アローラ地方。
サンサンと輝くビーチ、手付かずの自然、独自の進化を遂げたポケモン達。そこはまさに楽園――だったのは昔の話。
今は廃人トレーナーと恐ろしい野生のポケモン達が跋扈する、修羅の地と化していた。
そんな恐ろしいアローラに、新人トレーナーが一人……


最初の御三家の代わりにマザービーストと(知らない人はググってね)一緒に修羅の地アローラを旅する話です。

1 / 1
相棒はマザービースト

 数日前の事だ。

 都会で暮らしていた僕は、とある事情からここアローラ地方へと引っ越してきた。

 田舎は余所者を嫌うという噂をよく耳にするが、アローラは観光業が栄えてるためかそんなことはなく、僕たち一家を快く歓迎してくれた。

 

 そして引っ越しが全て終わり、昨日。

 ククイ博士が、僕にポケモンをくれると言った。

 

 ポケモンを持つ……即ちポケモントレーナーになる事は、全ての子供の憧れだ。もちろん、僕だって憧れてる。

 一体どんなポケモンなんだろう?

 仲良くなれるだろうか?

 最初は誰とバトルしよう?

 そうだ、仲間も増やしたいな。

 そんな考えが頭の中を埋め尽くして、昨日の夜は寝られなかったくらいだ。

 

 そして今日、当日。

 僕を迎えに来たククイ博士が、申し訳なさそうな言った。

 

『ごめん、ちょっとした手違いでポケモンが残り一匹しかいなんだ』

 

 正直残念な気持ちはあった。

 だけど一瞬、貰えないんじゃないか、という考えがよぎったこともあってか、すんなりと受け入れられた。

 まあ貰えるだけ有難い事だし、見方を変えれば、残った最後の一匹ってなんだか運命的なものを感じる。

 要は次のポケモンが入荷するのを待てるほど、僕は大人ではなかったのだ。

 

 そしてククイ博士としまキングであるハラさん立会いの元、僕は初めてのポケモンと立ち会った。立ち会ったのだが……。

 

「いや、あの……ポケモン?」

 

 目の前にいるのは、黒いドレスを着た金髪の美女。

 こっちを見ながら妖艶に「うふふ」と笑っている。

 

「もちろん、立派なポケモンだ! マザービーストっていう新種のポケモンなんだぜ」

「マザービーストです、どうぞよろしくお願いいたしますわ」

「喋ってます! ククイ博士、マザービーストさん喋ってらっしゃるんですけど!」

「ペラップだって“おしゃべり”するぞ」

「そうですわ。わたくし、“おしゃべり”は大好きなんですの」

「え? “おしゃべり”ってこんな、え?」

 

 そもそも“おしゃべり”ってペラップの固有技じゃないの?

 ていうか“おしゃべり”を覚えられたとしてもスムーズに会話できるもんなの?

 戸惑う僕を無視して、話はドンドン進んでいく。

 

「パートナーになるには、君がポケモンを選ぶだけじゃあダメなんですな。ポケモンもまた、君を選ばなきゃならない。さあ、見合って!」

 

 広場の中央。

 テーブルを挟んで、マザービーストと向かい合う。

 ポケモンの癖に、カフェオレ飲むなよ……。

 

「年収はおいくらかしら? ご趣味は?」

「見合ってって、お見合い的な意味だったんですか!?」

「ふふふ、冗談ですわ。わたくし、ジョークは得意ですの」

「そうですか。二度とやらないで下さい」

「まあ。早速精神的DVですか……」

 

 よよよ、とハンカチで涙を拭うマザービースト。

 ハラさんとククイ博士が「ゴクリ……」と唾を飲み込みながら、緊張した顔でこっちを見てる。「も、もしかしたら相性が悪いんじゃないか!?」的な感じだ。もうホントどうにでもなれバカヤロウ。

 

「ですがわたくし、束縛されるのは嫌いではありませんの。むしろ、激しく求められたほうが燃え上がるタイプですわ」

「あっ、そうですか」

「ですので貴方が気に入りました。出会って数秒で大声で怒鳴りつけたり――」

「ツッコミだよ!」

「わたくしに特技を止めろと仰ったり――」

「貴方の特技は人を不快にさせるんですよ!」

「あらあら。そう興奮なさらないでくださいませ」

「どうして僕が諭されてる感じになってるんだよ!」

 

 ツッコミに疲れて僕が肩で息をしていると、ククイ博士とハラさんが満足そうに話しかけてきた。

 

「相性はバッチリのようですな」

「ごめんなさい、どこを見てそう思ったんですか……?」

「良かったな!」

「なにが良かったのか、説明してくれますか……?」

「ほら、ちゃんとお礼を返さないと」

「何でもう相棒感出してるんだよ、君は!」

 

 ふと気がつくと、僕とマザービーストの言い合いを、周りの大人たちは微笑ましい目で見ていた。

 違う、違うんです!

