剣統べる魔王の物語   作:征嵐

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 ──マスターの頼みなら、仕方ないわね。──どうかしら?──残念だけれど。──お別れしましょう?
         ──魔剣グラム(CV:日高里菜)



 だいすき。


第3話

 僕とグラムのいる場所を避け、勇者たちの遺骸と僅かに残っていた村の建物を纏めて消し飛ばした光の束は、どうやら地面と水平に撃ち出されたモノらしかった。地面を削り取った光の出所へ目を向けると、黒いゴシック調の服を纏い、長い銀髪を後ろに流した少女が、悠々とこちらに歩いて来ていた。

 

 「···君は?」

 

 少しの警戒心を持って問いかける。死体を消し去るのには些かオーバーキル気味の攻撃を繰り出したのは、こちらに対する示威行為かもしれない、と考えて。

 

 「私は『司書王』ロルリアンレット。お前、私の所に来ないか?」

 

 自己紹介から数秒で勧誘され面食らう。真意を問おうと口を開くが、機先を制したのはロルリアンレットの後方より投じられた新しい声だった。

 

 「これは司書王陛下。何故、このような場所に?」

 

 慇懃に──と言うには警戒心を隠さずに言った男を先頭に、三角形に陣を敷いた十二人の男女が、いつの間にか列居していた。男女比は半々で、全員が色気の欠片もない白い軍服──E.D.E.N.の制服に身を包んでいる。先程の焼き増しとは思わない。何故なら、その全員が段違いの覇気を身に纏い、各々が別個の魔剣を持っているからだ。

 

 「何故、とは、面白い事を言うな、道化師。この私が魔剣の討伐をするのがそこまで不思議か?」

 

 仮に彼らの持つ魔剣が全てBランクだろうと、十二人も魔剣使いが居れば数個中隊──下手をすれば一個大隊レベルの戦力になる。もし仮に、全員がAランクの魔剣を持つというエリート集団『先駆隊(パイオニア)』だとすれば──その戦力は、通常兵換算で一個師団。その格の違う戦力を前にして尚、ロルリアンレットは尊大で、むしろ気圧されているのは勇者たちに見えた。

 

 「い、いえ。···ですが、そちらの魔剣は···?」

 「愚鈍な奴よ···私の放った攻撃が見えなかったのか? 先の砲撃で『暴走魔剣』は滅ぼした。()()は私の部下の魔剣使いだ。」

 

 どうも。「ソレ」です。横に居るのは僕の魔剣です。よろしくおねがいします。

 

 ──ざわざわと困惑が勇者たちに浸透していく。よく分からないが、ロルリアンレットは魔剣使いの中では偉いか、或いは凄まじく強いのだろう。その彼女が「暴走魔剣は倒した」と言えば、いかにE.D.E.N.の勇者とて、「嘘だ」とは言えないほどに。

 

 唐突に、引き下がるか否かで迷う勇者達の動きが止まる。何事かと思えば、三角形の陣が裂け、中心部から一人の男が歩み出てきた。外見年齢は30代後半で、優れた訳でもない体格の内側から、そして背中に背負う大剣から、静かな圧力を放っていた。

 

 「司書王ロルリアンレット。我々はE.D.E.N.所属の『先駆隊(パイオニア)』であります。」

 

 静かに発された声に、声を掛けられたロルリアンレットとその近くにいる僕ではなく、勇者達が一斉に凍りついた。

 

 「その魔剣が我々の仲間を惨殺したのはご存知か? もし関知していないと言うのなら、即座に引き渡して頂きたい。」

 

 くすり、と、黒衣の少女が魔女めいた邪悪な笑みを漏らした。

 

 「知っている。と、そう言ったらどうする?」

 

 挑発。それ以外に表しようのない言葉に、流石に相手も一瞬だけ口を閉じた。

 

 「···貴方と貴方の部下共々、ここで討たせて頂きます。」

 

 言うが早いか、勇者達が一斉に散開、僕たちを包囲した。さっき名乗っていたのが本当なら、彼らは全員がAランクの魔剣を持ったエリート。なら、ここで僕が取るべき行動は──。

 

 「待ってください。僕は確かに彼女──魔剣グラムのマスターです。でも、ロルリアンレットは関係ありません。」

 「···。」

 「···ほぅ?」

 

 小さく呟いたロルリアンレットと対照的に、大剣を持った勇者は無言のまま僕を見据えた。

 

