「私はロールお嬢様のメイド、ププッピマリーでございます。どうぞマリーとお呼びください。」
丁寧に腰を折った栗毛で巨乳な美人のメイドさんは、そのままロルリアンレットへと向き直った。
「ロールお嬢様。まずは私が?」
「いいえ、まず私が基礎を──と、言うか、前提を叩き込むわ。」
「畏まりました。では、私はお部屋とお食事の用意をして参ります。」
「えぇ。」
口を挟む余地もなく、そのままマリーさんは図書館を出ていってしまった。
「えっと、ロルリアンレット?」
「何かしら?」
「全く付いていけなかったんだけど、つまりどういう···?」
彼女は「はぁ。」とため息を漏らすと、退屈そうに言った。
「物分かりが悪く、魔剣のことも満足に知らないお前に、まずは基礎知識を叩き込んでやると言うことよ。この私が直々にね。」
「···。」
すごいこと···なのだろうか。よくわからないが。
「よく分からないならそれでいいわ。とりあえずそこに座ってなさい。」
言われるままに、城か宮殿の大広間にでも置かれていそうな長テーブルに着く。数分ほど待っていると、ロルリアンレットが一冊の本を抱えて戻ってきた。
「それが教科書?」
「は? ···これは保険みたいなモノよ。気にしないでいいわ。」
保険? 何に対する?
「始めるわよ。まずは、そうね···魔剣がどういうモノか、知っている?」
「そりゃまぁ、魔界に住むなら常識だよ。」
なんかすごい武器でしょ?
「···はぁ。」
口述が困難な程に頭の悪い解答なのに大体合っているのが心底腹立たしい。とでも言いたげなため息を吐かれた。
「一般に言う魔剣というのは、そもそも、六つの超越存在である『原初の魔剣』の模倣であり、模造。六人の魔王がそれぞれ保有したソレは、まさしく「すごい武器」だった。」
「ん···うん。」
「その"模造品"ですら、中には世界を滅ぼすようなモノもあるのだから、オリジナルの化け物度合いが知れるわよね。」
「世界を、滅ぼす?」
なんだったか。そんな感じの武器が出てくる昔話があった気がする。神話だったか?
「そう。ランクで言うと···お前、魔剣のランクについては理解しているの?」
「えっと···僕の村に、Cランクの魔剣を持った人がいたよ?」
「Cランク。そこらの富豪が買おうと思えば買える程度の代物ね。いい? 私達が『魔剣』と呼ぶのはAランク、魔核が一定値以上の魔力濃度·魔力量をもつモノから。ソレ以下は『魔剣擬き』に過ぎない。」
擬き。モドキ。もどき。僕のことを「魔剣使い擬き」と呼ぶのもその為だろうか。
「ふざけないで、マスター。怒るわよ?」
我関せず、といった風情で本棚を物色していたグラムから、怒りの声が飛ぶ。
「あ、ごめん···。」
「魔剣グラム、か。」
ロルリアンレットが一瞥すると、グラムは不快げに眉根を寄せて、また本棚の物色に戻ってしまった。
「ふん。まぁいいわ。魔剣グラムはSランク。『英雄の、或いは伝説上の武器』よ。」
「Sランク···ってことは、勇者の持ってた魔剣よりも強いの?」
「『
「へぇ···え?」
がばっと体を回転させ、グラムの方を見る。僕の不審な挙動に気づいたのか、読んでいた本から顔を上げたグラムは、「今さら何を言っているの?」とでも言いたげな視線を投げて、また読書に戻ってしまった。
「進めるわよ?」
「あ、ちょっと待って。『Aランク相当』っていうのは、どういうこと?」
「あぁ。元一般人は知らなくて当然かしら? 勇者が使っているのはね、"模造品"なのよ。もっと細かく言えば、『原初の六魔剣を模倣した魔剣の模造品』。」
全然わからん。
「一概には言えないけれど···原初の六魔剣の孫みたいなモノね。」
「孫。」
「孫。」
そういえば魔剣の精神体って女の子だけど、子供とか──
「マスター?」
「···ゴメンナサイ。」
底冷えのするグラムの声に戦き、心を無にする。
