剣統べる魔王の物語   作:征嵐

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第13話

 「で、なにしてるの? アルバイト?」

 「マスターすごーい! なんで分かったの?」

 

 いや冗談のつもりだったんだけどね? そもそも魔剣がアルバイトとかできるのか? いや、それ以前に酒場でこの年齢の子が働いていてもいいのか?

 

 「ロール様がお手紙書いてくれてたから、ギルド認可の公式酒場ならどこでも働けるの!」

 「なんで?」

 

 なんでそんなことをしたんだロルリアンレット···。

 

 「私からのプレゼントは気に入って頂けたかしら?」

 「出たな元凶。」

 

 酒場から、所作だけは優雅にロルリアンレットが姿を現した。所作だけなのは、手に大ジョッキを持っているからだ。

 

 「ロルリアンレット、お酒は大人になってからだよ。」

 「これ、中身はマリーが入れた紅茶よ。」

 「その量の紅茶を一気に飲むのは止めておいた方がいいよ。尿意的な意味で。ソースは僕。」

 

 あ、お前もやったのか。そんな視線が投げられまくった。魔剣たちとロルリアンレット、ロルリアンレットの出現で足を止めていた通行人から酒場の主人まで、この場にいる全員から。

 

 「で、何してくれちゃってるんです?」

 「あら、良かれと思ってのことなのだけれど?」

 

 何故に。なにをどう考えれば、このヴィジュアルの魔剣を酒場で働かせようと思うのか。

 

 「その子には戦闘能力がないでしょう? だから、せめて経済的に貴方を支えられるように、という配慮なのだけれど。その方が、この子も『自分は役立たずだ』なんていう負い目も感じないでしょうし。なにより、ここから先はかなりの資金が必要になるわよ?」

 

 魔剣の修理、魔剣の強化、新しい魔剣の製造···魔剣が増えれば増えるほど、強くなれば強くなるほど、運用コストは増加するわ。

 

 そう言ってロルリアンレットは一旦言葉を切ると、酒場に引っ込んでしまった。が、その後を追うより先に、頭に何かを乗せて帰ってきた。

 

 「なに、それ?」

 「もちひつじよ。貴方が魔剣を強化する度にゲデヒトニスを貸し出す訳にも行かないし、貴方も連れているべきだと思って、マリーに捕まえさせたのよ。」

 「へぇ、そうなんだ。」

 

 そうなんだ、って、貴方ねぇ···。とでも言いたげなため息を吐いたロルリアンレットは、ゲデヒトニスをピンク色に染めて、顔つきを能天気にしたような生物をリディの頭に乗せた。

 

 「この子にも戦闘能力はないから、基本的にはリディと一緒に留守番ね。」

 「ありがとう、ロルリアンレット。」

 「あぁ、そうそう。これが最後の餞別なのだけれど、良いことを教えてあげるわ。」

 

 ぞわり、と、背筋が凍る。マリーさんに相対したときか、魔物に囲まれた時か、それに匹敵するほどの恐怖が、僕を支配していた。ロルリアンレットがこんな事を言ったとき、僕に良いことがあったためしがない···!! まず間違いなく、無理難題が飛んでくるのだ。

 

 「あぁ···良いわね、その表情。でも、今回は本当にただの情報よ。オルタに関するね。」

 「···。」

 

 警戒度がマックスから70パーセントぐらいまで下降する。依然として70パーセントを残すのは、さっきメイガスに似たような手法でおちょくられたからだ。魔剣をダシにするのはズルいと思います。

 

 「その子のランクが判明したわ。破壊痕に残っていた魔力や、破壊の規模から推測すると、まず間違いなくS+級。自傷行為の余波という事も考えれば、そのランクは──SSランク。おめでとう、擬き。貴方は最高ランクの魔剣を持つ魔剣使い擬きになれたのよ。」

 「依然として擬きなのか、そうですか···。」

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 

 ロルリアンレットと別れ、酒場の主に挨拶をし、宿屋の主に書類を渡して、二階の部屋に案内される。ベッドと机とトイレしかない質素な部屋だが、まぁ駆け出しの魔剣使いなんてそんなモノだろう。ちなみに風呂は一階の大浴場を共同で、男女別だ。

 

 「えーっと、マニュアル、マニュアル···んん。」

 

