すいません!
キャラ崩壊も!
次に私が目を覚ましたのは部屋の天井だった。奏さんに運ばれ、私は自室のベッドで寝ていたみたいだ。目を覚ますなり、拳を上に突き上げ、強く握る。
「守れなかった……」
その悔しさだけが心残りである。自分の命と妹様の命が助かり、全てが丸く収まったから結果オーライだ。しかし、私は本当に何もしていない。従者である私が、忠誠を誓い命をかけてでもお嬢様と妹様を守ると決めたのに、手も足も出なかった。その事だけが私の心を蝕み続けていた。カチャ……と静かにドアが開けられる。
「失礼するよ。咲夜さん」
「か、奏さん。すいません、寝転がったままで、すぐ起き上がります」
私は即座に立とうとしたが、太ももの辺りに激痛が走る。その患部を押さえ、私は蹲る。
「あぐっ……」
「咲夜さん。まだ傷が治っていないんだ」
怪我なんて……負っていないはずだ……妹様から攻撃は受けていないはず……いつの間に………
私は白い包帯の巻かれた太ももを摩る。私はそんな怪我よりも、後悔が私の全てを覆っていた。
「?……どうしたの?咲夜さん?」
奏さんが心配そうに顔を覗く、私は体を強ばらせて、とりあえず「大丈夫です」と言っておく。もちろん大丈夫なわけが無い。自分の無力さを思い知らされ、誰1人守れなかったのだから………それを見据えたのか、奏さんは私の頭の上に優しく手を乗せた。
「……そこまで気に病む事じゃないさ」
「………」
「確かに、今回のはフランの暴走が原因だ。現に俺も一度死んだ。そんでもしなきゃ、あの狂気化フランには勝てなかったんだ。レミリアだって大怪我を負ったんだろ?」
奏さんのその優しい投げかけに、私は体を震わせる。確かに今回の妹様は今までとは比べ物にならない桁外れの強さで、トップクラスのお嬢様と奏さんでさえ敵わなかったのだ。最終的に奏さんと咲さんの二人がかりでようやく止めることが出来たのだ。ちっぽけな人間の私が、狂気化の妹様に敵うはずがない。でも、私はお嬢様に拾われた日から、お嬢様の足を引っ張りたくない一心で、必死に努力してきた。誰にも負けないくらい、家事だって弾幕ごっこだって………今じゃ美鈴ともいい勝負が出来ると思っている。でも、今日の一撃で私は全ての努力が水の泡になった気がした。
「お嬢様は………無事なんですか?」
「ああ………今はまだベッドで寝てる。永琳が診てくれたんだ」
「そう………ですか……」
私はとりあえず安堵の息をつき、肩を落とし、奏さんにある質問をする。これは奏さんだからこそ問うことが出来る質問。お嬢様だったら怒られそうだから……私は言うのを躊躇ったが、意を決して奏さんの目をまっすぐ見据える。そして、こう告げた。
「私は、紅魔館に必要な存在ですか?」
「………」
「今日もそうだった。私は妹様に勝てなくても、お嬢様や奏さんを守ることは出来た。従者の私が、あなた方を助けることは出来たのに………冷静になれないまま、妹様に立ち向かってしまった」
「………うん」
奏さんは黙って私の話を聞いてくれた。私はその優しさに負け、全てを吐き出そうとした。
「『努力してるから妹様にも勝てる』『毎日の努力が裏切るはずが無い』ずっとそう思っていました。私の努力を誰かが見てくれればそれでいい………誰かが褒めてくれればそれに越したことは無かったんです…………お嬢様も私が努力している事をとても褒めてくれました……その時から……何故か私は『紅魔館の中じゃ私が1番努力してる』。そうやって自惚れるようになりました」
「……なるほどね」
「でも、今日の妹様との戦いで、全ての努力が水の泡になったんです……努力してきた結果が………今日のこの有り様なんです……私の努力なんか、ちっぽけなもの。所詮人間だから吸血鬼には勝てない……そう痛感しました…………結局、奏さんと咲さんに助けてもらい、私は何も出来ずに寝てしまった……………こんなどうしようもない私につくづく嫌気がさしてきます」
私は布団をギュッと握り、視界が涙によってぼやけているのが分かる。声を震えており、思うような声が出ない。
「だから!誰一人守れないこの私が存在する意味が無くなるんです!」
「……咲夜さん………」