 「では、君に申請しようか。その魔剣には殺人の咎がある。速やかに我々に差し出したまえ。」

 

 ロルリアンレットより与し易いと判じたのか、口調が変わる。静かな物腰は依然としてそのままだが、少しだけ高圧的になったようにも思える。グラムが僕の右手に左手を滑り込ませ、軽く握り締めてくる。

 

 「──はぁ。」

 

 深呼吸一つ。ロルリアンレットの楽しそうな視線と、グラムの心配そうな視線を身に浴びて、吸い込んだ息と一緒に台詞も吐き出す。

 

 「そんなのは嫌だ。絶対に!!」

 

 すぅ、と、男の目が細まり、周囲の勇者達も抜刀し、或いは魔導書の、連穹の、弓矢の、多種多様な武器の照準を、切っ先を僕へ合わせる。そんな勇者達を片手で制した男が、「最後通牒だ」と言わんばかりの低温で言った。

 

 「()()が、俺達の仲間を──人間を、殺したモノだとしてもか?」

 「煩い! そもそも武器って言うのは人を、物を、何かを壊すモノだ。それと···()()()()()()()()()!」

 

 ニィ、と、ロルリアンレットが邪悪に嗤うのを目の端で捉える。その時点で僕はグラムに飛び付かれ、地面へと倒れ込んでいた。

 

 キュガッッッッ!! と、地面に仰向けに倒れた僕に覆い被さって伏せたグラムのすぐ上を、崩壊の極光が薙ぎ払った。たった一撃。それだけで、並み居た勇者たちは全員がその体の半分以上を吹き飛ばし、()()()死体を晒していた。

 

 「が、あ、あ、あああああああああああ!!!!」

 

 咄嗟に回避運動を取ったのか、左半身を炭化させながら、残った右腕だけでバスターソードを振り上げた男が、未だ僕の上に覆い被さっているグラムのすぐ側に立っていた。

 

 「不味ッ──!?」

 

 こちらも咄嗟に地面を転がり、上下を逆転する。結果──逆転は、出来なかった。

 

 「はぁ──仕方ないわね。」

 

 体重を感じさせない程に軽やかに立ち上がったグラムは、分厚い刀身で「叩き潰す」ことを目的に作られたバスターソードの一撃を、いつの間にか、その細い右手に持っていた、彼女の身長を超える程に巨大な、禍々しくもどこか優美な刀身の大剣で以て迎撃し、弾き返した。

 

 弾く、という防御方法は、一番簡単ではあるが同時に、一番難しくもある。高等技術を要する訳ではない、が、単純な筋力と武器の耐久性の勝負になるが故に、覆らない結果が待っている。体格で劣れば、或いは武器が脆ければ、直ぐに防御を崩され、殺される。だが、今はどういう訳か、体格で劣るグラムが男の持つバスターソードを弾いていた。そしてその常識に沿わない光景を見て、尚、僕はそれが当然であると認識していた。

 

 「残念、とは思わないわ。」

 

 メキメキ、という音が聞こえた。見れば、白いソックスで包まれたグラムの細い足が、男の脚を蹴り砕いていた。足払い、と言うには、力押しすぎる一撃。

 

 「お別れね。さようなら。」

 

 倒れ込む男を地面に縫い付けるように、縫いつけられた大地が陥没する勢いで、グラムの持つ大剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 男だった肉塊や、上体を消し飛ばされた死体を避けるように迂回し、ロルリアンレットの下まで歩く。その間じゅう、グラムはずっと僕の右手を握ったままだった。

 

 「どうして、さっき助けてくれたの?」

 「お前が気に入ったからだ。命拾いしたな、魔剣使い。···いや、魔剣使い()()か?」

 「···え?」

 

 どういう事か。と、問い質そうと、()()()()()()()()()()()()()詰め寄り、口を開く。だが、台詞を吐く前に、赤黒い血液が溢れ出した。

 

 「げぼっ···。」

 

 耳が銃声を捉える。遠距離から超音速で飛来した弾丸は、僕の体を抜け、そのまま遥か彼方へと去っていった。

 

 「十三人目!? 予め配置しておいたのか···!! 『記録投影:カタストロフ』!!」

 

 赤い魔導書を開いて、弾丸の飛んできた方を薙ぎ払うロルリアンレット。その横に倒れ伏し、僕を呼ぶグラムの声を聞きながら、僕は眠りに落ちた。

 

 




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