「舞雪!」
依澄は走ってある女性の元に駆けた。
「………どなた?」
「え?」
依澄は舞雪とやらの女性から思いもよらないことを聞き、その場で硬直してしまっていた。
「ど、どなたって……俺だよ、科宮 依澄。忘れたなんて言うなよ?」
「……ごめんなさい。分からないです。どうして私の名を知っているのですか?」
「だ、だって……あっちの世界で一緒に道場で修行してたじゃんか…」
舞雪さんはそんな依澄の言葉に首を傾げるばかり、私はその場で黙って見ているしかなかった。依澄の顔は絶望に染まり、全身の力が抜けているようだった。
「……そっか……すいません。人違いでした」
「い、いいえ。お気になさらず」
お互いぎこちない謝罪をし、お互いが違う方向を向いて歩く。私は依澄に駆け寄って
「ちょっと、大丈夫なの?」
「あ、ああ、問題ないよ。本当に人違いだ」
「そ、そう」
その割には恥ずかしさとかではなく、悲しみの表情しか見て取れなかった。私は依澄から視線を外して、舞雪さんとやらを見る。するとこちらを振り向いて、泣きそうな顔をしていた。私は気に留めないよう、依澄に視線を戻してから
「食材は買ってあるし、帰りましょう」
「お、おう……」
家に帰ると、上海人形が出迎えてくれた。
「おわっ!?なんだよこれ?」
依澄の驚きように私は右手で口を隠してクスクスと笑う。
「それは自律人形。上海よ」
「アリスの扱ってるものとはまた違うのか?」
「この子には意識がある。私が指で操る必要は無いの」
「ヨロシクオネガイシマス」
凄い片言なのは仕方ない。そこは根性どうこうの話ではなく、技術的にまだそこまで届いていないからだ。
「へぇ……可愛いな…」
服を変えた依澄は違う雰囲気を放っていて、まだ出会ってから一日も経ってないのに新鮮に感じた。
「イズミサン。ヨロシクオネガイシマス」
「おう、よろしくな。上海」
依澄はそうすると、外に出て、名刀「桜成」を引き抜き
「これ、一本使っていいか?」
依澄が指さしたのは大きな大木。いくら斧で切っても折れないであろう程の強度を誇っていた気がする。私も数年前に邪魔だったから切ろうとしたら、逆に私の手が豆だらけになっていたのを思い出して、苦笑する。
「ええ、いいわよ」
私の家は霊夢や魔理沙、他にも色々な面々が集まる事が多く、この木は呪木「ギガントウッド」って呼ばれていて、みんなからは親しまれているのと同時にとても迷惑な方向に伸びている。理不尽かもしれないが、実害もある。どうやら、この木には人間には効かないが強力な毒を放っていて、ここら一帯に動物がいないのだ。
「さんきゅ、遠慮なく使わせてもらうよ」
依澄は桜成を左手に持ち替えて、納刀してある刀の柄を右手で握り、依澄は目を閉じた。その横顔は女の子のように凛々しかった。一瞬の静寂、自然の風が支配していたその時だった。
「ふっ!」
という声だけが聞こえ、依澄はもうその刀を鞘に収めていた。
「ち、ちょっと依澄?今斬ったの?」
「あぁ」
絶対嘘だ。なぜなら、私は刀身が見えなかった。刀身が見えなければ、ものを斬ることなんて無理だろう。しかし、ギガントウッドに視線を移すと、目を疑う光景が見えた。
「嘘……?」
確かに、さっきまではなかった傷がギガントウッドの木目に反して斬られていた。その綺麗な傷に私は思わず見惚れていて、感嘆のため息が出るほどだった。
「あなたの刀身……まだ一度も見たことないわよ……」
「それが俺の強みだ」
依澄の強みとは、「抜刀術」というもの、その中でも依澄のはトップに位置しており、刀身を見せずに斬るのが得意なんだとか。