 魔界の宿屋だというのに、机の引き出しには聖書が入っていた。やめろよどういうトラップだよ···。

 

 「これじゃなくって···これか。」

 

 何度となく読まれたのだろう。かなり古びた感じの装丁の本があった。タイトルは、まぁ無難に『魔界ギルド · 魔剣使いのためのマニュアル』と打たれている。

 

 ──無難か? ダサい気がするが、口には出さない。僕のネーミングセンスは絶望的らしいからね。「お前が言うか」という視線は御免被る。

 

 「えーっと、はいはい···うぅ、字が細かい。絵もないし···。」

 

 たすけて、グラム。視線を投げる、が、そこには虚空があるのみだった。

 

 「あれ? みんな、どこいったー?」

 『マスター、ここよ。』

 

 んん、声は聞こえども姿は見えず···。

 

 「はぁ、非顕現状態だったのだけれど···それが分からないって、貴方、相当深く繋がっているわね。」

 「それが悪いとは思いませんけどねー。」

 「あの、マスターさんとは、魔核じゃなくてむぐ···」

 「オルタ、喋りすぎよ。」

 「ごめんなさい、お姉ちゃん···。」

 「なんだよ気になるじゃないか···吐け! 吐くんだ!」

 

 気になる事を言いかけたオルタの脇腹をこちょこちょと擽って尋問する。が、ものの数秒でグラムに鎮圧され、ベッドに組み伏せられた。こう言うとどことなくエロい感じがするが、腕を後ろ手に極められて、うつ伏せに倒されているので、割りと詰んでいたりする。

 

 「調子に乗りすぎよ、マスター。」

 「ごめんごめんごめんイタタタタ···。」

 

 数十秒ほど極められて、ようやく解放される。腕がもげるかと思ったぜ···腕がもげるぐらいじゃブレイズは発動しないからね。つらいね。

 

 「で、なんでまたいきなり非顕現状態になったの?」

 

 狭い部屋に4人も詰め込んだせいで、ベッドや床が軋みを上げている。床、抜けたりしないよね···?

 

 「だって狭いじゃない。この部屋。ぎんいろが顕現する隙間もないし。」

 「あー、そっか、そうだね。」

 「それにー、マスターさんは気づいてないかもしれませんけどー、ただ実体化してるだけでも、結構な魔力を使うんですよー?」

 

 マジか。

 

 「ですから、その、宿とか酒場とかギルドとか、安全な場所にいる時は、非顕現状態になっていようって話になったんです。」

 「気にしなくても良いのに···いや、やっぱりそうして貰えると助かるかな。」

 

 普段から実体化していて、いざ戦闘ってときに魔力切れとか笑えないし。···いや、待てよ? 僕の魔力量はそこまで多くないはずだよな? なのに、ここまで実体化していても魔力切れになったことなんてないし···。 そういえば、僕の特異能力は、"剣王領域"。非顕現状態の魔剣を保管しておく"剣の領域"の拡張。なら、魔力消費なく実体化出来るのでは···? いや、非顕現状態でも、魔核の維持やらに魔力を割く必要があるか。ならジャガーノートが言っているのはコレのことか。そうっぽいな。流石に戦闘モードの魔剣を──全力で魔核を駆動させている魔剣を四六時中顕現させておけるほど、僕の魔力量は多くない。質でカバーするのにも限界はある。

 

 「何かあったら呼んでちょうだい。こちらからも呼び掛けることは出来るし、私たちは、常に貴方の側にいるのだから。」

 「側にというかー、内側というかー。まぁ、どうでもいいですけどねー。」

 

 一人になった途端に、随分と部屋が広く感じる。ベッドに寝そべってマニュアルを読み進めていると、腹の虫が鳴き声を上げて空腹を主張した。

 

 「お腹減ったな···。」

 『ご飯にすれば良いじゃない。もう夜の8時よ?』

 「まぁそうなんだけど、リディを待つべきかなって···。」

 『律儀ですねー。妙なところで。酒場で待っていたらどうですかー?』

 「それは無理。あんな飯テロ現場で待つとかもう拷問。死ねる。」

 『流石にその死因でブレイズは発動しないでしょうね···。』

 

 グラムのあきれ声に混じって、ドアの前を駆ける足音が聞こえた。一応の用心として実体化したグラムが扉を開けると、リディが飛び込んできた。

 

 「もう、マスター!! どうしてご飯食べに来ないの!! 私、ちゃんと時間言ったのに!!」

 「え、嘘?」

 

 うっそぉ!? マジか!? 

