剣統べる魔王の物語   作:征嵐

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第11話

 

 人間では相対できないものに相対しているのなら、それは人間ではない。

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「明日は私とマリーがいないから図書館は閉めておくけれど···訓練はサボっちゃダメよ?」

 

 そう言っていたロルリアンレットが出掛けるのを見届けてからと言うもの、僕たちは悪逆の限りを尽くしていた。具体的には、朝の8時だというのに、二度寝の姿勢に入っていた。

 

 「じゃあ、おやすみ、みんな···すぅ。」

 「えらく寝付きが良いわね···。疲労が溜まっていたのかしら?」

 「ここ最近忙しかったですしー、私達と戦ってましたし、何度となく死にかけてますかねー。」

 「昨日死んでた···。」

 

 僕のベッドに腰かけた三人の会話を聞く。はい、流石にそこまで寝付きはよくありません。確かに疲れる事は多かったが、おかげで毎晩ぐっすりだったから、そこまで疲労が溜まっているわけでもない。···昨日は本の整理で夜遅くまで起きていたけれど。

 

 「あら?」

 「あれ?」

 「···。」

 「嘘だろ···。」

 「あら、おはよう、マスター。お早いお目覚めね。」

 

 魔剣たちが軽く驚きを示し、僕が早々に二度寝を止めて身体を起こした理由。それは階下──すなわち、ロルリアンレット魔法図書館から聞こえてくる破壊音と絶叫にあった。

 

 「嘘だろ強盗か何かか···テロリストか···?」

 「なんにせよ、魔法図書館の防護魔法を破ったのだから、それなりの強者でしょうね。」

 「グラムが"強者"と断じる相手とかロルリアンレットとマリーさんぐらいだよね···そのレベルの奴が強盗とか、もう世紀末だね。」

 「どうしますかー? 勇者でも呼びますかー?」

 

 それはなんとなく悪手な気がする──いや、違うな。嫌なんだ。勇者という人間に、E.D.E.N.に属する、グラムを攻撃していた組織に助けを乞うと言うのが。なら、ロルリアンレットに連絡する──のは、大前提か。問題は、ロルリアンレットが帰ってくるまでの間をどう乗り切るか。早めに対処しておかないと、今も断続的に聞こえてくる破壊音から考えて、図書館の被害がえらいことになり、それを修復する僕の被害もえらいことになる。具体的には、疲労骨折が重なりまくって「一回死んでブレイズで一括治癒した方が早いわよ」なんてセリフをロルリアンレットに吐かれる羽目になる。ブレイズが小さな負傷でも発動してくれればいいのだが、どうも致命傷以外には興味がないらしい。

 

 「ぎんいろ、ロルリアンレットを探してきて。確か···元魔王に会いに行くとか言ってたから。」

 「···分かった。貴方に従う。」

 

 ぎんいろの姿が空気へと溶けて消える。大気中のエーテルと同化し、そのままロルリアンレットを探しに行ったのだろう。待機状態の魔剣を有効活用する、良い手法だ。

 

 「さて···行こうか。倒すのは無理でも、時間ぐらい稼げるでしょ。」

 

 死なないし。流石にブレイズが尽きれば死ぬだろうけど···まぁ、流石にそれより早くロルリアンレットが帰ってくるでしょ。ロルリアンレットが負けるとなると···そりゃ六大魔王か、13竜王か、そのレベルの化け物だ。その時はその時で、一宿一飯の恩ぐらいは返そうじゃないか。囮ぐらいには···いや、ダメだな。僕が死ねば魔剣たちも消えてしまう。

 

 「こんな事を考えてても仕方ないな。まずは敵の顔でも拝んでおこう。人数とか戦力とか···。」

 

 敢えて口に出して目的を確認する。これ以上、思考がネガティブにならないように。

 

 「まずは偵察、ね。いいわ。」

 「じゃあ、私がここでマスターさんを守っておきますねー。」

 「あら、マスターも来るのよ。勿論、貴女もね、ジャガーノート。」

 

