まるでエロゲの主人公だね!
では、三人目、よろしくお願いします!
世界から消える
桜の花びらが散り、緑が街を支配する5月。新二年生となった俺は朝、小さな欠伸をしながら狭い路地を歩く。
「あ、あぁ……首痛い……」
寝違えた、完全に首が動かない。まずいな、今日でサッカー部のレギュラーが決まるのに……この感じじゃいいプレーが出来なさそうだな………
「おはようございます。科宮先輩」
「………………え?」
背後から聞きなれた声で俺の名を呼んだ。予想だにしない声に俺は驚きを隠せずに、その場でカバンが手から離れた。後ろに立っていたのは、銀髪の少年。
「か、奏!?お前うちの学校なのか!?」
「ええ、何とかして入ることが出来ました」
俺のいる学校は、県内でトップの進学校。バスケとサッカーはほぼ全国レベル。俺はスカウトされた。と言った方がいいだろう。
「バスケのスポーツ科が一枠余ってましたので」
「へぇ……」
意外だ。中学の時、奏とは同じ委員会に入っており、家も近かったのですぐに打ち解けた。
「そういえば、翔先輩もいるんですよね?」
「あぁ、翔はもうレギュラーだぞ?」
奏と翔も仲いいんだっけか、まぁ三人とも幼なじみだし、仲いいのは当たり前か。
「しかし奏が俺に敬語で話すとか………ふふっ」
「し、失礼ですね…いつも通りでいいんですか?」
「あぁ」
「じゃあ依澄。サッカー部は今強いのか?」
「んー、そこまで、県大会でも8強がギリギリかな」
奏と並んで道を歩く。お互い汗をかきながらも会話に集中していた。すると突然、奏が周りを気にしながら耳打ちしてきた。
「依澄………知ってるか?ここら辺、通り魔事件が多いんだって」
「……あぁ、知ってる。でもお前の家系なら大丈夫だろ?あの刀があるし」
「咲名千里は俺も使ったことはないんだよ………まぁ振ったことはあるけど………それなら依澄もだろ?皆川流抜刀術だっけか?依澄、免許皆伝だろ?」
「あぁ、あれは緊急用の居合の剣だ。使う機会はないよ。しかも師範は今……………」
「あぁ、知ってる」
こんな会話をしている間にも、俺達は校門をくぐり、校舎内で靴を履き替えていた。四階が奏たち一年生、俺たち二年生は三階である。
「じゃ、またな」
「おう」
階段で別れて、二年三組に入る。まだ朝が早いからか、そこまで人はいなかった。中間の席。そこが俺の座る席だ。別に不便はない。
「ん、おはよ、依澄」
「あ、おはようございます。師匠」
「………ここでそれはやめて」
俺の隣、皆川
唯一手がかりとなる置き手紙があったのだが、その内容は「道場の次期師範を舞雪とする。いつかまた会えるので、この手紙は短めに」とだけ記されており、捜査には関係がなかった。それで、俺は今その師匠、もとい友人でもある舞雪と隣なのだ。舞雪自身、抜刀術は全くの初心者。刀すら触ったことのない彼女が何故師範になったのかは知らないが、監督しているのは俺だ。舞雪はただ見ているだけ。
「あ、あぁ、わり、癖が抜けてなかった」
「全く……」
「な、舞雪。通り魔事件のこと、知ってるか?ここ最近多いらしくて」
「知ってるわよ。だからこんなに早めに学校来たのよ。普通の登校時間じゃ怖いからね」
「なるほど………」
「それより…………さ」
一瞬、というか結構長い時間、舞雪は顔を赤くして目をそらす。わけも分からず、俺は首を傾げる。
「どうした?」
「今日………宿題…やって来た?あんた今日当てられるよ?」
「……………あ」
俺は昨日言われたことを思い出す。「明日、お前当たるから宿題しておけ、恥かくぞ」って言われていたのだ。
「あ、やっべ、舞雪、宿題見せてくれ」
「……仕方ないわね」
宿題を嫌々見せているのかと思いきや、舞雪の顔は少しだけ嬉しそうで、口元が緩んでいたのが見えたが、気にはとめなかった。
放課後、俺は部活が結構長引いた。レギュラー入りを決めるのは明日となって、今日はみっちりトレーニングをしたのだ。大きなあくびをかましながら俺は夕焼けの中校門を通る。そのまま、真っ直ぐ歩こうとした時に、声がかかった。
「無視しないでよ」
「………あ?」
振り返ってみると、そこにはもたれかかって腕を組む舞雪がいた。胸の下で腕を組んでいるので、大きなバストが持ち上げられている。
「………どこ見てるの?」
「舞雪の胸。大きいなって…………ぶっ!?」
顔面に強い痛み、俺はそのまま一メートル吹っ飛ぶ。
「全くもう………セクハラ癖は治らないの?」
「男にとって無理難題だな。で、どうしたんだ?」
俺がそう問うと、舞雪の顔は朝と同様、同じように赤く染まる。
「い、いや、道場まで一緒に帰ってあげようかなって……」
「………そ、そうか」
了承した俺は舞雪を隣に、歩き始める。帰りに人がいることが滅多になかったので、少しだけ緊張が迸る。一方の舞雪もなかなか話さない。どうしたのだろう。そうして途中にある、未だ咲き続ける桜があった。5月の今にまだ咲いている。というとで、よく取材も来るのだ。
「………っ」
「?………舞雪?」
そこで舞雪は止まる。カバンを両手で持ち、短いスカートが風にゆらゆら揺れる。長い黒髪の間から見えた彼女の顔はリンゴのように赤かった。また、その顔がとても美しく見えた。
「あ、あのね………!」
唐突に話し始める舞雪。
「お、おう………」
俺の中で一つの胸騒ぎがする。これは舞雪に対してなのか?
