2月11日
永遠亭を退院し、私は奏がいない時を見計らって衣玖にバレンタインのチョコ作りを手伝ってもらおうとした。
「衣玖ー?いるかしらー?」
「はい、お呼びですか総領娘様?」
「えと…………その………」
いざ口にすると恥ずかしい。
しかし、衣玖は空気を読んでくれたようで……
「…………材料を買ってきますので少々お待ちください」
「あ、うん……」
そう言って衣玖は玄関へと向かった。
やっぱり………やめとこうかな……
でも、もう衣玖買いに行っちゃったし………
………もういい!こうなったら流れで何とかする!
吹っ切れた私は自分の頬をビンタし、気合を入れ直す。
数分後、衣玖が地上からチョコの原材料を買ってきた。
「さて、総領娘様。奏さんの心を掴むより先に胃袋を掴んじゃいましょうか」
「お願い、衣玖」
こうして私と衣玖のチョコ作りの特訓が始まった。
「ここを…………こうするの?」
「そうです、そうしてこれをこうして…………」
途中、千里にも手伝ってもらい、
2月14日。
この日、オールした私と衣玖の2人で最高のチョコレートを作ることが出来た。
これをボール型にし、デコレーションした可愛い袋に5個ほど入れる。
「さて、総領娘様、後はこれをどうやって奏さんに渡すのかですよ……」
「そうね……考えなきゃ………」
チョコ作りを終えた私は告白の言葉を考え始めた。
今日はバレンタイン。
でもこの世界にはバレンタインの習慣なんてないんだろうな………
俺は天子様や千里、衣玖さんから貰えないかなーと淡い期待をするが、残念ながら幻想郷にバレンタインは無いらしい。
「はぁ…………楽しみが減った………」
バレンタインがないという事実に俺は肩を落とす。
天子様から………貰えないかな……
やっぱり俺は天子様が好きだ。
傲慢な態度も、たまに見せる眩しい笑顔も…サラサラの青髪も…天子様の全てが大好きだ。
でも俺には告白する勇気がなかった。
なぜなら……俺と天子様は主従関係だから…
執事が総領娘の事を好きになってはいけない。
そんな抵抗がある。
「いいのかな………」
俺はこの想いを伝えたい、とは思っている。
でも「あんた私の執事なんだから嫌だ」なんて言われたら俺もう立ち直れる気がしない。
「まぁ、頑張ってみるか………」
別に今日じゃなくていい、幻想郷にはバレンタインが無いらしいから無理して早く告白しなくていい。
俺は、そう心に言いつけた。
2月14日。午後1時。
外には雪がゆっくりと地面に向かって落ちていっている。
すごく綺麗だ………
私は窓に手を当てながら当分の間外に降っている雪を眺めていた。
夜は………もっと綺麗なのかな………
そんなことを思いながら、冷える手に息を吐いた。
「総領娘様、昼食のお時間です」
「え、あぁ、うん」
食卓に向かうと奏と千里、衣玖の全員がもう集まっていた。
食事中。
「ねぇ、奏」
「はい?」
「後で稽古しましょ?」
「け、稽古ですか?」
「ええそうよ、だって私あなたと真剣勝負したことないでしょ?」
奏の事が好きだからとかそんなの関係無く、ただ単に奏の剣の腕が見たかった。
「で、ですが……仕事が……」
「これは命令よ?最優先にしてちょうだい」
我ながらかなりの我儘だなと思ってしまう。
奏もそれにすぐ対応してくれる。
笑顔を浮かべ
「ええ、分かりました」
「じゃあ3時に外に来てちょうだい!」
そう言って私は部屋に戻る。
朧との戦いを見て確実に奏は私よりも強い。
それは一目瞭然だ。でも負けてもいい、私はほんとに奏の剣さばきを見たかった。
そして午後3時。
「奏、わかってると思うけど、本気で来なさいよ?手抜いたら晩御飯なしだからね!」
「すごいお母さんっぽいですね……」
呆れた顔で奏が言う。
「う、うるさい!寸止めだからね!」
「分かってますよ、では行きます」
奏は咲名千里を握り、低い体勢を取った。
私も非想の剣を持ち、奏に向ける。
「せぁぁぁぁ!」
掛け声とともに奏が私に突っ込む。
私は非想の剣を両手で、奏の縦から振り下ろされた咲名千里を防ぐ。
力の差もあるが長年剣の修行をした私は力を入れずに剣を振るうことも出来る。
しかし、奏の運動神経には敵わず、スピード負けしてしまう。
ぎりぎりで躱すもその次の連撃で追いつかなくなってしまう。
その後、奏が私の喉元を剣を突きつける。
咲名千里が太陽に反射して眩しい。
「……………あなたほんとに何者なのよ……」
「龍人ですよ」
「そういうのを聞いているんじゃない!」
すると奏は咲名千里を鞘に収め
「さ、天子様。ティータイムですね」
私は心を落ち着けるために一つ咳払いをし
「あら、もうそんな時間かしら、じゃ早速紅茶を作ってちょうだい」
「かしこまりました」
そう言って奏は中へ入り、台所へ向かう。
私は自室に非想の剣を置き、バルコニーに向かい奏の紅茶が来るのを待っていた。
「(告白………いつしようかな……)」
今チョコレートは衣玖が用意してくれた自室にある小さな冷蔵庫の中にある。
なので奏にバレる可能性はゼロだ。
「(とゆーかどういう顔してチョコを渡せばいいの?!)」
そう考えているうちに…
「天子様ー?」
「ひゃい?!」
と、面白い声を出してしまう。
「だ、大丈夫ですか?天子様、ボーッとしてますけど……」
私は赤面しながら
「な、なんでもないわよ!紅茶もらえるかしら?」
そう言うと皿に乗せられている小さなティーカップの中に紅茶が入っていた。
いつものようにゆっくりと啜る。
うん、いつもの美味しい紅茶だ。
毎日のように飲むこの紅茶だが、今日だけは違う感じがした。
奏への想いが変わったからだろうか?