 

 「本当に? 私は聞こえなかったけれど···。」

 「あれ? 言ってなかったかも。」

 「おい。」

 

 どうするんだよ···今行っても絶対席空いてないよ···。

 

 「それは大丈夫! 来て、マスター!」

 

 リディに手を引かれて宿を出る。すぐ隣の酒場からは、騒ぐ声と共に良い匂いが漂ってきていた。

 

 「店長ー! マスター連れてきましたー!」

 「おぉ、お前がリディちゃんのマスターか。」

 

 カウンターから、やたらと強面のおっさんが出てくる。スキンヘッドに髭面なのだが、鍛えられた筋肉を花柄のエプロンが覆っていて、なんとも言い難い雰囲気を醸し出している。笑ったら殴られそうなのだが···。

 

 「ぶっ···く、はははは!!」

 

 無理。流石に無理。

 

 「人の顔を見て笑うたぁ、失礼な奴だな、おい。」

 

 途端に酒場が静まり返る。いや、でも、これは、無理。

 

 「いや、顔じゃなくて、エプロン···っく、はははは!! なんで!? なんで花柄を選んだんです···っ?」

 

 やばい、ツボった。シンプルな怖さに耐性が付いたのは、シンプルじゃない怖さを持つロルリアンレットやマリーさんと接してきたからか。

 

 「はぁ···確かにおめぇはリディちゃんのマスターだな。」

 「はぁ···はぁ···。え?」

 

 なんとか呼吸を落ち着けてから聞き返す。店長は呆れた笑いを浮かべて、また喧騒を取り戻してきたテーブルに視線を投げる。リディを探しているのだろうか。

 

 「あの子も、俺の格好を見た瞬間に笑い始めてなぁ···しかも司書王陛下からの手紙まで持ってるし、何者かと思えば、魔剣だって言うし、仕方なく雇ってみればすごい働き者だし──おいおいおいおい。」

 「あはは···え? ──おいおいおいおい。」

 

 呆れた笑いを凍りつかせた店長の視線を追ってみれば、大ジョッキを山積みに持ったリディがふらふらとした足取りでテーブルを回っていた。酔いの回っていた魔剣使いさえ、表情を凍らせ、固唾を呑んで見守っている。あっちへふらふら、魔剣使いがジョッキを注文した分だけ取る、こっちへふらふら、また魔剣使いがジョッキを注文した分だけ取る──すげぇ、全部配り終えたぞ···。何キロあったんだよアレ···。

 

 「ふぅ。」

 「はぁ。」

 

 店長と二人して安堵のため息を吐く。

 

 「で、まぁ、アレだ。リディちゃんのマスターって事で、値引きはしないが、席を一つは確保しておいてやる。カウンターかもしれないし、相席になるかもしれんが、な。」

 「え、ホントですか? ありがとうございます。」

 「マスター、ご注文はお決まりですかー!!」

 

 語尾を跳ね上げて、リディがこっちに寄ってくる。とりあえず···何か食べるものをください···。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「ご馳走さまでしたー。」

 「お疲れさまでしたー。」

 「また来いよ、リディちゃんのマスター。リディちゃん、お疲れさん。」

 

 すっかり満腹になって、ご満悦で店を出る。すぐ隣が宿屋なのは便利だ。

 

 「あ、マスター。これ、今日のお給料! こっちがチップ!」

 「え、いや···あ、ありがとうございます。」

 

 これはリディが働いたお金なんだから、と、返そうと思ったが、ロルリアンレットに言われたことを思い出して踏みとどまる。が、流石に全額貰う訳にもいくまい。

 

 「でもリディ。チップはリディに返すよ。これはお店からじゃなくて、お客さんがリディにくれたモノじゃないか。」

 「え、でも、リディはそんなの持ってても使わないし。」

 「えっ。」

 

 渡された革袋の中身を見てみれば、給料はメダルで、チップの方もエメラルドとかルビーとか、およそ魔剣使い以外には殆ど需要のないモノだった。

 

 「チップがこれとか···すごいな、魔剣使い。」

 

 ありがたく頂戴しておこう。エッグの鍵は育成用に取っておくか···うわ、魔石ダイヤまで入ってる!?