 そんな微笑ましいものじゃないんです!

 

「おお、そうだ。せっかくだから、しまキングのハラさんと手合わせしてもらうといいよ」

 

 えっ、僕の最初のポケモンマザービーストで決定なの?

 

 僕が戸惑う間にも、着々とバトルの準備が整えられていった。

 ちくしょう、こっちはまだマザービーストの技や特性どころか、タイプも把握してないのに!

 

「マザービーストさんは何タイプなんですか?」

「女性にタイプを聞くのはマナー違反ですわよ」

「えっ、タイプってポケモン界隈じゃそんな体重みたいな感じなの?」

「ふふっ。冗談です。わたくしはゴースト・エスパーですわ。それからエアロビクスも嗜んでいますので、かくとう技も少々使えますわ」

 

 エアロビクスってすごい。

 僕はそう思った。

 

「では行きますぞ!」

 

 そうこうしている間に戦いの用意が終わり、しまキングのハラさんがポケモンを繰り出してきた。

 冷静に考えると、この戦いは結構悪くないんじゃないかという気がしてきた。というのも、しまキングは簡単に言えば「ポケモン観光大使」みたいなもので、ポケモンと一緒にやるレクリエーションにも精通しているからだ。

 初心者の僕に、同じくらいのレベルのポケモンを使って、楽しく戦いのイロハなんかを教えてくれるかもしれない。

 

「ハリテヤマ!」

 

 殺意高スギィ!

 初手に出してきたのはハリテヤマだった。しかも相当鍛えられている。レベルで言うと――レベルというのは、ポケモン協会が定めてる強さの指針になる数字で、目分量でも分かるけど、図鑑を通すと詳しい数字がわかる――60以上は確実にある感じだ。

 ちなみに、普通最初に貰えるポケモンは一律5レベルだ。その12倍って……アホなんじゃないの?

 

「ま、マザービーストさん! お願いいたします!」

「少々お待ちを。身嗜みを整えますわ」

 

 マザービーストさんは何処からか取り出したこだわりのありそうなスカーフを首に巻いて、お洒落なメガネをかけた。

 

「さあ、命令をくださいませ」

 

 そう言われても、だ。

 僕はてっきりモクローかニャビーかアシマリを貰えると思っていたから、その三匹についての知識はあっても、他のポケモンに対する知識はあまりない。そもそもマザービーストに至っては、存在自体今日初めて知ったし。

 

「エスパー技って何を覚えてるんです?」

「“ねんりき”から“サイコキネシス”まで、ほぼほぼ全て覚えてますわ」

「わあ強い」

 

 “サイコキネシス”といったら、エスパー技の最高峰だ。

 それを最初から覚えてるなんて。

 

「それじゃあ、“サイコキネシス”をお願いします」

「嫌ですわ」

「!?」

「わたくしに命令する時は、もっと強く言ってくださいませ」

「えぇ……」

「お早く!」

「ああ、もう! マザービースト、“サイコキネシス”を撃て!」

「あぁん!」

 

 無駄に艶やかな声を出しながら、マザービーストさんは右手を前に差し向けた。

 

 ――轟音。

 

 一瞬耳が聞こえなくなるほどの、凄まじい轟音。

 次に砂埃。

 たった今噴火しました! と言われても信じてしまいそうになるほどの砂埃。

 砂埃が晴れると、そこに広がっていたのは荒野だった。大地はえぐられ、草の一本も生えていない。

 ……ねえ“サイコキネシス”強すぎない?

