Fate/Crusade Ops【軍人Fate】   作:はまっち

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Incoming

上官殿(マスター)。バーサーカー、エンジニア及びコマンダーが撤退するようだ」

「キャスターは?」

「マスター共々、一時待機……応急処置か」

 

 どうする? 照星の向こう側にまだ年若い少年の頭蓋を捉えたまま、アサシンは尋ねる。

 静かに、ただただ感情を押し殺した平坦な声を以て。

 ふうん。エイナはうすらとほくそ笑むと、男に尋ねかける。

 

「やれるの?」

「ああ、素面じゃなくたって外すことはない」

 

 証拠とばかりにふいと銃口を跳ね上げ、またぴたりと同じ位置に戻した。

 その気になれば指を少し動かすのみでその命を奪える位置に、彼は立つ。自分から狙点をずらし、調整を加えた上ですぐにまた狙いを付ける。

 銃口の向こう側の少年はほんの500m先の暗闇から覗かれていることに気付きもしない。容易いな。アサシンは一つ鼻で笑う。

 

 まるで命をもてあそぶかのような行動に眉をしかめて、エイナは告げた。――――撃てと

 

 あいよ、マスター。小さく返した瞬間、アサシンの纏う空気が一変する。

 ぴりぴりと震動する大気の中、ふっ。アサシンの肺胞から放たれた短くも太い呼気。

 それきり撃つ側も撃たれる側も微動だにせず、ただ一陣びゅうと風が啼いた。

 

「……じゃあな、キャスターの少年」

 

 アサシンは静かに胸を膨らませ、たったの一息で引き金を引く。

 霜を落とすように。一切のぶれもズレもなく引き絞られたトリガーが働き、夜闇を切り裂くような銃声とほぼ同時に鉛の弾丸が飛翔した。

 

 獲った。

 にまりとアサシンは口角を上げ、勝利を確信する。

 このまま数秒後、

 ――と、次の瞬間。

 

 銃弾が爆ぜた(・・・・・・)

 

「…………っ、伏せろマスター!」

 

 一瞬の不審にわれを奪われながらも、アサシンは叫んだ。

 サーヴァントの、しかも気配遮断スキルを有するアサシンの狙撃を妨害した何者かが、“この狙撃地点に気づいた”――なぜだかそういう確信が持てた。

 

 え? きょとんと立ち尽くすエイナの銀髪を散らすようにして、何かが通り過ぎていく。

 それは彼女の背後、コンクリートで作られた建屋に突き刺さった。

 白銀の月光に照らされたその金属製の鏃。あたかも光線か何かのように放たれたその物体の形。

 そして、サーヴァント随一の視力を有するクラス。それは。

 

「アーチャーか」

 「アーチャー、なんでっ!?」

 

 エイナの小さな悲鳴を聞きながら、アサシンは小銃を抱えて周りのビル街を見回す。

 

 どこだ、どこだ。見つけろ、敵の狙撃手を見つけねば――――

 ドクリと心臓が大きく高鳴る。醜く変形した下あごがじくりと痛んだ。

 

 見つからない闇にちっと舌打ちして、銃を両手で抱きかかえる。マスターのほうをいったん振り返り、ひとつアイコンタクトを行った。

 こくり。エイナは力強く頷いて、右手に描かれた赤い血のような令呪にそっと指を這わせる。

 瞬間、魔力が収縮した。ビルを通り過ぎる強風が巻き込まれるようにして、ぞっと底冷えするような冷気が流れ出ていく。狙撃銃を包み込むようにつむじ風が舞う。それ自体が特大の異常性と変異していく。

 

 これを使えば、マスターを逃がすくらいはできる。アサシンはごくりとのど仏を上下させて息を吸った。

 

「宝具――――」

 

 「駄目!」

 「何?」

 

 突然の指示にあっけにとられ、アサシンは後ろを。マスターたるエイナのもとを振り向く。

 

 「……もう遅いわ」

 

 まず目に映ったのは、すべてを諦めたかのようなエイナの顔。

 銀色の長い髪が不自然に肩の辺りで切り離され、パラと夜風にさらわれて飛んでいく。

 そして――細い首筋にあてがわれた白銀の長剣。

 

「誰だ、貴様は」

 

 アサシンは殺意だけを声にこめ、ぽつりと問う。

 すると闇が実体を纏うかのように、魔力がうごめく。

 

「さすがだな、狙撃兵」

 

 出てきたのは筋肉質な腕。剣を握り締めた右腕と左腕の二つのかいなが、エイナの後ろの闇から生えているようだ。

 茶色い士官服に包まれているとはいえ目に見えるそれはまるで丸太のように太く、強く。ただそれだけでも細い首をへし折れそうなくらいに。

 ひとつ舌打ち。それは接近に気づけなかった自分自身へのものか。

 狙撃を諦めたアサシンの小銃がエイナを、そしてその後ろにうごめく魔力の塊をむけて指し示された。

 おお、こわいこわい。闇はせせらわらって、何も持っていない左腕であたかも前髪を整えるかのように闇にかざされる。

 

 「ようアサシン。いつぶりだ?」

 

 闇は一人の男の形をとって、実体となった。

 茶色い砂漠用の士官服に身を包んだその男は、あたかも旧友であるかのようにアサシンへ笑いかける。

 

 「……貴様みたいな時代錯誤野郎と会ったことはないが」

 

 それもそうか。がははと豪放に笑い飛ばし、男はエイナの首にあてがった剣を握りなおした。

 月光を跳ね返してちかりと煌めく銀の刃は、中世の騎士が握るものと同じもので。

 その時代錯誤じみた騎士剣と弓が、近代的な黄土色がかった士官服とのコントラストとなって絶妙な違和感をかもし出す。

 

 「俺はジャック。ただの名無しさん(ジャック)だ」

 

 ジャックと名乗った男は、エイナの首から長剣を離すとその切っ先をアサシンに向けた。

 

「――さあ、殺しあおうぜ。そのための戦争だ」

 

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