別に紅茶にはいつもの色と味だった。
だが、自分の味覚の方がいつもと違う感じがする。
「美味しいわね………」
「ありがとうございます…」
奏は私に一礼し
「では茶菓子を作ってきます」
そう言ってまた台所へ消えた。
すると、その数秒後
クッキーのいい匂いが漂っていた。
「お待たせ致しました。クッキーでございます」
こうして午後7時。
晩御飯も食べ終わり、私は奏への告白の準備をしていた所。
「天子ちゃーん!奏ー!外に来てー!」
千里の声、なんだろうか?
私と奏は同時に外に出た。
真っ暗だ辛うじて千里と衣玖の姿が見えるくらい。
「何よ?」
私と奏が頭に?マークを浮かべていると千里がニヤリと笑い。何かのスイッチを押した。
刹那、ビカッと光、私は目を一瞬瞑った。
目を開けると………
「……すごい……」
そこには天界の木につけられたイルミネーションが輝いていた。それに程よい雪が降っていて更に雰囲気を醸し出している。
「これ、千里と衣玖が作ったの?」
「すごい綺麗ですね………」
千里はドヤ顔をし、衣玖は完全に疲れきった顔をしている。
私の耳元まで近づき
「さてさて、天子ちゃん?雰囲気作りはしたからね?」
「総領娘様、ファイト!」
「奏、天子ちゃんから話があるそうよ!」
そう言ってヒラヒラと手を振り2人は屋敷へ帰る。
これは後であの2人に感謝しなきゃな………
しばらくイルミネーションを眺めたあと、奏が口を開いた。
「あ、あの、天子様、お話って……」
「え、あぁ、うん……」
やばい!緊張が…………!
私は心臓を押さえ深呼吸をする。
赤面する顔を落ち着かせ……
大丈夫……私は奏が好きなんだ……その思いを伝えるんだ……!
「え、えっとね……………私…………」
「?」
「私………奏の事が!…………………好き…………です……」
最後の方小声になってしまったが多分聞こえているだろう…
だって奏の顔が驚きに変わっていたから……
「え……天子様……今なんて………」
「だ、だから!私はあなたの事が好き!何回も言わせないでよ………」
奏の顔が一瞬笑顔をなったが………
「天子様………ありがとうございます。すごく嬉しいです………でも、ダメなんです………」
「え…………?」
「普通、執事とその総領娘が恋人になってはいけない………
それに………僕の一族は……もう誰もここにはいないんですよ…………そうしたら……僕は天子様に迷惑しかかけられない…………それに……怖いんです……」
すると奏の目から少量の涙が出る。
私はそれを黙って聞いていた。
「俺は………人を殺せない………いいことかもしれませんが………それでは天子様をお守りすることなんてできない…………………天子様を守れなかったら………もう……俺……」
奏が言葉を言い終える前に私は正面から奏を抱きしめた。
奏の温もりを直に感じる。
「今は…………そんなことどうだっていいじゃない…………私は奏が好き…………それだけでも………充分幸せなのよ………」
更に腕に力を入れる。
「天子………様………」
「今くらい……主従の関係なんて忘れてもいいのよ……………」
奏から大量の涙が溢れる。
また、奏も私を強く抱き締めて
「俺も………!天子様が…………好きです!大好きです!」
「………うん……」
「だから………恋人になってください………!」
「………私は奏を一生守る。絶対に離さないから………」
「…………俺も………あなたを永遠に守り続ける………この命が果てようとも………俺は天子様に寄り添って生きていきます!」
静かな雪が降る中で私と奏は強く抱き締めあった。
「はい、奏」
私は手に持っていたチョコレートを奏に渡す。
「あれ、幻想郷にはバレンタインはないんじゃ………」
「………誰よ……そんなデマ流したやつは……」
「あはは………ありがとうございます、天子様。ホワイトデーは期待していてください!」
「倍にして返してよね!」
と、いつもみたいな何気ない会話も………
私は……君と恋人になってから……世界観が変わった………
これはやっぱり…………君のおかげだよ……奏。
ありがとう…………これからもよろしくね…………私の彼氏さん…………
そう、心の中で奏にメッセージを送った。
緋色に染まったあなたと私 ~有頂天な恋~
end……
はい!お疲れ様でした!
天子編finalstoryが終了いたしました!
鈴仙編より全然力を入れることができませんでしたが………
読んでくれてありがとうございました!
afterstory書きます!