁度一瞬前まで、スパナとナイフの応酬が繰り広げられていた殺陣が、たった一度の闖入者により崩壊する。
雷鳴の如く現れたそのサーヴァントに、ヴェスパは目を奪われた。
「嗚呼、嗚呼嗚呼嗚呼…………」
怨恨とも歓喜ともつかぬ、歪みきったしゃがれ声。
その身体からはどす黒い血のような色の霧を、靄を放出し続けており、その正体は依然として判らない。
その手には、同じく漆黒に染まりきった背の丈ほどもある小銃。時折薄くなる霧から覗くボロボロにすり切れた袖は、まるで悪鬼羅刹かそれに追い回される亡者のような印象を覚えさせる。
黒い霧の形をして纏わり付いた幻術、それか認識阻害の影響か、肌にひしひしと感じる濃密な殺意と魔力の奔流以外に彼の素性を知ることは出来ない。
ただ――――、この怨霊のような出で立ちには思い当たるクラスがある。
「……キャスター。不味い、『
バーサーカー。圧倒的な膂力を誇る戦場の狂気そのもの。マスターの魔力消費と、殆どの場合で命令に従わないという戦略的欠点を除外すれば、最強と言えるサーヴァントの一角である。
そんなものと正面からかち合えば、所詮はキャスター。木の葉でも千切り飛ばすかの如く惨殺されるに違いない。――――そして、マスターであるヴェスパ自身も。
刹那、ぐりん。と
バーサーカーの首に当たる部位が、思い切り後ろに捻り曲がる。ほとんど180度。人体の構造上、あり得てはいけない角度と方向からバーサーカーはキャスターとヴェスパの方向を向き――
――――にちゃりと、その鮮血に染まった口角を薄く横に広げた。
「友友友友友友軍軍軍軍軍軍■■■■■――――ッ」
ぞわりと、背筋に怖気が走る。
違う。あいつは、『キャスターを見た
直接
「嗚呼――中将、閣下。不格好ナ敬礼ニツキ、失失失失礼礼礼レェェイシ、マス――――」
バーサーカーはそんなヴェスパの様子などつゆ知らず、ぎこちない動作で真っ黒く染まりきった小銃を腰の高さまで持ち上げると、靄だか霧だかによって判然としない左手を銃の中央部に添える。
そのまま腕の力だけで軽々と、しかしゆらりと不敵な気味の悪さを孕んだまま上に引き上げて体の中央で構え、右手で銃の下部を持つ――あたかも君主に宣誓を捧げる騎士のように、真っ直ぐ構えた銃の筒口を空へと向けた。
「……何を、している?」
「判らん…………吾輩を、友軍、それか上官とみている。のか?」
エンジニアを背にするように、キャスターを正面とするように直立して銃を空へと構え続ける様子を見て、キャスターは小さく答えた。
「嗚呼、中将閣下。小官ハ貴隊ノ指揮、シキシキ、指揮下ヘ……シキ指揮指揮指揮指揮指揮指揮指揮危機危機危機キキギギギギギ――――」
それに、バーサーカーは壊れたゼンマイ仕掛けの玩具のような音を喉の奥から発することで応じる。否。応じたという表現は間違っているのかも知れない。
それが何を表現しているのか、皆目見当もつかないほどの濁りきった声が、漆黒の靄の奥から、まるで奈落の底から響いてくるような重低音を大気に伝えつつ発されるのだから。ときおり覗かされる血走った両の瞳は、キャスターを正面から見つめているようにも見えて、その実どこでもない虚空を見つめているようにも見える。
エンジニアも、キャスターも、そしてヴェスパも、この奇妙な狂戦士をどう扱うべきか惑っていた。
どちらがどちらと共闘すべきか。誰が敵で誰が味方なのか。この異常な亡霊をなんとかしないことには、何も始まらない。そう思った矢先のこと。
「
突如として、幽鬼が猛る。
びりびりと大気が泣き喚き、直後轟音を立ててガラスが飛び散る。
咆哮の気魄のみで、雑居ビルの窓を粉砕したというのか。
唯一の生身の人間であるヴェスパはもろに破片を浴びる位置ではなかったが、あまりのことに慌てふためいてわたわたと両の腕を振り回したその瞬間、右手の中に握られていた電子機器。スマホに破片に一つが突き刺さった。
「あわー!?」
その声に反応したのか、咆哮の後に小銃をだらりと下げてしばし虚空を見つめていたバーサーカーに動きがあった。
「比島……人。小官、ハ、護国ノノノノノノオニニシテ八紘一宇ノ具具具具具現現現現現。嗚呼、周リハミナ敵、敵敵敵敵敵敵敵敵、嗚呼将ニ我ガ世ニ現出セル地獄ゥッ! 南洋ノ孤島ニオイテ小官ハ、小官ハ、小官ハ小官ハ小官ハ小官ハ小官ハ小官ハァアアアアア――――ッ!」
突然に何事かをぶつぶつと呟いて、最後には頭を抱えて天を仰ぐ。
黒い霧に覆われた人影から、1つ真っ黒に染まりきった闇が一粒こぼれ落ちて、消えていく。
ふらり。嘆き終えたように虚空を睨んで起立していたバーサーカーの腕が、脚が、糸に操られたかのように――独りでに動いた。
重厚な魔力の風が、黒い霧と一緒に小銃へと集まっていき――その先端に、どす黒く尖った銃剣を作り出す。
「敵視ニィィイイイン、比島ゲェリララララララ…………」
キャスターは、そのとき悟った。
狂気を孕んだ赤い双眸の向こう側にいるのが、他ならぬ未熟者な少年、ヴェスパであることを。
「マスター、逃げろっ!」
「嗚於……中将閣下、万歳――――! ■■■■万歳――ッ!!」
全てのものを憎み、狂わせるような唸り声の中で、バーサーカーは銃剣の突き刺さった小銃を腰だめに構え――
「万■■■■■■■■■■■■歳ィィィィィッッッッッッッ!!!」
雷霆よりも早く、駆けた。