私だけですかね?
「人柱………ね……」
考えてみれば、千里が人柱になったのなら何かと辻褄が合うところがある。
理由は謎だが、愛原と倉見の戦争中、倉見は土台を消すため、臣下である片波の娘、咲を咲名千里の人柱とし、刀の主導権を倉見が握る。 これが大まかな話だろう。
まぁ、結局は愛原の妖力に負けたらしいが………
そして今回、何らかの理由で千里の記憶が人柱になる前に巻き戻されている。
現在の千里の状態を見ると、よほど人を怖がっていた。
多分、人柱になるために相当なストレスを溜めたんだろう…………
「奏……」
「………………」
返答がない。
「奏!」
少し大きな声で呼ぶ。
「は、はい、なんでしょうか?」
「紅茶………まだ?」
私は紅茶を淹れてと奏に頼んだが途中で奏の手が止まり、何か考えているように見えた。
「あ、申し訳ありません天子様すぐにお作り致します」
「……………」
奏の顔は少し暗かった。
やっぱり千里の記憶が飛んだのがよほどショックなのだろう。
「……ねえ、奏」
奏が紅茶を差し出し、私はそれを啜る。
「はい………」
「今は千里のことを考えたって何も変わらないし、記憶が戻るわけでもない……………」
「…………でも!俺のせいで千里があんな目に………
それに、もしも倉見家に負けたりしたら………」
奏の言葉に被せるように言った。
「『未来の事なんか誰にもわからない』…………」
私は以前奏に言われた事を今この場で発した。
「!!」
「これを言ったのは紛れもない……あなたよ?
自分が言ったことを自分は実行しないって言うのは流石に不公平じゃないかしら?」
少し怒りを交えていう。
「で、でも………」
「ちゃんとしなさい!今あなたがやるべき事は過去のことを後悔する事じゃ無いわよ!」
「天子様………」
「あなたならできる、私はそう信じているわ………」
「…………はい、ありがとうございます。
優しいですね………天子様………」
私は顔を少し紅潮させて言う。
「ば、ばか…………何いってんのよ…………
茶化さないで………」
「ははは、でもほんとに元気出ました。」
声に迫力は無かったが、奏の目は人々を圧巻させるような綺麗な目をしながら、同時に闘志に燃えていた。
その夜。
本当に唐突の出来事だった。
「て、天子様!あれを!」
奏に指さした所を見ると………
暗雲の塊が屋敷に向かってきている。
「不味いわね………」
私はその暗雲が何なのか理解することが出来た。
しかも………あんなに………
「行きましょう……天子様」
抜け殻状態の咲名千里を握った奏は外に飛び出した。
「てめぇらのせいで………!千里が嫌な思いをしたんだ!」
背中に翼を生やし、怒りに満ちた声で倉見の怨念に叫ぶ。
すると、怨念は奏の目の前で止まり、1人の黒い大男が出てきた。
「貴様が愛原奏か。」
低く、ドスの効いた声で奏に問う。
「あぁ、そうだ」
刹那、ものすごい速さで奏の胸を「何か」が抉る。
当然、奏からは鮮血が飛び散る。
何なの………あの速さは……
「!?」
奏はその場で倒れ込んだが、意識はあるようだ。
私は奏に駆け寄る。
「奏!」
「ほぅ、天人もいるのか………
愛原奏。後日、倉見の屋敷へ来い。真実を教えてやる………
それまでにそこの天人と思い出作りをしておくんだな………!」
そう言って大軍はいつの間にか消え失せた。
「く、くっそ………もう少しだったのに………」
ゴフッと、口から大量の血が流れる。
そうして奏はまた気を失う。
数時間後、俺が目を覚ますと
体中に包帯が巻かれている。
動くだけで激痛が走る。
「!ぐっ………いってぇ………」
そこで俺は太ももらへんにズシっと重みを感じた。
そこには天子様が両腕を枕にしてうつ伏せで寝ていた。
「スー……………ん………」
俺を………看病してくれたのか………
俺はフッと全身の力が抜け、寝ている天子様に微笑みかけた。
そして、帽子を取っている天子様の頭に手を乗せ………
「ありがとうございます…………天子様…………………」
頭を撫でる。
スゴイサラサラな髪だ…………
寝顔も思わず見とれてしまうほど可愛い。
俺は思わず…………というか……最近芽生えてきた天子様への気持ちを口にしてしまう所だった。
数分後
「ん、んんー……………………………」
天子様が目を覚ました。
俺は目覚めてからずっと天子様の寝顔を見てしまっていた。
「おはようございます、天子様」
「え、ええ、おはよ………って、奏は大丈夫なの?!」
と、慌てた顔で俺に聞く。
「あはは、大丈夫ですよ………当分は安静にしないとですが………」
「ええ、そうしなさい……あんなに深い傷だったのだから………」
ぎゅるるるるるる………
俺の腹が鳴った。
赤面して顔を手で覆う。
すると、天子様が
「ぷっ、あはははは!もう晩御飯出来てるらしいわよ、行きましょ!」
と、大声で笑われた。
あぁ、恥ずかしい!穴があったら永遠に入っていたい!