「従者らしくいられないなんて………私の存在価値を否定しているようなものです…………」
「落ち着いて……咲夜さん…」
奏さんの忠告にすら耳を傾けず、逆にその言葉にイラつきを感じてしまっていた。
「もう嫌だよ!!役に立ってないなんて……紅魔館に来た意味が無いのよ!!」
そう、私は紅魔館にいる意味が無い。あの時、お嬢様に褒めてもらいたい一心でただ戦った。でも、それは本当に無意味なもので、結局自分の都合のいいように口実を作って、奏さんの忠告をも無視したのだろう………
「もう生きたくないよ!奏ぇ!」
瞬間、私はフワッとした感触に包まれる。その仄かな暖かさが私の全身を包み込む。
「かな……で……?」
私はいつの間にか、敬語やさん付けをしていなかった。
心の支配が、余裕を潰していったのだ。奏さんのその優しいハグと優しい言葉に私は更に涙を流した。
「君は活躍した。レミィも、俺も、そう思ってる」
「……そんなことない!さっきも言ったでしょ!!私は何もしてないのよ!ただ妹様に全力でぶつかっても!歯が立たなかった。それに、結局助けてもらったのよ!こんなの…………!従者失格なのよ!」
「咲夜!!」
どんどんとネガティブ思考になる私を、奏さんの叫びによって全てを制される。
「咲夜がいなかったら!今頃レミィも俺も死んでたんだ!俺が倒れてる間、お前が食い止めてくれなかったら今頃みんな死んでた!その小さな時間が、君の『努力の成果』だろ?!」
「奏…………」
私は更に大粒の涙を流す………お嬢様以外に認めてくれた人がいたんだ…それが何よりも嬉しくて、努力とか成果とかそんなのじゃなくて、私の存在自体を肯定し、褒めてくれる人が……いたなんて
「う、ああああああああああ!!」
私が泣き続けている間、奏さんはずっと抱きしめて肩を摩ってくれていた。
数分後、私は泣き止んだ。
「ありがとうございました。奏さん」
「いやいや、お安い御用だよ。咲夜さんが元気になってよかった。じゃあ、次はあなたの主様にお話を聞きましょうか?」
「え?」
私は奏さんのその言葉に小首をかしげる。疑問符を浮かべていると、ドアがゆっくりと開き、主であるお嬢様が姿を現した。
「お、お嬢様?!いつからそこに!?」
「最初からよ。咲夜が起きる前から……」
「も、申し訳ありません!身勝手な発言ばかり………」
「………あなたがそこまで無茶してたなんてね………」
お嬢様は深いため息をつき、優しく微笑んだ。
「ごめんね。咲夜……主である私が………従者の頑張りに気づけないなんて……主失格ね……」
「い、いえ…………」
「いいのよ、咲夜。今回は咲夜に助けられたの。でも、これだけは覚えといて…………私はあなたをずっと見てる。だから、どれだけ咲夜が努力したのかも全部分かってるから。フランを命懸けで止めてくれて感謝するわ。ありがとう。」
お嬢様から初めて心のこもった『ありがとう』。私はその言葉にまた涙を流す。それを見据えたお嬢様は私の頭を胸に乗せる。
「辛かったわよね………ごめんね。今は…主従関係なんて忘れなさい………」
「………はい……」
私はまた、愛しい人の胸で泣いた。すると背後で奏さんがこう放った。
「やっぱり、部外者の俺よりも、1番親しい人から言った方が、心に響くよな………」
「あら?部外者ってのはちょっと語弊があるわね。あなたはもう家族よ?」
「あっはは、そうだった………ありがとなレミィ……それと……ごめんね咲夜さん。俺の頭じゃ、これしか咲夜さんを元気にさせる方法が見つからなかったんだ……」
「いえ、充分ですよ。ありがとうございます…」
私は奏さんに深々と頭を下げ、笑顔で大丈夫なことを知らせる。奏さんの顔は一瞬だけ赤くなり、すぐに微笑み返した。
「そっか………良かった」
「じゃあ、咲夜も良くなったことだし、フランのところに行きましょうか」
「御意」
そう言って、私たち3人はゆっくりと部屋を出て、歩く。この日、私は奏さんへの気持ちが鮮明に焼き付けられ、感情の名が分かった。
私は、この人が好き。
これは自然なこと、私が望んで思ったものだ。
その奏さんへの感情は、最初で最後の初めての『恋』だった。