「えっと、勇者の持ってる魔剣って──」
「待ちなさい。お前は勇者、勇者と一口に言うけれど、E.D.E.N.の戦闘員の強さもピンキリなのよ。末端代表の『
「末端、ねぇ。···AAランク?」
「AランクとSランクの中間よ。百般のAランクよりも強力だけど、Sランクには劣る···。」
聞き慣れない階級に首を傾げれば、即座にロルリアンレットが解説を挟む。意外と説明好きなのだろうか。
「E.D.E.N.が模造に成功したのはAAランクまでだけど···。」
「?」
ちらり、と、ロルリアンレットがグラムを盗むように一瞥し、また僕への解説モードに戻る。
「どこぞの研究機関はSランク相当の模造品を作ったらしいわ。それに、SSランクを作ったという報告も──」
「SSランク?」
「そう。さっき言った『世界を滅ぼす武器』もこのランクに位置するわ。明確な定義はないけど···『例外』と断ぜられる能力を持つ武器ね。」
へぇ。と。相槌を打って、ほんの小さな疑問が浮かぶ。
「ねぇ。魔剣の模造ってどうやって作るの? 工芸品とか機械だと、一旦バラバラに分解して、仕組みとかを把握するらしいけど。」
まさか魔剣をバラバラにする訳にもいくまい。擬似的とはいえ彼女達には痛覚もあるのだし、生きたまま人間を解剖するような事はないだろう。そもそも、魔剣の存在の基盤は魔力結晶体である擬似肉体ではなく魔核。そんなのは、何の意味もない拷問だ。
だが、予想に反して、ロルリアンレットは驚いたような表情で、感嘆の声を漏らした。僅かに、感心の色を込めて。
「あら、正解よ。一般人にしては詳しいわね。」
「···は?」
思考を止めた僕に追い討ちをかけるように、ロルリアンレットは淡々と説明を続ける。
「魔核も擬似的な肉体も、魔力結晶である武器形態のモノも。全部纏めてバラバラにするのよ。そうして仕組みを理解して、組み直す。中には···いや、逆ね。中には、
「···。」
「確率で言えば15%ぐらいね。85%は、ただ擬似的な内臓を詰め込んだ革袋になるか、魔核が崩壊して存在を崩す。」
「···。」
吐き気がする。目眩も。「魔剣使い擬き、聞いているの?」というロルリアンレットの声が遠く聞こえる。心を埋め尽くすこの感情は、悲哀か、嫌悪か。
「ロルリアンレット。」
「何かしら?」
「ここでも、そんな実験をしているの?」
すぅ。と、ロルリアンレットの両目が細まる。
ぱたん。と、背後でグラムが本を閉じる音が聞こえた。
「···。」
「···ふざけるなよ、魔剣使い擬き。この私が、そんな愚者に見えると、そう言うのか?」
良かった。と、心底そう思った。もしも肯定されていたら、グラムが動くより先に、僕がロルリアンレットを殴っていた。──そんなことが可能とは思えないけれど。
「···ごめん。」
「まぁ、いいわ。今日はこのくらいにしておきましょう。」
「うん。ありがとうございました。」
ぺこり、と、頭を下げれば、まるで見計らったかのようなタイミングでマリーさんが入ってきた。
「ロールお嬢様。お部屋の用意が整いました。お食事の方も、もう間もなく。」
「そう。ご苦労様、マリー。行くわよ、魔剣使い擬き。」
「分かった。行こう、グラム。」
「えぇ。マスター。」
そのままマリーさんに案内されて図書館を出る──寸前で、ロルリアンレットが振り向いた。
「魔剣グラム。本を持ち出すなら貸し出し手続きをしなさい。マリー?」
「畏まりました。」
グラムが小脇に抱えていた本を流れるように奪い去ったマリーさんが、出口付近のカウンターで作業をこなす。
世界図書館、という大仰な施設の割には、村にあった図書館と同じ貸し出しカード方式だった。
ヒャッハー新しいイベントだぁ!! 育てておいてよかったフラベルムとカタストロフ。
結晶ガチャからはスク水ブーストが2つ。とりあえず学術教室Bまで解放。ブレイドグラフは絶対取らなきゃ···!!