 なんでさ···。エーテル化して偵察してきてよ···。わざわざ死地に飛び込む必要もないじゃん···。いや、待てよ? グラム視点では雑魚でも、僕からすればラスボスな場合もあるか。うん、僕も行こう。雑魚だと思って突喊したら死亡とか、ごめん被る。

 

 「おーけー。僕も行くよ。守ってくれ、ジャガーノート。」

 「···仕方ないマスターさんですねー。」

 

 ──で、見に来た訳ですが。うん。皆で来て良かった。

 

 「マスター!! 魔力を!! 魔力を回して!!」

 「落ち着いてくださいグラム!!」

 「そうだよ落ち着いてグラム!!」

 

 僕が魔力供給を遮断したにも関わらず、無理やり吸い上げて実体を保っているグラムは、階段を降りる前にいきなり飄々とした態度を変え、明らかすぎる殺意を剥き出しにしていた。珍しく焦った様子のジャガーノートが羽交い締めにし、僕が全力で魔力を遮断してもなお、階下のテロリストを殺さんとして動いている。

 

 「グラム、どうしたの!?」

 「どうした、ですって!? マスター、貴方になら分かる筈よ、今階下で暴れているのが何者か!!」

 「良いから落ち着いてくれ、グラム!!」

 

 一人で突っ込ませる訳にも、ジャガーノートにフォローに付かせて二人で行かせる訳にもいかない。相手の情報が"ロルリアンレットの魔法防御を破った"ということしか無い今は、特に。心を無にして、ではなく、心底から「グラムを詳細不明の死地に飛び込ませる訳にはいかない」と思って語調を強めると、グラムは弾かれたように大人しくなった。ばかりか、ジャガーノートまでもが驚いた表情で僕を見ている。···どころか、階下の絶叫までもがぴたりと止んでいた。完全な沈黙が場を支配している。

 

 「あ、ごめん。僕の声が一番煩かったね···。」

 

 騒々しい教室で「煩い!!」と叫んだ瞬間に全員が静まり返ったような静けさ──なんの例えでもなくそのままだった。いかん、まず僕が落ち着け。

 

 「ごめんなさい、マスター。でも、貴方になら偵察の必要もなく、敵が何者か分かる筈よ。」

 「···?」

 

 言われてみて初めて、階下に意識を集中させる。知っている気配に良く似た気配。再び始まった破壊行動に一貫性はなく、ただ溢れ出る魔力と衝動を発散しているだけのような──暴走魔剣か!? しかもただの暴走魔剣じゃない。この気配──いや、僕に気配で相手を見定めるような技術はないから、直感的にと言うべきか。とにかく、僕にはその"暴走魔剣"に大まかな検討を付けていた。

 

 「なんか···グラムに似てるね。」

 「えぇ。」

 「···?」

 

 ジャガーノートだけが頭上に疑問符を浮かべる中で、僕は哀しさを、グラムは殺意を、胸の中に持っていた。全員に共通するのは、ただ一つの思い。初めて会った時のグラムのような、悲哀と絶望をその身に宿して荒れ狂う魔剣を止めてあげたいという願い。

 

 「行こうか。ジャガーノート。グラム。」

 「えぇ。」

 「はーい、マスターさん。」

 

 獰猛な笑みと、いつもの嘲笑じみた微笑と、久し振りの本気の死場に固まった表情。三者三様の顔つきで以て階段を降り、ひっそりと図書館へ入り、本棚に身を隠して暴走魔剣を伺う。グラムとお揃いの銀色だが、やや鋼の色が混じった髪に、漆黒の翼。グラムとは対照的な黒いドレスに華奢な体を包んだその魔剣は、言い表すならば、『グラムの妹』だろうか。

 

 「えぇ、正解よ。マスター。()()は私の模造品···。私の、妹。」

 

 グラムが飛び出さないように握った手を握り返しながら、忌々しそうにグラムが言う。手を繋ぐ程度で、というか、僕の腕力程度でグラムの動作を止めることは出来ないけれど、殺意に任せて飛び込めば僕の腕がもげるという、自分自身を人質とした静止方法だが、それは今のところ効力を持っていた。

