魔鍵都市ユグドラシル。魔界屈指の大都市であるそこに、とある組織の本部が存在する。組織の名は『E.D.E.N.』。数千人規模で、勇者と呼ばれる魔剣使いの戦闘員を抱える人民の守護者。その職務は、魔剣の絡む事件全てに及ぶ。権力も本部も、それに比例するように大きい物だ。そして、その大きな本部施設の中でも一際大きな部屋、暴走魔剣対策本部に、これもまた大きな怒声が響き渡っていた。
「そんな事は有り得んと、何度言えば分かるんだ!?」
「だから、さっきから言っているだろう。『
「Aランクの模造魔剣まで動員したエリートなんだろう? お前はそう言っていた!!」
「暴走魔剣の推定ランクはAA。『先駆隊』なら十分に対処可能だったはずだ。」
二人の男が、他に人のいない大部屋で口論をしていた。その剣幕たるや、今にも武器を抜き放ちそうな雰囲気さえあった。鍛え上げられた肉体を持つ二人は、どちらも相当な業物であろう剣を下げている。つまりは、勇者。
「その魔剣の名前は分からんのか?」
「いや···最後の報告では『図書館』が介入したと言っていたが···どこまで本当なのか。」
「馬鹿な。たかだかAAランクの魔剣に、『図書館』が動くものかよ。」
片方の男はそこで一旦口を閉じると、また重々しく口を開いた。
「もし、AAランクじゃなかったら?」
「Sランクだとでも? 報告では、どこぞのガキがマスターになったそうじゃないか。ガキにそんな魔力があるものかよ。それに、そもそもそのガキが存在したのかも怪しいな。幻覚でも見せられていたのではないか?」
「それこそ馬鹿な。一体なんのために? ···まさか?」
「そう。···勇者狩りだよ。」
男達は重苦しい空気になると、そのまま部屋を出ていった。
▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
「は···くしっっ!! あぁ···何だろ、風邪かな。」
僕は、割り当てられたホテルのように豪華な一室で、盛大にくしゃみをして体を震わせた。そんな体が冷えるようなことはしていない筈なんだけど···。まぁいいや。マリーさんの作った豪華な夕食を──慣れないテーブルマナーを叩き込まれながら──食べ、シャワーを済ませた僕は、ふかふかのベッドに腰かけてグラムと談笑していた。
「そういえばグラム。さっきは、何の本を読んでたの?」
「英雄譚よ。とある竜殺しの英雄と、神に仕える戦乙女の恋の話。」
「悲恋に終わりそうな気がする内容だね。」
「ふふ、察しが良いわね、マスター。···あら?」
こんこん、と、ドアがノックされる。ここはトイレじゃないんだけどなぁ···。
「はーい···うっ···。」
「入るわよ、魔剣使い擬き。···あら。」
ドアを開ける前に勝手に開けられたので、盛大に頭を打つ···なんて、ベタベタな展開はない。ただシンプルに突き指をしただけだ。
「ごめんなさい? それで本題だけど、明日までにこの本を読んでおきなさい。明日、講義の前にテストするから。」
「あ、うん。分かった···。あ、ねぇロルリアンレット。」
「なに?」
分厚い──明日までと言っても、日付が変わるまでもう数時間しかない状態ではほぼ無理な分厚さの本を渡し、さっさと出ていこうとするロルリアンレットを呼び止める。
「ありがとう。」
助けてくれたこと。住居の提供。仕事の斡旋。知識の供与。お礼を言わずには居られない厚待遇だ。
「···どういたしまして。」
ロルリアンレットは振り向きもせず、ただ一度だけ足を止めて、そのまま出ていってしまった。
「ねぇ、マスター。」
「ん?」
「それは、なんて言う本?」
「えっとね···うわ、参考書か論文かな?『魔剣、あるいは天敵とは。』だって。···天敵ってなんだろ。」
「読めば分かるんじゃないかしら? ···読めれば、だけどね。」
「え? ···おぉぅ。」
試しに開いてみれば、細かい文字がびっしりと詰め込まれており、どう考えても読み終われそうにない。それに、さっと目を通せば『よって、何ページの何行目は否定される』なんて表記もあってまぁ、うん。無理ですね。
「どうしよう···たすけてグラム。」
「私をそんな雑事に使わないで···と、言いたいところだけど、今は気分が良いから手伝ってあげるわ。」
「ありがと···。」
結局二人とも寝落ちした。
ヒカリちゃんかわいい。