果たして奏君は勝てるのでしょうか?
俺は見渡す限り、同じ景色が続く空を眺めながら前へ進んでいた。
今更、天子様と別れたことに後悔する。
俺はずっと天子様に想いを寄せていた。
好きな人と別れるのは精神的にきつい。
俺は唇を噛み締めながら進む。
すると、目の前に見覚えのある人影が見えた。
「せ、先輩?!」
そこに立っていたのは紛れもない、翔先輩だ。
「よう、奏」
「ど、どうしてここに?」
「新たな情報が入った」
「新たな………情報………」
「お前が今から倒しに行く倉見の長。「倉見朧」は…………」
どうやら、あいつの事は倉見朧と言うらしい……
すると、先輩の言葉が俺に絶望を押し付ける。
「………無敵だ」
「え………」
「そもそも、怨念は剣で斬る事は不可能だ
前に襲撃してきた倉見の怨念は元々の階級が下の方だったから剣が効いたんだ。倉見の長となると………」
「それでも構いません…………」
先輩の言葉に被せるように言う。
俺は天子様達のために戦う。
千里の記憶を戻し、この戦いに終止符を打つ。
ただ、その可能性のために………
「奏は………それでも行くのか………?」
「ええ…もう決めたことなんで」
すると、先輩はふっと顔を緩め笑顔で俺にいう。
「そっか………俺は止めない……絶対に帰ってこいよ!」
「……………………はい!」
そうして俺と先輩は別れた。
道中。
「なんもいないな…………」
不思議なことに、誰もいなかった。
ただ、倉見らしき霊気を感じることは出来る。
進む度にその霊気が強くなっていることがわかった。
敵がいないのもそれが原因だろう。
俺は安全なところを見つけて、野宿をした。
朝起きても、誰もいない………
少し移動すると、何も無いぽつんとした広場に瀟洒という文字が似合いそうな倉見家の使いが立っていた。
「愛原 奏さんですね、はじめまして、私倉見の使いをやっている者です。早速ですが、こちらへ。朧様がお待ちです」
そうしてしばらく歩くと、天子様の屋敷の倍はあるお城につく。
「でっけぇ………」
俺は思わず感嘆の声を上げてしまう。
敵ながら驚いた………
「さ、こちらへ」
俺は使いに招かれて城内に入る。
内装ももちろん豪華でカーペットも敷かれている。
どんどんと俺のやる気を削いでくる。
これも作戦の一つなのか………?
すると目の前に大きな扉が姿を見せた。
使いがそのドアをギギギっと開けると
「お待たせいたしました朧様。愛原奏を連れてまいりました」
そこにいたのは以前、俺を斬った張本人。
「よく来たな………愛原よ………」
俺は咲名千里を鞘から抜いて朧に向ける。
朧の周りにいた部下達が一斉に剣を抜き俺に向ける。
「まぁまぁ落ち着け、まずは話をしようじゃないか」
「……………」
少し怪しい感じもしたがここは大人しく従って無駄な騒動を避けることにした。
「最初に愛原と倉見の歴史だな。
愛原と倉見は1000年前、つまり幻想郷が創造されて間もない頃から対立していた。最初は領土の取り合いだったとか………でも、時が経つにつれ愛原と倉見が戦うのが当たり前、ということになってしまった
それから愛原は刀で倉見に対抗した。 我ら倉見家はその愛原の妖刀、咲名千里を恐れ、臣下である片波家の娘を人柱とし、咲名千里の妖力の放出を防いだ
だが、愛原の圧倒的な戦力により、倉見は敗れた。
倉見は最後の力で愛原を刀ごと外の世界に追放した。
その時、一時的に刀から離れていた片波咲はそのままそこに置き去りにされ、女神の所で生活をしていた。
まぁ、大まかにはこんな感じであろう」
「一つ…………聞いていいか」
俺はこの戦いの一番の謎に迫りたかった。
「倉見が未だに俺を狙う理由はなんだ。
それと、どうして千里の記憶を一部消したんだ?」
「ふむ、実に簡単なことだ。
倉見はいつまで経っても愛原を憎んでいるから………
人柱の方は刀の妖力の削減………と言ったところか」
朧の言葉には妙に説得力があった。
「………なるほどな」
「さて、お話はこの位で良いかな………」
朧は玉座の隣にある槍を持って、それをこちらに向ける。
「愛原奏!私は愛原家を滅ぼすためにここにいる………
それはつまり……………どういう事か…………分かるな?」
ニヤッと笑みを見せ、槍をもう一度強く俺に向けた。
「あぁ!俺もそのつもりだ………朧………」
俺と朧は一斉に地面を蹴り、お互いが武器を構えた。
「うおおおおおおおおおお!!!」
こうして愛原と倉見の因縁の戦いが始まった。
………………私は何をしているのだろう……
奏がここを出てもう1日が経つ。
私は自分の部屋で抜け殻のようになっていた。
「総領娘様。朝ごはんのお時間ですが………」
「いい。今日はいらない…」
と、衣玖でさえ追い払ってしまう。
私は枕に顔をうずめ、涙を流した。
「奏………」
私は愛しい人の名をずっと呼び続けていた。
しばらくすると自室のドアが開き、誰かが入ってきた。
………千里だ。
「どうして何もしないの?」
と、千里が聞いてくる。
「別に…なんでもいいでしょ……」
「奏お兄ちゃんが………私のために戦ってくれてる………
天子お姉ちゃんは……………どうして………」
千里はその場で大粒の涙を流す。
私は慌てて宥めようとするが………
「千里………」
「天子お姉ちゃんも…………助けてよ!!
奏お兄ちゃんの仲間でしょう?!」
「で、でも………奏には来るなって言われたし………
奏なら1人でも大丈夫だから………」
と、戸惑い気味に話す。
「『未来の事なんか誰にもわからない』でしょ?!」
私はその言葉でハッとする。
「だから………天子お姉ちゃん………奏お兄ちゃんを助けてよ…………」
そうだ…………
『未来の事なんか誰にもわからない』んだ………
こんな幼い子が苦しい思いをしたのに……私はただ、愛しい人の帰りを待つだけなんて………
一番の卑怯者は私だ………
私は千里を抱き寄せ、こう紡いだ。
「………………ごめんね……千里……私が間違っていたわ………
……奏は絶対に死なせない………………だって………」
私は千里を放し千里の顔を見据え、ニコッと笑って
「私の大切な………『執事』だから!」
すると千里もつられて顔がパァっと明るくなり
「…………うん!!絶対に2人で帰ってきてね!」
私は非想の剣を握り、玄関を出た。
「総領娘様…………大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、衣玖。あなたは安心して晩御飯を二人分。作っててちょうだい!」
「…………どうか…お気を付けて………」
「頑張ってね!天子お姉ちゃん!」
私はその場で浮き、奏が行ったであろう方向に全速力で向かう。
奏。今から貴方を助けに行く。
だから………それまで死なないで………
絶対に………千里の記憶を戻して、またあの日の日常を取り戻す。
その思いを胸に抱きながら私は非想の剣を握った。
非想の剣は同時に強く光を放った。