 

 「妹···?」

 「えぇ、そうね。その上、私より強いわね。()()は。」

 「ウッソでしょ···どうしろと?」

 

 勝ち目なんて無かった。···あれ? 想定通りじゃね? 大丈夫じゃん。じゃあ予定通り、時間を稼ごうじゃないか。

 

 「よし、じゃあグラム。ここで待ってて。」

 「えぇ。···え?」

 

 グラムの手を離すと、徐に立ち上がって本棚の陰から出て姿を晒す。暴走魔剣とはいえ、意志が残るのはグラムの時で分かっている。それなら、敵意が無いことさえ示していれば、破壊衝動が収まっているっぽい今なら、対話の余地がある。

 

 「ねぇ、君···えっと、グラムの妹ちゃん。」

 「···?」

 

 片手でもう片方の腕を掴んだ姿勢で、その暴走魔剣が振り向いた。グラムのアメジスト色に対するかのように、色素の薄い鋼色をした瞳が僕を見据える。鋼色と形容するには余りに澄んだ目が僕を貫き──瞬間、怯懦の色を帯びた。

 

 「あ、あの···貴方は?」

 「ん? 僕は···そうだね、君のお姉さんのマスターだよ。」

 「お姉ちゃんの···?」

 

 今度は懐疑的な目になり──かと思えば、また怯えの色が色濃い目になる。どうやらこれがデフォルトらしい。

 

 「そんなデフォルトがあってたまるかってね···。」

 「え?」

 「あ、いや、そんなに怖がらなくても、僕なんて、君のパンチ一発でし···ギブアップなのになーって。」

 

 死ぬ、という表現は避けた。何故かは分からないが、それが正解なような気がしたからだ。

 

 「あれ?」

 「えと···何ですか?」

 「あ、いや、何て言うか···綺麗だなーと思ってね。」

 「ふぇ!?」

 

 おかしい。綺麗すぎる。グラム級の暴走魔剣なら、ただそこにいるだけで小さな村なら消滅すると言うのに、図書館は本棚がいくつか倒れて机が幾つか消えただけで、大損害というほどの損害は被っていない。まるで、何か別のモノで破壊衝動を発散したような···そういえば、目の前の魔剣のドレスは所々血が滲んでいて──ん?

 

 「人を殺して付いたにしては少ない···。」

 「あ、あの、えっと···。」

 「どうしたの?」

 「ありがとうございます···。」

 「んー···ごめん、何が?」

 

 いきなりお礼を言われたでござる。脇腹や腕に付着している血液から視線を反らして目の前の魔剣と目を合わせると、彼女は心底嬉しそうに笑った。

 

 「私を誉めてくれるってことは、その、私のベースであるお姉ちゃんのことを誉めてくれたってことだから、その···ありがとうございます。」

 

 んー? ん? あ、いや、えっと、ですね。はい。確かにグラムもその妹である君も凄く綺麗だけどあうあう。···あう?

 

 待て待て。恥ずかしくなって視線を切って気付いたが、そうだ。むしろ何で気付かなかった。馬鹿じゃないのか。いや、馬鹿だ。間違いなく馬鹿だ。返り血じゃない血液の出所なんて、一つしかないだろう!?

 

 「ねぇ君···それ、誰にやられたの?」

 「え? ···ッ!!」

 「ここにいて。すぐに戻るから。」

 

 体を抱くように腕を交差させた彼女は、そのまま顔を伏せてしまう。僕はすぐに席を立って救急箱を取りに走った。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「ねぇ、ジャガーノート。」

 「ですねー。面倒ですねー。でもマスターさんの邪魔をさせる訳にも行きませんねー。」

 「えぇ。そうね···はぁ、()()とマスターを二人きりで残すのは気が引けるのだけれど···仕方ないわね。」

 

 二人の魔剣は、走り去っていった己がマスターの後ろ姿を見届けると、静かに動き始めた。向かうは図書館の入り口。そこには、既に一個中隊の勇者が揃っていた。

 

