剣統べる魔王の物語   作:征嵐

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 まだまだ続くぜ魔剣使い編序章。一体本編はいつからなんだ!!


第8話

 僕のネーミングセンスはさておき、次に何をするのかと聞いたところ、返ってきたのは「模擬戦闘よ。」という単純かつ明快なものだった。明快なのは次のカリキュラムだけではない。その相手もまた、既に僕は知っていた。以前にロルリアンレットはこう言っていた。「私が知識でマリーが実戦。」と。故に、僕がこれから戦うのは──

 

 「どうぞよろしくお願い致します。」

 

 僕にふんわりとした柔らかな笑みと共に一礼したのは、ここロルリアンレット世界図書館のメイドであるマリーさんだ。彼女からは所謂"強者の雰囲気"は伝わってこないけれど──でも、どうやらその雰囲気が分からないのは僕だけらしい。既に魔剣たちは各々の持つ──否、彼女たちそのものである武装を顕現させ、僕の前に並んでいた。その相貌には明確で鋭い殺意を宿している。

 

 「みん──」

 

 皆、なんでそんなに本気で殺す気なの? なんていう発言は許されなかった。

 

 大気を鳴らし、移動の軌跡に残影を残して踏み込み、マリーさんを三角に取り囲むように陣取る。彼女たちは翼のごとき刃をもつ戦斧を振りかぶり、水銀のウェディンググローブを纏った右腕を引き絞り、美しくも禍々しい刃を持つ大剣を構えていた。相手が並の勇者なら、対象の命は残りコンマ数秒だった。だが、彼女は、ここロルリアンレット世界図書館の主、『司書王』ロルリアンレットに仕えるメイドだ。

 

 絶対の自信を持つ強者は、柔らかな笑みを絶やすことなく、一切の身動きを取らない。

 

 ガギン!! と、耳につく金属音が鳴り響く。別に、マリーさんの柔らかそうな体が実は鋼鉄製で──というオチはない。ただ、全く同時に繰り出された死が突き合わされただけだ。死の矛先であったはずのマリーさんはと言えば、絡んだ二つの武器と一つの掌のちょうど真ん中に立って、そのまま彼女達を見下ろしていた。

 

 「失礼致します。」

 

 またマリーさんがふわりとスカートを持ち上げて一礼する。グラムだけが不快げに目を細めて数歩だけ下がる。数歩だけ、なのは、それより先に攻撃が飛んできたからだ。もっと正確に言えば、ジャガーノートとぎんいろの二人が飛んできたからだ。

 

 マリーさんの流麗な右足が、まずマリーさんの右後方にいたジャガーノートへ繰り出され、そのままぎんいろを巻き込んでグラムの方へ投げるように払われた。キックと言うよりは、足で押しただけのような動作。それだけだというのに、グラムも巻き込んで三人の魔剣が吹き飛ばされた。──こっち側に。

 

 「ぐえっ!?」

 

 回避なぞ不可能。いかに少女の体重とはいえ、三人の武器も考えれば100キロにはなるだろうし、そもそもスピードが桁違いだ。重量かけるスピードで運動量を算出するまでもなく、その威力は僕を吹き飛ばすのに十分だった。

 

 空を舞う。視界がグレーに染まっていく。あぁ、僕は、今日で死ぬのか···。

 

 ──そんなことはなかった。ぽふ、と、さっきまで反対側で魔剣達に相対していたはずのマリーさんにキャッチされる。所謂お姫様抱っこの状態で。

 

 「あ···?」

 「申し訳ございません、飛ばす方向を誤りました。」

 

 塊になって倒れている魔剣達の方を見てみれば、失神こそしていても、特に負傷はないように見える。うん。失神していてくれて助かった。こんな状態を誰かに見られでもしたら恥ずか死ぬ。

 

 「無様ね、マリー。焦ったのかしら?」

 「···。」

 

 僕がマリーさんの腕から逃れた丁度そのときに現れたロルリアンレットがダメ出しをしたのは、魔剣三人を同時に相手取って尚傷一つ負っていないマリーさんだった。マリーさんはといえば、無言で頭を下げている。弁解する気はないという意思表示なのだろうか。

 

 「で、ロルリアンレット。模擬戦なんだけど···。」

 「あぁ、大丈夫よ。今回のは所謂"慣らし"。彼女達本来の能力なら、こんなモノじゃないわ。」

 「そうなの?」

 「えぇ。ちょっと待ってなさい。マリー、ゲデヒトニスを連れて来なさい。」

 「畏まりました。」

 「それから、鍵もね。」

 「直ちに。」

 

 数分の後、かなり大きな袋を二つ抱え、頭に謎の生物を載せたマリーさんが帰ってきた。

 

 「ご苦労様。」

 

 ロルリアンレットは、まず一つ目の袋から金色の鍵を取り出すと、僕に放った。

 

 「これは?」

 「超強化の鍵よ。魔剣を強化するなら、これは必須ね。」

 「ん···マスター···?」

 

 ようやく失神から覚めたグラムが起き出してくる。自分の上で未だに昏倒している二人を叩き起こしてから、朧気な足取りでふらふらと近づいてくる。

 

 「あ、みんな、これから強化?って工程を踏んで、もう一回模擬戦だってさ。」

 「そういうことよ。マリー、強化の方は任せていいわね?」

 「えぇ、勿論ですわ。」

 

 魔剣たちとマリーさんが何処かへ消えたあとは、僕とロルリアンレットだけが残っていた。

 

 「ねぇ擬き。」

 「"魔剣使い"の方を略しちゃうのか···なに?」

 「さっきの模擬戦···何故、お前が戦わなかったの?」

 

 ──え?

