奏さんが目の前で倒れる。
今も尚流れている鮮血が、私の革靴の裏につく。
「…か、奏くん!奏くん!」
「い、妹様………!!」
咲さんが必死に名を呼ぶ。
奏さんが倒された今、戦えるのは私しかいない。
「あっはははははははは!!!」
「っ?!」
その狂気的な笑いに、私は震えるしかなかった。
今まで狂気に溺れる時はお嬢様がなんとかしてくれた。
それを私は隣で見ることしか出来なかったのだ。
足が震える………やばいっ!戦わないと……………………!!
しかし、妹様はもちろん待ってくれるわけでもなく。
レーヴァテインが私の頭上を通り過ぎる。
「ひっ?!」
思わず情けない声が出てしまった。
しかし、それにより固まっていた足が動くようになった。
「やるしかない……!」
ナイフをホルダーから取り出す。さっきよりも手が震え、標準が合わない。辛うじてスペルカードで補う。
「ミスディレクション!!」
広範囲にナイフを巡らせる。それにより、レーヴァテインの威力が弱まる。
行けるっ!
思い切り地面を蹴って妹様の懐へと潜り込む。そして、千剣「レガミクトセレナ」を握る。レガミクトセレナはいつもよりも軽く感じ、自分の思ったところから剣が出ていた。
「幻視「ナイトソード」!」
レガミクトセレナの分身を作り上げ、ミスディレクションと重ねる。
長い剣と細く小さいナイフが同時に妹様を襲った。
「禁忌「クランベリートラップ」!」
弾かれるのは目に見えていた。しかし、これほどで折れていたら従者失格だ。
「幻象「ルナクロック」!!」
時を止め、ナイフを大量に投げるが解除した途端に全てが塵に変わる。これもダメなのか………!
もう一度レガミクトセレナを握り、一度時を止める。
その間だけ、妹様は動けないので一気に妹様へと近寄る。
そして、私のラストスペルを叩き込む。これが最後だ………
「月光「ムーンソード・レイン」!!」
時を解除する。すると私の魔法陣からレガミクトセレナがさっきの3倍は出てきた、妖力消費の激しいこの技は1日に1回がいいところだ。しかし、それに応じた威力とスピードがある。この技はあの奏さんさえもよけられなかった大技だ。
流石の妹様でも厳しいと見受けられる。
「………咲夜じゃつまらないよ?」
「え?」
キイイイイイイン……
軽やかな金属音を立てレガミクトセレナは全てレーヴァテインによって、燃え尽きた。レーヴァテインの火力はさっきよりも増しており、妹様の立っているところの床が焦げている。
「そんな………………嘘でしょ……」
私の中の妖力は空っぽだった。これ以上時を止めることもスペルカードを唱えることも不可能だ。私はその場で膝をつく。
私の力じゃ……無力なのは分かってる。でもっ!……どうして1人も助けられないのよ……………私は主に忠誠を誓ったんじゃないの?!……………………でも、もう無理。これ以上戦えなんて自分の命を削って言ってるようなものだわ…………所詮私は人間。吸血鬼になんか勝てるわけない。
しばらく俯いていると、私の視界がぼやけ始めた。そして、地面に雫が落ちる。
こんなの………あんまりだよっ………私は必死にお嬢様と妹様を守ってきたのに……どうして…報われないのよ……どうして誰も見てくれないのよ………!私はこんなにも頑張っているのに……
「もういいや、お姉さまのところに行くから。じゃあね、咲夜」
ブオッとレーヴァテインが振り上げられる音がする。
ここで………………終わりか……
キイイイン!!
レーヴァテインが私の目の前で停止する。停止の原因を私は即座に探した。するとそこには少し青色を帯びた刀身、滑らかな曲線を描いた刀。それは見る人を魅了させるような。
そしてその持ち主、腹の傷はいつの間にか癒えていた。愛おしい声、私が待ち望んでいた声が聞こえる。
「ごめん、咲夜さん。回復に遅れた……」
「奏さん……」
「ごめんね、咲夜ちゃん!なかなか奏くんの傷が複雑でさ!」
奏さんとその相棒、咲さんのふたりが笑顔で私を見る。
「さて、フラン。正気に戻れ」
「あれ?奏死んだんじゃないのぉ?」
「残念ね、私が治した」
「まぁた余計な妖力がいるよ…………さっさと倒しちゃお」
妹様のレーヴァテインがもう一度生成される。奏さんは強く柄を握り、スペルの詠唱を始めた。
「水符「水神の舞」!」
渦潮を纏った刀がレーヴァテインと接触する。するとジュウウウウウという音を立て、火種が妹様の目に入る。
「あぁぁ!」
目を手で抑え、うずくまる。
「火には水を。当たり前だな」
「くっそぉ!」
「QED「そして誰もいなくなるか?」」
フラン自体が青色弾幕に変わり、静かに奏さんへと向かう。
その途中から出現した弾幕が背後から奏さんを狙う。全方位囲まれた。
「咲。どうする?」
「とりあえず仕方ない。上に避けなさい」
「オーケー!」
翼を生やし、奏さんは真っ直ぐ上に飛ぶ、それにより、弾幕から逃れることが出来た。
「奏くん!仕方ない、もう使って!」
「仕方ないか…」
奏さんは大きく刀を振り上げ、大声で詠唱を始めた。
「真符「時空斬鉄」!」
大きな時空の空間を作り、弾幕をすべて吸い込ませるブラックホールになった。
「?!」
妹様もこれには驚きの顔を浮かべ、そのまま奏さんの方に引き寄せられていった。
そして、一メートル前に来た瞬間刀をしまって拳を強く握り、妹様の腹に一発入れた。
それにより、少し吐血した妹様はかくんと体重を奏さんに預ける。
「よかった………完全狂気に染まる前に仕留められた……」
「か、完全狂気ですか………」
「そう。パチュリーの所で調べたんだけど、狂気にも段階があって、完全狂気になるともう誰であろうと確実に殺すまで死なないんだ。今のフランはその完全狂気の手前ってところかな」
私は寒気がする。まさか……妹様がそんな酷いことになってたなんて…………私は急に眠気が襲い、その場で瞼が落ちそうになる。
「おっと、咲夜さん大丈夫?」
「ごめんなさい……どうやら疲れが…………」
この眠気は安堵からなのか、もしくは現実逃避なのかは自分でも分からなかった。
「じゃあ部屋まで運ぶから寝てていいよ」
奏さんのその優しい声音に、私は無意識に瞼が落ちていた。
私はこの日、自分の不甲斐なさに涙した。