 「隊長、突入の準備が──魔剣を確認!!」

 「何!?」

 「なんだと!?」

 

 二人が姿を見せたことで、殺気立っていた勇者たちがさらに緊張を示す。既に何人かは抜剣し、何人かは柄に手を掛けている。懐に手を差し入れている者もいれば背中に手を回す者もいる。その中で、魔剣二人は未だ武器を顕現させていなかった。自分のマスターである彼に毒されたかとグラムは嘆息し、ジャガーノートはそれも善しと笑う。

 

 「暴走魔剣の仲間か!!」

 「貴方は暴走魔剣が仲間を作る所を見たことがあるの? それはとてつもなくレアなことだから、ロルリアンレットに報告でもしておきなさい。」

 「ッッ!!」

 

 予めロルリアンレットが居ないことを聞いていたからこそ、こうして突入の準備をしていたというのに、改めてその名前を出されて躊躇いを覚える。本当に、ロルリアンレットの本拠地である世界図書館で戦闘行為を行ってもよいのか? 暴走魔剣討伐という大義名分があるにせよ、ここの本は一冊あたりが人一人と等価かそれ以上の代物。無闇矢鱈に踏みいるばかりか、対魔剣戦闘なんてもっての他なのではないか。そう思ってしまい──自分が何に相対しているのかを、中隊長は思い出した。

 

 魔剣。魔剣だ。自分達が打破すべき相手に、何を躊躇う? 司書王とて、自分が責める立場にない事は理解できるだろう。いや、暴走魔剣風情に破られる結界しか張れないような輩が、本当に魔界屈指の強者なのか? 自分がその魔剣を倒せば、司書王と並ぶ強者として──否、それ以上の強者として見られるのでは?

 

 突入前の緊張状態で、二人の魔剣という超越存在に出くわしてしまった中隊長は、そんなことを考えるほどのパニックに陥っていた。そもそも、彼は"暴走魔剣"が何者であるかすら聞かされていないというのに。

 

 魔剣グラム。北欧の主神オーディンが作り出した、完全で、完璧な魔剣。それを超える模造品が暴走したのだ。一介の勇者が太刀打ちできる相手ではない。一介の英雄が相手取れる相手ではない。人間が相対できる相手では、ない。

 

 「各員、戦闘用意!!」

 「はぁ···愚かね。本当に。」

 「人間なんて、そういうモノですよー?」

 「えぇ···そうね。ここ最近に接した人間は面白かったから···忘れていたわ。」

 

 百人以上の大規模戦力を二人で相手取ってなお、優雅に武器を取り出した二人の魔剣が、歩調を合わせて一歩を踏み出す。

 

 「Get Ready?」

 

 そう華麗に問うたのは、グラムかジャガーノートか、或いは両方か。背中を合わせ、己の武器を突きつけた二つの具現化した死の試練は、主の家を、主の意志を守り、尊重すべく、彼ら彼女らの敵を。

 

 「戦闘開始ぃ!!」

 

 鏖殺する。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 

 ──で、帰ってきたのだが。どういう訳か、グラムとジャガーノートが居ない。

 

 「あっれぇ···? 待っててって言ったのになぁ···。もう···。」

 

 また面白い本でも見つけたか? まぁ、今はいい。なるべく早く暴走魔剣ちゃんの怪我を手当てして、探しに行こう。

 

 「ごめん、お待たせ···って、なんか怪我増えてない? 気のせい?」

 「あ、えっと···その···。」

 

 さて。とりあえず消毒して、ガーゼを当ててテープで固定、包帯で止血···おっと、化膿止めを忘れてた。この深さと規模だと鎮痛剤も必要かな···。流石に縫合は出来ないぞ、僕。

 

 「ごめんね、こんな程度の低い応急処置しかできなくって。エメラルドがどこに置いてあるのか分からなくってさ···。ロルリアンレットが帰ってくるまでの間、これで我慢して。」