そう思いながらベッドから降りようとした時、その胸の傷が傷んだ。
「いっつ?!」
そう言って胸を抑える。
「だ、大丈夫?!晩御飯持ってくるわよ?」
「も、申し訳ありません………天子様……」
そう言って天子様は部屋を出て、俺はもう一度ベッドへ戻る。
数秒後。
「奏、晩御飯持ってきたわよー」
「ありがとうございます、天子様」
そう言ってベッドの隣にある机に俺の晩御飯を置いた。
「いただいきます」
挨拶をして俺が食器に手を伸ばした瞬間。
「ちょ、ちょっと待って!」
天子様がそれを制す。
「な、なんでしょう………」
「あなたは今は怪我してるんだから………………えっと、その………………1人じゃ食べられないでしょ!?」
「え、いや、手は動かせるんでだいじょう………」
「いいの!私が食べさせてあげるから!」
と、半ば強引に食べさせた。
「は、はい、あ〜ん……」
スープをスプーンですくい、奏の口に持っていく。
「あ、あ〜ん……」
躊躇いながらもしっかりと食べてくれる。
ちなみにこれをつくったのは私だ。
まぁ、正しくは衣玖と私で作ったものだが………
「…………美味しい……です」
「そう?良かった」
私はそれだけで少し上機嫌になった。
私の作った料理を食べさせるのは初めてだから。
そうして30分後。
「さて、奏。
さっき来た怨念達は倉見家よね?」
「はい、間違いないと思います」
「貴方を斬ったやつは………」
「多分、あそこの長でしょう………
後日、来いって言われましたし……」
「……………行くの?」
私は正直彼を行かせたくない。
「私も行ってはダメなの?」
すると、奏は真面目なトーンで
「だめです。天子様は行くべきではない」
「………どうして?」
「危ないからです」
私はその時、自分の力を否定されたと思い、怒りが込めあげてきた。
「何でよ!!私だって戦える!奏の………大切な執事のためならなんだって怖くない!なのに、どうして?!」
「俺だって天子様と一緒に戦いたい……でも、愛原と倉見の戦いに他人が首を突っ込んでいい話ではないんです…………
申し訳ありません天子様。こればっかりは………」
冷静に考えればそうだ。
私みたいな部外者がこんな因縁の戦いに水を差してはいけない。
「………そう……ね………ごめんなさい……私が間違っていたわ………」
「…………申し訳ありません……」
それから2日後。
「天子様。お話があります」
と、奏が咲名千里を持って話しかけてきた。
「俺は………千里の記憶を取り戻したい……それに、この愛原と倉見の因縁にケリをつけたいんです……
なので………倉見の屋敷へ行きます…」
「………でも………あなたまだ傷が完治していないのよ?!」
私の問いかけに奏は首を横に振る。
「もう、時間がないんです。あの後倉見の長に言われました。
「人柱の記憶の欠片は後1ヶ月で完全に消滅する。それまでに俺を倒せ……」ですから、時間は有限なんですよ………」
「そんな………」
嘘…………
「でも、あなたが死んでしまうかもしれないのよ?!」
「それでも構いません」
「2度とここにも帰ってこれないわよ?!」
「承知の上です」
私は改めて奏の覚悟に驚いた。
この愛原と倉見の戦いに終止符を打つため。
千里の記憶を戻し、前のような楽しい日常を取り戻すため…
奏の目からはそんな感情が浮かんでいた。
「では、天子様……衣玖さん……お世話になりました………」
奏は私に一礼して背中を私に見せる。
私は耐えられなくなって……その背中に近寄り………
後ろから………奏の背中に腕をまわし、体を密着させ……
抱きしめた……
「………天子………………様?」
「行かないで…………」
私の頬にはいつの間にか大粒の涙が流れていた。
奏は私の手を握り…
「……ごめんなさい……」
「いや!あなたと別れたくない………」
「……………」
私は初めて素直な気持ちが言えた。
背中越しでも伝わるくらい……奏の温かさが感じられた。
「やっと……やっと心を打ち明けられた友達なのに………
せっかく楽しい日常を過ごせると思ったのに………」
奏は落ち着き払った声で………でも少し震えながら……
「天子様………俺はこの戦いにピリオドを打ちたい。
多分、もうここには帰ってこれない……」
「……奏……」
「だから…………今まで本当にありがとうございました………
ここでの思い出は絶対に忘れない………」
そう言って私を優しく放し、翼を生やした。
「いつかまた、会いましょう………」
「いや、奏!行かないで!」
私は奏に向かって手を伸ばす。
もちろん、それが届くわけでもなく…………
奏の顔は見えなかったが、声からして苦しそうだった。
そして、翼を大きく広げ、空へと飛び立った。
「奏さん…………」
衣玖も苦しい顔をしている。
私なんかもっと悲しい顔をしているのだろう………
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私はその場で号泣した。
それから30分後。
部屋に戻ると私の部屋の机に1枚の手紙が置いてあった。
…………奏からだ。
封筒を開け、1枚の紙に書いてあることを読む。
天子様へ
申し訳ありません。俺の一族のせいで関係の無い天子様や衣玖さんを巻き込んでしまって………
でも、俺は天界にいた時が1番楽しかったです。
千里のくだらない話で盛り上がったり………
衣玖さんのツッコミで更に笑いをとったり………
そして、何より…あなたと会話することが一番の楽しみとなっていて………元の世界では感じることが出来なかった楽しさをこんな所で実感できるとは思いもしませんでした。
どれもこれも……天子様のおかげです。
千里をよろしくお願いします。
俺は天子様が生きていてくれるだけで……自分の存在意義を見いだす事が出来る気がします。
今まで本当にありがとうございました。
P.S.
俺はずっと
愛原 奏
_____________
________
______
私は手紙をクシャッと握り。
また号泣する。
「どうして………今頃そんなこと言うのよっ…………」
もう………2度と会えないのに………
私は奏の顔が頭に浮かび、奏を戦いに誘ったこの世界を憎んだ。
私も…………
「もっと奏と一緒にいたかった!
一緒に笑いあって、喧嘩もしたかった!
なのに………………どうして………………」
私の願いの声は部屋の中で虚しく反響するだけだった。
書いてる側が泣けるわこんなん。