 

 「じゃあマスター。明日も早いし、帰って寝よう?」

 「そうだね。部屋に戻ろうか。」

 

 で。

 

 「ねぇリディ。なんで僕のベッドを占領してるの?」

 「だって、私もマスターの魔剣だし。他に部屋ないし。」

 「えぇ···添い寝するの?」

 『駄目よマスター。』

 『駄目ですよマスターさん。』

 「はい。すいません。」

 

 仕方がない。宿屋の主人に布団を貰って床で寝よう。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「あー···眠い。」

 『ちゃんと寝れば良かったのに···。』

 「そうなんだけどね···っていうか、リディ起きるの早くない? 4時ぐらいに出ていったよね?」

 『バイト戦士?』

 「ぎんいろ? その言葉どこで知ったの?」

 『世界図書館の本に書いてあった···。』

 

 どんな本だよ。気になるな。

 

 『ふぁ···おはよう、マスター。』

 「おはようグラム。顔は分かんないけど眠そうだね?」

 『まぁ、ね···ほら、起きなさいオルタ。···あら? ジャガーノートは?』

 

 え? "剣の領域"内部にいないの? となると···あ、ずるい。

 

 『いい度胸ね、ジャガーノート···。』

 

 ジャガーノートだけが実体化し、リディが使っていたベッドですやすやと寝息を立てていた。さぞかし安眠できた事でしょう···そんなあなたに。

 

 「起きて、ジャガーノート。」

 「んん···。」

 

 活性化した魔力を、パスを全開にして送り込む。人間で言えば、無理やりアドレナリンを注入されたような感じだ。ショック状態を経て、バッチリ覚醒することでしょう。

 

 「おはようございます、マスターさん···。」

 

 メチャメチャ不機嫌じゃん···。触らぬ神に祟りなし。非顕現状態にしておこう。

 

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼

 

 

 「いらっしゃいませー、あ、マスターおはよー!」

 「おはようリディ。今、ちょっとだけいいかな?」

 「ん? なーに?」

 

 朝の酒場はかなり静かだが、それでも他に客はいる。酒場というよりは、モーニングカフェ的な使い方だが。ここのご飯は美味しいからね。ちなみに、酔っ払いがここで一夜を明かすことは無いらしい。すべからく店長が殴り起こすからだ。

 

 「はい、これ。」

 「なにこれ···ネックレス?」

 「そう。チェーンから飾りまで、全部エメラルドなんだよ?」

 「くれるの? ありがとうマスター!!」

 

 昨日貰ったチップを、ぎんいろで握って圧縮したり切り裂いたりして加工した、全部魔石エメラルドで出来たネックレス。加工の過程でエメラルドは砕けているから、じわじわと回復に適した魔力が漏れ出ている。これなら、バイト戦士であるリディが体を壊すこともないでしょう。これを作っていたせいで殆ど寝ていないが···喜んでくれたようで何よりだ。

 

 『デザインが私でぎんいろが圧縮。オルタとジャガーノートが割断。マスター、貴方は企画を提案しただけよね?』

 「一番重要だと思うんですよ。企画。」

 

 震え声で反論する。そういえば、ちょっと皆も出てきて貰っていいかな? 皆にも、お揃いのブレスレットがあるんだけど。エメラルド製の。

 

 「···実用重視なのね。」

 

 そりゃあね。ちなみに自分の分はダイヤ製だったりする。いつでもどこでも魔力回復ができるように。

 

 「あ、そろそろ8時か。掲示板見に行かなきゃ。」

 「行ってらっしゃい、マスター!」

 「うん、行ってきます。リディも、軍資金稼ぎヨロシク!」

 

 冗談めかして言うと、リディも敬礼で応えてくれた。

 

 さて、今日も今日とて防犯の"ぼ"の字もなく開きっぱなしの扉をくぐる。飛んでくる挨拶に応えながら掲示板へ進み──お、僕の欄がある。仕事が早いなぁ···。で、任務は···ユグドラシル近辺の見回りか。一斉任務は──必要ランク30か。関係ないな。

 

 「じゃ、行こっか。」

 

 




 サブタイトルって必要ですかね? 第○話じゃ分かりにくいかもしれないし。自分が分かりにくいだけという意見もありますけど。

 どうせすぐにサブタイトル思い付かない病にかかるんですけどね。
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