「……決めた。これで修行するよ」
「……そう」
私には分かる。これがただ強くなるために修行するのではなく、今日、人里で舞雪さんが依澄のことを覚えていないのを悔しく感じて、色々と吹っ切れた結果なのだろう。
「まぁ、無理しない程度にね。あ……」
「ん?」
「いいえ、あなたの能力をまだ聞いていなかったなって」
「能力?聞いてないぞ?」
「あれ、紫から聞いてない?」
お互いが首を傾げたその時、私と依澄の間に一つの空間亀裂が入り、そこが開いてスキマが出来た。そしてその中から私と同じ金髪の女性、八雲紫がいた。
「ごめーん依澄。伝え忘れてた!」
「ベストタイミングだな、紫」
「?よく分からないけど、アリスに泊めて貰っているようね。良かったわ」
「ああ」
「で、本題なんだけど、あなたの能力について」
「この世界には程度の能力というのが存在してね。紫だったら境界を操る程度の能力みたいのがあるのよ」
依澄は頷いて私と紫の話を聞いていて、目をキラキラさせていたので正直話しづらかった。
「で、あなたの能力なんだけど、あらゆるものを「隠す」程度の能力よ」
「隠す?」
私と依澄が同時に首を傾げる。少し苦い顔をした紫は人差し指を立てて、順序よく説明していった。
「自分の体、もの。全てを隠せるわ」
「おい、そんなの女湯覗き放題じゃねぇか」
依澄のその言葉に、私は無意識に右手が依澄の脳天を貫いていた。
「ぐぉぉぉ、な、何すんだよアリス……」
「風呂覗いたら閉め出すからね」
「分かってるってば、アリスのいないところで」
「それも閉め出す」
依澄の下心丸出しの発言を私は全否定する。それを見て、紫はクスクスと微笑して、扇子を開いて口を塞ぐ。
「どうやら、こっちでもやっていけそうね。依澄」
「あ、ああ……」
そう言われると、依澄の顔は少し暗くなる。舞雪さんの出来事から空元気を振舞っているのだろうと、鈍感な私でも気づいていた。
「まぁ、アリス。あとはよろしくね〜」
「ええ」
紫はそう言って、スキマの内部に入り、完全に姿を消した後、境界が元に戻っていた。その後も暗い顔をする依澄を見て、私はある考えを持った。
「(普通、会ったことのない人物に別れ際にあんなに悲しそうな顔をするかしら?)」
上海を腕に抱きながら考える。気に留めないようにしていたが、とても気になってしまう。もしそれが事実なら、もしかしたら、舞雪さんはまだ依澄のことを覚えている可能性が極めて高い。
しかし、まだ確証はないので、依澄に言うのはやめておいた。
「さて、ご飯にするわよ」
「ああ、そうだな……色々疲れたぁ……」
大きく背伸びをする依澄を横目で見ながら私は玄関のドアを開けて台所へと向かう。
「あ、依澄、買ったもの貸して」
「ああ、はいはい」
依澄は椅子に置いてあったビニール袋を持って、渡してきた。妙な重みに右腕が一度下に落ちる。
「さて、今日はなんだ?」
「どうしようかしら?カレー?」
「お、カレーいいな」
「じゃあ早速作るから、部屋の掃除でもしてて」
「おう」
そう言って依澄は自室へと消えていった、私は舞雪さんと依澄の関係をもっと知りたいと思った。あの悲しい顔と覚えてない理由。依澄があそこまで必死になるということはそれほど重要な人物だったということ。そして、人違いなど有り得ない。舞雪さんはあちらで殺されたのなら幻想郷に来たのも辻褄が合う。
「あぁぁぁ〜もう!」
絡まりそうになる頭をブンブンと横に振って、私は料理を始めたが、気が散ってしまい、包丁で指を切っていた。
次のヒロインだーれだ
-
妖夢
-
さとり
-
霊夢
-
諏訪子
-
萃香