 

「……少々、やりすぎましたわ」

「少々? 気は確かか! どうみてもやりすぎだよこれ! ハリテヤマ生きてるこれ!?」

「おほほほほ。ポケモンの起こしたトラブルはトレーナーの責任ですわ。トンボがけ、頑張ってくださいね」

「トンボがけ!? これトンボがけでどうにかなるの!?」

「まあわたくしが“ねんりき”あたりを使って直しても良いのですが」

「それでお願いします」

「……」

「ああもうめんどくさいな! マザービースト、“ねんりき”を使え!」

「はい喜んで!」

「大衆居酒屋!?」

 

 マザービーストさんは空中で手を動かし、吹き飛んだ石や砂利を瞬く間に敷き直した。流石に木や草のような自然物は無理だったけど、それでもまあなんとかそれっぽくはなった。

 

「ぐぬぬ。ハリテヤマがやられるとは! ですが、まだまだですぞ!」

「あれだけ瞬殺されたのに、いささかも闘気が衰えていない!?」

「頼みますぞ、ゴウカザル!」

 

 このゴウカザルもレベル60以上はある感じだ。ハラさん強すぎない?

 

「ゴウカザル、“ねこだまし”ですな!」

「うわっ!」

 

 ハラさんのゴウカザルが“ねこだまし”を放ってきた。

 遠くに立っている僕ですら驚いてしまう技の練度。ゴウカザルがいかに鍛え抜かれてきたかがうかがえる。

 だけどマザービーストさんにはやっぱり通用しなかった。

 “テレポート”で瞬時に後ろに瞬間移動、と同時に“にどげり”でゴウカザルの横っ腹を吹っ飛ばした。あのガッシリした体つきのゴウカザルをあそこまで吹き飛ばすなんて、なんて威力だ。

 

 やっぱりエアロビクスは最高だ。

 僕はそう思った。

 

「マザービースト、“サイコキネシス”を撃て」

「かしこまりました」

 

 再び響き渡る轟音。

 ハラさんもとんでもなく強いんだろうけど……それ以上にマザービーストさんが強すぎる。

 ゴウカザルは鳴き声の一つも出さないまま、はるか彼方へと飛ばされていった。

 

「次、参りましょうか。なんなら貴方の手持ち全て同時でも構いませんわ」

「では参りますぞ! 行ってくだされニョロボン・キテルグマ・ケケンカニ!」

「出すんかい!」

 

 そこは「舐めないでくだされ!」とか言って一匹ずつ出して、順当にやられていっちゃうけど最後の一匹でなんとか一矢報いる流れじゃないのか! それでいいのかしまキングッ!

 

「マザービースト、“サイコキネシス”」

「もっと抑揚をつけて下さい。オペラ歌手のように」

「マァァァァアザァビィィストォォォオ! “サイコキネシス”!」

「うーん……。まあ、及第点ですわ。発声練習をもっとしておくように」

「今のくだり必要あった!?」

 

 そして無駄に採点厳しい!

 

 そうこうしている内に、マザービーストさんの“サイコキネシス”は、ニョロボン・キテルグマ・ケケンカニを粉微塵にした。

 文字通り、本当の粉微塵に。

 

「えっ、ちょ、あれ……死んでない?」

「大丈夫です、“ひんし”ですわ」

「いや“ざんさつ”だよ!」

「おほほほほほ」

「笑ってごまかすなよ!」

「ごまかしたのではありませんわ。現実逃避です」

「なお悪いわ!」

 

 頭をひっぱたくと、マザービーストさんはバツの悪そうな顔をした。

 美人ってずるい。

 ちょっとそういう顔をしただけで、こっちが罪悪感を感じちゃうんだから。

 

「それだけじゃない。僕はマザービーストさんの切なそうな顔に、言いようのない劣情を抱いた。嗜虐心と言う名の巨大で貪欲な獣が、目覚めた瞬間でもあったのだ……」

「勝手にモノローグを捏造しないで下さい!」

「淑女の嗜みですわ」

「その淑女は、ダメな方の淑女だと思います」

「いいえ、わたくしは本物の淑女ですわ。なにせ、エアロビクスをしていますから」

 

 エアロビクスなら仕方ない。

 僕はそう思った。






落ちもなく唐突に終わり!
サン・ムーンの長編プロットを練ってたのですが、今連載しているssが終わるより早く続編のウルトラサン・ムーンが出るようなのでボツになりました。
せっかくなので書き出しだけここに置いておきます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。