「私……………依澄のこと………す………す……」
意を決したのか、舞雪は顔を上げ、俺をしっかりと見据えて、そして碧色の目を輝かせながら、こう言った。
「好きで……………」
ズブッ……………
生々しい音と同時に、舞雪の声が遮られる。俺の顔とワイシャツに赤い液体が付着する。俺はわけも分からず、その場で突っ立っていた。そしてその数秒後、我に返る。
「ま、舞雪!!」
腹部を刺された舞雪は俺の方に体重を預けた。舞雪の背後にいたのは、日本刀を右手に握る男性。夕日の逆光でよく顔は見えなかった。
舞雪はもう虫の息だった。
「………」
黙ったまま、男性は刀を振り上げ、俺の肩を切り、最後に同じように腹部を刺す。吐血し、舞雪の隣に倒れる。
「くそっ…………舞雪……!」
まだ意識がある中、隣にいた舞雪の手を握り、引き寄せて抱きしめる。彼女の事が好きだったといえばそうでは無かった。でも、彼女が俺を好きでいてくれたことは本当に嬉しかった。舞雪にNOの返事が出来なかったのは嬉しいのか悲しいのか…………そんな事が頭の中で回転する。
「大好き…………だよ……」
最後にそう言われた気がした。
それがこの世界の"最期"だった。次に目が覚めたのは真っ暗な空間、虚無。その中に一人で突っ立っていた。俺はその場で立ち尽くす。
「ま、舞雪……」
必死に彼女を探すが、姿はない。そんな中、一人の女性の声が聞こえた。それは美しく艶めかしい声だった。
「あなたが………依澄君ね?」
「………誰?」
「八雲 紫。妖怪よ」
「へぇ」
今更、通り魔の方がショックが強すぎて、まだ現実がどうなっているのか、整理が付いておらず、なかなか頭に入ってこないが、前の女性は心を見透かしたかのように、俺が一番心配していることの答えを教えてくれた。
「安心なさい、あなたの女の子、舞雪ちゃんは確実に生きているわ」
「………よかった……」
ガクッと肩を落とす。
「でも、あなたは死んだわよ」
「まぁ、分かってた」
「で、あなたには私の血を流し込んどいた。妖怪ねあなた」
「え、じゃあ、長生きも?」
「出来るわ」
「魔法も」
「使えるわ」
「………家族には」
「会えない」
どれだけ自分が強くなろうとも、家族にはもう会えない、それに奏や翔にももう二度と会えないのだろう。
「最後に……挨拶くらいしときゃよかった。で、俺は今からここに永住するんですか?」
「いいえ、日本の陸続きの異世界、幻想郷で生活してほしいの。あなたは後々必要になる。私の勘がそういったの」
「………まさか、あの通り魔も、あなたの仕業じゃないですよね?」
「私は外の世界には干渉出来ないわ」
「…ならいい」
紫は扇子を開き、口元を隠しながら、俺の全身を舐るように見るその仕草に俺は少しだけ心臓が高鳴る。
「あなたは…………刀……持ってるのよね。良かったらこれ使って」
投げられた刀をうまいことキャッチする。鞘から抜くと、刀身は淡いピンク色。桜の絵が軽く彫ってある。何とも美しかった。
「殺人刀「桜成」。幻想郷の「ある場所」にある。刀よ。かっぱらって来ちゃった」
「いいのかよ………まぁ有難く受け取るよ」
「ええ、じゃあ、健闘を祈るわ。最強の抜刀師さん」
この数分で知らない女と出会い、そして別世界へと転移するという何ともイレギュラーな俺の生活。どうやら、第二の人生がここで始まるみたいだ。少し心は踊りながらも不安がそれ以上に募っていた。
「さて、ここは………どこだろ?」
眩しい光と共に、俺の目が細まる。空気が綺麗なところ、ここが幻想郷なのだ。
それなんてエロゲ?