 

 「お前も一般人とはいえ魔界に暮らす者。魔剣使いがどういう存在かは知っているでしょう?」

 「魔剣使いは──。」

 「魔剣使いは、魔剣を使う者のことよ。そのままだけれど──お前は、その単純な言葉通りに行動した?」

 

 僕は──。

 

 「これが、私がお前を"魔剣使い擬き"と呼ぶ理由よ。そもそも、魔剣使いというのは、魔剣を使いこなす者のこと。魔剣に魔力を供給するだけなら、ホムンクルスにでも、そこらの魔物にでも出来る。魔剣使いにはね、魔剣を使う技術が要求されるの。分かるかしら?」

 

 僕は──!!

 

 「と、言うわけで、お前には武器を扱う訓練をしてもらう。マリーとの再戦はその後よ。」

 

 武器なんて握ったことがない──!!

 

 

 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲

 

 

 はいこれ、と言って手渡されたのは、僕の身長と同じくらいの大きさを誇る大剣だった。いや、木製の、大剣だった。木刀と言うよりは、木剣と呼ぶべきそれは、見た目程ではないにしろ、それなりに重い。

 

 「じゃあ擬き。まずはこれを持って···そうね、外を走ってきなさい。」

 「分かった!! ···なんて?」

 「背負ってもいいし、肩に担いでもいいわ。とにかく肌身離さず持って、ランニングよ。」

 

 おぉぅ···思った以上に体育会系だな···いや、背負っていいならまだ楽か。

 

 「分かった···行ってきまーす。」

 「鬼に負けたら···そうね、図書館の掃除よ。」

 「鬼ごっこ!? まぁ、いいか···鬼って誰?」

 

 ロルリアンレットは、そこで意味ありげに沈黙を挟むと、サディスティックな笑みを見せた。

 

 「魔剣よ。貴方のね。」

 「···はい?」

 「ルールは簡単。彼女たちも貴方のように木製の武器を持っているわ。それを手放したら負け。勝者には、敗者になんでも一つ命令出来る権利をあげまーす。」

 「···え、待って、なにその無理ゲー。って言うか、それ鬼ごっこでもないよね!?」

 「魔剣たちが負傷しても、すぐにエメラルドで修理してあげるから安心なさい?」

 「僕は!? ねぇ僕は!?」

 

 負傷するの僕だけだよね?

 

 「まぁハンデもあげるから。彼女たちとて、貴方を殺す気では行動しないでしょうし···スタートは大幅に遅らせてあげるわ。」

 「微妙なハンデだぁ···。」

 「はい、よーい。」

 「待って待って背負わせて···。」

 

 背負う時の為か、木剣に付けられていたベルトを肩に掛ける。

 

 「スタートよ。頑張りなさい。」

 「いつまで逃げてればいいのこれ!?」

 

 とりあえず図書館入り口に向けて走りながら問いかける。

 

 「日没までよ。あと図書館で走らないで。」

 「ご、ごめんなさい···あと4時間くらいかな。なんとかなるか···。」

 

 どうするか。手近なところで隠れたいのは山々だが、魔力供給の流れを読まれでもすれば一発アウト。なら、始めにロルリアンレットが言っていた通り、なるべく走って距離を開けた方がいいか。

 

 すれ違う町の人や、僕を見た店の人なんかが生暖かい目で見てくる。子供が遊んでいるだけだと思われているのだろう。遊びにしてはやたらと過負荷なオモチャを背負っている訳だが、「凝ってるな」ぐらいにしか捉えられないらしい。これが魔界最大規模の都市の懐の深さですか。

 

 そのまま走ること数十分。背中に重りを背負っているだけあって、そこまで逃げれたように思えないのに、死にそうなほど疲れている。

 

 「ちょっと休憩···。」

 「お疲れ様です、マスターさーん。」

 「あぁ、ありがとうジャガーノート。」

 

 道端に置かれていた木箱に座り込み、ジャガーノートが差し出してくれた水筒を受けとる。

 

 「やっぱ重要だよねぇ、水分。人体の6割を構成するだけはあるよ。」

 「そうなんですかー? 私たちは魔力の方がよっぽど重要ですけどねー。」

 「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ僕も魔力の総量とか増やした方が──」

 

 背中に負った剣に手を回し、ベルトから体を抜いてとりあえず一閃する。狙いは真横、ジャガーノートの声のした場所だ。彼女に攻撃するのは気が引けたが、ここで手を抜けばまぁ間違いなく彼女の、さらにはロルリアンレットの不興を買う羽目になろう。それは困るし、そもそも僕程度の、しかも木製の玩具での攻撃で彼女が傷つくとも思えない。