 「あ、ありがとうございます。こんな、私には勿体ない···。」

 「そんなことないけど···で、誰にやられたの? これ。あんまり詳しくないんだけど、刃物で出来る傷じゃ無かったよ?」

 

 何て言うか、捻じ切られたような傷痕が沢山あった。あと、何かにすごい力で握られたような爪痕や、引っ掻き傷も。

 

 「出血量は大したことないと思うんだけど···大丈夫? 頭がくらくらするとか、ない?」

 「だ、大丈夫です。あの、これ、自分でやったんです···。」

 「ん、そっか。···ん? 自分で?」

 

 え? なに? 自傷癖? それともそういう性癖なの? 他人の性癖に口を出すつもりはないけど、流石に傷が残るレベルなのはどうかと···。なんて、ふざけた思考に走る余裕もなく、頭がクリアになった。そうか。綺麗すぎる図書館はそういう──!! 破壊衝動を自分で発散していたのか! あの絶叫は、痛みに悶え──!?

 

 「嘘だろ···。」

 

 何故? どうして、そんなことを?

 

 「私は···偽物なんです。なのに、お姉ちゃんよりも強くなっちゃったから、だから···。」

 

 だから、弱体化したかった?

 

 「···はい。」

 

 ──それは、止められない?

 

 「止めたくありません。私は···お姉ちゃんより劣っていたいです···。」

 

 でも、僕は君に傷付いてほしくない。

 

 「でも、私は···。」

 

 だから、代替案を出そう。相手の行為を否定するなら、それが前提だからね。

 

 「だいたいあん?」

 

 そう。──僕と契約しよう。僕の魔剣になれば、僕が君を振るえば、君は弱体化する。

 

 「どうして?」

 

 僕に武器を扱う才能が無いからだけど···そこにはあまり触れないで···ぐさっと来るから···。

 

 「ご、ごめんなさい···。」

 

 そうすれば、弱体化した君は、お姉さんと、グラムと一緒に居られる。一石二鳥だ。ついでに、僕の、君に傷付いて欲しくない、一緒にいたい、グラムと一緒にいてほしいという願いも叶う。一石三鳥じゃないか。

 

 ──ほら、僕の代替案は、君が傷付いて弱体化する、利害がプラスマイナスゼロの案より、メリットが多いだろう? デメリットなんてゼロじゃないか。

 

 「私は···。」

 「だから、ね?」

 

 差し出した手を、彼女が取るその瞬間。僕の方に飛来した砲弾が、僕ごと机に激突した。と、言うか。僕をクッションとして激突した。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「痛っ···たくない? ···あぁ。」

 

 激突の衝撃で肋骨が折れ、心臓か肺に刺さったのだろう。胸からは、馴染みになりつつある青い炎が噴き出していた。

 

 「即死した方がかえって楽とは、面倒な体だなぁ···死なないだけマシか。」

 「ごめんなさい、マスターさん。まさか強制ブレイクなんて···。」

 「ジャガーノート!? 何してたの!?」

 

 吹っ飛んできた方向を見れば、E.D.E.N.の戦闘服を着た男と、魔剣を持ったグラムが打ち合って──いや、グラムが男を切り捨てる度に新しく勇者が補充されていた。んー、状況が今一つ読めないのだが···グラムを追ってきた?

 

 「おい、貴様! この魔剣のマスターだな?」

 「え、あ、はい。」

 

 「この魔剣を退かせろ!」

 

 「私たちはE.D.E.N.の」

 

 「『中堅中隊(バックボーン)』だぞ!」

 

 一言言う度に切り捨てられ、人が変わる様はさながらコメディだった。上がる血飛沫が笑いを許さないが。

 

 「えっと···何しに来たんです?」

 「お姉ちゃん、えっと、手伝う···よ?」

 「その前に──マスターと──契約──しなさいな。」

 

 言葉の合間に勇者が十把一絡げに切り捨てられていく。ジャガーノートの方も、凄まじい威力で吹き飛んで来た割にはケロッとしていて、「早く済ませてくださいねー? 数だけは多いんですから、あいつら。」なんて言って戦線復帰していった。

