剣統べる魔王の物語   作:征嵐

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 一年越しとかお前正気か?(自問)


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 「ッ!!」

 

 レヴァンテインの叫びを聞き、咄嗟に飛び退く。

 ついさっきまで立っていた場所に小規模な竜巻が生じ、床を抉っていた。

 

 「あっぶ・・・な?」

 

 よろめきながら着地するが、妙に踏ん張りがきかず尻餅をつく。

 膝から下に力が入らない。どうしてなのかと目を遣れば、理由は一目瞭然だった。

 

 そもそも、()()()()()()()()()

 

 「しまッ────」

 

 心臓を竜巻に抉られ、床に縫い付けられる。お陰で足は治ったが、いかんせん魔力が足りない。このまま暴走魔剣と一戦は避けたい。

 

 「モモさん!!」

 「応援は呼びました、到着まで推定10分!!」

 「遅い死ぬ!!」

 

 今度は顔を穿ちに来た竜巻を避け、オマケで生じた真空の刃で耳を削がれながら転がる。

 

 『マイマスター、私を!!』

 

 相手の属性は風。有利の取れるレヴァンテインが叫ぶが、無視して走る。

 建物内はどうしても逃げ場が限られる。その上天井から狙い撃ちなど、勝ち目が元々薄いのにどうしろと、という話だ。

 

 『マスター、何を────』

 「ちょっと静かにしてて!!」

 

 耳に入る風の音と、脳に直接語り掛けてくる魔剣の声は、互いをかき消すことこそないが、混ざり合って非常に不快だった。主に風が。

 

 「せんぱーい、待ってくださいよぉー」

 「やっぱり飛べるか・・・っと!!」

 

 思いっきりダイブして一撃を躱す。竜巻から目算5メートルほどだろうか、不可視の刃の射程は。

 

 ふよふよと飛翔しながら追ってくる暴走魔剣。属性は風で決まりだろうが、それ以外の情報がなさ過ぎて辛い。

 

 「なぁ、おーい、キミ名前は!?」

 

 走りながら魔剣に問う。どことなくフレンドリーな気配を感じたからダメもとでやってみた。というレベルだったが、意外にも彼女は答えてくれた。

 

 「魔剣フラベルム。よろしくお願いします、せんぱい!」

 「その”先輩”ってのは僕に言ってるの? それとも────ミ゜ッ」 

 

 ちょっと気を抜いたら一瞬でズタボロにされた。

 もういい二度と喋らない、と、八割方拗ねで決意すると、内側から嘆息の雰囲気が伝わってきた。

 

 『あのですねーマスターさん。暴走魔剣に”意思”はないんですよー? あるのは”意志”だけー。話すだけ無駄ですからねー。』

 「それにしても、見敵必殺、っていうのは流石にね。」

 『いいからほらー、私たちを使っちゃいましょう?』

 

 それも無視。飛んでる相手にどうやって攻撃しろと仰る?

 グラム、ジャガーノート、ぎんいろ、オルタ、レヴァンテイン、カラドボルグ、雪月花、マビノギオン。大剣、斧、拳闘、大剣大剣太刀魔典。

 遠距離攻撃はマビノギオン一人、しかも彼女は水属性────風属性に対して相性不利。暴走したてで加入したばかり。碌な連携ができるはずもない。

 

 「BD・・・は、今の僕の魔力だけじゃ無理だよね?」

 『はい。主様のお命を礎とするのなら、話は別でしょうけれど────』

 「そりゃ勘弁。死にたくないで御座候。」

 

 巻きあがる、ではなく撃ち込まれる竜巻を5メートル以上の余裕を持って回避するのは難しい。というか、そんな曲芸じみた真似が出来るか。魔剣使いならできなくはないだろうが、僕は生憎魔剣使い”擬き”、所詮はニセモノだ。魔剣たちの後ろにコソコソ隠れて粋がるしかできないクソ雑魚ナメクジだ。死に難い体質は素晴らしいものだと自分でも思うが、これは回数限定の肉盾。魔剣たちを守り切るには逃げの一手が最善。

 

 具体的には、そう、世界図書館まで逃げて、ロルリアンレットに押し付けよう。

 

 『・・・それで、誤魔化したつもりかしら?』

 「・・・」

 

 底冷えするようなグラムの声は、聞くだけで心臓が止まりそうなほど真剣だった。

 はて、何か不味いことを言っただろうか。死にたくない、という言葉はそりゃあ臆病で情けなく聞こえるだろうが、そこまで怒ることじゃ────

 

 『黙りなさい。』

 

 喋ってないやん!

 

 『・・・はぁ』

 

 溜息まで吐かれたんだが? 喋って、ない、やん・・・?

 これはアレですか? 内心が読まれているとかいうアレです、か・・・?

 

 『魂レベルの結合だもの、当然でしょう?』

 

 ・・・いや、いや待ってくれ違うんだグラム。僕はただ君たちを傷つけたくないだけで、一回死んだら────壊れたら、暴走して、記憶も意思もなくしてしまうのが怖くて、それで、だから・・・

 

 『だから、何だというのかしら? マスター、貴方忘れているんじゃないの? 貴方が死ねば────死に終われば、私たちも消えてしまうということを。それとも、それならいいと思っているの? 私たちが暴走して、その存在を限界まで希薄されて消えていくのを、自分が見なくて済むのなら────』

 『グラムちゃん?』

 

 言い過ぎだと、カラドボルグもグラムも、理解しているようだった。

 全くだ。僕はそんなことこれっぽちも思っちゃいない。この安い命を、限界まで彼女たちを苦しみから守る盾と捧げることを、間違いだとは思わない。仮に僕が死んで彼女たちが消えるような事態になれば、僕は。

 

 『・・・あぁ。やっぱり気づいてますよね、マスターさんは。』

 

 物質化するレベルの魔力で構成された肉体なら、その全てを魔剣に捧げれば、戦闘さえしなければ10年そこらは保つはずだ。計算精度による誤差はプラスマイナス3年。最低でも七年だ。それだけあれば、新しいマスターくらい見つかるだろう。彼女たちは強力で、魅力的な魔剣だ。僕が保証する。

 

 走りながらの脳内会議はそろそろ限界だ。もういいかな?

 

 『・・・どうしようもなく、救いたがりですね、マスターさんは。』

 

 救いたがり? そうかもしれない。君たちのためになら、僕は世界だって救ってみせよう。

 ・・・差し当たり、フラベルムの攻撃から僕自身を救う必要があるのだけれど。

 

 『でもマスターさん。()()は行き過ぎです。そういうのを何て言うか、ご存知ですかー?』

 

 愛。

 

 『言い切ったわね・・・』

 

 レヴァンテインが呆れかえったように言う。

 何ですか? 違うとでも?

 

 『似て非なるモノ、ですねー。』

 

 うふふふ、と、ジャガーノートは心底愉快そうに笑って、言った。

 

 『────狂気ですよ。』

 

 

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