 

 「──良いのかなッッ!!」

 

 こぉん! と、木同士が甲高くも優しい音を立ててぶつかり合う。ジャガーノートは、その手に持った木製の戦斧を地面に突き立て、その柄で以て、僕の大剣を防いでいた。

 

 「魔力の総量なんてそうそう変わるモノじゃないですしー、それにー、マスターさんの魔力ってー、やたら濃密ですからー。」

 

 そんなに沢山頂いてもー、余剰魔力として溢れ出しちゃうって言うかー。

 

 そんな風に笑ったジャガーノートは、地面に突き立ったままの戦斧を支えに、地面と水平にぐるりと回転し、僕を蹴り飛ばした。大分加減してくれたのか目で追えた速度のそれを大剣で防ぐ──のは、残念なことに僕の運動神経が許さなかった。

 

 「ごふっっ!?」

 

 綺麗に脚を揃えて打ち出されたドロップキックが思いっきりお腹に突き刺さる。胃液と酸素が同時に口から漏出し、軽く10メートルは吹き飛ぶ。

 

 「ジャガーノート···マスターを殺さない程度でって、言われたはず。」

 「──あ···助かったよ、ありがとう、ぎんいろ。」

 

 地面を無様に転がり、その過程で腕や足にも重篤な被害を受ける筈だった僕の体は、僕が吹き飛んだ先に居たぎんいろによって受け止められ、なんとか無事に済んでいた。

 

 「ん···私は、参加してないから···。」

 「あ、そうなの? そりゃ良かった···。」

 

 三対一とかもう死ねる。一対一でも十分死ねるけど。あー、いや、死ねるというか、死ぬ。普通に死ぬ。

 

 「マスターさーん、次、いきますよー?」

 「ッッ!!」

 

 慌ててぎんいろから離れ、大剣を構える。腕力が貧弱すぎて、正眼に構えると剣も腕もぷるぷるするので、切っ先は下げて地面を擦るように、だが。

 

 「あー、ごめんなさいマスターさん。間違えちゃいましたー。」

 

 いきますよー、じゃなくて、来ますよー、ですねー。

 

 なんて、ジャガーノートが変わらず笑う。対して、僕の背筋は冷え切った。ここまで走りっぱなしで汗まみれだった背中や首筋が、持っていた熱を一斉に手放す。

 

 ズドン!! と、僕の鼓膜は、まずはそんな音を捉えた。次いで、木の軋む音。木の砕ける音。誰かの手で目を覆われ、柔らかく抱かれながら、伝わってきた凄まじい衝撃に従って大剣を手放す。

 

 「はい、貴方の負けよ、マスター。」

 

 耳元で囁かれた敗北宣告に、背筋がぞくぞくと震える。推察するに、声の主──グラムが後ろから密着して、片手で僕の目を覆って飛び散る木の破片から守り、残った手で僕の大剣を砕いたのだろう。──ん? となると、僕の顔の数センチ横にはグラムの顔があり、背中に感じる体温はグラムのもので、時折背中に触れる慎ましくも確かに柔らかいこの感触は──!! あ、離れた。

 

 「残念でした、途中で隠れなかった判断は的確だったけれど──私たち相手に戦ったことが間違いだったわね。」

 「だよね、うん。追い付かれた時点で負けみたいなモノなんだけどね。」

 

 それでも、"手放したら負け"というルールである以上は、戦うなり逃げるなりすべき──逃げれば良かった。

 

 「そういうコトよ。私たちと正面衝突する必要なんてないの。」

 「勝算のない戦いに挑むのはー、英雄だけで十分ですよー。マスターさんは、英雄なんかとは違うんですからねー?」

 

 まぁ、そうだよね···一般人だもんね···。

 

 「じゃあマスターさんお待ちかねのー、罰ゲームタイムですねー?」

 

 心底愉しそうに笑ったジャガーノートが、思い出したくないことを思い出させる。魔剣たちの命令に従ったのち、ロルリアンレット魔法図書館の掃除だ。

 

 「私からは──そうですねー、特にないのでー、保留にしておきますねー。」

 「え、保留とかありなの?」

 

 なにそれ、逆に怖い。

 

 「私からも特に無いけれど···そうね、『もっと強くなって』とかかしら。」

 「あ、うん···善処します。」

 

 別に期待してないから、適当に頑張れ。みたいな、そんな口調だった。うん。せめて期待される程度には強くなろう。

 

 「最後はぎんいろちゃんですねー。」

 「え、参加してなかったのに?」

 「私も···望みなんてない。」

 

 んん、なんかジャガーノートとはニュアンスの違う言い方だったけど···ぎんいろも保留にしとこうか。

 

 「じゃあぎんいろ。何かしてほしい事が見つかったら、言って。」

 「分かった···。」

 

 さて、では···帰って掃除か。頑張ろう。

 




 もう今年も終わりか──。
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