私とパチュリー様と文は、全速力で紅魔館に向かった。未だ黒煙が上がり続ける紅魔館に私は冷や汗をダラダラと流す。お嬢様や奏さん……妹様が無事ならいいのだけど………
「咲夜!私はフランを探してくるわ!レミィと奏をお願い!」
「わ、分かりました!文!美鈴と一緒にいて!」
「あ、あやや!私も行きますよ!」
「いいわ!美鈴と見張りしていて!」
それだけ言い残し、私は勢いよく紅魔館内に入る。見た感じ、火が出ているところはあまり少ないようだ。これはパチュリー様に任せよう。とりあえず、お嬢様達はきっとバルコニーにいるだろう。
紅魔館内は狭いのでむやみに飛ぶことが出来ない。そのため、全力で走るしかなかった。バルコニーに向かう途中、何度も爆発音が聞こえ、私の不安は募るばかりだった。そしてようやく、バルコニーに着くと、折れた咲名千里と時空真を握っている奏さんがお嬢様と咲さんを睨みつけていた。
「か、奏さん!」
「………!」
無言のまま、奏さんはこちらを見る。そして何も言わずにまたお嬢様の方へと向き直った。
「あら、咲夜。帰ってきたのね……」
「お嬢様。これは一体……」
「簡単な話。私達がフランを暴走させた張本人。そして愛原の敵、倉見だってことよ」
その言葉に、私は心の中で総崩れになった気がした。お嬢様側に付いている咲さんもきっと倉見側なのだろう………
「どうして………」
「今まで騙し続けてごめんなさいね。咲夜。今だから言えるけど、フランの狂気化の大元は、咲の持っている妖力の欠片なの」
「……どういう事ですか?」
「つまり、咲の能力の欠片がフランに埋め込まれたってわけ」
「……咲さんの能力って…」
「荒れ狂いを統べる程度の能力」
「荒れ………狂い…」
「咲夜ちゃん。正直邪魔者なのよ?奏くんも。フランちゃんの実験のためにここは退いてくれるとうれしいな?」
「断る」
奏さんの即答により、時空真の妖力が強まっていっていた。それに咲は嘲笑するように見下す。
「所詮、ただの愚かな龍人と人間。ちっぽけな存在が私達を止められると思ってるの?」
「あぁ、所詮俺達はちっぽけな一人の生き物だ。でも、止められると思ってるから俺は今ここにいる。咲夜さん。話はあとにしよう。心苦しいかもしれないけど、レミィを殺すつもりで戦ってくれ」
「………わ、分かりました」
完全に理解しきれていないまま、私はナイフを数本取り出す。体勢を低くして、出来るだけ相手の行動が読めるようにするが、咲さんが呆れた顔をしながらこう唱えた。
「もう邪魔。界符「瞬きの境界」」
「?!咲夜さん!大きくジャンプ!」
奏さんの慌てた声に反応し、私は大きく飛ぼうとするが、逆に地面に吸い込まれていった。黒い渦が私たちを吸い込んでいく。頑張ってもがくが足が埋められているため、身動き一つ取れない。
「くそ、手遅れか………!」
「じゃーね?2人とも?大好きだよ」
心にもないことを並べる咲さんに奏さんの言葉は怒りに満ちていた。
「覚えてろよ。2人とも……!いつか愛原の子孫が…お前達倉見を倒すってことをな……!」
「楽しみね……!」
そうして私達は黒の渦の中に吸い込まれる。最後の最後まで、お嬢様の顔は微笑んでいた。
「____さん。____やさん………咲夜さん!」
「っ!」
名を呼ばれ、私は目を覚ます。目の前には少しだけ泥で汚れている奏さんがいた。私は起き上がって辺りを見渡すが、ここは洞窟の中だった。
「ここは………」
「分からない。恐らく、咲のスペルカードでどこか別の場所に飛ばされたんだろう」
「幻想郷ですか?」
「多分な、あちこちに妖力が蔓延ってる。これは妖怪のいる印だ。幻想郷であることは確実だと考えていいかもね」
「お嬢様と咲さんは………」
「あぁ、『裏切られた』」
「そんな……………」
長年お嬢様の付き添いで命を尽くしてきた私にとって、お嬢様の裏切りはどんな不幸よりも心に重いものがのしかかる。
「とりあえず、今はフラン達が危険なんだ。ここがどこだか近隣の人に聞いてみるしかないみたいだね。行こう、咲夜さん」
「…………」
「咲夜さん?」