 

 「被害を被ったのは僕だけですか、そうですか。」

 「あ、あの···よろしくお願いします、マスターさん。」

 「ん、行くよ? 領域拡張、魔核接続、存在核制定。悪魔の鍵の能力(エンスージアクレイス)愚かな卑怯者の鍵(ワールドイズマイン)!!」

 

 深く、深く、暴走魔剣の荒れ狂う魔力を掻い潜り、魔核と接続し、魔力供給のパスを繋ぐ。

 

 ここに、契約は完了した。

 

 「行け、"魔剣グラム=オルタ"。お姉さん···グラムを補助しろ!!」

 「はい、マスターさんッ!!」

 

 ズバン!! と、防護の掛かっている筈の床を踏み砕いて初動とし、一投足で入り口まで進む。遠慮していたのか、殆ど開いていないグラムとジャガーノートへの供給パスも全開にして、いざ戦争だ。──と、思ったのだけれど。

 

 「貴様ら、ここが何処かを分かった上で、はしゃいでいるのよね?」

 

 魔剣なんぞよりヤバい奴が帰ってきた。勇者たちの後方、微笑を浮かべたマリーさんを従えて、とても愉しそうにサディスティックな笑みを浮かべたロルリアンレットが、帰ってきてしまった。

 

 結果は明快。勇者は『敢えて逃がした報告役』を除いて、誰一人として帰ることはなかった。

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 

 1/4壊状態の図書館から引き上げた僕たちは、僕の部屋でロルリアンレットに事の顛末を話していた。

 

 

 「──で、この有り様と。」

 「えぇ。その子──魔剣グラム=オルタとの戦闘によるものじゃなくて、放出されていた魔力と、自傷の痛みに悶えた時の余波よ。」

 「ご、ごめんなさい。」

 「その名前は、お前が?」

 「まさか。マスターが付けたのよ。」

 「でしょうね。相変わらずの···」

 「···。」

 

 結構いい名前だと思ったのだけれど···不評? グラム=オルタ本人も「私にグラムお姉ちゃんの名前なんて勿体ないです···。」っ言ってたし···。

 

 「長いから、私は"オルタ"と呼ぶわね。構わないでしょう?」

 「いいですねー、それー。私もそうしますー。」

 「え? あ、うん。はい。それで良いのなら···。」

 「に、しても、相変わらず絶望的よねぇ···。」

 

 悪かったね、絶望的で! そう声を大にして言いたいところなのだが、今の僕に人権はない。だって、椅子に人権なんて、あるわけないよね? 僕が今どこにいるかと言うとですね、部屋の真ん中に四つん這いになっています。魔剣達は仲良くベッドに腰かけています。じゃあ、残りは? そうですロルリアンレットです···。ロルリアンレットの椅子が僕です···。

 

 「戦闘を回避して暴走魔剣を鎮圧したんだし、誉めてくれても良いじゃないか!」

 「まだ言っているの? 暴走魔剣が入ってくる前に、止められる筈なのよ。貴方が、外で、きちんと、訓練をしていたら、ね。」

 

 切り刻まれた言葉が怖い。

 

 「えーっと、ですね···。」

 

 たすけて、という視線をグラムに向けると、目線だけで「私を置いて暴走魔剣に突っ込んで行くような馬鹿を、助ける必要ないわよね?」という笑みが返ってくる。ジャガーノート···は、目を反らされた···。ぎんいろ···は、ダメだ。首傾げてる。伝わらなかったのか。オルタ···は、包帯を撫でてる? エメラルドを使ったから、もう包帯はいらない筈なんだけど···。

 

 「まぁ、いいわ。それはそれとして、魔剣使い擬き。」

 「ぐふっ···なに?」

 

 弾みを付けて立ち上がったロルリアンレットを、四つん這いから立ち直りつつ盗み見ると、彼女はまた愉しそうに笑って

 

 「クビよ。」

 

 と、そう告げた。

 

 

 





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