「え?あ、はい、そうですね」
「……?」
奏さんは不思議そうに私の顔を覗き込んでからこう言った。
「咲夜さん、心か痛むのも分かるけど、今はそれどころじゃない。気持ちを切り替えよう」
「……分かっています…」
そんなことは分かりきってるんだ。でも、レミリアお嬢様を敵に回すなんてこれっぽっちも考えたこともないし、裏切られるなんて以ての外だ。ずっと信じていたお嬢様が離れていく感じがしていた。でも、それは奏さんも一緒だ。咲さんが離れていって苦しいはずなんだ。私も頑張らないと。
私達は洞窟を出て、辺りを見渡すが山、山、山。自然しかないのだ。
「………これは…街を探すのも一苦労だね…」
「……はい、妖怪に出くわせばいいのですが……」
と、私がそう言った途端、ドスンと地響きが辺り一帯に響き渡った。私と奏さんは洞窟を出て、音がする方向へと走った。
「な、なんの音だよ……」
「とりあえず探しましょう。妖怪かも知れません」
走りながらその音源を探す。さっきからこの森は妖力がずっと蔓延っており、強力な妖怪がうじゃうじゃいるのは見て取れた。しかし私達がよく見る妹様や美鈴、文などとはまた違ったタイプの妖怪だ。
しばらく歩いているとその音がどんどん大きくなってきていた。
「……咲夜さん、ストップ!」
「…!」
私の前に奏さんの左手が出されて、私は急ブレーキをかけるように止まる。私は奏さんの視線と同じ方向を見る。するとそこには私たちの数十倍はあるであろう大きさの巨人がいた。妖力も桁外れだ。
「………ここは我らの聖域、それを知っての狼藉であろうか……」
「すまない、道に迷ったんだ。近くに人の街はないか?」
「………信用ならんな。とっとと去れ……」
「ちっ、咲夜さん。戦おう」
「……はい」
私はナイフを抜き、奏さんは時空真を抜いた。私は早速スペルカードを唱える。
「幻符「殺人ドール」!」
雨のようにナイフが巨人を襲う。しかしそれはまるでハエ叩きのように容易く弾かれる。ナイフでは攻撃が通らないと判断した私はレガミクトセレナを取り出し、時を止めて懐に入り込むが私の体は逆に止められていた。巨人の周りには罠がはられており、それもよく目立つ札の罠。いつもなら気づけた罠に簡単に引っかかってしまっていた。
「そ、そんな……」
「咲夜さん!避けて!」
「え?」
罠から抜け出そうともがいていると、巨人の腕が大きく振り上げられており、明らかに私を標的としていた。ぶおんという風切り音を立てながら、一気に巨大な腕が振り下ろされた。私はここで死を覚悟した。
あぁ、最後まで私…………ダメダメだな……
私はレガミクトセレナを下に落とし、諦めを相手に見せるが巨人はそれに動じすそのまま振り下ろした。私は目をつぶり、顔を背けた。
しかし一向に私に痛みと衝撃は来ることがなかった。恐る恐る目を開けると、驚きの表情を見せる巨人と私のちょうど真横に奏さんが倒れていた。
「……!!?」
奏さんの周りには鮮血が飛び散り、衝突したであろう木にも水たまりのようにこびり付いていた。
「がはっ……」
「奏さん?!」
私は走って奏さんに近寄る。ひどい怪我だ、明らかに肋と肋骨が折れている、出血もひどい………私は救急用の包帯を取り出そうとするが、奏さんが口を開いた。
「咲夜さん……時を止めてどこか遠くに……!」
「わ、分かりました」
私は最大限妖力を使い、時を止めた、恐らく10分は止まったままだろう。奏さんの腕を自分の肩に回し、ゆっくりと歩いていく、後ろを確認しながら逃げる。巨人は時と同時に止まったみたいだ。奏さんは浅い息をしながらヨロヨロと歩く。
「し、しっかりしてください……奏さん…」
これも私のせいだ。見え見えの罠に引っかかって、それは抜け出そうとせず、お嬢様に裏切られたことをいつまでも引きずって………それで奏さんに大怪我を負わせる結果になったのだ。
「……もう、嫌だよ…」
お嬢様に裏切られ、最愛の人を傷つけた。私はもう戦意を失った。このまま、ここら辺で野垂れ死にたい。もういっそのこと、誰かに殺されて楽になりたい。
もう戦うなんて…………無理だよ……